たまの休み、もうすぐ正午になろうとしている穏やかな時間。そんな時間をいい香りが漂ってくる庭を眺めながらぼんやりと消費している。
ちなみにいい香りの正体はアイシャが育てているハーブだ。そろそろ香る時期だと言っていたが今日らしい。
我が家の家庭菜園の支配者であるところのアイシャは定期的に手を替え品を替え色々試しているみたいだが、今のところ変なのが生えてきて我が家の庭を乗っ取ったという事もない。
ああいや君の事じゃないよビートくん。いつもお米を守ってくれてありがとう。
「なんだかスーッとする香りだな、お茶に入れたら美味しそうだ」
前世のハッカみたいなものだろうか。
まぁあっちのもこっちのもハーブ類は全く詳しくないけど。
「おちゃ?おちゃにお草入れるの?」
そんな呟きを拾ったのは俺の膝の上を指定席にしているクリスだ。
「そうだよクリス、いつも飲んでるお茶だって葉っぱをお水につけて作ってるんだ」
「うそー!」
「嘘じゃないさ」
まあ厳密にはお湯だけど。ああそういえば水出しってのもあるんだっけか?
「ホントにお草から出来てるの?」
「本当だよ、今度白ママかアイシャお姉ちゃんに見せてもらおうか」
「うん!」
俺が見せてもいいんだけどシルフィにはボクが淹れてあげるのに……と残念そうに言われちゃうし、アイシャに至ってはMOTTAINAIと言い放たれた。多分下手なんだろうな。うん。
「それにしても本当にいい匂いだな。なんてハーブなんだろ。もうちょっと近くで見てみようか」
クリスを抱っこしてハーブの方に近づく。万が一トゥレントだった時のために予見眼をカッ開きながらだが……。
良かった。ただのハーブだ。近づくとちょっと匂いがキツいかな、案外縁側から眺めてちょうどいいくらいのを選んで植えてるのかもしれない。
「………くちゅん!」
「うん?」
「ぱぱ、お鼻むずむずする。ずびび」
「ああダメだよクリス、鼻水吸っちゃ。ほら、これにチーンしな」
ちり紙を取り出してクリスの鼻にあてがって鼻をかませる。はい、チーン。
それにしてもなんで急に?とりあえず解毒解毒と。
「……くちゅん!」
「ダメか」
「おめめかゆい」
一旦は治ったがまたくしゃみを始めてしまった上になんか目も充血し始めた。ああダメだよクリス、おめめ悪くなっちゃうよ。
あ、もしかしなくても花粉症なのかこれ。
そう思って室内に撤退して再度解毒をかけてやるとクリスの症状はおさまった。やっぱり花粉症だなこれ。
となると根治は難しいか……。症状自体は魔術で治せるけど、ハーブが香るたびに同じ症状がでるだろうし。
アイシャには申し訳ないけどこのハーブはもう植えないでもらおうか。
とりあえずクリスの顔を水で洗って……ああ服も変えた方がいいかな。もうお風呂に入れてしまおう。
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クリスをお風呂に入れ終わり、新しい服に着替えさせてからリビングに戻ると、
「ルーデウス……私、もう……くしゅん!!」
「パパ……くしゅん!」
「………くちゅん!」
そこは死屍累々だった。
そうか、エリスとアルスもダメなのか。ならこれはもう完全に遺伝だな。
「あ!お兄ちゃんどうしよう助けて!エリス姉とアルス君にハーブの収穫手伝ってもらったら急にこうなってああクリスちゃんも!?」
うーん、アイシャがこうも慌てるのを見るのは久しぶりな気もするな。
そっか、この世界アレルギーの概念ないのか。そりゃ慌てるよな、解毒魔術効かないし。
「とりあえずアイシャ、そのハーブを台所に持ってってくれ。3人は俺が面倒を見るから」
「わ、わかった。大丈夫?大丈夫なの?」
「大丈夫、大した事じゃ無いしお前のせいでも無いから」
そう言ってアイシャ……というか諸悪の根源になったハーブを台所に隔離する。
そして今日だけで何回目になるのか解毒魔術と。
「助かったわ!」
「かゆい……」
「掻いちゃダメだアルス。エリス、アルスをお風呂に入れてあげてくれ。お湯は張ってあるから」
「わかったわ!行くわよアルス」
「ちゃんと服も替えるんだよー!」
エリスがアルスと手をつないでお風呂場へ向かう。あっちは任せても大丈夫だろう。
「あのーお兄ちゃん」
ハーブを持って行ったアイシャがおずおずと戻ってきた。叱られるとでも思っているのだろうか。
「あー……アレルギーって言ってな、特定の花粉とかハーブがダメな人っているんだ。別にお前が何かしたわけじゃないよ」
「うん……ごめんねクリスちゃん。大丈夫?」
「へいき!」
「でもあのハーブは封印な」
「わかった……あ、お茶とか料理にも使わない方がいいかな?」
「使ってもいいけど、エリス達には別のにした方がいいかな。俺は後でもらうから淹れてくれ」
「アイシャおねえちゃん、おちゃいれてるの見たい!」
「じゃあ一緒にキッチンに……って今はダメか、ティーセット持ってくるねー!」
そう言ってアイシャは台所へティーセットを取りに行った。
そろそろエリス達も戻って来るだろうし、今日は5人で午後のお茶会とでも洒落込むか。たまには穏やかなのもいいものだな。