それは、ノルンとルイジェルドの結婚の準備を進めていた十日間の内のある日の事である。
「ルーデウス、お前の…ノルンの母親に会わせてくれないか?」
「へ?どうしたんですか急に」
ビヘイリル王国、スペルド族の村で二人の結婚式の準備やらなんやらで慌ただしくしている最中の事だったのでつい聞き返してしまった。
「急でもないだろう」
「そうでしたね」
今自分が何をしているのかを思えば確かに急でもなんでもない。娘を妻に貰おうというのにその親に挨拶もしないなんて不義理な人ではないのだ、彼は。
「ノルンからお前達の母親の事を少しは聞いている、そちらの都合の付く時で構わん」
「いえ、今日にしましょう、転移魔法陣を使えばすぐですからね」
そうと決まれば善は急げだ、俺はルイジェルドを引き連れて事務所へ繋がっている転移魔法陣に飛び乗った。
---
家に戻った俺は玄関前で待って貰ったルイジェルドとゼニスを連れて街の郊外まで出かけた。
パウロの墓前へ。
「母さん、こちらルイジェルドさん。俺の恩人で…今度ノルンと結婚する人です」
「ルイジェルド・スペルディアだ」
「………」
俺の紹介でペコリと頭を下げるルイジェルドに対し、ゼニスは無言だ。しかしその口元は微笑んでいる。
その後はしばらくルイジェルドはゼニスに対して言葉少なながら自分がどの様な人間なのか、今どんな仕事をしているのかを話した。自分の過去も包み隠さずに。
「俺の命に替えても、お前達の…いや、貴女達の大切なノルンは幸せにする。必ず」
そうパウロの墓とゼニスへ向けて言い、ルイジェルドの話は終わった。人が聞けば拙い言葉だと思うかもしれないが、俺には誠意のこもった言葉だと思えた。
「………」
ゼニスは少しすると、ルイジェルドのそばに近寄って……彼の手を両手で握りしめた。
やはり言葉は無かったが…俺にはノルンをお願いね、という彼女の思いが伝わったと感じる。きっと、ルイジェルドにも。
---
その後は俺とルイジェルドでパウロの墓を掃除した後二人を連れて家に帰った。
ゼニスをリーリャに任せる時にもルイジェルドはリーリャにも同じ様に挨拶をしてから帰路についた。
ルイジェルドに限って万一はないだろうが一応事務所まで送って行く。
「ノルンやエリスに会って行かなくて良かったんですか?」
「ああ、それにしても…」
「なんですか?」
「お前達の母親は、強いな」
「………ええ」
ノルンから、ゼニスがミリス教徒である事も聞いていたのかもしれない。もしかすると反対はされないまでも、あまり良くない反応をされる事も考えていたんだろうか。例えゼニスが自由に意思表示をしにくい状態だったとしても。
「これからも、よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
そう言い残して、ルイジェルドは転移魔法陣に乗って帰って行った。
こうして、ルイジェルドとゼニスの顔合わせは無事に終了したのであった。