エロマンガ先生ANOTHER 桜葉桃八はカフェオレが飲みたい 作:しゅみタロス
10月
あのコミケから2ヶ月、愛おしかった夏の暑さも今では風の冷たさに搔き消されている。冬の装いへと変わり、街も気が付けば暖かい飲み物を手にする人が行き交っていた。
桃八 カキャ「うー、寒い」
缶のホットカフェオレを開け、自販機に身を寄せながら飲む。この自販機の上には桃八の所属している出版社のビルがそびえている。曇り空と雲を映すガラスを見上げながら桃八はカフェオレを飲み干した。
桃八「さて、行こうか」
ビルを通り、桃八はオフィスに入ると担当の編集者が顔を出す。
担当「やあ、桃八君。コミケご苦労だったね」
桃八「はい、おかげさまで」
担当「それよりも新しい企画持ってきたんだって?」
桃八「それと同時に契約更新も含めてお話したいんですよ」
担当「それならじっくり聞かせてもらおう」
入念に設定されたネームを凝視する担当、桃八は息を止める様に緊張している。それもそのはず桃八は今回の作品、「魔女が恋した生贄の僕」は桃八が初めて書いた現代ファンタジーだからだ。だが内容はラブコメ寄りで桃八の得意ジャンルを意識している。通れば桃八にとって更に名を挙げるきっかけになるのだが。
桃八「どうでしょうか?新作の内容は?」
担当が出した答えは……
担当「実に面白いよ、現代を舞台にした高校生魔術師の恋愛、ここまで細かく設定が作られているならもっと売れるだろう!!」
桃八「ありがとうございます!!」
担当「それじゃあ、契約の更新に移ろうか、どのぐらいここにいるんだい」
桃八「ここでは後2年やって行こうと思っています、高校卒業まで間、お世話になりたいのですがよろしいでしょうか?」
担当「わかった、それじゃあこれにサインして」
桃八「ありがとうございます!!」
新連載の契約を終えた桃八は誇らしげにビルを出るのだった。
帰り際、いつもの日課でゲームコーナーに立ち寄る桃八、プリペイドカードを2枚購入するとその横で新作ゲームソフトの山を抱える一人の男がいた。
桃八(この店、複数買いダメだった気が……)
イヤな気配を感じた桃八は声を掛ける。
桃八「あの!!」
???「あ、何だ」
桃八「そのゲーム……同じものを幾つも買ってますがどうするんですか?」
男は告げた。
???「同じゲームでも、いろんな遊び方がある。だがそれを選ぶ権利は1回だけ、それなら同じゲームを幾つも買うなら全てを選べる。生憎俺はゲームの全攻略に貪欲なタチでね」
桃八「な、なるほど……」
桃八は自分の勘が間違いと気付くとお互い会計を終える、すると男は桃八を凝視し、何かを悟る。
???「前にもあったな、出来るのに逃げてる感じのそんな顔」
桃八「はい?」
男は買い物袋を手にすると去り際に告げる。
???「お前が何やってるのかはわからねえけど、一度始めた事からは絶対に逃げるな、好きな事やって自分も相手も満足ならそれでいい。
世の中はゲームだ、勝ち負けで人生も変わっちまうクソッタレのな。終わらせるぐらいなら続けろ、自分が面白いのならな」
その言葉を聞いた桃八の中でコミケでの出来事が鮮明に思い出す。
桃八(そうだ、やめたくて続けるんじゃない、楽しいから続ける。何でそれを忘れてたんだろう?)
???「良いツラになったな」
桃八「ありがとうございます、えっと……」
そうして男はニヤリしながら名乗る。
???「俺は元Eスポーツプレイヤー、名倉マーク。お前と同じ好きな事に日々挑み続けている。お前も頑張れ!!」
桃八「同人小説家、桜葉桃八です。もっと面白い事、続けてみよう思います!!」
桃八は名倉との出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す。
桃八「ようやくわかった気がする、僕のコミケを続ける意味。
人生はカフェオレの様に甘く苦い、だから価値があるんだ」
楽しいから続ける、面白いから続ける、
自分が好きだから続ける、皆が好きだから続ける。
小説や同人が愛され、人を繋いでいく、そんな世界が愛おしくて、続けていった先にあるのは常に誰かと結んだ一期一会だった。
桃八「まだまだやれる、僕の好きが続く限り、想いが届く限り、やっていける!!」
桃八にとって新たなスタート、一人の作家として、一人のファンとして、進んでいく事を決めた。
彼はもう、一人じゃない。