楽しかった旅行も残すところ今日で最後となった。そんな三日目の今日はクリスと大和が前々からのいざこざに決着をつける日でもあった。女子達はバイキング形式の朝食をとっている。男子達は朝の用意も終わったというのにまだ部屋にいた。
「お、検温終了。八度一分もあるじゃん、風邪だなこれは。」
「あーあ。やっちゃったねぇ。川にダイブかな原因は。」
「だったら俺様だって風邪をひいてるはずだぜ?」
「……………岳人は馬鹿だからな。」
「で、どーすんだよ。今日クリスと勝負だろ。」
昨夜、百代に無理矢理川に投げられたせいで大和だけは風邪をひいてしまったらしい。決闘の時間間近になって三十八度の熱があることがわかり男子達で今日この後をどうするか決めている最中であった。
「風邪でリタイアでもお前の負けだぜ、大和。」
「それは嫌だ。勝負を挑んだ以上必ず勝つ。」
「決闘の延期をお願いしたら?岳人が原因なんだから責任取ってもらおうよ。」
「どーとるんだYO!」
「……………ここの男子風呂から女子風呂を覗く岳人を必死で止めて風邪ひいたとか。」
龍の提案に岳人以外の全員が納得して頷く。
「やめろ、俺様がただの変態だと思われるだろ。」
「もう十分に変態でしょ。」
岳人は部屋にある女子の荷物を指差して、真の変態について語り始める。
「なんかクリスは、まだ免疫ねーつっか。たまらねぇ時があると思わないか?」
「うわぁ……。」
「俺にはわっかんねーなぁ。」
「……………わからん。」
「お前ならわかるだろ大和!俺様の血潮が!」
「どうでもいい。今のクリスは俺の敵だ。」
男としての意地もあり、体は動くので誤魔化して決闘をする、という方向に決まりつつある時に、部屋の外に一つの気配を感じる数名。
「人の気配?誰だ盗み聞きしてる忍びの者は!!」
「にゃ、にゃうーん。」
「何だ猫か。」
「ほっ。」
「怪しいな。箱根の猫はもっとラップ調で鳴くんだ。」
「にゃっーにゃっにゃっ、にゃっにゃっ、にゃ。」
「龍も聞いてみな。」
「箱根の猫は……………後ろからナイフで刺された時の声のように鳴く。」
「にゃっ…にゃ、にゃっにゃあああぁぁぁ…。」
「馬鹿な事やってないで出てきなよ、まゆっち。」
「こいつ等結構なサドだと俺様思うね。」
男子達が遅いと感じた由紀江が部屋に来たところ、話が聞こえてしまったようだ。しかし、大和は無理矢理お願い倒して、結局宿の人に貰った熱止めを飲んでの参戦となった。
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午前九時。ファミリー達は河原に集まった。審判兼進行はファミリーの階層秩序が高い百代と翔一。二人は三分考えて結局川神戦役の縮小版を行う事に決定した。川神戦役とはクラス同士が勝負しあう時に使われる決闘法。
くじ箱によって勝負の内容が決まる。勝負は先に五回勝った方が勝ちの規則。本来は団体戦に使われる手法で、出た勝負に対して強い者同士が戦うのだが、今回は一対一で五本全て戦う。種目はお互いが不利にならないように肉体系、頭脳系、感性系と様々ある。
「了解した。はじめよう大和。じゃーんけーん。」
「クリス。俺はチョキを出す。」
と、心理戦が始まる。クリスはいろいろ考えた末にチョキを出したようだが、大和は予想通りといった表情でグーを出す。前哨戦は大和の勝ちとなった。そして勝者はくじを引く。
「クイズ勝負とか頭脳系が出ろ!」
「じゃーん。Chain Death Match!」
自分で最高に不利な種目をひいたようで、大和は笑うしか無かった。百代が相撲の土俵ぐらいの円を描く。そしてどこで調達したのかわからない鎖が腕に繋がれる。
「これは誇りをかけた勝負。遠慮は無用。来い。」
「俺は女の子をブン殴るなんて、できないのさ……。だからギブ……アップ。」
「死闘に幕!第一試合勝者、クリス!」
京の解説によると、肉弾系では勝てないと悟り、余計な損傷を受ける前に降参。その降参には理由をこじつけて無理矢理納得させるということだそうだ。
納得がいかない様子のクリスが次のくじを引く。
「んー、これだー!」
「おっ、これは互角勝負か。テーマ:絵を描く。」
「平等にいくからな。絵のお題はまゆっちだ!」
公平を期す為にお互いまだ会って日が浅い由紀江が題材となった。そしてこれまたどうやって調達したのかわからない絵具や筆が配られる。
そして一時間経って結果が公表される。クリスは由紀江が一人風を受けて川辺に立つ姿を綺麗に描いていた。
大和の絵は、クリスより画力は落ちるが、由紀江がファミリー全員に囲まれて、幸せに笑っている様子が描かれたものだった。
由紀江は喜んで後者を選んだ。クリスは画力で勝負したようだが、大和は頭を使って絵を描いた。画力で勝てないとしたら、どうやったら勝てるのか。今まで友達がいなかった由紀江に、自身が仲間複数に囲まれる絵を見せればとても喜ばれるだろう、と。
ということで勝負は一勝一敗になり、三回戦へと進む。
「肝試しゲーム!私の希望で入れた対戦案だな!」
「…………怖い物が苦手な癖に…?」
川神流正拳突きが龍の腹に綺麗に決まる。そして倒れた龍を指差して喋り続ける。
「協議の説明をするぞ。ご静聴。騒いだらこうなる。」
肝試しは肝試しでもいわゆる主に合コンなどで遊ばれるポッケーゲームの事だった。ここでは顔が接近してくるのに何秒耐えられるかを競うということだった。
「デモンストレーションに京と龍にやってもらおう。」
「もじもじ…。」
心の準備と称して一分間ポッケーを咥えて待つ。そして京が物凄い速さで食べ進めた。龍は間一髪で接吻を逃れる。まるで事故のような接吻をは失敗した京だったが、龍が一分間咥えていたポッケーの端を嬉しそうに舐めている。
「ぺろぺろ……れろ。」
「……………馬鹿。」
「相手は私が平等に割り振る。大和の相手は……まゆっち!」
「はぅあ!?私ですか!?」
突然の指名に驚く由紀江。緊張のあまりデモンストレーションとほぼ同じ速さで食べ進める由紀江。結果は一秒ということになった。
「クリの相手は自称ナイスガイ、ガクトだ。」
「はぁぁい!ご指名入りましたぁぁぁぁ!!!!」
おもむろに服を脱ぎだす岳人。上半身裸でポッケーを緩み切った顔で咥えている姿は余りにも酷く、クリスは一秒も咥える事が出来ずに綺麗な掌底が決まった。結果、三回戦は大和が勝利を収めた。
「お。ドキドキ二択ターイム。百人一首かチンチロリンか選べ。」
「チンチロリン?」
「ロマン詰まった博打だぜ。」
博打と聞いて即座に百人一首を選択するクリス。大和が何をしでかすかわからないからと。既に百首覚えている大和、日本文化に精通しているクリス。
勝負は周りの予想を反してクリスが勝利した。クリスはまさかの子音のSだけで、札の上空に手を到達させて札をとった。四回戦はクリスの勝利。
解熱剤の効果も無くなったのか、大和の顔はほとんどの人がわかるくらいに赤くなっていた。さらに重い咳が大和の口から出てきてしまったのを聞いて由紀江が前に出る。
「も、もう駄目です!松風私は行きます!」
「行け、まゆっちなら出来る!止まれば倒れる自転車がまゆっちが選んだ生き方だ。坂道を上るんだ!ペダルをこげー!」
「ど、どうしたのいきなりまゆっち!?」
大和の制止を振り切り、由紀江は自分の言いたい事を吐き出す。耐え切れずに隠していた真実を話す。
「だってだってもう見てられません!熱を無理してまで戦うのが友達なんですか?ち、違うと思います!!!友達って言うのは……その、分からないですけどこうじゃなくて、その……大和さんとクリスさんには仲良くして欲しいのに。う、うぅ……。」
本当のことを話すだけではなく、自分の思いも吐露する姿に流石の大和も怯んでいる。
「ったくさぁ、どーでもいい時はすーぐギャーギャー言うくせに、ツラい時黙っちゃってさ。」
「だって言ったら確実に不戦敗だったろ。やだね。まゆっちは仲良くして欲しいと言ったけどこれはそのために必要な戦いなんだぜ。クリスに俺を認めさせるために。だから引き下がれない。男の意地があるんだ。」
「分かる。男だな大和。」
丁度二対二ということで、由紀江の思いも考慮し五本制から三本制となった。後一勝負で決着が決まるので由紀江も条件を飲んでくれた。
「やるじゃん、まゆっち!」
「これからも言いたいことあれば、ガンガン言え。」
「一年だからって、かしこまる必要ないんだぜ。」
「そうそう。おどおどしてると気を遣うから。今ぐらいが、丁度いいかもね。」
「……………柔らかくなったなぁ。」
「龍さん!」
「……………この主人公の性格。」
「まさかのそっちですか!?」
「まぁでも…………京に認められたら列記とした仲間だな…。」
そう言ってそっぽを向いて体育座りで本を読む龍。顔は無表情ではあるが、心には何か芽生えているかも知れない。由紀江の成長と共に、龍が由紀江を褒めたことに一同は微笑んだ。
「まゆっちやったな。鼻毛を抜いてやるってのは今みたいな事なんだぜ。」
「はいっ、ありがとうございます!」
「あれっ、通じてるの!?」
「ってことで、ラストバトルだ。」
くじを引く大和。体がほとんど限界な大和が引いたのは「山頂からダウンヒルランニングバトル」。
「山頂の展望台からここまで駆け下りるランニングレースだ。山の中腹にチェックポイントを二つ設けた。ここのチェックポイントに行ってクイズを答えてサインボールを貰ってくる必要がある。道の途中にあるポイントには難しいクイズ、離れた場所にあるポイントには簡単なクイズを用意した。どう走ろうと乗り物に乗らなければどこを通っても合法だ。相手チームへの妨害は駄目だぞ。」
「クイズが分からなければ立ち往生か?」
「次の問題を頼めばいい。間違えた場合も同様だが、次の問題が出てくるまでは一分かかる。クイズ問題は西洋史、日本史、雑学、数学、物理からジャンルは選べるぞ。さらにパートナーを一人選べる。クイズを一緒に考えてもらってもいいし、疲れたら代わりに走ってゴールしてもらうとか。どちらかサインボールを持っている方がゴールすれば勝ちだ。」
「俺はゴール地点で待つ。まゆっちとモロはチェックポイントで問題係。モモ先輩とガクトはレース中の審判。パートナーはこの二人のうち一人だ。大和がコイントスしろ。表ならワン子。裏なら京。」
コイントスの結果、大和にはワン子、クリスには京がついた。それぞれ開始前に作戦会議をしている。ようやく山頂に着き、クリスと大和がお互い拳を合わせ、最終戦がいよいよ開始される。
「最終戦!始め!」
四人が一斉に駆け出す。二組がそれぞれの作戦通りに道を選ぶ。そしてもう一人空気を読まずに選択する。
「……………決着がついたら起こしてくれ…。」
「いや、寝るなよ。」
「……………トンファー疲れ。」
「…特別だぞ。決着がつく直前に叩き起こすぞ。あ、起きて睡眠についての説教するなよ!?」
「……………。」
審判の百代は龍の面倒も見なくてはならなくなったようで一つ溜息を吐く。しかし、二つ気がつく。彼が自ら希望を話した事と、彼が自ら辛い思いを吐露した事。あの日から彼はそんな事を一つも吐かなくなっていたからだ。それがどうだろう。ファミリーに新参者が入ってから、この旅行を経てから、本人は気付いていないだろうが、彼の中で何かが変化しようとしていた。子供のような寝顔を見ながら百代はそう思った。
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最終決戦は大和の頭脳勝ちとなった。頭脳勝ちといっても身体の方は満身創痍である。風邪が完全に治っていないというのに全速力で走り、近道をするのに再び川に飛び込み、男の意地の為にとても苦労して、クリスの尊敬を勝ち取った。
今は昼食を取り終わり、クリスの携帯番号が赤外線に乗せて交換されていた。男に目覚めそうになった岳人も無事に受け取り、残すは彼のみとなった。
「龍、受け取ったのか?」
「……………携帯は持っていない。」
黒いボストンバッグが振動する。観念してゆっくりと振動する物を取り出す。
「……………もしもし。」
「ハァハァ…ニーチャン、どんなパンツ履いてるん?」
京からの近距離電話をすぐに切って、黙ってクリスに向き直って携帯を差し出す。少し彼に慣れたクリスは特に何も言う事もなく赤外線交換をする。携帯を持っていない由紀江は羨ましそうにその光景を見ていた。勿論ファミリーは川神に戻ったら由紀江の携帯を買う約束をする。
「よーし。後はお前達二人に川神魂を授けるぜ。」
「川神魂?」
「光灯る街に背を向け、我が歩むは果て無き荒野。奇跡も無く標も無く、ただ夜が広がるのみ。揺るぎない意志を糧として、闇の旅を進んでいく。これが川神魂だ。」
「勇往邁進。一言で言えばそういう事だな。」
正式なに仲間入りということで伝えたいことは伝え、そして新たな結束の開始ということで乾杯をする。十個のグラスがぶつかり合う。新生風間ファミリー、ここに誕生。
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午後四時。観光も終わり、帰りのバスを待っている。大和の進行のおかげでバスはすぐに来ることがわかった。そこで後ろにいた占い師に声をかけられた。
無料で全員の占いをしてくれるらしい。翔一はやはり強運の持ち主だということがわかる。他の面々も続々に結果がわかる。皆良い結果なようだ。そして大和が最後にバスに乗り込む時に突然占い師が叫ぶ。
「10-1…この者は引かれてしまっている。しかし…」
「?」
「一人にさせては駄目です!恐ろしいものが訪れる。炎の呪いが…」
「? 炎の呪い?」
肝心なことを聞く前にバスは問答無用で発進する。大和は一人考える。一人にさせてはいけない、恐ろしいもの、炎の呪い。いろいろ考えたが、仲間との交流ですぐに頭の片隅に移動してしまう。
こうして、波乱に満ちた二泊三日の旅行は幕を閉じた。新参者二人を加え、新生風間ファミリー誕生。そして不変的日常を望む彼にも、自分では気づいていない変化が訪れようとしていた。それがいったい何を意味するのか。その物語はこれから語られるのであった…。
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