「こんにちは!」
「ククッ、ようこそ魔列車へ…。」
「お、オラ、まだ死んでねぇよ~!」
秘密基地にて。由紀江とクリスが遅れてやって来ると、京がとあるゲームネタを挟んで挨拶をする。ちなみに車掌役はコーヒー味のチューインガムを噛みながらソファーを丸々使って寝そべっている龍であり、仲間になる幽霊役は龍を膝枕しながら彼の髪をいじって遊んでいる百代と、龍の目が届くところに小説をかざして代わりにページをめくる京。友好的なアイテム屋役の大和は龍に団扇で風を送っている。
「京とモモ先輩はわかるが、何で大和まで?」
「説明しよう。この夏の暑さというものは人間をここまで堕落させるのだ…。」
「オラ、ものぐさトミーをノンフィクションで発見したぞ!目の前だ!」
「…大丈夫なのですか?お顔に表情が無いですけど。」
「表情が死んでいるのはいつものことだからな~。稽古の時間になれば復活するさ。」
二人の心配を掃うかのように百代は龍の髪で二本の角を作って「覇鬼!」と遊ぶ。だが、あまりにも龍の見てくれが酷いのと、予定がない六人は金柳街のゴストにまで涼むことに。
夏休み中の川神市民は皆同じような事を考えているようで、大勢の客が外の暑さから現実逃避していた。
数分待ってから男女六人が座れるテーブル席が用意された。入り口から離れた一番奥で、座ると壁が横に。ソファー席に奥から京、龍、百代。向かい側の椅子には奥からクリス、大和、由紀江。
「皆、ドリバーでいいだろ。京とかの分は取って来るからな。」
「それにしてもガクト達は何をしているのだ?」
「キャップは奄美大島で、他の二人は餌を求めに旅立ったんだよ。」
「ESA?」
「毎年この時期になると同じ場所で一人は薄い本を求め、もう一人は布が少ない衣装を着ているコスプレイヤーを求めているよ…しょーもない。」
京が男の性、特に何度振られてもめげずに告白する後者に溜息をつく。皆で欠席者の確認をして、百代が皆の分の飲み物を持ってきたところで改めて場が開かれる。
「で…だ。今日会ってから龍が言葉を発しているところを見ていないのだが。」
「もうそろそろ復活するはずだが。今から数えて猿がお手玉しているのを眺めるくらいの時間で。」
「ろ~でぃんぐ♪ろ~でぃんぐ♪オラ、長いの嫌だ♪ろ~でぃんぐ♪ろ~でぃんぐ♪オラ、短め希望♪」
「まぁ、どうしても喋ってほしいなら策があるけど。」
「耳元で” 頭が真っ白になってしまい…”とか囁いて繰り返してもらえばいいの?」
それもいいけど…。と返事をしてから大和は昔の思い出話を語り始める。今から六年前、つまり大和達が小学四年生で、風間ファミリーという組織がだいぶ出来上がってきて遂には同小学校の同級生などと広い原っぱの縄張り争いをするまでに至っていた頃。
幼き軍師の知能と岳人の力は広い原っぱを守る為には十二分すぎた。その為、卓也と一子という者達は何もしないで闘いを見守る日々が続いていた。
そんなある日、六年生との抗争が巻き起こるが、相変わらず大和の頭脳と岳人の力は上級生をも凌駕していた。闘いの様子が気になって表に出てしまった一子が人質になるまでは。
そして人質をとられてしまった大和達は成す術もなく袋叩きにされ、挙句の果てに最後まで歯向かった翔一においては、コンパスの針で耳たぶに穴が開けられてしまう始末。
初めての敗北を味わった風間ファミリーは改めて相手を分析する。こちらは四年、相手は自分達より体格が良い六年生。こちらは五人、相手はそれ以上。今のままでは不利である。
そこで用心棒を雇うことになり、白羽の矢が立ったのは武術の寺・川神院の一人娘。たった一人ではあるが、体格差、人数差を埋めるには十二分である。ただ、誰も面識もないのだが、同じ小学校の五年生でもある少女に接触するのはやはり参謀である直江大和であった。
二つ返事で仲間になってもらえるように、大和は百代についてのリサーチを重ねに重ね、数日後野球のキラカードを片手に川神院をようやく訪れ…
「……………!」
「ム?これが策か?」
「うん、そうだよ。幼少期をちょっとだけ暴露するのさ。」
「私、龍さんの幼少期…気になります!」
「私が出会う前の龍の過去は貴重な栄養源…。」
「大和、コイツは抑えているし…これくらいは大丈夫だ。」
…数日後野球のキラカードを片手に川神院をようやく訪れた直江大和は、門の前を箒で掃いている修行僧に話を通す。暫くして少女一人がこちらに向かって歩いてくる。
後の武神とは誰も思うまい。いや少なくとも川神院の面々だけが思っていたかもしれない。とにかくそんな事を微塵も感じさせない凛とした少女がファミリー参謀と対面する。自慢の黒髪はまだ肩までの長さしかない。そのせいか分からないが大和はすぐに異変に気付く。
百代の後ろ。自分より小柄な少女がいるという異変。その少女は百代の服を必死に掴み、突然の来訪者を非常に警戒している。彼女の事は大和にとっても予想外である。
髪は短くボーイッシュという感じであろうか。青い半袖Tシャツから見えるか細い腕。女性なので日焼けも気にしているのだろう、肌がとても白い。
「こいつの事は気にするな。それより何の用だ。」
「実はかくかくしかじかで。」
「ふぅん。話は分かったぞ、面白そうだな。」
川神院の兄弟子たちの良い様に使われ非常にストレスが溜まり、実の娘でも贔屓無しの厳しい修行が続くことに戦闘衝動も溜まっている。
そこで百代は交換条件として舎弟を求めた。自分の良い様に使える弟分。この時の大和はただ一時の契約だと思って簡単に結んでしまう。よもや六年経った今でも弟分とは。
力強い指切りを済ませ、百代は受け取ったキラカードを後ろに隠れている少女に渡す。
「見てみろ龍。お前の欲しがっていたキラカードだぞ。」
「わぁい!谷口、丸井、五十嵐、近藤、四人揃ってる!」
「ん?龍?男?」
野球のキラカードを手にして飛び跳ねて喜ぶ”少女”は、百代の話によるとれっきとした”少年”だという。ようやく前に出てきたことでわかるその顔はいわゆる女顔であり、さらに声質も高く初見では誰でも必ず間違えてしまうであろう。
実際に大和少年も、一緒に裸の付き合いをして”何か”がついているのを確認してようやく男だと百パーセント確信した。
「喋るどころか、悶えていて一言も発していないのだが…。」
「あれ、おかしいな。”性別:加藤龍”の時期の貴重な話だからもっと怒るかと思ったけど。」
「そんなに可愛いとは…当時の写真とか無いんですか?」
「あー………家に来れば、当時のアルバムがあるぞ。」
「ちょっと川神院行ってくる。」
「戦闘機用意―!」
それから。用心棒はたった一人で上級生十一人を倒した。…全員をたった二秒で。一子を人質にとったことと、翔一の耳に穴を開けた六年生は決着後のお仕置きを受けた。
その後、風間ファミリーの居心地が良いと百代は正式に仲間として加入する。そして、百代の後ろに隠れている龍少年もなし崩し的にファミリーに加入するのだが…。
「僕は師岡卓也。宜しくね。」
「う……あ……。」
「俺様は島津岳人、宜しくな。」
「お……ぉ……。」
未だに人見知りの彼は突然友達が五人増えた事に戸惑いを隠せずにいた。なので前より百代の後ろに隠れる事が増えてしまった。後日、大和は百代に呼び出された。後ろに隠れている少年抜きに一対一で話をした。内容は勿論龍少年のことである。
要はひとまずのファミリー内での人見知りをその頭脳で何とかしてくれないか、と。川神院の面々とは流石に打ち解けたのだが、根本的問題はまだ解決していなかった。
翌日、約束通り川神院を訪れた大和は百代立会いの下、龍と対面していた。冬に使う百代専用の炬燵。いわゆる一人用炬燵から布団を剥いだ机を借りて人見知りを解こうとする。
「まずは…お近づきのしるしに。」
「ッ…!本田、佐藤、眉村、ギブソン…。」
「気に入ったか?」
「………江頭はいらない。」
まずは野球のキラカードを渡してこちらに少しは興味を持ってもらうという作戦。だが、眼鏡をかけた邪神を持つマネージャーのカードのせいで不機嫌になってしまう。
これは予想外だったので、急いで次の作戦に移る。大和は懐からトランプを取り出して、よくシャッフルする。そして炬燵テーブルに全て裏向きにして扇状に広げる。
「好きなカードを一枚選んで何も言わずに覚えて。」
「龍、私にも見せてみろ。」
二人によくカードを覚えてもらった後、それを広げてあるカードの一番下に置いてもらい、再びよくシャッフルする。今度は表向きにして1枚ずつめくっていく。
ある程度めくったところで、大和は一枚のカードを指差しピタリと当てる。
「龍が選んだカードは…これだな。」
「…! あってる…。」
次に、封筒と百円玉を机に置く。百円玉に水性ペンで文字を書いてもらい、自身でその百円玉を封筒に入れて封をしてもらう。大和が呪文を唱えて封筒に念を送る。
「百円玉は消えたよ。封筒を開けてみな。」
「ん………あれ?」
「俺の右手に注目。ほら、瞬間移動。」
「おお?」
次に一枚の紙を取り出す。百代にA4サイズの紙を丁度半分に切り取ってもらい龍と大和にそれぞれに配ってもらう。大和は何か考える素振りをしてから、思いついたように数字を書いてそれを二つ折りにして百代に預ける。
「俺に見えないように、それに数字を書いて。」
「うん…。」
「書いたら、それを二倍して、二倍した数に十を足して、十を足した数を二で割る。さらに、その数から一番初めに書いた数を引く。そうすると何になる?」
「五だけど…。」
「やっぱり五か。お前は俺の思うように動かせるのだ…。フフッ、では姉さんに預けた紙を見てみよう。」
大和の指示で百代が持っていた二つ折りの紙を、二人に見せるように開く。そこにはやはり5と書かれており、龍は大層驚く。それを見て大和は最後の仕上げにかかる。
大きな段ボールと、懐から四色の玉を取り出す。青、緑、黒、そして赤。それらを順に箱の中に入れていく。
「好きな球を選んで取り出していいよ。でも龍は俺の言いなりになってしまうから、どうやっても赤を選んでしまうけどね。」
「龍の好きな色の球を取りだすんだ。」
「じゃあ、青を…。」
龍は青色の球を取り出そうとして、箱の中に手を突っ込みガサゴソと探ってみるが、大和の言う様に赤色の球しか出てこない。青以外の色の球も出そうとするが、出てくるはずもなく。
「おおお!?」
「どうだ、凄いだろ?」
「凄い、凄い!」
こうして大和に興味を持った龍は、それから子犬のように懐き、しばらくは大和の手品に魅了され続けた。魅了され彼自身も手品を覚える。
子供の特性として、覚えた事はすぐに色んな人に披露したがるようで、川神院の修行僧達、総代、師範代、そして跡取り娘、大和に披露し、成り行きではあるが一子、岳人、卓也、翔一にも覚えたばかりの手品を披露して褒められたのちに仲良くなった。
「こうして龍は皆と打ち解けたのであった。チャンチャン。」
「龍は昔からチョロいのさ~よしよし。」
「かなり可愛いですね…。」
「喋るどころか、ワナワナ震えているのだが!」
「…………俺もバラしてやる…。」
「あ、喋った。」
龍が皆と仲良くなったその後の話である。大和の家に呼ばれた龍は今日も手品の練習をしていた。トランプマジック、コインマジックなど。
練習している内にふと思う。大和はどのくらい練習したのか、と。何日、何週間、何か月練習すれば完璧に披露できるのか。
「俺は選ばれし者なのだ。」
「おう?」
「練習したとかしていないとかではない、生まれ持っての才能さ…。」
「お、おー…。」
別の日。金柳街で遊んだついでにイタリア商店街に寄ったところ、龍達は風船を貰った。風船には丁寧にライブの日程などが名入れしてあり、すぐそこのライブハウスで今度開催されるという。小学生の龍達にはただ持つだけで宣伝になるとアイドル姿のメガネの女性は未成年の龍達にも笑顔で渡してくれた。出演者自ら宣伝しているようで他にも二、三人配っている。
「ライブかぁ。僕達だけじゃ行けないねぇ。」
「気にするな。時代はクラシックだよ。七フィルがお薦めだ。」
「んー、自分にはクラシックはわからないや。」
「フッ、まだ子供だな。」
また別の日。雲一つない快晴ということで、今日は多馬川下流でキャッチボールをして遊んでいた。野球はいろんなアニメを見て知った龍が誘う形で。龍が気分を高める意味で「ジャイロボール!」と叫んで投げようとすると、血相を変えた大和が突進してきた。
「龍、伏せろ!」
「な、何?」
「ずっと先にあるビルの屋上で、銃口らしき物が光ったんだ…。」
「日の光が反射しただけじゃ…」
「いや、組織が俺達を狙っているに違いない、急げ、ここを離れるぞ!」
中二病。本来であればその名の通り中学二年生辺りで発症してしまう病気の一種。だが早くから太宰治にかぶれていた直江大和少年は非常に変な小学生であった。
そういう病気にはいつか終わりが来るものであって、大和少年の場合は翔一が出会った小学一年生当時から小学五年生まで。今では黒歴史として心に刻まれている。
たまに仲間内でこの昔の言動の数々を話題に出されると、当人はのたうち回って恥ずかしがる。今もファミレスで頭を抱えて先程の龍のように震えて一言。
「ダレカタスケテー!!」
「チョットマッテテー。」
全員が笑う中、馬のストラップだけが返事をする悲しい状況。精神的攻撃が効いているのを見てまた別の黒歴史を暴露しようとすると、店内に聞き覚えのある元気な声が響く。
「皆、お待たせー!」
「ワン子、ナイスタイミング!!」
自主鍛錬で集まりに遅れていた川神一子が丁度良いタイミングでやって来たことで、大和少年の黒歴史掘り起こしは中折れで終わり、大和によって話題は一子の過去話にすり替わる。