一人の世界で生きるには   作:Lős

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一日の終わり

 

 出ろ、って念じれば、立方体に近い巨大な木材が手のひらにポンッ、と現れた。それを1つ地面に置いて、また新しいの出ろっと念じる。

 また何食わぬ顔して異次元から飛び出してきた木材を、いま置いた木材と並べてみる。

 

 キュポッ。

 

「……えぇ……」

 

 くっついた。2つの立方体の木材は、1つの直方体の木材へと姿を変えた。

 3つ目も同様。4つ目は段になるように設置してみる。

 普通に安定して乗っかった。というか、むしろ剥がそうとしても剥がせないくらい同一化してる。

 一段目と二段目だけじゃなくて、一段目と地面も、なんか土と木材なのに癒着してる。

 

「……頭バグりそう」

 

 でも、原作ゲームでも描写的にはこんな感じだったか。それが現実になっているからおかしいだけで。

 

 ともあれ、これを7〜8ブロックほど積めば、第一の拠点の高さとしては事足りるだろう。

 現実化したせいで雑に積んだら建材が崩れてくる、とかいうことも無さそうだし、安心である。

 

 ちなみに、テラリアの2D世界ではプレイヤーキャラクターのサイズは横2、縦3ブロックにすっぽり収まる程度だった。

 3D化したことで、横1縦3奥1ブロックに収まるスケールになっている。

 平たく言えば、ドット絵のマスコット体型から現実に近い七頭身を手に入れた、ということだ。

 ブロックは一面が目測60センチ四方だから、身長は少なくとも180センチ以内か。

 

 ポコ、ポコ、ポコ、と更にいくつかブロックを積んで挙動を確認、問題がなさそうだったのでこれから拠点を建てていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず整地。

 

 初期装備の一つ、銅のツルハシをガッ! と目の前の岩塊に打ち付ける。岩塊にわずかに亀裂が広がる。

 思ったより手に返ってくる衝撃は少なかった。

 ガッ!

 更に力を込めてツルハシを振り下ろせば、先程よりも大きく、深い亀裂が広がった。

 

 ……ガッ! シュポン。

 3撃目、ついに岩塊がアイテム化し、僕の体の中に吸い込まれていった。

 ツルハシがオノよりも重たい分、掘削作業は時間が掛かりそうだな。

 整地は最低限にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▶▶┃(早送り)

 

 ガッ、ガッ、ガッ、シュポン。

 ガッ、ガッ、ガッ、シュポン。

 ガッ、ガッ、ガッ、シュポン。

 

 ツルハシを振るう腕が重い。

 

 日はとっくに中天を通り過ぎていた。

 

 が、整地作業はまだ終わっていない。けっこうマズい。

 まあ何やかんや言って夕方には完成してるだろう、と楽観的に見込んだスケジュールより遅れていることには、主に二つの原因が挙げられる。

 

 一つ、ツルハシが『ヌメヌメしている』。

 よりにもよって、という感じである。

 

 ツルハシがヌメヌメしている、とはどういうことか、と。

 

 テラリアでは、装備可能なアイテムのほとんどに付与される『コンディション』システム、オリジナルの英語版では『Modifier』システムというものがあった。

 例として、〝でんせつの〟木刀、というように、アイテム名の前に修飾詞をあしらって、アイテムの効果を上下させるものである。

 

 〝でんせつの〟というコンディションは近接武器では大抵は理想とされる最上位のコンディションで、本来の武器性能を以下のように底上げする。

 

 ダメージ+15%

 攻撃速度+10%

 クリティカル率+5%

 武器サイズ+10%

 ノックバック+15%

 

 厨乙。

 これが付いている武器と付いていない武器とでは明らかに火力が変わるくらいには強力な底上げである。

 

 それで、このコンディションとかいうシステム。

 底上げだけじゃなくて、足を引っ張ることもあるというのがクセモノ。

 中でも、〝ヌメヌメした〟コンディションは最悪である。

 〝でんせつの〟コンディションの対極に位置するような産廃コンディションである。

 足引っ張り性能は以下の通り。

 

 ダメージ−20%

 攻撃速度−15%

 

 このとき、攻撃速度とはツルハシにおける掘削速度でもある。

 この世界にこのコンディションを適用した結果、マジで持ち手から尖端までヌメヌメしているツルハシか誕生。

 そういえばやたらと持ち手が滑るし、尖端もうまく刺さる気がしないな、と思っていたらこれである。

 

 よりにもよって最悪のコンディションが、よりにもよってツルハシ*1に付かなくても良いじゃないか。

 

 それだけじゃない。

 予定よりも整地が遅れている原因の二つめ。

 

 三次元化したこの世界では、二次元だった原作よりも作業量が圧倒的に増えている。

 三倍や四倍どころではない。

 拠点の奥行きを9ブロックぐらい確保したいなぁ、とか思っていた僕を殴りたい。

 それを実行するとなると、作業量は単純に九倍である。

 

 作業量は九倍、作業効率は−15%。

 掛かる時間は、約10.6倍。

 そこへさらに僕のメンタル的なデバフ、いわゆるダルさが加わった結果、作業は遅々として進まなかったのである。

 原作よりも60倍早く動けている計算とはいえ、精神的な辛さはあまり緩和されない。

 

 ――あ、銅鉱石みっけ。

 ガッ……ガッ……ガッ……ガッ……シュポン。

 よし、資源確保。

 

 だけどようやく、この苦行にも終わりが見えてきている。

 もうすぐ、予定していたエリアは開拓が終わる。

 

 うおおおおっ。

 

 僕は内心で雄叫びを上げながら、恐らく外見上は一切の変化なく気怠げに、邪魔なブロックにツルハシを振り下ろした。

 僕の胸が揺れた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 整地が終わったので、拠点建築予定地にまずは床を敷き詰める。

 それから柱を立てて、屋根を広げていって、壁を下ろして……。

 

 ▶▶┃(早送り)

 

 お家のガワができた。

 

 高さ8マス横幅12マス奥行き9マス。

 これだけあれば必要最低限の家具アイテムは設置できる。

 あとは、ガイドを迎え入れるためのハウジングだ。……NPCはガワだけの建物には頑として入ってこないからな。

 たとえ敵Mobがいようと夜間も建物の外に留まり続け、そして死ぬ。厄介過ぎる。

 

 そうはさせないためのハウジング。

 

 製作製作製作テーブルテーブルテーブル。イスイスイス。たいまつたいまつたいまつ。ドアドアドア。

 

 無心でひたすらに念じる。

 そういえばこれ、アイテム名忘れてたり間違って覚えてたりしたらどうやってクラフトするんだろう。

 

 ……下手すりゃ詰み案件だけど、今はとにかく拠点を完成させよう。

 

 足場足場足場足場足場足場足場足場足場足場足場……。

 足場はいくらあってもいいよね。

 

 

 

 

 ▶▶┃(早送り)

 

 ハイ。

 

 ハウジングも完了しました。

 ここから私の家です。

 外見は豆腐。多分これが一番機能的だと思います。

 

 テラリアにおいて、家としてシステムから認められるには3×3以上の空間があること、周囲をブロックとか足場とかドアで囲っておくこと、イス、テーブル、もしくはそれに類するものと、光源が設置されていること、が求められる。

 ワークベンチは確かイスとしても判定可能なオブジェクトだから、ハウジングだけを目的にするのであればイスのクラフトは不要だったんだけど……普通に考えて、実際に生活を営んでいくだろうこの世界じゃイスもあった方がいいよね。

 

 最後の仕上げには、ドアノブのあたりにポンっとね。

 足場を設置するんです。

 で、ハンマーでコンコンコンと叩いて変形させ、完成。

 

 これにより、ドアの内側の方の可動域にはオブジェクトが設置されているため、ドアは内側には開けなくなりました、と。

 ドアを開け放ってくるゾンビとか許さないマン。

 人呼んで、実家のドアスタイル。

 

 原作では、割とメジャーなハックだったと思う。

 

 実家のドアとは、開け方のコツを知っている者にしか開けられないようなドアを意味している。

 詳しくはさておき、このドアは諸事情により背中を向けて入ってくる者にしか開かないようになっている。*2

 

 少し持ち上げながらじゃないと開かないドアとか、実家によくあるよね。

 広義のアレだ。

 

 とまれ、よし!

 拠点(の、基盤は)完成!

 

 空が夕陽の色に染まりつつあるので、時間的にはかなりギリギリだった。

 危なかった。

 

 ん、さらっと壁に掛けられてるたいまつ(光源)

 初期武器(銅のショートソード)の動作をしっかり確認して、スライムをブロックの中に閉じ込めて隙間から刺してご安全に斃しました。それでジェルと木材をクラフトしてたいまつ完成。なんか製作した瞬間から燃えてた。火種は謎。

 以上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、夜。

 

 窓とかまだ作れないから直接は見えないけど、外が暗いのはわかる。もうたいまつの周りしか明るくないもの。

 

 パチパチ、パチパチ。

 

 たいまつの爆ぜる音、ゆっくりと過ぎてゆく時間。

 うーん、いいね。

 風情ってやつだよね。

 

「………」

 

 イスに座って机に頬杖をついていた僕が目を閉じてうっとりとしていると、突然『バン!』と激しい音を立てながら扉が開いた。

 

「夜は家の中にいるほうがいい。暗がりの中をうろつくのはあぶない」

 

 ―――は?

 

 ズンズンズン、と歩いてきたのはガイドだった。

 

 扉を開けたまま、ニコニコと迫真の笑顔でそんなふざけたことを言いながら、後ろに悪魔のめだま *3を引き連れて入って来たのは、ガイドだった。

 僕の中で殺意が芽生えた。

 

「―――キェエアアアアアッッ!!」

 

 ドアに近付いてから離れることで強制的にドアを閉め、即座にインベントリから取り出した銅のショートソードで滅多刺しにする。

 クソ、敵固えな!

 これ難易度いくつだよ! エキスパかマスターだろ!

 ふざけんな! ガチの初期装備でやるモードじゃねえ!

 

 攻撃食らったらガッツリ持ってかれるじゃないか。

 

「暗がりの中うろついてたのはガイド(おまえ)やぞ!」

 

 夕方には部屋の中に入ってなさいってお母さん言ったでしょう!

 敵を! 引き連れて! 入って来んな!

 

 ちなみに、お察しの通りNPCには先程の実家セキュリティは通用しない。

 マスターキー(シャッガン)でも持っているようで、ガン無視しながら入ってくる。

 

 二度とこんな真似ができないように閉じ込め……いや、ワンブロックの上に固定してやろうか。

 こいつら閉じ込めてもプレイヤーの画面の外に出ると調子乗ってテレポートするんだよな。

 

「……っ!」

 

 突き出した一撃が、クリティカルヒットらしきエフェクトを発しながら悪魔のめだまを貫通した。

 悪魔のめだまは、それでとうとうHPが尽きたようだった。

 力なく床でひしゃげた。

 

「ハァッ、ハァ、ハァ……」

 

 ニコニコとあらぬ方を見つめて笑っているガイド、血塗れの床と壁、息を切らす僕。

 

「……」

 

 僕はとりあえずガイドを木材で埋めた。

 死骸と、部屋中に撒き散らされた血は時間経過とともに薄れて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、まだ夜。

 

 ぴょーん、ぴょーん。

 

 足場に乗って、家の中を跳ね回る。

 天井に頭をぶつけそうなほど高く、跳ねて跳ねて跳ねまくる。胸が揺れる。

 

 途中、イスとか蹴飛ばしたけど気にせず跳ね続ける。

 頭がおかしくなったわけじゃない。これには合理的な理由があるんだ。*4

 

 突然だけど、テラリア世界には時計がある。

 一時間刻みにしか表示されない時計、分刻みで表示される時計(つまり現実では秒単位)があった。設置型、携帯型、というのも分かれていた。

 だけど、それらのアイテムを最序盤である一日目で手に入れることはかなりの冒険であり、また、あまりメリットもない。分単位で時間を気にしなきゃ楽しめないコンテンツが増えるのはゲーム終盤が近くなってからだ。

 

 序盤は、昼か夜かだけ分かってればそれで良かった。

 その判別の仕方も極めて簡単で、要はBGMに耳を澄ませていればそれで済む話だった。

 昼間のソレと夜間のソレは曲の雰囲気からしてかなり異なっている。初心者にも優しい仕様だったわけだ。

 

 ところが、この世界にはBGMがない。

 常にどこからか音楽が聴こえてくる、というのは怖いけど、あればそれなりに助かることも多かっただろうに。

 バイオームが遷移したことを知るには一番の手掛かりだったのに。

 

 最低限夜から朝への移り変わりは知りたい。

 そうでなければ、おちおち探索に出かけることもできない。

 

 そこで、僕は一計を案じた。

 

 『おほしさま』を時計代わりにしよう、と。

 

 テラリア世界の『おほしさま』とは、夜間に限って空から降ってくるまんま(星型)のアイテムである。

 僕の考えるこのアイテムのメジャーな用途は二つある。が、今は関係ないので割愛。

 よっぽど偏ったプレイングでもない限り序盤は集め得なアイテムであるおほしさまだけど、一つ面白い特性がある。

 

 インベントリの外に出してそこらへんに放っておくと、朝(=AM4:30)が来るとともにパッと粒子になって消えてしまうのだ。

 それは、室内でも変わらない。

 

 机の上にでもおほしさまを置いておけば、朝の訪れもすぐに分かるだろう。

 

 これはぜひとも、おほしさまを手に入れなければならない……! 僕はそう思った。

 でも、ガイドの言葉ではないけど、夜に外に出るのは危ない。

 まして、防御力も攻撃力も移動手段も皆無な現段階では、無謀だ。たぶんこの世界の難易度、マスターだし。

 

 じゃあ、家の屋根に落ちるのを待とう、と。

 

 屋根にさえ落ちれば、プレイヤーはワンブロック程度の厚みなんか無視してアイテムを吸収できる。

 よって、もし屋根上におほしさまが降ってきていれば、天井近くまでジャンプした瞬間にぬるりと室内におほしさまがすり抜けてきて、一切リスクを負うことなく回収することが可能……な、はずだ。

 

 そういうわけで、僕は狂ったように飛び跳ねているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとっつ、ふたっつ、みっつ。

 足場から降りて、木製のテーブルに並べたおほしさまは全部で3つ。三時間くらい飛び跳ね続けた成果である。

 おほしさまたちは、金色に輝いてキラキラ、キラキラと淡い粒子を振り撒いていた。

 

 原作よりも描画力が上がったせいでレアアイテム感が凄いけど、数日もしないうちに毎夜20個ぐらいは集められるようになるアイテムである。

 

 2つをインベントリに仕舞い込み、1つだけテーブルの上に残しておく。

 朝が来たら、すぐにわかるだろう。

 このおほしさまが消えたら、今日も外に出よう。

 

 今日の予定は、そうだな。

 空島にでも行こうか。なんか昨日浮いてるの見えたし。

*1
開拓ツールの中では最も使用頻度が高い

*2
NPCを除く

*3
拳大のデカくてカラフルな空飛ぶ目玉、敵Mob

*4
※合理的であれば許される行動にも限度はある。




足場をもう一段設置すればいいだけなのに何故彼は飛び跳ね続けていたんだ……?

 主人公もそのうち気付くと思いますが、クラフトでアイテム名が分からず詰むかもしれない事件については、心配不要です。
 今でさえ、主人公は正確なアイテム名を念じられていないので。
 テーブル→きのテーブル、イス→きのイス、ドア→きのとびら、が正確なアイテム名になります。
 要は、クラフトしようとしているものが何なのか、用途や概形などをイメージできていればクラフト可能、という仕様です。
 本文中ではああ言ってたけど全然アイテム名正確やないやんけ! とモヤモヤする方のために、一応。
 あとはガイドに聞けば大体解決。



 以下、実家セキュリティについて、詳しく知りたい方はお読み下さい。

 テラリアでは、PC・NPCが接近するとドアが自動で開きます。ゾンビはドアを何回か叩くとPC・NPCと同じようにドアを開けて侵入してきます。
 外から部屋の中に入ろうとすればドアは内側に開かれ、部屋の中から外へ出ようとすればドアは外側に開かれます。
 それをこの世界に適用した結果、PCかNPCが半径一メートルくらいまで近付いたタイミングでひとりでにドアが開くようになりました。かなりホラー。

 ここで、外からではドアは内側にしか開かない(ことになっている)ので、ドアの内側にオブジェクトを設置することによってドアの動きを制限、外からの侵入を防ぐことができます。

 その理屈ではプレイヤーも閉め出されるのではないか、という点について。

 対策の一、テレポート。プレイヤーは条件を満たした建物を我が家認定することで家の中に直接テレポートすることが可能になります。
 対策の二、プレイヤーは扉を貫通してオブジェクトを破壊可能です。だって2Dゲームだから。本来は、扉の向こう側にカーソルを合わせてツルハシを振るだけ。それをこの世界に適用した結果、扉の向こうを破壊したい、と念じながらツルハシを素振りしていれば貫通破壊が可能に。
 だからテラリアは3Dにはしちゃいけないって言った。
 よって、これで扉の内側の足場を破壊すれば通常の挙動でドアは開きます。

 対策の三、ムーンウォークでドアに突っ込む。

 実のところ、ドアの開く方向は『プレイヤーが部屋の中にいるか外にいるか』ではなく、『プレイヤーの身体が前を向いているか後ろを向いているか』で判断されます。
 ですから、外から身体を後ろ向きにしてドアに近づくと、ドアは躊躇いなく外側に開いてきます。内側にオブジェクトがあるかないかは参照されません。

 以上が、実家のドアの大まかな内容です。
 後半の対策ほど実行が簡単になります。対策一に関しては、設備(=作るのがやや高工程なベッド)とそこそこ希少なアイテムが必要になるので、一番スマートではありますが、一日目で、となるとプレイ開始直後からの有識的な行動が必要になりますね。
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