真剣にみんなに恋しなさい!   作:Y2D

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第十六話:一意奮闘・体育祭 前篇

「これより第…回川神学園体育祭の開催をここに宣言します!」

 

 

 

本格的に夏の陽気になってきた六月中旬、川神学園体育祭が幕を開けた。先程の開催宣言で体育祭を心待ちにしていた生徒達の歓声がどっと上がり、周りの熱気が非常に暑苦しい。それもそのはず。体育祭は派手な出し物が多く、川神学園の名物の一つである。

川神学園の体育祭は 玄武 白虎 朱雀 青龍の四軍に分かれて点数を競う。どのクラスがどの軍に振り分けられるかは、くじ引きで決まる。

振り分けられた軍の各詳細はきちんとプリントに記載されて配られる。龍が所属する二年F組は青龍軍に振り分けられた。他のクラスはというと…

 

 

 

「龍さん、一緒に頑張りましょうね!」

 

「加藤先輩、今日は宜しくお願いします!」

 

「……………ん。」

 

 

 

黛由紀江と大和田伊予が所属する一年C組が同じ青龍軍に配属された。F組と敵対する二年S組は白虎軍にそれぞれ組み分けられた。

由紀江は今日活躍して友達を得ようとしているので、見るからにやる気である。

龍は挨拶もそこそこに、体育座りで寝ている。そんな彼を見て育郎が大和に尋ねる。

 

「なぁ、大和。本当に大丈夫なのか?」

 

「何が?」

 

「龍の事だよ。今日はちゃんとやってくれるのか?」

 

「ああ、それなら大丈夫。龍は基本負けず嫌いだし、それに今年は…」

 

 

 

龍に近づく一つの影。体育座りの彼を後ろから抱きしめる人物。何故か体操服ではなく、川神院の胴着姿の川神百代その人である。

 

 

 

「こら、起きろ!」

 

「……………何。」

 

「これから私が活躍するっていうのに、何寝てるんだ?」

 

「……………知らない。」

 

 

 

寝不足の所為で寝ているのはわかっている百代であるが、自軍の応援もしていないのを見ていつも通りの作戦Bを決行する。

 

 

 

「ははーん。私がいる朱雀軍の活躍を見るのが怖いんだな?」

 

「……………!」

 

「まぁ無理もないよなぁ。私が活躍したら青龍軍との点差が開くもんなぁ…。そんなの見たくないよなぁ…。」

 

「……………そんな事ない。」

 

「じゃあお姉さんの活躍を目に焼き付けるニャン!点差が開くのを指咥えて見てるニャン!」

 

「……………点差は開かない……………俺が証明する。」

 

「フフフッ、楽しみにしているニャ~ン。」

 

 

 

そう言い残して百代は、自分が出る競技の準備に向かった。今の様子を見せて大和は育郎を安心させる。

 

 

 

「それに今年は別の軍に姉さんがいるのが良い刺激になってるよ。今も見ただろ?姉さんに挑発されて簡単に釣られた龍を…。」

 

「朱雀軍をコールド負けさせてやる……………。」

 

「疑って悪かったよ、凄い効き目だな…。」

 

 

 

寝不足はどこへやら。その瞳はやる気に満ち溢れていて燃えている。言われた通り百代の活躍を目に焼き付けている。…活躍というかどうやって差が開くか研究している。

 

 

 

 

 

「続きまして…借り人競争です!」

 

 

 

ルールは簡単。指定されたポイントに置いてある封筒を取り、中に入っている紙に書いてある特定の人物を連れて、一緒にゴールテープを切れば勝利。

一軍五人一組。各クラスで事前に選ばれた出場者と言えば…

 

 

 

「あ、龍さん。」

 

「……………ム。」

 

 

 

一緒のチームとなったようだ。他は知らない人物達。他学年他クラスの人物達。今日一日同じ軍で勝利を共に勝ち取るという利害関係の許に成り立っている。

龍の出番は四番目。待っている間、五番目に出る由紀江が後ろから話しかけてくる。……何故かここには存在しないはずの馬の声も聞こえる。持ち主を睨むと暫くの間引っ込む。

後ろからの声を聴きながら、競技を観察する。借り物競争ではなくて借り人競争。メガネだけを借りるのではなくメガネをかけた人だったり、鉢巻だけではなく鉢巻を巻いた人などと少し面倒臭い。特に一緒に走らなくてはいけないというのが。

…と、これはあくまで一般例であり、川神学園は違う。川神学園はお題を捻ってくるので厄介である。例えば………

 

 

 

「ホッホッホ、紙を見せてくれんかのう。」

 

「はい、これです。」

 

 

 

一番に到着したのは玄武軍の生徒のようだ。すぐにお題が書かれた紙を学長に渡す。受け取った紙を見てその生徒が連れてきた人物を品定めする。

紙に書かれたのは「哀愁漂う人」。ちなみに例え一番初めにゴールテープを切ったとしても学長の許可が下りないと一位とはなる事は出来ない。

 

 

 

「うむ、合格!」

 

「よっしゃ!!」

 

「で、オジサンはその紙の内容が気になるんだけど…。」

 

 

 

紙の内容を連れてきた人物に見せるか見せないかは、特に強制されない。学長にさっさと渡してしまえば見られずに済む。玄武軍の生徒はそう対処した。

 

 

 

「と、とってもダンディなオジサンって書いてありました!」

 

「え、マジ?いやぁ、オジサン照れちゃうなぁ…。」

 

 

 

 

 

ようやく第四走者の出番である。これまでの結果と言えば玄武軍一勝、朱雀軍一勝、白虎軍一勝、青龍軍は零である。一番に到着してもくじ運が悪く変なお題を取ってしまい、人を探すのに苦労したり、単に足が遅かったりとなかなか苦戦している。

つまり劣勢の青龍軍を優勝への軌道に戻すには、龍と由紀江の活躍が不可欠である。求められるのは他の追随を許さない足の速さ、変なお題をひかないような強運、お題に該当する人物をすぐに見つけられる速さと運………と彼は分析する。

今では自分が優勝への足掛かりとなったので、傍から見れば意味がわからない分析を思わずしてしまう。ただそれくらいに彼はやる気に満ち溢れている。まるで武神を相手にして闘っている時のように。

 

 

 

「第四走者、準備!」

 

 

 

それぞれの軍から歓声が起こる。現在劣勢である青龍軍の声援が特に大きい。スタートラインに四人が並ぶ。他三人に知ってる生徒はいない。なので特に注意すべき相手はいない。ただ全速力で走って一番に封筒を手に取り、一番に対象人物を見つけ一番にゴールする。それだけ考えてクラウチングスタートの姿勢をとる。

 

 

 

「位置について…よーい…ドン!」

 

 

 

誰もフライングすることなく、第四レースが始まる。大方の予想通り龍が誰も寄せ付けずに先頭を突っ走っている。そしてすぐさま封筒を選んで手に取る。中を開くと…

 

「着物を着た人」

 

くじ運は悪かった、と彼は思った。こんな夏の暑い運動会で厚い着物を着ている人物なんているのだろうか。しかし用意されるからには一人ぐらいいるのだろう。

そんな人物が青龍軍にいれば既に見つけて捕まえている。朱雀軍…いない。百代が手を振っている。今はそれどころじゃない。玄武軍…見当たらない。白虎軍…該当する人物は……いた。にわかには信じられないがいるのか…まるで砂漠で遭難してオアシスを幻で見ているかのように着物の人物が輝いて見える。…とにかく行かなくては。

 

 

 

「……………ちょっと。」

 

「む? ってなんじゃ、F組の山猿ではないか!一体何の用じゃ!」

 

「……………アンタを借りたい。」

 

「此方を借りたいじゃと?山猿ごときが高貴な此方を連れ出すというのか!無礼者め!他を当たれい!」

 

「……………アンタにしか頼めないんだが。」

 

「む?此方にしか頼めないじゃと?九鬼などには頼まぬのか?」

 

「……………アンタだけに該当するお題だから来た。」

 

「…ヒュホホ、なるほどのう。その紙には”高貴な者”とでも書いてあるのじゃな?」

 

「は?いや……………」

 

「みなまで言うでない。どれ、見せてみよ。」

 

 

 

勘違いしたままに不死川心は龍の手から封筒をひったくる。そして中に入っている紙を見て

 

 

 

「高貴な者とは書いておらんではないかー!」

 

「……………誰もそんな事言っていない。」

 

「なんじゃ、期待させおって!もう知らぬわ!誰が山猿の為に協力するか!他を当たれ!」

 

「着物を着た人……………」

 

「フン!学園の外にでも行って探すんじゃな!」

 

 

 

自分のせいではないと思うのだが、完全にへそを曲げてしまって協力してくれなくなった。…こうなったら寮から麗子さんを連れてくるか。急げば間に合うだろう。

 

 

 

「龍―!急いでくれー!他の軍に抜かれちまう!」

 

「……………!」

 

 

 

他軍が該当人物を見つけて走り出している。麗子さんを寮から引っ張り出す時間は無いようだ。かくなる上は…

 

 

 

「……………ごめん。」

 

「む?なんじゃ、お、おい!離すのじゃ!こら!離さんか!」

 

 

 

龍は心に有無を言わさず自分の肩上にうつ伏せで担ぎ上げて走り出す。万が一の配慮でしっかりと足元を着物ごと持って、彼なりに急ぐ。

が、少し出遅れたようで間に合いそうもない。いや、間に合う。間に合わせる。青龍軍の勝利の為にここで一位になって、そして黛由紀江にバトンをつなぐんだ。

勝つ。個人の為ではない。青龍軍全体での勝利を掴もう。皆が幸せになる道を…。

一位になりたいが為に自分を鼓舞する魔法の言葉を叫ぶ。恥じらいを捨てて。

 

 

 

「ッ……………強風暴風台風突風旋風烈風疾風怒涛!」

 

 

 

脚が軽い。風になった気分だ。昔を思い出す。彼とひたすら異常なくらいに野を駆けた思い出。風になっている内に気がつくと一着でゴール出来ていた。

また名を遺したのだろうか。金魚の糞がまた活躍した、と。怒涛の走りに他軍も騒めいている。学長にさっさと紙を渡して合格を貰って、目を回している心を席に戻して自軍へ。

 

 

 

「やったな、龍!イェーイ!」

 

「……………はいはい。」

 

「なんだよー!ハイタッチしてくれよー!」

 

風の申し子・風間翔一がハイタッチを求めてくるが、自分の出番が終われば煮えたぎっていた情熱は一気に沈静化され、いつもの加藤龍に戻る。

青龍軍勝利への情熱は勿論途絶えておらず、この頃変化が起きている彼は次に出番の由紀江に珍しく声をかける。

 

 

 

「……………頑張れ。」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

「第五走者、準備!」

 

 

 

黛由紀江、輝けるか。ここで活躍すれば確実にクラスメイトから賞賛の声が貰える。しかし今の状況下で由紀江は自分の事だけは考えない。自分の活躍次第で青龍軍の優勝の行方が左右される。友達うんぬんはひとまずこの競技が終わってから。

 

 

 

「位置について…よーい…ドン!」

 

 

 

国から帯剣許可を貰えた剣聖・黛十一段の娘も龍と同じく誰も寄せ付ける事もなく、トップを独走する。いくら川神学園といえども由紀江の走りは頭一つ突き抜けていた。流石武神に認められた眠れる獅子。あっという間に封筒のあるポイントに辿り着く。

 

 

 

「どれにしましょう…慎重に選ばないといけませんね。」

「いやいや、せっかくだし、その赤の封筒を選ぶんだ、まゆっち!」

「え、あ、はい!そうですね!」

 

 

 

慎重に選ぶのかと思いきや、この場にいないストラップと脳内会議をしてすぐに封筒を選ぶ。この競技はくじ運も大事だと加藤龍は分析した。そして中を開き、紙を取りだす。

 

 

 

「うぇぇぇぇええぇぇぇえぇ!?」

 

 

 

紙を見て思わず声をあげた由紀江。果たして何を引いたというのか…。

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