バキン!!
「む、またか」
これで6本目になる、折れてしまった針を足先の辺りまで編んだ靴下から形が崩れないように留意しながら引き抜き、次の針を代わりに入れる。
龍聖闘気に守られた俺の体は針程度では傷つきもしないが、針の方はそうもいくまい。うっかり俺の体に当てようものなら最後、へし折れてしまう。俺は書き物ならともかく編み物など素人も同然だ。自分では注意しているつもりなのだが、すぐに針を駄目にしてしまう。
だがルーデウスが言うクリスマスとやらには赤い毛糸の靴下が恒例であるのだという、ナナホシも似たような事を言っていた。折角なら手ずから編むのが良いだろう。
そう思って編み始めたのだが、思いの外骨だ。しかも段々と不恰好になっている様にさえ見える、どうせ贈るなら整った物を贈りたいのだが…。
それにしても、ナナホシやルーデウスの世界に居たと言うサンタクロースとやらは片方だけの靴下を贈って何をするというのか…皆目見当もつかん。
「む……」
いかんな、考え事をしながら手を動かしていたせいかまた針が折れてしまった。
少し、休憩にするか…。
水を汲んできて杯に注ぎ、飲み干す。細かい作業で熱を持った頭に染み込むようで心地よい。
そんな事を思いながら編みかけの、少々歪な靴下に目を見遣る。やはり市販品を買った方がいいのかもしれない。呪い防止の兜のおかげで買い物程度なら問題なく人と関われるようになった。こんな不恰好な物を贈るよりも、キチンと編まれた靴下を送った方がきっと喜んでくれるのだろうが…。
そこで、初めて会った時の奴の娘、ルーシーの顔が思い浮かんだ。俺の事を父親だと勘違いした時の顔と、隣で苦虫を噛み潰したような顔をしていたルーデウスの顔もだ。
無論子供と関わるのが初めてと言うわけでは無い。無いが、ああまで無警戒に好かれたのは初めての経験だ。まるで普通の人間にでもなったかのような…。
「もう少し、続けるか」
判断は完成させてからでも遅くはない、まだクリスマスまで日はある。
俺はこれ以上針を壊さないよう慎重に編み物を続ける事にした。
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クリスマス当日になった。
「…………」
書類の作成や遠出の合間に続けていた靴下がついに完成した。結果として20本以上の針を犠牲にしたが、達成感もある。
「しかし…これは…」
大き過ぎる。ルーシーの頭がすっぽりと収まりそうな大きさだ。歪な箇所を修正しようとあれこれ手を加えた結果ではあるのだが…。
「…………」
悩むところだ。もうじき夜だが、今から買いに行けば靴下くらいならば手に入れられよう。
しかし俺の理想とする靴下があるのかどうか……それに折角完成させたのだからこれを贈りたいと思う気持ちもあった。
「……これにするか」
悩んだ結果、結局俺が編んだ靴下を持って行く事にした。ルーシーにはまた魔術のコツを教えに行った時に何か埋め合わせをする他ないだろう。
今日のために回収しておいた真紅のローブと魔術帽を身につけ兜を被り、予めペルギウスから入手しておいた龍族秘伝のプレゼントボックスに靴下を入れて白い袋に放り込む。
準備は整った。出撃だ。
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ルーデウスの家の方からなにやらドタバタと音が聞こえる。目を凝らしてみると吹雪の中何やら珍妙な被り物をしたアイシャが実に寒そうに煙突の前で座っているのが見えた。
何をやっているのかと訝しんでいると今度は何故か尻に火のついたルーデウスが煙突から飛び出してきた、と同時に滑ったのか雪と一緒に屋根から墜落していった。本当に何をやっているのだ……?
「むっ」
今の音で起きたのか、ルーシーが母であるシルフィエットを伴って玄関から飛び出してきた。
咄嗟に身を隠したが…これで良かったのか?
そう思っていると自分が夜更かししたせいでサンタが怒って帰ったのかとルーシーが泣き出してしまった。こちらからは見えないが、雪に埋もれているだろうルーデウスが動き出す気配はない。気絶したのだろうか…。
……ルーデウスが今日を楽しみにしていたのは知っているが、やむを得ん。門から入るとしよう。
「サンタ………さん?」
ルーシーがこちらに気づいた様だ。見れば雪の中からルーデウスが顔を覗かせている。出てきてやれば良いだろうに…。
「…………」
無言のまま箱を取り出し、ルーシーに手渡した。目を輝かせて受け取り、礼を返してくれる。
喜んでくれた様だ。中身を見ても喜んでくれるかは自信が無いが……。
満面の笑みの頭を撫でてから踵を返す。雪に埋もれたルーデウスは…まあ、自分でなんとかするだろう。
それにしても、ただプレゼントを渡すだけであれほど喜んでくれるとは。ルーデウスが楽しみにしていたのも頷ける。
来年も、またできるだろうか……。
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翌日。
ルーデウスからルーシーが喜んでいたという報告及びお礼と共に、赤い靴下はプレゼントそのものでは無くプレゼントを入れる物である、と聞かされたオルステッドがそれはもう恐ろしい表情の内心で驚いていたのはまた別のお話である。