(|)の勇者の成り上がり 作:えいめん
『白笛』『黎明卿』『筋金入りのろくでなし』『ファッキングパパ』…様々なあだ名で呼ばれる男の内の、本体とでもいうべき白笛を付けた体は
「あぁ、やはりここにありましたか『子供に教える人体図鑑』。」
彼は今プルシュカと名付けた祈手の娘をわが子のように育てていた。そのために、数年前に連れてきた孤児達の読書に使っていた本を探していたのだ。
しかし、その本を取り出した弾みに隣の本まで引っかかって落ちてきてしまったようだ。
「『四聖武器書』ですか…」
手に取ってみればそれは見たこともない本ではないか。
思わずその未知の本を流し読みするのは彼にとって必然といえる行動だった。
「おやおや…もしや遺物でしょうか?」
内容はいたって普通の本で特筆することもない。
しかし、イドフロントの中にまで入り込むのは異常と言わざるを得ないだろう…
そして本を閉じようとしたときだった。
「おや、実に興味深い。」
白いページを開いたかと思うと、その次の瞬間には意識が遠くなっていく。
こうしてボンドルドは異世界へと旅立っていったのだった。
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「おお…」
次に目を開けると、ローブを着た男達が何やらこちらを向いて感嘆の声を上げているようだ。
近くには状況が呑み込めていないように見える男が三人。そして、足元には塗料で書かれた陣のようなものと祭壇。
そして一番気になるものは、暁に至る天蓋に貼りつく軽い盾のようなもの。剝がそうとするが剝がれない。
「ここは?」
この摩訶不思議な状況を把握しようとするボンドルド。
しかし前にいる剣を持った男がローブを着た男に質問を行い、その回答が得られたことでボンドルドは多くの仮定のうちの一つが暫定的に正しいものであると判断した。
「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」
「「「はい?」」」
「おやおや…」
「この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」
この世界は、俗にいう並行世界というものなのかもしれない、と。
それならば物理法則は?人体の構造も違うかもしれないのにどうして生きていられる?そもそも勇者とはなんだ。この世界には別の世界から人を呼ばねば対処できない問題があるようだが、それを勇者と呼ぶのだろうか。
素晴らしい。実に興味深い。
「嫌だな」
「そうですね」
「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」
「…ああ、そういえば私は家に娘を待たせていましたね。」
その言葉を聞いて、こちらのほうになぜか視線を向けていなかった周りの三人と顔を伏せ気味だったローブの男たちはそろって顔を上げると叫ぶ。
「「「「「お前、その格好で娘いんの?」」」」」
「?何かおかしいことでも?」
そののち、国王のもとへと案内されるボンドルドの周りでは「納得いかねぇ…」「えぇ…いや、えぇ…」などの声が絶えることはなかった。
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「話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きしろと?」
「都合のいい話ですね」
「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ」
「なるほど。次元の亀裂というものから魔物が出てくるので、それを対処すればよいのですね?ですが、その魔物がどのような」
オルトクレイ=メルロマルク32世と名乗るこの国の王からの話を聞いてボンドルドは質問を行う。
ボンドルドが話し出すと、ほかの三人はそろってこちらを向いてくる。
三人は彼の一見奇抜な装備が気になるのだろう。
それにしては「余計なことを…」と小声で言っているがなんのことだろうか?
「勇者様方には存分な報酬は与える予定ですし、魔物に関しては後々同行者を募る予定ですのでその方にお聞きくだされば…」
玉座に座る国王が臣下に目線を送るとそのあたりの返答を行ってくれる。
いざとなれば一から調べれば問題ないだろうし、さすがに『
…いや、ここはそもそもアビスではありませんか。
ボンドルドがそう思案していると、我々が自己紹介を行うことになったようでほかの三人はすでに終わらせている。
「私はボンドルド。奈落の探窟家、『黎明卿』―――と人は呼びます。」
さあ、この世界に夜明けをもたらしましょう。