初投稿です。
9/7 主人公の口調が荒みすぎていた点、その他文章の修整。
どっ、と土を削る音が響いた。
ぱちぱち、と瞬きをする。
目の前に広がるのは森。森、いや、森かこれ……?
凸凹の激しい大地からまばらに木々が生え、遠くには雪山も見える。
「大自然で草」
さっきまで自室でゲームやってたんだけどなぁ。
どういうことだよこれ……。
異常なまでに高低差のあるガッタガタの大地、そこに不自然に生えた木、そして僕。
「まじで何がどうなってんの……?」
バイトから帰ってきて、ご飯食べて。風呂でも入ろうかなと思いながら気が付けば日付が変わるくらいまではゲームに没頭して。
で、今。
やっぱり何もわからない。
ていうか。
「お前誰だよ」
とりあえず僕は目の前でニコニコと突っ立っていた茶髪の青年にツッコミをいれた。
◆◆◆◆◆◆
「僕の役目は君にアドバイスすること。何かに困ったら僕のところに来るといい」
そしてこのセリフである。
お前が犯人だろもう。
最終的にデスゲームの黒幕と判明する気の良い友人みたいな顔だし。
「誰かって聞かれたらまず名前を答えてくれない?」
僕はカツアゲするヤンキーのように、彼の周囲を歩いて
「やあ、ナツメ。なにかききたいことはあるかい?」
いやだから名前。
ヤツは僕が動くのに合わせてつま先をジリジリと動かし身体の向きを変える、という端的に言ってキモい挙動をしながら応えた。
応え……応えてなくね?
僕自身の名前を知ってもしょうがないんだけど―――って。
「………僕の名前はナツメじゃないが??」
「しにたくないなら武器と家を作るんだ。まずは木を切ってもくざいを集めるといい」
「はあ? お前は何を―――いや、えっ、待て!」
そのセリフ回し。
ナツメ、って。
まさか。
僕は目の前に突っ立っている黒幕じみた青年の風貌をもう一度確認した。
純朴そうな顔立ちで無害そうに笑っている。服は上下とも麻っぽい鄙びた風合いで―――。
「が、ガイドぉ!!? おまっ、まさか〝ガイド〟なのか!?」
「ライフの上限をあげるハートのクリスタルをみつ―――」
思わず手を伸ばし、何かをくっちゃべっているガイドの肩に触れる。
「―――ッ!?」
体温が、なかった。
確かに人肌の感触があるのに、体温が感じられない。
冷たいのではない。『常温』だったのだ。
えも言われぬ気持ち悪さにすぐさま手を引っ込めた僕は、何の反応も示さないガイドを一旦視界の外に追いやって周囲を見渡す。
地面、木、雪山、空。さっきまでと見えるものは変わらない。
だけど、歪なそれらはある一つの物差しを当てることによって、整合性のとれた風景へと見え始めた。
あの、これね、もしかしなくても『テラリア』ワールド。
テラリア。
テラリアというゲームは、2Dのサンドボックスゲー、その名作である(根拠は僕)
サンドボックスゲーとはなんぞやといえば、最も知名度が高いのはマイクラ――Minecraftだろう。
それの、2D版……と簡便に説明することは許されざるよ。
もう絶許よ。
マイクラが2Dになることがあり得ないように、テラリアが3Dになることもあり得ない。醍醐味が失われてしまう。
よって3D化などあり得てはならない……はずだったのになぁ。
3D通り越してフルダイブゲーになるってどういうことなの。
話を戻して、じゃあマイクラと何が違うのかって、サンドボックスゲーであるという共通点の他には何もかもが違うので説明不可能。
観覧車とメリーゴーラウンドって何が違うの? って聞くようなもの。IQ3なの?
遊園地の回るアトラクションってこと以外に共通点なさ過ぎて説明できんやろ?*1
はい証明終わり。
とはいえ、実際のところ『サンドボックス』というだけでかなり被っているという見方もまあ、許容しなくはない。共通点は、前言を翻すようで癪だが、それなりにある。
致命的な事項から思い出していこう。
まず、敵Mobがいる。
それが何を意味するのかって、つまりプレイヤーは命を落とす危険があるってことだ。
ということは、命を守る行動が求められる。
命を守るためには、拠点を置く、装備を整える、という守りと攻めの二つの方針が考えられるけど、テラリアにおいては基本的に『拠点を置く』のが先だ。
攻略チャート的に、どうしても拠点作成の方が優先される。
装備は探索が進めば段階をすっ飛ばして強化できるけど、拠点作成は探索のために必須となるからだ。
次に、夜は危ない(小並)
夜になると、敵性Mobがわんさか湧いてくる。
ワールド一日目の夜にして一画面内に10やら20の敵性Mobが収まっている、というのはごく普通の光景である。
何故かって、2Dだから。
極端なことを言えば、2Dのプレイヤーキャラクターが地面に足を付けているとき、プレイヤーの被ダメ判定は前、後ろ、上、しかないわけだ。2Dだから。
Z軸なんてない。
だから、大量に敵が湧いて見えても、実際にプレイヤーに攻撃可能なMobがどれだけいるのか、ということだ。
一人相手に百人で同時に襲い掛かるなんて不可能だよねって話。
あとは単純に、バトル要素が重視されている、ということもある。ようつべでもテラリアはボス戦攻略動画が多い気がする。
閑話休題。
とにかく、夜は危ない。
じゃあどうするか。家を建てよう。
◆◆◆◆◆◆
僕はガイドを放置して木を樵り始めた。
何はともあれ木材だ。
大量の木材があれば一週間くらいは凌げる。
食糧? テラリアには空腹度とか実装されてないから。
コッ、コッ、コッ、シュポン。
初期装備として所持していた〝木のオノ〟で〝普通の木〟を黙々と樵っていく。
どうやら、ゲームと同じ程度の時間で木は切り倒せるようだ。
ヤバすぎ。
ゲームじゃ、最小の時間の単位は『分』だった。現実世界での一秒が、テラリア世界では一分だったのだ。つまりプレイ時間24分でゲーム内では丸一日が過ぎる、という時間の流れになる。
ところがこの世界はどうだ。
頭上を流れる雲の動きを見るに、60倍で流れているような様子はない。いたって自然な、ゆったりとした流れである。
だけど、伐採速度はゲームと変わらない。
時間あたりの効率は単純に、60倍ということになる。
これはゲーム最上位の〝オノ系統〟を越える効率だろう。たぶん。体感的には。
コッ、コッ、コッ、シュポン。
テラリアにおける木樵りのコツは、木の根元をたたっ切ってやることである。
そうすると、その上に生えている木も全部〝木材〟になって落ちてくる。
空中に木が生え残るとかいう面白いことにはならない。*2 *3
この分なら、不安だったクラフト要素もかなり簡略化されているかもしれない。
ぶっちゃけ素人に家とか建てられるわけなかったから助かる。
いざとなれば地面掘って上に蓋をして一夜を過ごす予定だったからな。
コッ、コッ、コッ、シュポン。
さて、と僕はインベントリを確認する。
インベントリは頭の中で出ろ出ろって念じると思い浮かんでくる。オノもそうやって取り出した。
木材×1995個。
およそ2スタック、最序盤はこれだけあれば十分だろう。
三次元化して家を建てるのに必要な建材が増えているだろうことを考えると少し不安は残るけど、とりあえず建設作業に入ろう。
製作製作製作ワークベンチワークベンチワークベンチ。
僕は頭の中で適当に念じた。
地面に翳した手の下に、じゅわあっ、って感じでワークベンチが現れた。
……マジかよ。こんな適当でいいのか?
青い粒子を撒き散らしながら現れたワークベンチを前に、僕は震える。
僕の目の前にいたスライムも震える。
ぷるぷる。ぷるぷる。ぷるぷる。
「アッやば―――」
スライムは跳ねた。
しばらくぷるぷると震えてこの珍客を観察していたようだけど、容赦なく跳ねた。僕の左腕をかすめるようにしてスライムは僕を追い越す。
「アッつう……っ!」
ジュウッ! と皮膚の焼ける音がした。
反射的にスライムを蹴り飛ばしそうになって、寸前で思い留まる。
ここでコイツを攻撃したら、コイツがアクティブ状態になってしまう。それは避けたかった。
腕に無数の針を刺すような痛みに無言で耐えていると、スライムはやがて、まるで僕の存在に気が付いていないみたいに、そのまま跳ねながら通り過ぎて行った。
ふっ、と力が抜けて息をつく。
スライム。
コイツがいなきゃ始まらないって感じの敵性Mobなんだけど、マジでどこにでもいる。
森林から砂漠、海、ジャングル、地下一層、二層、地底世界。
あらゆるバイオームにおいて、あらゆるバイオームに適応したスライムパイセンを拝むことができる。
スライムパイセンは、倒すと必ず〝ジェル〟を落とす。あとは、体内にポーションやら銀貨やらボムやらを抱えているスライムも低確率でポップする。
ごくたまに、金貨を大量放出する徳政スライム―――ピンキーとかいうやつもいる。
〝ジェル〟を落とすからどうしたかって、ジェルと木材さえあれば〝たいまつ〟がクラフトできる。
たいまつは、家を作る(=ハウジング)にあたって必須要項である『光源』としてカウントされる。
だから、夜を乗り切りたい→家を作りたい→ジェルを手に入れたい→スライムを狩ろう。という構図が成立する。
しかしここで、序盤のスライムパイセンの特性についても言及しておきたい。
序盤、というか、いま僕が拠点を作ろうとしている森林バイオームのスライムは、基本的に『準』敵性Mobなのだ。
敵性Mobは積極的にプレイヤーキャラクター(=PC)を攻撃してくる。
中立MobはPCを攻撃しない。敵性Mobのことも攻撃しない。自らが攻撃されてもなされるがまま死ぬ。だいたい一撃で死ぬ。
何せHPが5とかそのあたりだから。むしろこっちからしたら一撃で殺さないでいられるのは序盤も序盤、最序盤だけである。
で、森林バイオームのスライムは、と。
彼らは、PCから攻撃を仕掛けない限り積極的な攻撃はしてこない。ただし、通り道にたまたまPCがいれば、それにたまたまぶつかってしまって、『接触ダメージ』がPCに発生することはある。
さっき僕が痛みを感じたのは、恐らくこれによるものだろう。
だから、迂闊に蹴飛ばしてスライムをアクティブにするわけにはいかなかった。まだ初期武器ですら振ったことがないのに、交戦状態に突入してもロクに戦えなかっただろう。
我ながら冷静な判断だったと思う。いや、最初から道を開けてさえいれば良かったんだけど。
僕はじっ、とスライムがかすめていった左腕を見つめた。
赤く爛れていた腕がしゅわあ、と見る見るうちに綺麗な肌を取り戻していく。
テラリアは、立ち止まってさえいれば自動回復はそれなりに早いゲームだ。
初期体力――100なら、瀕死からでも一分もあれば全回復する……はずだ。測ったことがなかったから正確なことは言えないけど、体感ね、体感。
何はともあれ、とりあえず安全圏を作ろう。
今のスライム襲来で拠点が必要だと痛感した。
初期武器を使ってみるのは、それからでいい。なんなら明かりなしでも一夜くらいは閉じこもっていれば乗り越えられるし。
テラリア世界の夜は、現実時間では九分。つまり、僕がいるこの世界では九時間に換算される、と思われる。
ゲームに準拠するのであれば、〝夜〟はPM7:30→AM4:30まで。きっかり、この時間を境に敵Mobのポップが変わる。
九時間くらいなら、建築が間に合わなくてただのシェルターに閉じ籠もるにしても耐えられる気がする。ほとんどの時間を睡眠に費やすわけだし。
で、翌日からまた拠点作成をすすめる、という段取りでも別に無理はない……うん、安全第一で焦らずやっていこう。
ハーメルンできること多過ぎてエタりそう。なにこの新世界。