睡眠に多く充てる事が出来るこの日曜日。相も変わらず加藤龍は深い眠りについている。もう時刻は夕方を回ろうとしている。彼の携帯は四六時中マナーモードに設定されているので着信があってもかすかに揺れる。揺れがしばらく続くも一旦止まる。そしてもう一度揺れる。今度は揺れるだけではなく、音が鳴る。音楽というか音声が聞こえてくる。その音声に驚き目を開ける。そして携帯を手に取り通話をする。
「あ、やっぱり起きた。」
「……………なんだこの音声。」
「龍が寝ている間に吹き込んだの。」
「……………おい。」
「それより、寮の一年生が昨日の御礼で晩御飯作ってくれてるんだけど、来る?」
「……………行かない。」
「グスン…そんなぁ…グスン…来てくれないの…?」
「行く……………。」
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電話を切って携帯を切って誇らしげに皆に告げる。
「ククッ、龍も来るってさ。」
「今時、京の嘘泣きに騙されるのは龍ぐらいだよな…。」
龍の事をあまり知らないクリスティアーネ・フリードリヒと黛由紀江以外の直江大和、椎名京、風間翔一は呆れるような微笑ましいようなそんな感情を胸に抱いていた。
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島津寮居間に風間ファミリーが集結する。余談ではあるが、川神百代はスキップ、川神一子はうさぎ跳びでやって来た。
「……………。」
「お、お口にあえば良いのですが…」
「肉のお返しとは粋な真似を。有難く食べるぞ。」
「なんか料亭の出し物みたいだね、見た目がすごい」
「こりゃあ味も期待できるってもんだぜ。食おう!」
「いただきまーす!!」
師岡卓也が言うように本当にまるで高級料亭の出し物のようだった。鯛の刺身の花造り、春菜の粕漬け、蕗のとうの湯葉包み揚げなど豪華だった。
これも北陸・石川県出身の由紀江によるおもてなしで、由紀江の父親から送られてきた豊富な海産物、農産物は皆のお腹と心を満たしに満たし尽くし、由紀江の計画の一つは成功した。
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「…すぅーはー…よし、言います!お願いします!!!私も、私も皆さんの仲間に入れてください!皆さんと一緒に遊びたいんです!あの、私、ずっと地元で友達いなくて……それで……それで……今度こそ友達をって思ってこっちに出てきて……それでも作れなくてそこで、皆さんがとても楽しそうにしていて……私も、仲間に入れたらどんなに楽しいだろうって。だからお願いします、仲間に入れてください!!私、食事作れます!掃除も自身あります!体力も人並にはあります!だから……だか……ら……私を……仲間にはいれてはくださいませんかっ!!!」
翔一が決意の目をしていた由紀江に声をかけたら、由紀江はいきなり頭を下げて自分の言いたい事を一気に捲くし立てた。とてつもない勢いの文章量だったが、どういう境遇でこれまで生きてきたか、そして真剣な想いがひしひしと伝わってきたので風間ファミリーは目だけで会議を始める。
「(どうするの?)」
「(入れてやれば?)」
「(私は反対。)」
「(……………ああ。)」
「(とりあえずここは俺に任せてくれ)」
「(ま、顔を立ててやるよ。)」
相変わらず賛成派と反対派が分かれるので、翔一がファミリーのリーダーとして行動を起こす。
「今のままじゃ仲間には入れられない。仲間ってのは基本的に対等なもんだろ?そんな土下座みたいな真似して、”何でもするから入れて!”とかで入るもんじゃないよな。普通に、面白そうだから入れて、でいいぜ。」
「お、面白そうだから私も入れてください!!」
「断る」
「はぁぁぁうっ!?」
翔一の言葉に今までの境遇からか冗談が通じ無さそうな由紀江はその場で倒れてしまった。
倒れた由紀江を見て、龍は翔一に蹴りを入れる。
「……………いじめるな。」
「ごめん、冗談だよ冗談。これから一緒に遊ぼう。」
「だ、大丈夫です。わずかに意識が飛んでいただけ」
「ま、何事も無ければそれで何より。」
「言葉だけで長時間気絶するほど腑抜けではないな。」
「で、では、その…私も仲間で…………いいのですね。」
「ああ!いいぜ!」
今度は悪い冗談を受けたからではなく、心の底から嬉し泣きをする由紀江。京と龍も納得の上でしばらく遊んで違うと思ったら顔見知りに戻るという、クリス加入の時と同じ条件で仲間入りすることになった。
「私は幸せです、松風…。」
「良かったな~、歴史に残る瞬間だったな。」
「その携帯ストラップと会話してるようだが、何なのだ?」
「松風、ご挨拶を。しっかりと。しなやかに。」
「オッス。オラ松風。まゆっちの友達だぞ。」
由紀江の父が作った携帯ストラップ。その名は松風。友達が出来て携帯を買った時に役目は未だに果たせていない。そして一人で部屋にいる時に話し相手が欲しくて話しかけていると、ある日返事をしてくれて、それから今に至る…という”設定”だという事を由紀江以外の皆が察した。そこからあだ名が”まゆっち”に決まり、”まゆまゆ”と呼ぶのが約一名。
「まゆまゆ相当強いだろう?そこが気に入った。軽ーくパンチ連打で攻撃するから避けてみろ?」
「エッ?」
百代による拳の連打が問答無用で降り注ぐ。それを焦ってはいたが、全てを避けた由紀江に称賛の声が上がる。
「まゆまゆはクリよりかは、やや弱いって感じかな。(――今の状態での感想だがな。誰かさんがさっさと発展途上してくれれば順位は変わるだろうになぁ。)」
さらに話を聞くと、黛由紀江は国から帯剣許可を貰えた剣聖・黛十一段の娘だということがわかる。男性陣はまた腕っ節が強い女性が入ってしまったと若干動揺する。
「よし、まゆまゆに私達が自己紹介だ。川神百代三年、武器は拳一つ。好きな言葉は誠。」
「川神一子二年、武器は薙刀、勇気の勇の字が好き。」
「二年クリスだ。武器はレイピア。義を重んじる。」
「椎名京二年弓道を少々。好きな言葉は仁…女は愛。」
「一年黛由紀江です。刀を使います。礼を尊びます。」
「んで、あのバンダナがキャップ。リーダーだな。馬鹿そうなのがガクト、面倒見はいい。根暗そうなのがモロロ、優しくはある。私の弟分、大和、頭は回る。」
「狩矢荘助、一年…」
「二年加藤龍、暗くて今みたいに意味がわからん所はあるが、慣れればまぁ…可愛い奴だ。」
また偽名を名乗る龍を抑えて百代が代わりに紹介する。
「女の子が強い時代だよなー。男の立場がないぞぅ。」
「あいや待たれい。情けないぞ諸侯!!」
「俺様の筋肉を活かすのか?」
「いや、流石の岳人でも五対一は厳しいだろう。でも男だってそう簡単に負けちゃいらねぇや。誰もが勇気を忘れちゃいけないんだぜ。」
「私達女子を調子に乗らせるなと言いたいのか?」
「そこで現在発展途上中の龍、君に決めた!五対一頑張れ!」
「……………は?」
大和が龍を前に押し出し、それを引きずりこむ百代によって女子の輪の中心に。
「彼は武道をかじってるから、一対五なんて
「ほう、それは是非手合わせ願いたいな。」
「……………一対五。」
「独り占めしたいけど…ダーリンが一対五を望むなら…ああ、でも…キャッ、恥ずかしい!」
一人違う方向に持っていこうとしているので全力で止める一同…かと思いきや京と百代はそういう話題に明るいのでそういう方向に進みそうにある。
「お前ら……………。」
「じゃあな。頑張れ……耐えてくれ。」
「俺様も男としてのプライドを失いたくないからな。」
「さようなら。」
「押して悪かった、達者でな!」
男性陣は去っていった。龍は椅子に座らされ、そこを女性陣五人が取り囲む。
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「あのままでは龍が男の尊厳を破壊されてしまう。」
「助けようよ。そうしないと根に持ちそうだし。」
「異議なし。俺様の力がようやく発揮されるな。」
「というか助けないと、後で絶対一人十~二十行分ぐらい説教されるし。あくまでこっちの話だけど。」
「よし、作戦はこうだ。まずガクトが…」
「口で言う時間も無いだろうし…メールで書いておくか。」
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「椎名京の三分クッキング~。まず服を脱がせます。」
「はわわわわわっ!?」
黒Tシャツ一枚をいとも簡単に脱がされる。
「……………何してんだ。」
「これあれじゃね、細マッチョとかいうやつじゃね?」
「そ、そうですね、松風。す、素晴らしいです。」
「た、確かに見事だ。と、というか意外だな。」
「お、腹筋割れたのか。フフ、今後が楽しみだ。」
「椎名京!一番槍、貰い受けるっ!」
「…フッそう来たか。それじゃあ私は表で待ってよう。」
と、その刹那、とても大きい衝撃音と、煙が辺りに充満する。
「!? な、何事ですか?」
「こ、これはキャップお手製の煙幕!?」
「!? 敵襲」
「侵入者を迎え撃つ!男子の挑戦だ!」
作戦その一、煙幕を使って部屋に侵入。
「手応えアリ! 倒れない? もう一撃!」
「ヌ、気配が一つ部屋から遠ざかる?」
「手応えあり…というか弱い。」
「何だかこっちも弱い感じがするわね~。」
作戦その二、とにかく攻撃を耐えて相手の気を惹く。その隙に逃げる。
由紀江が開けた窓で、煙が晴れてようやく誰が誰だかわかる。
「私が仕留めたのはモロか。」
「こちらにはキャップさんが倒れてますね。」
「こっちはガクトだった。声でわかったが。」
「これは大和ね。えいえい…ってことはやっぱり逃げたのは龍なのね。逃がさないわ!」
一子が逃げた龍を追いかける。
「龍はあれで中々やるから、もしかしたら負けるかも。」
「行くか。」
「倒れている皆さんどうしましょう。」
「放置で。」
「は、はい…あれ?」
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「さーて、龍!逃げるのはおしまいだよ!ってアレ?」
「じゃーん。逃げてるのは俺でした。」
「倒れていたはずのキャップが何故……!はっ!」
「龍は忍びの技を使えるのか…。」
「や、全然違うから。バンダナ巻いて倒れてたのが龍なの。」
作戦その三。男性陣が気を惹いてくれている間に、衣服を交換し敵を欺き、脱出。
「……………ハァ。」
「言ったろ?お前が気配を消していても私なら感じ取れるって。」
沢山の犠牲を払って外に出ると、後ろから肩を抱かれ、耳に息を吹きかけられる。
「……………やる気か。」
「もう夜も遅いから今日は駄目だ、落ち着け。」
戦闘態勢の龍をさらに抑える百代。そして星降る夜空を見上げる。
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「あれれ、バンダナしてるけど…龍さん?」
「……………ああ。」
右手にこっそり携帯を持って立ちあがる。
「……………帰る。」
「あ、でも、それじゃあ皆さんが…。」
気付かれないように携帯を見ながら答える。
「……………俺達は仲間だ。」
「はぁぁあう!?」
「……仲間が願う……俺は帰る…。」
「はい、どうぞ、お逃げください…。」
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「どうせ舎弟の入れ知恵だろ?」
「……………ああ。」
そう言って携帯を開き、受信メール欄を見せる。一番上の受信メールには、
「①煙幕が部屋中に充満している内に、服とバンダナをキャップと交換して、床に倒れる。②服を交換したキャップが代わりに逃げてワン子達の気を惹く。
③ワン子は絶対に追いかけるし、京も当然追いかけるし、クリスやまゆっちに龍が意外と強いから危ない事を絶対に話すと思う。
④それを聞いてクリスが一緒に追いかけないはずはない。
⑤まゆっちは一番後輩で遠慮して追いかけず、倒れている皆を心配し部屋にいると思う。⑥十中八九気付かれると思うから、その時は「俺達は仲間じゃないか。」とか言って逃げろ。⑦P.S. これでチャラにして下さい、ごめんなさい。もうしません。」
「舎弟め…後で叱ってやる。」
「……………。」
「ユニークな新人が二人も加入したし、これから先もっと面白くなるといいなぁ。」
「……………そうは思わない。」
「全く…少しは現実を受け止めろ。」
百代は夜空を見上げながら呟き、龍の頭を優しく撫でた。