「んー!むーーー!」
先ほどから俺の腕の中でシルフィがむーむ行っている。
別にケンカしてむくれてさせてしまったわけでも、喉に何か詰まってむせてしまったのでもない。ついでに言えばそういうプレイをしているのでもない。
まあ彼女の口はいま別のもので塞がってるし、二人とも上には何も着ていないからおおむね間違ってもない。
「ん……ぷはぁ……!」
「どう?」
「ついてない……」
心底残念といった風にシルフィが言う。あんまり真剣な様子についつい笑いがこぼれてしまった。
「笑う事ないじゃないか」
「ごめんごめん、可愛くてつい。でもそんなにつけたいのか?キスマーク」
そう、シルフィは俺の体にキスマークをつける事を所望しているのだ。
なんでも三日前に俺がつけたキスマークのせいで揶揄われてしまったそうな。ゆうべはお楽しみでしたね、とかどこぞの宿屋みたいな事でも言われたのだろうか。あのお姫様はそう言うこといいそうだ。
とはいえ原因は服を着てても見える位置に付けてしまった俺。恥ずかしい思いをさせてしまったとあらば仕返しは甘んじて受けねばなるまい。
まあ、そんな経緯がなくてもシルフィのお願いならなんでも聞くし、シルフィも恥ずかしかったってだけで嫌そうではなかったが。
ともかくそんなわけで、今回はピロートーク代わりに彼女のなすがまま口づけを受けている。
正直こそばゆいし、必死なシルフィを見てるとまたムクムクとたまらない気持ちが湧いてくるが我慢だ。せっかくシルフィが甘えてくれてるのだから好きなようにしてもらおう。
「んんん……!やっぱり上手くいかないや、ルディはどこでつけ方を覚えたの?」
首筋からくちびるを離したシルフィが言う。口までかかる橋が艶めかしい。
どこで覚えたか。それはもちろん生前にインターネットでなのだが、その事はできれば言いたくない。
「エリナリーゼさんがたまに教えてきたんだよ、聞いてもないのに」
なので、嘘ではないギリギリのラインで誤魔化す事にした。エリナリーゼから猥談を振られる事があるのは本当だし。ルーデウスうそついてない。
「あ、エリナリーゼさんに聞いてみたら良いんじゃないか?」
そういうの教えるのも上手そうだしな。
「うーん、でもおばあちゃんはなんでかボクにそういうの教えるの嫌みたいなんだよね、そのままのあなたの方がルーデウスは興奮しますわ!だってさ」
さすが孫、声真似が上手だ。
そしてエリナリーゼも俺の事をよく分かっている。確かに俺はありのままのシルフィが一番好きだ。
シルフィがエリナリーゼに習った技術で俺の事をひーひー言わせたい!とか言い出したら思うようにやらせてあげたいが、当のエリナリーゼにその気が無いなら叶わぬ夢か。
話題が逸れた。
インターネットなんかもう10年以上も前の記憶だし、今となっては強く吸うとシルフィの白い肌に赤いあざができる程度の認識で。もちろんそれはシルフィにも共有しているが、肌質の違いか、シルフィがかなり強めに吸ってもキスマークはつかないらしい。
さて、どうしたものか。
「ねえルディ」
「うん?」
「お手本見せてよ」
やや釈然としない様子のシルフィそうお願いしてきた。真っ赤なお顔が大変眼福です。
「えっと……じゃあ腕貸して」
「う、うん、どうぞ」
自分で言って照れてしまっているシルフィから腕を預かって、恭しく口づける。
細くてやわらかい。繊細で、ちょっとした事でこわれてしまいそうなほどに。改めて大切にしなければならないと実感させられる。
とまあ、それは今はいいか。俺の口元に注目しているシルフィの方を見ながら強く吸い上げて口を離すと白い手首に赤い点が浮かびあがる。
「簡単そうなのにね」
なんでできないんだろう、と口を尖らせるシルフィ。
「できなくても困らないし、別にいいんじゃないか?」
「でもルディばっかりずるいじゃないか。ボクにもつけさせてよ」
「つけさせてよって言われてもなあ……」
俺だって出来ることならつけさせてあげたいし、なんだったらつけて欲しいのだが、つかないものはどうしようもない。
まあ必死になるシルフィが可愛いからこのままでも良いかなー、いやむしろこのままでいて欲しいなーと思う気持ちがないでもないのだが。
そんな事を思っていると、顔に出てしまっていたのかシルフィにジト目で見られていた。
「ええっと……シルフィエットさん?」
「ねえルディ、肩貸して?」
何かを思いついたような顔でシルフィにそう言われた。笑顔だが謎の迫力がある、逆らってはイカンやつだこれ。
「う、うん、どうぞ?」
そう思って肩を差し出す。シルフィは深く息を吸い込んで、
「いっ……!?」
ガブリと俺の肩に食らいついた!
血は出なかったけど、急に歯を立てられてビックリした。
「……なんか違うね」
「そりゃそうだよ……」
見なくても分かる。今俺の肩にはくっきりと歯型が残っている事だろう。
可愛いからってつい調子に乗ってからかいすぎたな、反省。
「ごめんね、痛かった?」
「いや全然、ビックリしただけ」
シルフィも勢いでやった事なのだろう。シュンとする彼女の頭をなでて宥ると、エヘヘと顔を綻ばせた。
「それに積極的なシルフィも可愛かったしな」
「……もう!」
むくれたようにそっぽを向いてしまったシルフィを抱きしめながらベッドに倒れ込む。
ぼふん、と軽い音を立てながら俺たちの体重をベッドが受け止めてくれた。こだわって選んだ甲斐があったな、うん。
「このまま寝たら風邪ひいちゃうよ?」
「ひいても治してくれるだろ?」
「だーめ!ちゃんと着るの!」
「はーい」
カッコいい事をいって誤魔化そうと思ったが、我ながらなんとも締まらない事だ。
明日になったらエリナリーゼにキスマークの付け方講座を開いてもらうようにでも頼もうか、そんなことを思いつつ、服を着た俺はシルフィの体温を感じながら眠りについた。