「ママ!おさんぽ行きたい!」
「今日はもうダメよ!」
「なんで!?行きたい!」
「なんでもよ!」
そんな声が聞こえてきたのは自動人形の一件でシルフィたちのお叱りを受け終わり、痺れに痺れた膝を伸ばしている時だった。
ちなみに寝室にて行われた膝詰めお説教はそれはもう凄かった。結局誠心誠意を込めたJapaneseDO・GE・ZAの敢行と試作四号機を決してそのような用途には用いない、この先作成する自動人形たちには“その部位”は取り付けない、ナナホシの元に出向き謝罪するという3つの条件、そして三人+ナナホシの言う事をなんでも一つ聞くという約束でどうにかお怒りを鎮める事に成功したのだ。怖かった…
それはさておき。玄関先から聞こえてくる声の主はエリスとリリだ。
エリスが家族、それも子どもたちを怒鳴りつける事は今日の俺みたいに悪い事をしでかした場合を除いて無い。なので今聞こえてきてるのも単に声が大きいだけだ。
対するリリも活発な子だからか声量は結構ある方だ。なのでこれは言い合いと言うより単に声が大きい人同士の通常運行と言ったところだろう。
「これこれお二人さんや、こんな時間にあんまり大声をだしたらご近所迷惑ですよ」
「ルーデウス」
「パパ」
今日は肩身が狭い身の上ではあるが、通りかかった者として一応注意しに向かうと玄関で腕を組見ながら通せんぼうしているエリスとその足元に抱きついているリリが居た。その手には黒い糸のようなものが握られてるけど…なんだありゃ。
「で、どうしたの二人とも、言い合いなんて珍しいじゃないか」
「……別に、リリが今から散歩に行きたいって言うから止めただけよ」
そうなの?とリリに視線を向けてみると好奇心旺盛で目につく物全てに目を輝かせているリリらしからぬ不満たっぷりの目で見つめ返される。
「またさかなで見たい」
「逆撫でじゃなくてお魚よ」
「おさかな!おさかな見たい!」
ははぁ話が見えてきたぞ、今日エリスたちは川に散歩に行ったと言っていた。で、川で泳いでる魚を初めて見たリリが今からもう一回川に行って魚を見たいと駄々をこねているわけか。で、エリスが止めてくれていると。
いくら散歩に連れて行くのがエリスで、もし行くとなったら俺もついて行くといっても流石に今からはなぁ…明かりはスクロールなり魔術なりでなんとでもなるけど夜の川って普通に危ないしなぁ…
「リリさんや、夜に外に出るのって危ないし、もう暗いからお魚さんたちも寝てるかもしれないよ?」
「でも見たい…」
「なら明日また連れて行ってあげるわよ!」
「……うん」
そう言ってもイヤイヤ期真っ盛りのリリお嬢様はご不満の様子。何か、何かもう一押し後一押しあれば…我が神ロキシーよ、どうか啓示を…!
…あ、啓示来た、ロキシーで思いついた。
「なら明日、パパと一緒に釣りをしようか」
「つり?」
初めて聞く単語に目を輝かせるリリ。
我が家で釣りを布教したのはロキシーだ、彼女は神であると同時に宣教師でもあったのだ。
布教を受けてノルンが、ノルンを経由してルーシーが釣りを趣味にした。今でもルーシーは友達やクライブ君を連れてちょくちょく釣りに行ってるみたいだ。
とにかくリリはグレイラット家釣りサークルの神であらせられるロキシーの娘。二歳児でも膝に抱えて竿を持たせてあげるくらいなら川の浅い部分を選べば大丈夫だろうし、楽しんでくれるだろう。
---
翌日。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「パパ」
「なんでしょうか」
「つまんない」
ですよねー。
釣果は見事なまでにオケラだった。川の中で遊ぶレオ、ララ、ジークを尻目に俺の膝の間に座って一緒に釣竿を支えているリリは明らかに飽きておられる。
ちなみに隣で同じように釣り糸を垂らしているエリスは子どもたちの動きに注意しながらももう2、3匹は釣っていた。エリスの方に座らせてあげれば良かったかな…
思えば前にアイシャと釣り勝負をした時もこんな感じだった気がする。もしかして俺って釣り向いてない…?
「ねえママ、おさかな見せて」
「良いわよ、こっちいらっしゃい」
あぁ…ついに娘までもが俺を見放した…土魔術で作ったバケツの中で泳ぐ魚を見てキャッキャッと喜んでるリリ可愛いなぁ…エリス羨ましいなぁ…
とジェラシーしていると、
「よしキタァァァ!!!」
確かな手応えを感じる!やった!これで俺もリリに構ってもらえる!リリだけじゃない!今の声でこっちを向いたララとジークにもパパすごーいって言ってもらえるんだ!
「一匹目フィィィィィシュ!!!」
釣竿の先にあったのは、デカいブーツだった。
またかよ…
---
結局エリスが3匹、俺はオケラだった。でも良いんだ。俺が釣りしたかったわけじゃないし、リリがお魚みたいって言うからしただけだし。なんなら途中からララとジークに竿渡しちゃったし。でも二人もしっかり釣れてるんだよぁ…ぐすん。
「さぁ焼くわよ!」
そんな俺はさておき。エリスは釣った魚の血抜きを済ませ、家から持ってきたらしい串に刺して焚き火の周りに並べていた。
「ママ!まだ?まだ?」
「まだよ」
「このお魚が僕のだよ!」
「ジーク、それは私が釣ったやつ」
「はいはい、二人共もう少しで焼けるから好きなのを選びなさい」
二人も産んでもらっておいて今更だけど、エリスもすっかり母親が板に付いてるな。はじめて会った頃からは想像もできない、ちょっと、いやかなり感慨深い。
「ルーデウスも早くこっちに来なさい!もう焼けるわよ!」
「パパ!パパがお皿作ってるの見たい!」
「分かったよ。エリス、リリとレオのは串から抜いて切ってあげてくれ」
「分かってるわ」
そう言いながら土魔術で作ったばかりの皿を人数分とまな板を手渡す。リリたちは俺の背中から魔術を眺めていた。そんなに面白いのかねこれ。
「出来たわよ!ララとジークは串に気をつけて食べなさい!」
「いただきます!」
人数分のいただきます+レオの遠吠えを聞いてから魚に手をつける。ララもジークも美味しそうに食べている。
はじめはリリのわがままから始まった事だっだけど、自分で釣った魚を食べるというのは二人の食育にもなるだろうし、何より釣れたてを食べるのは釣りの醍醐味だ。
…俺は釣れてないけど。
「美味しい?」
「美味しい!」
「そう、良かったわね」
「パパ!ママ!また来たい!今度はみんなで!」
「それも良いわね!ルーシーなんか魚篭いっぱいの魚を釣り上げるのよ!」
「ホント!?すごい!」
「ねぇパパ、僕の釣ったお魚美味しい?」
「美味しいよ、ありがとうジーク」
「やった!」
今度釣り大会開く時は勝てないにしろ一匹くらいは釣れると良いなぁ…