真剣にみんなに恋しなさい!   作:Y2D

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第二話:招かれざる兆し

学校に入ったあたりから椎名京は無口になっていった。加藤龍に絡んでいた腕もいつの間にか離れていた。

高校二年になり、川神百代以外の全員が同じクラスになるということは初めてでファミリーはテンションが上がっていたが、龍は喜ばずに相も変わらず無関心を貫いていた。

ファミリー全員が所属する事になったのは、問題児を集めたとされる二年F組。そして川神一子が軽やかに動きながら、教室の扉を開けた。

 

「おはよーーー」

「おはよーっ!」

 

一子と大和が元気良く挨拶をして教室に入る。久寿餅などいろいろな和菓子も売っていることから、風間ファミリーも度々利用している実家が飴屋の小笠原千花と、小学生に見える程身長が低いが同じ高校二年であり、クラス委員長の甘粕真与は直江大和に話しかける。

ほのぼのとした性格でクラスの誰からも愛されており、いつも何か食べている熊飼満と、ある事情から現実の異性を毛嫌いし二次元をこよなく愛している大串スグルは、師岡卓也に話しかける。

京はすぐに席に着き読書を始め、一子は鞄を開けハンドクリップで鍛練を始め、そして龍は大和のように左隣の席に話し掛ける。

 

「おはよう……………昨日はありがとう。」

「おはよう、気にすんな。また何かあったら頼むぜ。」

 

源忠勝。川神一子と同じ孤児院の出身で、島津寮の一員。孤児だった彼は、この学校で先生をしている傍ら本職が代行業者の宇佐美巨人に引き取られ、仕事の技術を叩き込まれている。その仕事に龍も時々アルバイトという形で参加している。目的はただの小遣い稼ぎ。

先程しっかり顔を洗ったにも関わらず、昨日は夜遅くまで忠勝と一緒に仕事をしていたせいか、未だに眠気は取れていない。龍がまたあくびをすると、朝のホームルームの始まりを告げる鐘が鳴る。同時に漫画を隠したり、鍛練の器具を隠したり、寝ている者を起こしたりとクラス中が慌ただしくなる。

そして、廊下からハイヒールによる厳めしい音が聞こえ、真与が再び全体に注意を促し皆は背筋を正す。

 

「朝のホームルームを始める。」

「起立!礼!」

「おはよう!着席して良し。」

 

二年F組担任で弓道部顧問の小島梅子。鞭打ちによる厳しい指導の故「鬼小島」とも呼ばれているが、生徒思いの良い先生である。

そして、小島先生が本日の出欠確認を始める。加藤龍はいつも五番目に呼ばれる。

 

「加藤龍。」

「はいっ……………。」

 

暗い人間ではあるが、決して厳しい先生の前でだけ真面目ぶっている訳ではない。これでも声を張ってきちんとした返事をしている。一生徒の事をわかっている小島先生は今の返事で出席と見做してくれる。全員の出欠確認が終わるとようやく今日からやって来る転入生が紹介され…

 

「グーテン・モルゲン。」

 

るのだろうか。見るからに五十代の、とても学生とは見えない方が教室に入って来る。同世代の生徒かやって来ると思ったクラス一同は突然の事に困惑している。特に大和は卓也の冗談を真に受けてしまって唖然としている。龍も一応は今現在の話題の中心を見てはいるが、興味はひとかけらも無い。

 

「皆勘違いしないよう。この方は転入生の保護者だ」

 

騒がしい傍聴人を静かにさせる裁判官のように、小島先生が混乱の火種を消す為に訂正をして、その言葉に皆が安堵する。

 

「――あの、ご息女は?」

「ご安心を。時間には正確な娘です。間もなく駆けて参りましょう。」

 

転入生の保護者は窓へと指を差す。窓の外へと注目が集まって、先生の許可も下り大勢が窓の方へ群がる。龍は座ったまま窓の外を見ている振りをする。

 

「……?  げっ!?」

「どうした、大和!そんなに可愛いねーちゃんなのか!?」

 

先日のオリエンテーションの日に四十八手を全て間違えずに言えたことから、あだ名がヨンパチになった福本育郎は大和の反応を見てどんな可愛い娘なのかを期待している。

 

「文字通り、駆けて来たね………馬で。」

「クリスティアーネ・フリードリヒ!!ドイツ・リューベックより推参!!この寺子屋で今より世話となる!!!」

 

白馬に乗った王子様、という言葉がある。しかしこの状況では白馬に乗ったお姫様と言った方が適切である。風になびくその金髪は、日本人の若者が髪の毛を染めて作った金髪とは全く違う、艶やかで美しい絹糸のようである。女性らしい細い体つき。馬に乗っているせいで嫌でも目に入るしなやかな脚。クラスの一部男子達を興奮させるには十分すぎる存在だった。

転入生は世界史の授業のように、自分の名前を黒板に書いている。凛とした声と立ち振る舞いに、ある一部の男子二名が恥じらいもなく興奮している。その内の一人が挙手をして転入生に質問を投げかける。

 

「えーと、くりすてぃあーね?」

「自分としてはクリスと呼ばれることを希望する。」

「クリス、彼氏はいたりすんのかな?」

「そんなものいないに決まってるだろうガッ!!クリスにちょっかいを出す者は軍が殲滅する。」

「父様は任務に私情を持ち込まない軍人だ。」

 

岳人の一言が怒りの引き金だったようで、父親の怒号が教室中に響く。どうやらただの「娘を渡したくない父親」とは違うようで、「娘をください」と言おうものなら即座に冷たい土の中に入れられるようだ。一方のクリスも少しズレていて、困惑と恐怖が教室中に広がっている。

それからは二人の間違った日本を正すのに皆が苦労を重ねる。ドイツの友達が間違った知識をこれでもかと植えつけたようで中々取り払うことは出来ずに皆の戸惑いは続く。

 

「父君、そろそろ…」

「分かった。皆、娘をよろしく頼む。……クリス、何かあれば戦闘機でかけつけるからな。」

 

“クリスティアーネ・フリードリヒの取り扱い方”という説明書を作るとしたら、朝のほんの約十分程度で最初の数ページが埋まりそうな濃い内容が繰り広げられた。

父親がようやく帰ったところで一段落ついたのもつかの間、次に挙手をしたのは一子だった。血気盛んな一子は”転入生歓迎”の狼煙を上げる。

この学校での歓迎の意味。決闘の儀式のことで、一人が決闘の意志を伝え自分のワッペンを置く。そこに相手は了承の印として自分のワッペンを重ねる。これで個人同士は成立し、後は学長の許可を得るだけ。

 

「いいよワシの特権で了承する。今すぐやんなさい。」

「学長。いつの間に……」

 

どこからともなく神出鬼没な学長が現れ決闘の許可が下りる。決闘に武器を要する時は教室に飾ってあるレプリカを使う。一子は薙刀、気になる転入生はフェンシングのレイピアを使うようだ。

 

「皆で見届けるぞ。グラウンドへ移動しろ。」

「……………は?」

 

強制的に決闘を見なければいけないという雰囲気に龍は落胆する。何度目かのため息をついて教室の外へ出る。ただし、方向は違う。皆がグラウンドへ向かう中、一人階段を上へと昇る。今の時代馬で来るような転入生が現れても龍は無頓着。彼はそういう人間なのだ。

 

「今より第一グラウンドで、決闘が行われます。内容は武器有りの戦闘。見学希望者は第一グラウンド…」

 

緊急校内放送が流れる。決闘が行われるとなると、必ず流れる放送。この学園において決闘は見世物になるが、当人達の希望もあれば見学不可に出来る。窓からグラウンドを見下ろすと続々と見学者が集まっている。すぐに視線を戻し歩き、お気に入りの場所へ向かう。屋上で風を感じながら寝るのが彼の楽しみの一つ。今日は特に寝不足なので余計に楽しみにしている。そして屋上の扉を開け………

 

「あの金髪は綺麗なもんだよな。撫で撫でしたい。龍もそう思うだろ?」

「……………おい。」

 

学長も神出鬼没だが、その孫娘も同様。龍を肩上にうつ伏せで担ぎ上げ屋上からグラウンド、上から下へといつの間にか運んでいた。

 

「ピーチガールデリバリーでーす。椎名京さんお届け物でーす。」

「はぁい、ここでぇす♡」

 

百代と京が龍を捕獲する。こうなるともう逃れられないのでしばらくは動かないことにする龍。

 

「気配を殺しても私はかすかな気を感じ取ったぞ~、龍。」

「……………チッ。」

 

同じクラスの皆は欺けても、川神院の跡取り娘は欺けなかった。クラスメイト達が気付かなかったのは龍が気配を消していた為。そうすることによって、誰にも気づかれず教室から抜け出せる。昼休みにはそうやって抜け出して屋上で昼寝をしている。

 

「いざ尋常に、はじめいっ!!!!!!!!」

「あ、龍が帰って来てる…って、ね、寝ている…。」

 

大和が驚愕の表情で、有名な捕まった宇宙人の画像のように捕えられ、そのまま寝ている龍を見つめる。

 

「姉さん、起こさなくていいの?」

「いや、一度起こしたら睡眠について物凄く説教されて…怖かったにゃん…。」

「だからダーリンが自分で起きるのを待つの。」

 

 

 

◇◇◇

 

大きな木が一本あるだけの広い草原。龍は大きな木を背もたれにして寝ていた。目をこすりながらゆっくり起き上がる。目の前には二人の男女が立っている。龍はすぐにそれが誰だか気付き、急いで駆け出すも謎の見えない壁に遮られる。尻もちをついてしまいすぐに起き上がろうとするが、声をかけられそのまま聞いてしまう。

 

 

『龍。あなたはいつまでそうしているつもりなの…?』

『父さん……………?母さん……………?』

『龍、お前は優しい子だろ?どこに行ったんだ、昔のお前は…。』

『で、でも…俺、僕はもう……………。』

 

 

 

碌に言葉も交わせないまま目の前にいた男女はいつの間にか消え、残っているのは龍と草原と大きな木。言葉の意味もわからないまま…世界は崩壊する。

 

◇◇◇

 

「はっ……………。」

「起きた………ん?」

 

睡眠中の幻覚だとか、将来実現させたい事だとか、様々な解釈がある夢の世界。龍が起きると決闘はすでに終わっていて、一子は鉄心に何やら怒られていて、クリスは百代に腕を掴まれて捕まっている。クリスは龍に気づき、挨拶をする。

 

「そういえば同じクラスだったよな。宜し…」

「悪い、こいつとは後で会ってくれ。京、行くぞ。」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

百代と京は状況を察知して廊下まで龍を引っ張る。三人が向かう先は保健室。しかし、龍は腕を振りほどき一人で先を歩く。

 

「大丈夫か、龍?」

「……………なんでもない。」

「そんな青白い顔して言われても説得力ないぞ。」

「…とにかく大丈夫だから…京は一子に付添って…保健室に行け…。」

「で、でも…。」

「こうなった龍はてこでも動かないからなぁ。大丈夫だよ、京。こっちは任せろ。」

「う、うん…。」

 

京は何度も後ろを振り返りながら再びグラウンドへ戻る。

 

「今日は京にずっとついてろよ?」

「……………嫌だ。」

「全く…いい加減他人に誤解されるぞ?」

「大歓迎……………。」

「…さ、着いたぞ。じゃあ集会でな。」

「……………。」

「おーい!無視して行くなよぉー!」

 

騒がしい朝のホームルームがようやく終わった。

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