唐突だが酒の話をしよう。我が家で最も酒に弱いのは誰あろうシルフィである。いや酒に弱いというより酔い方が激しいタイプだな。甘え上戸になって大変可愛らしい。
逆に一番強いのはエリスだ、酔うと多少考え込んで無口になるくらいで殆ど変化がない。しかし普段より鋭い眼光は真っ直ぐに俺の心臓を撃ち抜きに来る、まるで恋泥棒だ。
そして俺はその中間。多少饒舌になったり飲み過ぎれば多少前後不覚にもなるが何かをやらかす程でもない。ハズだ、多分。きっと。
ちなみにロキシーはそれほど飲まない。この辺りで好まれる強い酒は我が神の嗜好品ではないらしい。強い酒よりも弱めの、アスラ王国辺りで好まれる甘めの酒が好きみたいだ。
これはそんな俺たち四人のある日の晩酌のメモリーである。
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「ルーデウス、受け取れ」
「…?なんですかこれ、酒瓶?」
「アリエルだ」
アリエルだ。だけ言われても分かりません社長!
…ハッ!もしやこの中にアリエルが閉じ込め…いやないか、それなら社長がさっさと割ってるだろう。大体後ろに同じのが入った木箱あるし。
「もう少し、もう少しだけ説明を」
「アリエルが今年のワインは出来が良かったから差し上げる、お前たちにも渡して欲しいと言ってきたのだ」
「へぇ…」
ん?って事は前にアトーフェに渡したのと同じでアスラ王室御用達のワインなのかこれ!?すごいのが来たな…
「だが俺は酒は飲まん。お前達に渡す分を抜いてアレクとファリアスティアに渡したがそれでも余った。残りは全て持っていけ」
「あれ?オルステッド様って下戸でしたっけ?」
「飲めないわけではないが…かつて酔った時に殺された事がある。それ以来飲んでいない」
酒で酔わせて龍退治、定番っちゃ定番だな、流石に神刀はドロップしないだろうが。加えてオルステッドは緊急時以外魔力を使わないから解毒魔術での酔い覚ましなんかやらないだろうし。
「分かりました。ならありがたく貰って帰ります。でも一本だけ残しておくので今度アレクと三人で一杯やりましょう、酔いは俺が覚ましてあげますから」
「ム、そうか。それなら頂くとしよう」
オルステッドの口角が血染めの月のように吊り上がった。飲まないようにしてるだけで酒自体は好きなんだろうな…
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「というわけでお酒を貰ってきたんだ。飲む人」
「あ、飲む飲む!これ有名なやつだよね」
「アスラのワインですか、偶には良いですね」
「4人で飲むのは久しぶりね!」
シルフィ、ロキシー、エリスが参加を表明した。リーリャとアイシャは一本ずつ貰ってリーリャはゼニスと、アイシャは一人で飲むそうだ。アイシャは参加したそうだったがリーリャに言われて不参加を表明。遠慮させちゃったかな…今度サシで飲みに連れてくか。
子どもたちは当然不参加だ。飲みたい!と言ったらお説教が待っている事だろう。
「じゃあこの後寝室に集合って事で、先に行って準備して待ってるね」
三人が頷いたのを見届けてから二階に上がり寝室に入る。部屋を温めたりワインを冷やす用の氷水を用意したりする為だ。
「ルディ、グラスとかおつまみとか持ってきたよー」
「お、ありがとう」
しばらくすると三人が入ってきた。まず人数分のグラスをお盆に乗せてシルフィが、甘い系やピーナッツ系のおつまみが入ったお皿を持ってロキシーが、お肉系のおつまみを持ってエリスが入ってきた。
「じゃあグラスに注いで…乾杯!」
「「「乾杯!」」」
乾杯の音頭と共にグラスを合わせる音が響く。音の心地よさに浮かれながらワインを口に含んだ。
「んっ…美味いなこれ!」
「あ、前に飲んだのより甘いね、ロキシー好きそう。どう?」
「確かに甘くて美味しいですね…これはいけません、飲み過ぎてしまいそうです」
「もし皆が寝てもちゃんと部屋まで運んであげるわ!」
「エリスがそう言ってくれるなら安心ですね。ルディもう一杯ください」
「はい、どうぞ」
そう言いながらロキシーのグラスに酌をする。シルフィとエリスはそれぞれ好きなつまみをポリポリやりながらワインを飲んでいる、勿論俺もそうだ。ちびちびやりながら三人から最近の家族の事とかの近況を聞き、俺は仕事先で起こった出来事を話す。満ち足りた時間だ。幸福とは此処にあり。
「あ、ルディったらまた二チャっとしてる〜」
「え、嘘してた?」
「してたよ。でもボクルディのその顔好きだけどね〜ウヘヘ…」
あらやだシルフィエットさんったらもう酔ってるわ。その証拠に腕にしがみついちゃってもう!
「ルディの好きな顔ですか…私は特にキリッとした時の顔が好きですね」
「あー分かる分かる、なんかこう…ボクたちと顔つきが違う感じするよね」
「私はその…アレの時の顔が…」
「ちょっと待ってそれは流石に恥ずかしい」
というかいつの間にか俺の好きな顔大会になってない!?なにこれ羞恥プレイ!?
「えー良いじゃんか。じゃあじゃあルディはボクたちのどんな時の顔が好きなの?」
「確かに気になりますね」
「…………」
完全に酔ってるシルフィと乗っかるロキシー、無言のままだけどアッチ側のエリスの構図が完成した。別に敵対してるわけでもないが。
「じゃあそうだな…まずシルフィは子どもを抱っこしてあげてる時の顔かな?」
もう随分前だが、グレイラット家最初の子供であるルーシーを抱き上げて笑いかけてる所を見た時は聖母みたいだと思ったもんだ。
「ロキシーは何かを教えてる時、俺に魔術を教えてくれた時のことは今でも覚えてるよ」
普段神神とロキシーを崇めてやまない俺であるがなんの神かと言えば知恵の神である。知恵を他者に教授する姿こそ神の真実が見える姿だと言えよう。
「エリスは剣を構えて不敵に笑ってる顔。なんだか凄く安心するんだ」
多分原風景はオルステッドと戦った時だ。自分の無力さと絶望を払拭してくれた笑顔と後ろ姿にあの時俺は惚れ直したんだ。
「……結構恥ずかしい事を言った気がする、俺も酔ってるな」
「そんな事ないですよ、答えてくれてありがとうございます」
そのロキシーの言葉に続いて満足げに頷くふたり。ただ三人とも顔が赤いのは酒のせいだけではないだろう。
ま、皆が満足してくれたなら小っ恥ずかしい告白もした甲斐があるってもんさ。さぁ、幸い酒もつまみも、時間だってまだまだある。気恥ずかしさを流す為にもどんどんアルコールを投入して脳を洗浄してしまうとしよう。
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その後、酒量が増大した俺につられてか三人も同じように酒量が増えていった。話の内容が何故か猥談になったり、三人を抱きしめて愛を囁いたり色々したが楽しい晩酌だった。
ちなみに。酔いに酔った俺がよーし皆の肖像画でも作っちゃうかー!なんて事を宣言したらしく、しかも別室で一人飲んでたアイシャに聞かれていたらしく。朝食の席で「で、お兄ちゃん、シルフィ姉たちの肖像画っていつ作るの?」と爆弾を投下され、子どもたちも見たい見たい!と同調した結果恥ずかしがるシルフィとエリスの説得をしつつ、ザノバやアリエルに頼み込んで画家探しに奔走する事になったのだが、それは自業自得と言えよう。だって酔っ払ってない俺も欲しいしね!