ゴールデンウィーク。祝日が続き、休みが重なる期間の事をそう呼ぶ。連続で休みの日が続くのでほとんどの人間が一番好きな祝日だろう。
何十時間もの睡眠時間がとれるということから、加藤龍もゴールデンウィークを気に入っている。今日も集合時間いっぱいの昼まで寝ていた。遅刻はしなかったものの、駅での集合には一番後だった。
川神から箱根湯本までは電車で一時間三十分弱。特急踊り漢という電車一本で箱根まで連れてってくれる。風間ファミリー現在十人。特急踊り漢は四人座席で、四掛ける二で八。二人が別になってしまうのだが、そこは誰にでも友好的な川神百代のなせる業で何とかなっている。
「こういう出会いがあるから旅は面白い!」
「そうね、旅は最高!」
「……………。」
「この子さっきから無口だけど可愛いー!」
百代はともかくとして龍は困っていた。知らない大学生二人組と会席になったせいで。さっきから何を言われても返答できない状況である。要は初めて会う大学生と波長が合わずに困っている。何も言えないせいで肌が綺麗という理由で勝手に頬を突かれたり、勝手に焼売を口に運ばれたりと混乱している。
目的地に着き、ようやく京に回収されてバスに乗り込む。一子とクリスは山の上の旅館まで車で三十分の山道を走って競争することになった。
「十人で一部屋かぁ。大きい部屋だね。」
「株が一円…買い占めろ…。」
「つーかキャップ、いつまで寝てんだろ…。」
「代理で私が仕切る!温泉は二十四時間入り放題!夕飯までには時間が余っているから好きに行動しろ。」
九鬼財閥傘下の旅館らしく、掃除がきちんと行き届いているのでどこもかしこも綺麗である。電車の時点から寝ている翔一の代わりにファミリー最年長の百代が仕切り、夕飯までは自由行動となった。龍といえばすぐに部屋に行き、椅子に腰掛けて先程の女子大学生との交流での疲れを癒していた。翔一は床でまだ寝ているので放置している。向かいの席には京が座り一緒に芦ノ湖を眺めていた。先ほどの愚痴をこぼしながら夕飯の時間まで彼なりにまったりと過ごした。
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夕食も終わり、男衆全員で温泉に入っていた。龍は風呂についても五月蠅いので、一人念入りに頭と体を洗っており、他四人が先に湯船に入っている。
「ふぅ……いい湯だね。温泉いいなぁ~。」
「ああ。たまにはこういうのもいいなぁ。」
「見ろ、貴様等!俺様の筋肉美!!そしてそのまま目線を下に向けろ!俺様のジュニアは銃でいう所のバズーカだな!」
銭湯でゆっくりするかと思ったら、すぐに男達の”息子”自慢になった。卓也はその手の話が苦手なので端に逃げている。
「キャップは銃でいうと、連射性能があるマシンガンか。」
「男同士でいちいち隠す必要もないだろ。」
「そういうてめぇの愚息はどーなんだ、大和。」
「俺はマグナムだな。重い一発をズドンと。」
銃の品評会が行われている中、ようやくやって来た龍が湯船でかけ湯をしていると、彼の腹筋を見て一同が騒ぐ。
「おい龍、なんだその体。」
「俺様と一緒にジム行っていたからな。こいつは腹筋中心で辞めたがな。」
「うわ、六つに割れてるよ!」
「……………?」
湯船につかる為に下を抑えていたタオルを取ると、さらに騒がしくなる。
「銃に例えると…パイツァーツェリスカ?」
「なっ!?俺様より…クッ、モロ、それどんなやつなんだ?」
「世界最強の拳銃だったよね…。何かのゲームに出てたよ。」
「とにかくそれだけ凄いってことだな。」
「……………?」
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「流石ダーリン…いい物をお持ちで…ククク。」
「ほほう…世界最強か。フッ、面白い…。」
男湯の向こうで動く影。五人はいるが二人は前に、三人はその後ろに。風間ファミリー女性群。覗くと対象者以外が見えるということで、百代と京は聞き耳を立てているだけに留めている。一子とクリスと由紀江は覗きが終わるのを待っている。
聞き耳を立てられているとは露知らず、男二名を除き下種な計画が立てられようとしていた。覗きに全く興味が無い龍と翔一は聞く耳を持たずに湯船でゆっくりしている。
「大和!俺様は明日覗きがしたいぞ!」
「明日から女子校生のラクロスチームが泊まりにいくみたい。」
「よし、覗くぞ!」
「……………いい湯だ。」
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旅行二日目。昨日と同じく今日も旅行日和の天気である。やはり女性は用意に時間がかかるもので、男性はロビーでパズルをして待っている。二番目に解いたのは大和、三番目に解いたのは翔一。一番初めに解いたのは龍である。卓也と岳人は未だ解けずに唸っている。
「ガクトとモロが解けていない間に釣りの手続きをしてこよう。」
「龍はやっぱり本の影響で一番か?」
「……………ああ。」
実は龍にも趣味がある。読書。本を読む事。特にミステリーが。というかミステリーしか読んでいない。幼少期からその世界にのめり込み今に至る。そのおかげで彼はそちらの方面には明るく一番に解けた。二人がパズルをまだ解けずに苦悩していると、女子達がようやく着替え終わり、そのまま皆で釣りへと赴くのであった。
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山の中。川釣りをすることになり、翔一は釣竿につける餌をまさかの岩の下から調達して、いきなりヤマメを釣り上げた。流石の野性児である。大見得を切った岳人は自分の釣り糸が百代の釣り糸に絡んで吹っ飛ばされている。大和はクリスと由紀江の釣竿に餌を付け終わり、必死に三匹釣り始める。
「こら、本読むな。」
「……………嫌いになったか?」
「な・ら・な・い。どうせ理由があるんだろ。」
「……………魚から針を外すのが苦手だ。」
「プッ…まぁキリの良い所で読むのをやめて、お前も修行に来いよ。」
吹き出した百代を睨むが、京と一子を連れて修行に行ってしまう。
再び体育座りで本を読み続けるが、たまたま龍の近くにいたクリスが嬉しそうに話しかけてきた。
「見てくれ、龍!私でも釣れたぞ!」
「……………小さいな。」
「た、確かに少し小さいが…」
「……………もっと大きいのを釣ってから自慢しろ。」
「ムッ、それもそうだな…。」
少し寂しそうに釣りに戻るクリス。そして今度は由紀江が話しかけてくる。
「見てください、龍さん!私も釣れました!」
「流石まゆっちー!たかが釣り、されど釣りだぜ!見てろよー龍!もうすぐシーラカンスも釣っちゃうぜぇ!」
「……………ハァ。」
相変わらず松風の高いテンションにはついていけない龍は、もっと静かに本が読みたくなり、どうせならと山の中へ入って行く。
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太くて立派な木を選んで、腰をかける。その安定性に落ち着き、たくさんの木々に囲まれ、木漏れ日が素晴らしい照明になり、小鳥のさえずりと葉っぱが風に揺れる音が素晴らしいバック・グラウンド・ミュージックとなりこれ以上は無い素晴らしい環境で本を読む。そこに近づく一つの気配。顔をあげると、長い髪が赤一色に染まっており、左目に黒い眼帯、長身に迷彩服の外国人が立っている異様な光景が目に映る。頭の中で現状の把握が出来ていないでただ目の前の人物を見つめていると、突然辛辣な言葉が降りかかってきた。
「貴方は一体何なのですか?」