真剣にみんなに恋しなさい!   作:Y2D

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第八話:旅をすることは生きること 中編

出会っていきなり難癖をつけられてしまう。確かに普段からそういう態度をとってはいるが、初対面の人間に噛み付かれる程に悪態の限りを尽くしてはいない。

 

「聞こえているのですか?答えなさい。貴方は一体何なのですか?」

 

同じ質問を繰り返される。ただ状況が把握できないだけで、ちゃんと聞こえてはいる。

 

「……………何がだ。」

「貴方、お嬢様を悲しませるとはどういうおつもりなのですか?」

「……………?」

「ダンマリを通すおつもりですか?それならこちらにも考えがあります。」

 

そう言うと、迷彩服の女は戦闘態勢に入る。こちらも本を置いて同じ体勢に入る。

 

「申し訳ございませんが、中将殿のご命令なので。覚悟!」

 

稲妻のように襲いかかってくる迷彩服の女。いきなり鋭い飛び蹴りが放たれるが、即座に後ろに下がって攻撃を避けることに成功し、その勢いで相手の足元を刈り取るかのような一撃を繰り出すが、軽く跳んで避けられる。すぐさま胸に蹴りを入れられそうになるが、避けた勢いで壁蹴りの要領で木の幹を蹴って飛び上がり殴りかかる。軽くいなされ投げ飛ばされるが、きちんと着地をしてダメージを無効化する。相手の力量がだいたいわかったところで考えを変えて、素早く体当たりを仕掛けて物凄い勢いで木の幹に叩き付ける。

 

「ハッ、力任せではありますが、認めてあげてもいいでしょう。見かけによらずやりますね。」

 

そう言うと迷彩服の女は、自分に突っ込んだままで無防備な龍の背中に振り下ろした腕を叩き付けようとするが、そんなことは彼には想定済みでしゃがみながら二、三歩下がって、相手の腹に容赦なく膝を入れる。そして、正面から相手の首に腕を回し、足をかけて後ろに倒れ、顔面と胸部を地面に叩き付ける。

 

「すみません…戦闘なので…あなたは女性でいらっしゃいますが…容赦なく…やらせて頂きました…。」

「……Hasen」

「……………?」

「Jagd!」

 

相手の雰囲気が変わる。ゆっくりと起き上がる迷彩服の女に再度警戒を強める。相手は龍のように突進を仕掛けてきた。相手の顎に向けて足を放つが、何か硬い棒でのような感触に防がれる。

トンファー…大人の腕より一回りほど大きくした棒の片方の端近くに、垂直になるように短い棒(握り)を取り付けたもの。基本的に二本一組で、左右の手に持って扱う。

硬い棒の正体はいわゆるソレだった。それによって伸ばした足は止められてしまう。もう一つのトンファーはこちらが防ぎ一瞬隙を作ってしまう。そこをトンファーの乱撃が襲ってくる。先程とは違った速さで右、左と隙のない連撃。ただただ防御するしか手が無い。

 

「トンファーキック!」

「カハッ!」

 

トンファーに気を取られていた龍は突然の腹への一撃に怯んでしまう。そこからはトンファーの乱撃にやられてしまう。先程とは主客転倒してしまい防御一辺倒になってしまう。そこに現れるもう一つの影。

 

「何してるんだお前。私の好敵手に対して。」

「!? 私の背後をとるとは!」

 

女の背後をとったのは闘気を感じてやって来た百代。別の場所で修行していた京、一子。森の奥に人影を見た大和もやってくる。

 

「勝負中か?襲われてるのか?後者なら譲れ。」

「……………譲らない。」

 

お互い初対面であろう目の前の人を争って龍と百代が言い合いしていると、騒ぎを聞きつけたクリスがやって来る。

 

「何の騒ぎだ?……あ。」

「クリスお嬢様。」

「マルさん。」

 

クリスが現れた途端、マルさんと呼ばれた女声が殺気を収めたので、獲物を争っていた二人は意気消沈する。そこにもう一人軍服を着た初老の男性が現れる。

 

「少尉、事は済んだのかね?」

「父様!」

「クリス、我が娘。今日も美しい……。」

 

そこからは親子の会話が繰り広げられる。友達同士で泊まりがけ旅行すると娘から電話で聞いた父親は、自分の軍に所属する部下の内三十人を率いて様子を見に来たという突っ込みどころ満載の話が聞こえてくる。

 

「少尉から報告を受けたよ。クリスを悲しませた者がいると。」

「私が悲しんだ?」

「君。魚釣りをしていたクリスを貶したそうだね。」

 

指をさされる龍。クリスが釣った魚を小さいと貶した事について怒っているらしい。双眼鏡でクリスの様子を見ていた迷彩服の女が父親に報告をして発覚した。先程の襲撃は怒った父親の命令による静粛だったようだ。それを聞いて慌ててクリスが修正をする。

 

「父様!私は大丈夫です!さっきより大きな魚も釣れましたし、それに龍は大事な友達です。あまりそういう事は…。」

「クリスがそう言うなら…。すまなかったな、少年。」

「はぁ……………。」

 

とりあえず返事をして場を収める。

 

「紹介しよう。部下のマルギッテ少尉だ。」

「マルギッテ・エーベルバッハです。覚えなさい。」

 

迷彩服の女がようやく紹介される。フリードリヒ家の人間ではないようだが、軍の一員ではあるようだ。

 

新たな火種が無意識に放たれる。

 

「娘が大好きな父親か。彼氏とか出来たらそいつ苦労しそうだな……ははは。」

「愛しい娘に彼氏が!?ふざけるなぁ!!!!」

 

そう言うとクリスの父親は大和に銃を突きつけた。

 

「不穏当な発言はやめてもらおう少年。私が穏和でなかったら発砲していたぞ。」

「……………おいやめろ。」

 

原始的な方法ではあるが、両手を広げて当人同士の間に入る。龍が間に入らなくとも穏和な性格のおかげで拳銃はすぐに仕舞われる。そして、また過剰な親の心配によりマルギッテが二年S組に転入することが伝達される。ファミリー一同は突っ込み疲れて何も言えずにいる。

 

「それより森の中にいるお前の部下を十人程撫でといた。ちゃんと回収しておけよ。」

「なんだと。私が誇る精兵達をか?マルギッテ!確認しろ!」

「……連絡不能。制圧されてますね。」

 

百代が十数人を軽く挑発して、そして軽く往なしてしまったようで連絡が不通になったようだ。兎にも角にも撤収の時間となったようでマルギッテ達は帰っていく。

 

「龍、父様とマルさんが済まないことをしてしまった。私からも謝罪する。」

「……………別に。」

「ダーリン、怪我はない?大丈夫?」

「大丈夫だ……………ダーリンじゃない。」

「大丈夫なら私みたいに気配消して相手の背後をとってみろよぉ。」

「……………チッ。」

「龍、俺を守ってくれて有難う。」

「……………拳銃と戦ってみたかっただけだ。」

 

一遍にいろいろ言われ、様々な返しをする。最後の回答に至っては鵜呑みにする者は誰もいなかった。

そして平穏が戻ったところで釣りが再開される。翔一はいきなり二十センチの魚を釣り上げ、川下へと駆けていく。京と一子と卓也と岳人は普通に釣りをしている。京は釣れる度、龍にアピールをしてくるが当人は読書に夢中である。がしかし、背中に水をかけられ龍は後ろを振り返る。川岸に座る百代が水につけた素足を蹴っているのがわかる。

 

「ハッハッハ!私の綺麗な足指からの水だぞ!有難く受け取れ!」

「……………うざい。」

 

飛んでくる水を腕で跳ね返していると、クリスと大和が喧嘩をしている声が聞こえてくる。前々から起きていたいざこざがここにきて爆発したようだ。そして流れで決闘をすることになった。ファミリーの階層秩序が高い百代と川下から帰還した翔一は、準備の時間もあるので決闘を明日の朝に回す事に決定し、皆を釣りへと促す。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その頃、川神市、秘密基地。

 

「皆…特に龍。今、秘密基地を守ったぞ!」

 

サーベルを空に掲げ、クッキー第二形態は吼える。治安はしっかりと守られた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「しっかし覗きとはアホだな、何が楽しいんだ?なぁ、龍?」

「……………全くだ。」

「けっ、男として正常なのは俺様たちだぜ。」

 

昨夜言っていた山の下にある旅館の女湯を覗く計画が実行されていたらしい。岳人と大和と無防備な女性の体が見たい百代の三人で見に行ったようで、途中までは良かったものの、昼間には無かった警備装置のおかげで三人の行動はバレてしまい、さらには警備員が来る前に百代に川へ向かって投げられてしまって、今に至る。

 

「はっくしょーい!」

 

風呂で温まっているというのに大和は一人くしゃみをしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

男女一部屋とはいえ、就寝する時はクリスの提案で東と西で境界線を敷いた。男子が女子側の境界線に入ると捕虜としてあらゆる尋問を受けるらしい。女子側には何の罰則もない。なので女子が男子の布団に侵入しても何の問題もないのだ。

 

「草木の眠る丑三つ時。今宵こそラブゲット。」

「……………。」

「と思ったら熟睡中だ…。相変わらず三秒で寝ちゃったんだね。」

 

計画は破談に終わったが、京は龍の頬を優しく撫でる。

 

「大和を守った龍は格好良かったよ。今の龍も素敵だけど、やっぱり昔のほうがいいな…。」

 

熟睡している龍の耳に一人呟く。果たしてその願いが叶う事はあるのだろうか。京は気付かれないことを良いことにそのまま眠ってしまう。そして三日目の朝を迎える。

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