懐かしい夢を見ていると思った。
『ララ姉ーやめてってば』
『えへへーおねえちゃんたちののまねー!』
『クリス、あんまり動くと落ちちゃうよ?』
『道具ばっかりいじくってないでちゃんと前を見ろよ、リリ』
『わかりました。でもさいごにこれだけ』
『言ったそばから!ララ姉も止めろよ!』
ジークの頬を上向きに歪ませていた私は、アルスの言葉にいったいどう答えたんだっけ?
思い出せない。けれど、確かそのすぐ後に父が……。
『ほらほら喧嘩してないで、それじゃあお願いします』
そうだった。その後に父が作ったというカメラって魔道具が発動して、結局ジークは変な顔になっちゃったし、リリは道具箱から顔を上げただけ姿で写ったんだった。
だから何も答えていない、が正解だったのだ。
家族みんなで撮った事は覚えていても何を話したかまでは覚えていない。そんな自分は薄情なのかもしれないと思いながら自分の意識が浮上していくのを感じた。
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「ん……」
ひどく悲しい気持ちで目を覚ました。
グレイラット家を出てからもうしばらく経つが、いつまで経っても一人で起きるのには慣れそうにない。
「わふ!」
「そうだった、おまえが居たねレオ」
枕代わりにしていたレオが自分を忘れるとは何事か!と抗議をかけてくる。朝から念話は頭に響くのでやめてほしい。
赤ん坊の頃からずっと一緒にいたからもう自分の一部みたいな感覚なだけ。今度高い肉を買ってあげるからそれで勘弁してくれないだろうか。
「くぅ〜〜ん……」
「わ、ちょっ何」
レオの懐柔策を考えながら温かな毛並みを堪能していると、レオがぺろぺろと私の顔を舐めてきた。
まるで慰めているかのよう。
「泣いてるって……私が?」
「わん」
「そっかー……」
夢が原因だろう。夢見が悪かった。いや今はもう会えない家族に会えたんだから、その点に関しては良かったと言うべきなのかもしれないけれど。
夢にまで見た写真を懐から取り出す。何度も見返しているせいかもうかなり色褪せてきているけれど、何度見ても変わらず暖かな大切な一枚。
それぞれの表情で写るきょうだいたち、最後にあった時よりいくらか幼く見える叔母たち、結局死に目に立ち会う事ができなかった祖母ふたり。そしていつまで経ってもその背中すら見えてこない両親の笑顔。
家族みんなが持っている、家族の証明。
「……ん、もう大丈夫。私も馬鹿だね」
心配そうに見上げてくるレオの頭をわしゃわしゃと一撫で。
だいたい、細かい会話を覚えてないからなんだと言うのか。私は覚えている。お姉ちゃんに真面目に勉強しろとお説教された思い出も、アルスとジークと一緒になってイタズラをして叱られた日々も、リリと二人で魔道具の実験をした時の高揚も、クリスがアスラの王子と結婚して夢を叶えたと聞いた時の密かな驚愕も。
父と三人の母から貰った大切な私の宝物だって同じ。離れていても、たとえ誰かが先に居なくなっても、私たちはかつてあのグレイラット家で共に過ごした家族。それだけは何があっても変わらない。
その事を思えば悲しい気持ちは引っ込んで、自然と口角が上がっていた。
「それじゃ、行こっかレオ。次はミリス大陸に向かうから……お姉ちゃんの所に顔でも出してみよう」
「わんっ!」
大切な思い出を懐にしまって歩き出す。
姉に会うのが楽しみだ。またお小言を頂戴するかもしれないけれど、それでも良い。そうした事がきっとたまらなく嬉しいのだから。