真剣にみんなに恋しなさい!   作:Y2D

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番外編:足駄をはいて首ったけ

「小島先生、どうですか、この後。」

「お断りします。」

 

世間はそろそろ夏休みが終わる頃である。しかし先生という職業は勿論勤務日である。小島先生を例に挙げると、弓道部の指導であったり、補習授業を受け持っていたりした。

そして宇佐美巨人三十五歳。本日も想い人に振られる。加藤龍と源忠勝はまたそんな場面を見てしまう。こちらとしても何回目の目撃だろうか。

そんな事を会話しながら二人は一緒に帰っている。下校しているというより向かっていると言った方が妥当な表現である。

今日は放課後から一間置いて仕事である。仮眠をとってからの深夜業務。ビルを全面的に清掃するお仕事。これも一応立派な代行業の一つである。

龍と忠勝の他にもちゃんとビル側の正規の清掃員がいる。要するに急な欠員の穴埋め代行である。各班に分かれて深夜のうちにビル中全てを綺麗にする。

龍と忠勝の班は最初に男子便所の掃除を任される。黙々と立ってする方の便器を磨いていると忠勝が話しかけてきた。

 

「来週、親父の誕生日なんだよ。」

「……………知ってる。」

「ヘッ、流石に知ってやがるか。でもよお、今年は何するかまだ決めてねーんだよ。何か思いつかねーか?」

「んー……………。」

 

そして宇佐美巨人三十五歳。身長百七十九センチ。九月六日誕生日の乙女座B型。駄目教師と呼ばれているが、あれでも立派な二年S組の担任である。

川神の裏事情に詳しい島津寮で暮らしている同級生。

昔。宇佐美巨人が孤児だった忠勝を引き取って今に至る。いつもは何かと照れ隠しが目立つ彼だが、”恩人” の為には隠し立てをしなかった。

そんな想いを受けて便器を磨きながら思いを巡らす。自分も去年からお世話になっている。自分も何かしたい。何をすればいいか。

巨人の好きなものといえばおでん。去年の冬にはよく屋台で一緒に食事をした。変わり種などで作ろうと思ったが、しかし今は八月九月。季節的に合わないだろう。

やはりここに辿り着く。やはりここに辿り着いた。小島梅子二十八歳、身長百十六センチ。一月七日誕生日の山羊座A型。二年F組担任で生徒思いの良い先生で彼の想い人。

やはりこの人との仲を取り持つしかないだろう。それが最高の贈り物だろう。しかし普段の様子を見ると望み薄であるので工夫が必要だと思った。

 

……………

…………

………

……

 

「ところでどうですか……今晩食事でも。」

「お断りします。」

 

「何かあればこの漢・巨人が聞きますよ。」

「結構です。」

 

「学生想いで実に結構ですね、小島先生。って事で、いかがです?食事でも――」

「お断りします。それでは。」

 

「小島先生。今度私とプラネタリウムに行きませんか?」

「お断りします。私は自然の星が好きなので。」

 

「美しい小島先生の水着が見えたもので、足が勝手にこちらに…。」

「S組に戻ってください。」

 

……

………

…………

……………

 

目撃した過去を振り返る。可能性が見えない。だがこれしかない。高価な腕時計や安直なサプライズより喜んでもらいたい。最後の一押しなどは当人にかかっているのだが手助けはしたい。つまりはきっかけ作りである。

そんな提案を忠勝に投げかける。流石に可能性が低い事に対して難色を示している。しかし彼はやってみたいと思った。わずかな可能性に賭けてみたいと思った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

翌日。眠い目をこすりながら学校へ行く。世間は夏休み終盤である。今日は丁度小島先生の補習授業の日である。まずは彼女に頼み込む事から。正直こじゃれた作戦は思いついていない。やり方なんてとっくの昔に忘れてしまったのでただぶつかるのみ。

補習授業が終わったらいよいよ勝負時である。誕生日プレゼントがどうなるか自分達にかかっている。

 

「本当に大丈夫かねぇ…。」

 

……

………

…………

……………

 

「……………取り付けた。」

「ホントか、龍!…って、おじさんがいくら言っても断られたのに、何故龍達には…。」

「んな事言ってる場合か。このチャンスを生かすんだよ。ほら準備するぞ、親父。」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして九月六日。まだまだ夏の暑さを引きずっていて蝉も五月蠅く鳴いている。約束をした日は、折角の日曜日だが残念ながら小島先生は弓道部の試合があるので夕方まで学校にいる。こちらもそれを承知で無理矢理約束を取り付けたので多くは望まない。

ただ食事を共にするだけ。後は巨人先生にかかっている。話術などでいかにして惚れさせるか。今日で全て決まると思っても過言ではないかもしれない。

 

「お待たせしました。」

「いやいやいや、私も丁度今来たところですから、はい。」

「テンパリすぎだろ、親父…。」

「……………。」

 

ただし四人で今日は食事を共にする。小島先生の交換条件である。二人だけではちょっと

気まずいらしい。そういえば以前こんな事を言っていた。

 

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六月二日。絶好の昼寝日和である。加藤龍は相変わらず屋上のさらに上、給水塔の所で睡眠中。いつもは誰にも邪魔されないこの空間に大和がやって来る、

 

「龍、起きてくれ。」

「……………何。」

「起きないと、姉さんと京に殺される…。」

「……………来世で会おう。」

「見捨てられた!?」

 

そこに珍しくやって来たのが小島先生。職員室で大好きな煎餅を食べようとしたら、別の先生に咀嚼音が五月蠅いと注意されて、屋上にまで来て食べに来たらしい。

龍と大和は煎餅をご相伴にあずかる。大和は先生と世間話をしている。龍は寝そべりながら口を挟まずにそれを聞いた。…正直煎餅は癖になった。

話の流れで巨人先生の話を突っ込んだ大和。そうすると辛辣な返答が返って来た。好意は嬉しいが、見た目から何まで完全に好みではない、と。ただ食事ぐらいならと思っているらしい。龍はこの事を思い出して今日の計画を立てた。…煎餅は美味しかった。

 

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ということで龍と忠勝は補佐役に徹する。食事場所は未成年二人もいることもあってゴストになった。

この後滅茶苦茶エスコートした。

ファミリーレストランという限られた場所ではあるが、前日に勉強してひたすら巨人は梅子に尽くして男を見せた。

その結果、梅子の心は確実にぐらついた。龍と忠勝は任務を終えたと思った。

 

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御馳走様でした、と巨人以外の三人が言う。巨人は笑って大人の余裕を見せている。そして巨人が一人で小島先生を駅にまで送ろうとすると事件は起こった。

 

「あ、巨人ちゃんだ!」

「ゲッ!」

 

良い雰囲気で帰ろうと思うと、前からいかにも水商売風の女性が一直線に巨人の許に近づいてくる。そして腕に抱き付いて営業トークをかます。

 

「久しぶり~!最近全然お店来てくれないじゃ~ん!次はいつ来てくれるの?あ、もしかしてこれから暇?いつもみたいに遊んでよ~!」

 

”いつも”という言葉を聞いて、小島先生の顔が引きつる。そしてこちらに向き直り、淡々と言葉を重ねる。明らかに不機嫌である。

 

「宇佐美先生、御馳走様でした。今夜はこれで失礼します。加藤と源は気を付けて帰るんだぞ。」

 

折角上がった好感度も、いつも通い詰めていたキャバクラの女の子のせいで一気にだだ下がりである。小島先生はいつものハイヒールの音を響かせながら駅に向かって一人でさっさと帰っていった。宇佐美巨人、とんだ誕生日であった。

 

「…馬鹿親父。」

「……………はぁ。」

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