ある日の昼下がり、私は暇を持て余していた。
というのも、ルイジェルドさんが『たまには一人でゆっくり過ごす時間も必要だと聞いた』と言って、最近歩けるようになってきたルイシェリアを連れて朝から出かけてしまったからだ。
出かける前にルイシェリアにどこに出かけるの?と聞いたら可愛らしい満面の笑みでナイショ!と言われたから、もしかするとこのお出かけはルイシェリアから言い出した物なのかもしれない。
そうして出かけて行った二人には申し訳ないが、私にはあまり趣味と呼べる物がないから何をしていいのか分からない。数少ない趣味である釣りに出かけてもいいけど、釣れすぎてしまうとそれはそれで困る。晩ごはんは二人が何か選んで買って帰ってくると言っていたから、今日はそれを楽しみに待っていたい。特にルイシェリアが何を買ってきてくれるのかが楽しみだ。
ごはんの用意以外の家事をしようにも普段からこまめにやっているから掃除や洗濯物もすぐに片付いてしまって、折角だからといつもより多めにこなした日課の素振りや走り込みも昼過ぎには限界を迎えてしまった。
「また兄さんが何か吹き込んだんでしょうね……」
疲れた体を休ませる為にルイジェルドさんと二人で使っている布団で寝転びながら、二人と過ごす時間以上に幸せな時間なんてないのに、と疲労とは別の理由で自然とため息が漏れてしまう。
とはいえ兄さんにしろルイジェルドさんにしろ、私に気を遣っての行動だろうから文句はない。あるとすれば……
「私も一緒にお出かけ、したかったなあ」
そんな、まるで一人だけ仲間はずれにされたような疎外感だけだ。
もう母親なのに子供みたいでみっともないと思わないでもないけれど、それでも寂しいものは寂しい。
そんな気持ちを持て余しながら、布団をごろごろと転げ回っていた事に自分が立てた音でようやく気づいた。いよいよみっともないと言うか、あられも無い。
それにしても自分が立てた音さえあんなに大きく響くなんて。誰も居ないだけで家がこんなに静かで、そして寂しくなるなんて知らなかった。
昔、お父さんが捜索団の仕事で忙しくしていた頃なら寂しさを募らせて、部屋のすみっこで丸くなって泣いたり、ワガママを言ったりしたかもしれないけど、きっと我慢できただろう。
けど今はダメだ。シャリーアのグレイラット家で兄さんたちと、魔法大学の寮でメリッサ先輩たちと生活をし始めて。ずっと憧れていたルイジェルドさんと結婚して、ルイシェリアが産まれてきてくれて。私はどんどん寂しがり屋の欲張りになっていった。
だから、寂しい。二人が帰って来るのが待ち遠しくてたまらない。
「お昼寝でも、しようかな」
折角ゆっくりしろと言ってくれたんだし、二人が帰ってくるまで寝てしまうことにしよう。
「……そうだ」
ふと思いついて、洗濯籠の中からまだ洗っていないルイジェルドさんの上着を取り出した。ほんのかすかに嗅ぎ慣れた彼の匂いがして、寂しさを埋めてくれる気がする。
なんだか良くない事をしている気分になるけど、これならよく眠れそう。二人が帰って来る前に戻せば、きっと大丈夫。
ルイジェルドさんが帰ってきたら寂しかったといっぱい甘えて、晩ごはんを選んでくれたルイシェリアもいっぱい甘やかしてあげたいな……。
--ルイジェルド視点---
スペルド族の生まれ故郷が見たいとせがむルイシェイアを連れて、もう10年以上足を運んでいなかった魔大陸へ転移魔法陣で向かい、そして戻ってきた。
帰りにシャリーアの市場に立ち寄って、『おかあさん、きっとよろこぶよ!』などと言いながらお菓子を買い込もうとするルイシェイアを宥めながら夕食と食後の菓子を選び、家に着く頃にはもう夕方だ。
ルーデウスやエリスから聞いていたノルンの好みを基に選んでみたが、喜んでもらえるだろうか。
「ノルン、帰ったぞ」
「おかあさん!ただいまー! 」
返事がない。俺の腕の中でルイシェイアも怪訝そうにしている。
家に居る事は分かっているのだが。
「ノルン? 」
「おとうさん、あそこあそこ! 」
ルイシェイアの指差す先、普段二人で共寝をしている布団の上に彼女は居た。
なぜか俺の服を抱きしめて。
「おかあさん、寝てるの? 」
「そうだな、もう少し寝させてあげよう」
まだ時間はある。ノルンが起きてから、三人で食べればいい。
そう思ってノルンに布団をかける。
その寝顔は昔ルーデウスの許へ向かうために旅をしていた頃と変わらないが……今は何よりも愛おしく思うのは、お互いの関係が変わったからだろうか。
「今度はおかあさんといっしょがいい」
そう言いながら、ルイシェリアはノルンの側に自分が一番気に入っているという布人形を置いてやっていた。
「そうだな、今度出かける時は三人でだな。ノルン、ルイシェリア」
そう言いながら金色の髪を撫でると、ノルンの口の端が少しだけ緩んだ気がした。