二〇〇九年八月十五日土曜日。本日も休日の睡眠を楽しんでいる。今日の睡眠は比較的心地が良い物である。それもそのはず。時刻はもうお昼を回っていた。
しかし、何度目かの寝返りを打った時、足に異変が。さっきまで見ていた夢の影響か。足がつった。いわゆるこむら返りや筋クランプとか言う現象である。
珍しくソレで起きる龍。携帯を開いて時刻を確認する。その時間は昼食の時間というよりもうブランチを食べる時間である。
もう一度寝ようとするが違和感を覚える。もうこんな時間なのに約二名のお節介な人物が起こしに来ないからだ。川神百代と椎名京。
昨日の事を思い出す。いつも通り金曜集会でだらだらと過ごしていた。特に話す議題も無く他愛のない話をしていた。そしていつもなら土曜日、日曜日と予定が決まってその予定に無理矢理起こされて無理矢理付き合わされるのが何時もの流れではあるが、今日は誰にも起こされずに今に至る。
これはこれで望んでいた形なのだが、いつも起きている事をされないと気持ち悪いものがある。頭を乱暴に掻いて起きようと決める。そして出かけることにした。行先は島津寮に指定して。
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島津寮は多馬川下流近くにある。川神学園の寮の一つである。実家が遠い、両親不在という事情がある者が入る所。といっても風間翔一は家が近所にあるのに寮通いである。第一に翔一がこの状況を面白がっていること、そして翔一の母親と岳人の母親同士、仲が良く、翔一の母親も親離れの為に丁度いいと思っていることなどが理由。
全部で6部屋。男が一階三部屋、女子が二階三部屋。川神の土地から出る温泉に入れるとあってクリスもこの寮に入ることを決めた。
尚、男が勝手に二階に許可なく入ると麗子によって市中引き回しの上、 学院校門前に吊るされる。過去に本当に刑が執行された。川神学園側も麗子を信頼して任せている。
黛由紀江、椎名京、クリスティアーネ・フリードリヒ、直江大和、風間翔一、源忠勝が住んでいて、島津家はその隣に。しかしとりあえずは島津寮の呼び鈴を鳴らす。ここにいるのは六分の五人が風間ファミリーなのだから。
「はい…って龍!?」
「……………モロ?」
予想外に寮に住んでいない師岡卓也が玄関に出てきた。お互い驚いてはいるが、比較的卓也の方が目を見開いて驚いている。そして卓也の叫びを聞いて駆けつける面々。龍以外の風間ファミリー、そして源忠勝がいる。
「ダーリンが起きている!?」
「……………足つったから。」
「ハハハ、面白ぇな!」
「笑ってる場合じゃねぇだろ、風間。」
「オイ大和、どうするんだ?」
「……………?」
大和を中心に作戦会議をしている。状況が理解できずに長い時間待ちぼうけを食らう。孤独を愛する彼にとっては仲間外れにされて遊ばれていても構わない。彼が今思っているのはただ卓也に質問をしているのに、それを返してもらっていないこと。順番があるのだ。
毎日顔を合わせる度にちょっかいを出してくる百代と京もこちらに構わずに会議に参加している。数分後、大和がこちらに歩み寄って来る。
「龍、姉さんと出かけておいで。」
「……………なんで。」
「美少女とデートだぞ、喜べ。」
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イタリアな雰囲気が漂う複合商業施設「イタリア商店街」。映画館やレストラン施設など若者に人気な施設が集まっている。訳がわからないまま肩を組まれてここまでやって来た。
「メシ食ったのか?」
「……………それを聞くのか?」
「まぁそうか。じゃあレストランでも行くか…お前のおごりで。」
「……………金返せ。」
歩きながら金の話。まだ返されていないからだ。一年前に絶交宣言したりそれからファミリーを避けてみたりしているが、何だかんだ言って代行業のアルバイトでたっぷり稼いだ中からお金を出している辺り立ち位置がはっきりしていない。
龍は視線を感じる。学校で見たことあるかないかくらいの女性達が龍を睨んでいる。そして思い出す。川神百代ファン達だ。
だいたい羨ましいとか何でアイツが…とか思われている。近しい人は何かと。理解はしているがあまり絡んだことがない百代ファンからは「百代様の思いを無下にするなんて…」とか思われているらしい。
「ところで何で足つったんだ?」
「……………武神を倒した夢を見て。」
「ふーん、武道の夢…って私かい!」
頭にチョップをされる。それが引き金になって”小競り合い”が起きる。彼らにとっては小さな戦闘だがイタリア商店街にとっては大きな損害になりそうである。竜巻が起こりそうになるが、声をかけてくる人物のおかげでこの街は救われた。
「加藤君、モモ先輩。こんにちは!」
私服姿の小笠原千花と甘粕真与と羽黒黒子である。戦闘中なのに勇敢にも知り合いだからと話しかけてきたのは真与の功績か。
話す内容と言えば先程の戦闘の事やこんなオシャレな所で二人っきりで何してるんですか?等街の雰囲気のせいで質問の方向が変である。
そして思い出したような顔をして、少し顔を赤らめて千花が龍に話しかけてくる。
「あのさ、加藤君。そういえば今日って…」
「だーっ!急用が出来たから失礼するぞ!ではさらばだ!」
その事に触れてほしくない百代は龍を抱えて美少女らしく竜巻のように去っていく。残された三人は訳がわからない顔をして呆然と立っている。
「……………今日は何かあるのか?」
「あー…あれだ、お盆だよ、お盆!」
「……………茄子と胡瓜のか?」
「そ、そうそう!夜やるからな!」
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「さっきは悪かったな、龍。」
「……………別に。」
今現在は大和が龍の相手をしている。百代と交代をした。時間を潰すに便利なゲームセンターに来ていた。大和はゲームセンター若葉印の龍にいろいろ教えている。
「これは養鶏場の息子が主人公のレースゲーム。積んである卵を割らずに六○山の上りに建ってるホテルまで届けるんだよ。朝食用の生卵をな。でも時間制限があるからドリフトとか使って素早く行かないと駄目なんだよ。」
「……………卵を守る自信が無い。」
「こっちはクイズゲーム。クイズマスター養成学校の生徒になった体でクイズを解いてくゲームだよ。」
「……………変な設定だな。」
一通り説明したところで今度は育郎とスグルと満が奥からやって来た。どうやら二人は格闘ゲームをしていたようだ。
「おー、大和に龍じゃねぇか!」
「おお、龍もこんなところに来るのか。」
「やぁ、加藤君。風間君。」
「そういえば、今日ってお前の…」
「ヨンパチ待て!それは今内緒だ!じゃあ俺達帰るから!」
急いで帰る二人。腕を引っ張られる龍は相変わらず状況が呑み込めずに聞く。
「……………だから今日は何があるんだ?」
「ジ○ン公国建国記念日だよ。」
「……………?」
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「今度は俺が相手だ!」
「……………。」
「おーい!無視するなよぉ!」
相変わらず翔一はこの調子である。妙に子供っぽい。大和と交代して今は金柳街を歩いている。
翔一が行く所といえばやはりこの本屋である。龍もここでしか本を買わないから丁度良かった。
「……………これ、買って来る。」
「待て!俺が金出すから!」
「……………なんで。」
「あー、気分だよ気分!」
翔一は財布から本の値段全額分を出す。龍はその間店長と会話をする。本の趣味が合うので比較的話が弾む。翔一が会計を終えると店長がふと日めくりカレンダーを見て喋りだす。
「おう!今日はおめでとう、バッキャロー!」
「店長それ言わないでくれよ!いくぞ、龍!強風暴風台風突風旋風烈風疾風怒涛!!」
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少し離れて川神院。時間的に日が傾いてきた。今度は稽古で時間を潰している。相手は一子。薙刀と拳を合わせている。
「どうじゃルー。この試合は。」
「努力家同士素晴らしい試合ですネ。」
今回は龍が勝った。前回は一子が勝った。昔から努力を重ねる二人は何かと手が合うのだ。息を切らせながら一子は龍に質問をする。お互い戦闘の内容を話す中である。
「今日の私はどうだったお兄様!?」
「……………その呼び方はやめろ。」
戦闘後になると昔の呼び方で呼ばれる。その呼び方は暗くなる前から苦手だった。
川神姓に入ったから百代をお姉さまと呼ぶのはわかるが、川神姓に入っていないのに昔から川神院に入り浸っていることからお兄様と呼ばれるのは歯がゆかった。
時々故意なのかつい出てしまうのかわからないが何度言っても呼ばれてしまう。
「お疲れ様~!そしておめでとウ~!」
「今日はペースが速いのう、ルーよ。」
「あれじゃまずいわね、龍行きましょ。」
一子が龍を引っ張り出す。
「……酔拳…見たかった……。」
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「大丈夫か?疲れていないか?」
「……………平気。」
試合後の龍を心配しているのはクリス。相変わらずの交代劇である。今は多馬大橋に来ている。日も傾き、そろそろ夜になるがまだ多少の待ち時間があるので寮に近いこの橋で川や夕日を眺めながら佇んでいる。
「龍。一ついいか?」
「……………?」
「なんでさっきから川に投げる石がキングサイズなんだ?」
「……………モロが見せてくれたアニメの影響。」
前を見ていると、やって来た変態を鞭で粛清している梅子がいた。梅子に対して現れる変態は梅子目当てというよりその梅子から振りかざされる鞭で叩かれる事を目当てにやって来ているとか来ていないとかという都市伝説が。
「ム、このムチの音は…。」
「……………先生か。」
「クリスに加藤ではないか。こんな所で会うとはな。」
「……………こんにちは。」
「そうだ、加藤。おめでとう。また一年精進するんだぞ。」
「先生、すみません!失礼します!それは内緒なんです!」
「……………?」
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多馬川の土手。いよいよ寮間近である。完全に夜になるまで後数分。
「ところで……この後……シフトが…。」
「入ってねぇ。ていうか入れてねぇ。」
「……………でも。」
「そんなことしたら俺は椎名辺りに怒られてるぜ。」
「……………?」
「とにかく親父が今一人で頑張ってるから心配するな。」
「……………あれは。」
「噂をすれば何であんな所に。」
忠勝の父である宇佐美巨人が土手に座っていた。
「あ、いたいた。加藤。」
「何油売ってんだ親父。」
「違うよ、これから仕事だよ。合間に加藤に会いに来たんだよ。」
「……………何で。」
「それはお前の…」
「おい親父!さっさと仕事に行け!ったく、わずか数分なのに油断できねぇぜ…。」
忠勝は龍を引っ張ってずかずかと寮へ向かう。
いろんな人間の協力のおかげで時間は潰せた。
いよいよ真相が明らかになる時がやって来た。
「…って、えっ、オジサンの出番これだけ?ひどいなぁ。」
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「いいか。俺が入って十秒後に入れ。」
「……………なんで。」
「いいから言う通りにしやがれ。」
そう言って忠勝は寮へと入っていく。訳が分からないが、言われた通りきちんと十数えてから寮に入る。龍が扉を開けた途端、前から多数の破裂音が。クラッカーである。
寮は玄関から装飾が施されていた。折り紙による輪っか綴りである。色とりどりの風船も飾られている。しかし彼は未だに何が何だかわかっていない。
「……………何。」
「いや、だから今”お誕生日おめでとう”って皆で言っただろ。」
「……………誰の。」
「ここまでやって龍の誕生日じゃなかったら僕達涙目だよ。」
「あぁ……………今日か。」
「反応薄いな!まぁいいや、本番はこれからだから!」
居間に行くと机に沢山の料理が並んでいるのが目に映る。机いっぱいに皿が並んでいて、皿一つ動かすと危険な状況でもある。
まずは夕食も兼ねた食事の数々。昔食べた高級料亭のような料理や肉料理だったり、一皿何故か真っ赤な料理があったり選り取り見取りである。
誕生席に座らされ、変な襷をかけられ、さらには誕生日専用の変な帽子まで被らされる。
「とりあえずは乾杯しようか。誕生日おめでとう、乾杯!」
「乾杯!!!!!!!!!!!」
量が多いのでお互い協力しあって料理を取り合う。作った料理が全て胃に消えるまで自由行動である。
「ケーキは最後。ダーリン。まずこの赤いのを食べて。」
赤い!赤すぎる!一味に覆われて豆腐が見えない!激辛麻婆豆腐!といった具合な料理が目の前に。
「気をつけろ龍!俺の二の舞になるぞ!」
以前、岳人は罰ゲームで京の殺人激辛料理を食べて約二週間入院した事がある。
「……………?」
「なんで平気なんだよ!」
「まぁいろいろあった末にって感じ。岳人も食べる?」
「食べねーよ!また入院したくねーし!」
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数十分後、料理も大方減っていっている。その吸収先は今日の主役である。
「龍さん、有難いですがお腹いっぱいにはならないんですか?」
「いろいろあった末に大食漢だ。龍、ほらあーん。」
「パネェー。どこの銀色の女王だよ!」
百代が龍の口にフライドチキンを突っ込んでいると、呼び鈴が鳴る。麗子が応対しに行くとまさかのマルギッテとフランクである。
「やぁ、龍君。近くまで来たら君が誕生日だと聞いてね。おめでとう。」
「まぁ祝ってあげてもいいでしょう。おめでとう。」
「はぁ……………どうも。」
近くまでヘリコプターでやってきて娘の顔を見に来た父親とその部下に祝われる。軍関係の人物に祝われるということでとても違和感を覚える龍である。
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ケーキも食べ終えて、誕生日会は終わりの時間になった。結局龍がかなりの量を平らげた。しかし平然な顔をしている。クッキーが率先して皿を洗っている。
「龍、じゃあしめてくれ。何か一言。」
「……………なんで。」
「今日の主役として是非!」
「……………今日は……………あ……………あり……………ありが……………ありがとう。」
爪を噛みながら普段言わない事を言う。その言葉に全員の心が打ち抜かれたのは言うまでも無かった。