【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona) 作:河畑濤士
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1勝クラス(500万下)のような1勝・2勝・3勝クラスのレースはアプリ版にならって「Pre-OP」という階級にまとめてありますのでご了承ください。またそれに基づき、単なる1勝クラス(500万下)のレースにも「光冠賞」など架空の名称をつけています。
次回更新は9月25日あるいは26日を予定しております。
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「まだまだいくよ、ブルボンお姉ちゃん♪」
「はい、マスター……!」
あなたは皐月賞の舞台である中山レース場2000mは、傾斜のきつい坂を2回駆け上がることになることを知っている。スタート直後に急坂があり、これを駆け上がってもなお1コーナー周辺まで上り坂が続いている。その後3コーナー前まで今度は下り坂が続き、4コーナーを越えて約300mの直線が待っている――そしてもう1度、ゴール前に急坂が立ちはだかる。
皐月賞まであと2週間程度。
故にあなたは、坂路が使えるときにはブルボンと一緒に、坂路トレーニングを積極的にこなすようにしていた。鮮やかな緑髪のツインテールを揺らし、ネコに似た耳に黄色い飾りをつけたあなたは、ブルボンの出しうる限界を少し超えるように走っていた。
トレセン学園が擁する坂路コースは、高低差30m以上、全長1000mを超えるものであり、急坂を駆け上がる鍛錬としてはうってつけである。飛び散るウッドチップ。重力に負けじとブルボンは地を蹴り、あなたの背に食らいついていく。
「なんのおおお~!」
それに遅れる形でマチカネタンホイザや、OP戦勝利ウマ娘のハネダサクセスが坂路を駆け上がる。
坂路の傍らでは、GⅠホープフルステークス2着・GⅡ弥生賞2着のベストスタント、GⅢシンザン記念勝者のアタゴノペトリウスが休憩をとっていた。
考えることはみな一緒、そうなるとあとは量の問題になる、とあなたは考えていた。
あなたはブルボンにかなり負荷をかけている。
が、故障の危険性はない。まずブルボンの身体は同世代のウマ娘に比較して遥かに頑丈にできている、またトレーニングが終わるとともに癒しの手の魔法をブルボンに使う習慣をあなたはつけていたためだ。
あなたは坂路の終着点でブルボンの顔に、わずかに苦痛の表情が浮かぶのを見た。
あなたはそれを無視して「終わったら戻ろうね♪ もう1本だよ、ブルボンお姉ちゃん♪」と指示した。
皐月賞で確実に勝利するためには、少なくともマチカネタンホイザに対して5バ身差以上の着差で先着できるようにしなければならない、とあなたは分析している。
信野が他のウマ娘陣営に対して有利なのは、1戦目で概ねのレース展開やウマ娘たちの実力を把握できることと、2戦目以降でそれを踏まえた指示を出せることだ。
あなたも信野同様、時間遡行が行われたあとも記憶が保持できるため、1戦目の展開を覚えていられる。
が、ブルボンは逃げをもっぱらとするウマ娘。対するマチカネタンホイザは先行と差し、双方の作戦に通じているため、2戦目からは位置取りを変えることが可能であり、戦術に幅がある。
良い“まぎれ”、悪い“まぎれ”、双方あるのがウマ娘のレースだといわれているらしい。
――敗北するとすれば、それは目覚まし時計によってではない。ウマ娘が秘めている可能性によって負ける。
あなたはそう考えていた。やはりマチカネタンホイザや他のウマ娘に対して、大きい着差で、100回やって100回勝てるところまで仕上げなければならない。
あなたは日没後、ブルボンにトレーニングの終了と早めの夕食をとるように指示すると、GⅡ弥生賞勝者のアサノミニスター、皐月賞への出走を表明しているOP戦勝利ウマ娘・ニジノドラゴンオーの夜間トレーニングを盗み見していた。
ミホノブルボンが対戦したことのない有力ウマ娘は多い。最も警戒すべきは今年度に入ってからのGⅡ・GⅢ勝者、好走者だが、さりとてオープン戦勝者も軽視できないと考えていた。
たとえば鹿毛のウマ娘であるニジノドラゴンオーが勝った若葉ステークスは、皐月賞と同じ舞台である中山2000m。先に触れたハネダサクセスやアタゴノペトリウスもこの若葉ステークスに出走している。皐月賞と同じコースを経験済み、というのは本人たちにとって大きなアドバンテージになりうるとあなたは考えていた。
さて。
寮の門限が近づいてトレーニングするウマ娘も少なくなってきた。
あなたも引き揚げようかと思いつつ、なんとなく学園内を歩いているとベンチでたそがれている人影をみた。
――ノルトパフォーマー、か。
あなたの漏らしたつぶやきに、彼女は反応した。
「あ、えーっと、ミホノブルボンさんの……トレーナーさん……」
空色の瞳をもつ栗毛のウマ娘には覇気がない。
ウマ娘たちの憧れである中央トレセン学園の制服を着ていることを除けば、あなたの眼には“どこにでもいるウマ娘”にしか見えなかった。GⅠウマ娘の堂々たる姿は、どこにもない。
あなたはそのまま別れることもできず、さりとて良い話題も切り出せなかった。
皐月賞は出走するんだろう、とただなんとなくあなたは聞いた。
「……」
数秒の沈黙。
そして彼女は躊躇いがちに口を開いた。
「いや……」
赤く腫れた目の周り。
そしてあなたは彼女の瞳に、恐怖をみた。
それであなたは人外じみた感覚を以て、すべてを――そう、すべてを理解した。
GⅡスプリングステークスで1番人気の期待を裏切る凡走をしたことが、そのすべて。
この3か月間、スポーツ紙も専門誌もテレビも著名人もファンも、ノルトパフォーマーこそクラシックの大本命と注目してきた。その人気を、期待を、声援を、一戦で裏切った。少なくとも彼女は、そう感じている。もうファンの前で走ることはできない、それが彼女の思いであろう。
が、あなたはいまいち共感できなかった。
ノースティリスでの名声が念頭にあるからだ。名声とか周囲の期待とかいうものは、勝手に上がっていくものであり、勝手に課せられた納税額も上がっていく厄介な代物だ。だから周囲が勝手に高めていったものを、“裏切った”などと考えなくてもいいのではないか。
しかし、ウマ娘のレースというのは常にレースにおける人気、ファン数、ファンに感謝を届けるウイニングライブとともにある。
期待なんか無視しろ、と言っても彼女の価値観は揺るがせなかろうと、あなたは諦めた。
だからあなたは、特に考えずに切り出した。
――もう、走れない?
「無理、です」
「もともと脚も弱いですし、たぶんこのまま走っても故障します」
「トレーナーさんとの契約も、解除しました。そっちの方が新入生たちに集中できるでしょうし」
音もなく隣に座ったあなたに、彼女は気がつけばすべてを話していた。
GⅠホープフルステークス、GⅢ共同通信杯に引き続き、GⅡスプリングステークスでも1番人気に推されて舞い上がっていたこと。
スプリングステークスの出走表を見て勝てると踏んだこと。
そして11着という惨敗を以て、ファンの期待を大きく裏切ったこと。
自分が許せないし、情けないし、恥ずかしい。
「だからもう、走れません……」
胸の内を語り切った彼女を前にあなたはただ、そう、とだけ言った。
ノースティリスの冒険者として、してやれることは何もない。英雄等の魔法で恐怖を打ち消して励ましても、環境や本人の心持ちが変わらないならばそれは一時的なものにすぎない。
だからあなたは、トレーナーとして言った。
――気が変わったら言いなさい。レース出走のための、トレーナーの名義貸しくらいならしてやれる。
そう言って、あなたは席を立った。
これがあなたのいま思いつく精一杯の善意であった。
本人が再び走りたいと思ったときに、助力してやることくらいしかできない。
「あの……」
トレーナー室に戻ろうと数歩歩いたところで、大気が震えた。
「ミホノブルボンさんに伝えてください」
あなたは振り向かなかった。
「三冠ウマ娘になって、って」
「私はたぶんしばらく走れないし、怖くてレース場にも行けない。けど――」
「テレビで、テレビで応援してます」
「……ブルボンさんが負けたら、私、かっこ悪い、ですよね」
「でもブルボンさんが三冠ウマ娘になったら、うん、いつかスプリングSのことも、笑える日もくると思います」
「“私、あの三冠ウマ娘のミホノブルボンが出てたレースで、1番人気だったことあるんだ”、って10年後に言っちゃったりして」
あなたはノルトパフォーマーの“想い”を受け継ぐと、彼女を大声でクソムシッと罵倒した。
――1年かかってもいいからまた戻ってこい。ミホノブルボンと再戦して、
“私、あの三冠ウマ娘のミホノブルボンに勝ったことあるんだよ”
って10年後に言えるようになれ!
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皐月賞の特別登録ウマ娘は、以下のとおりとなった。
ミホノブルボン(GⅠ朝日杯FS)
アサノミニスター(GⅡ弥生賞)
アタゴノペトリウス(GⅢシンザン記念)
ライスシャワー(OP芙蓉S)
ニジノドラゴンオー(OP若葉S)
ベストスタント(OP京都ジュニアS)
ハネダサクセス(OP若駒S)
マチカネタンホイザ(OP府中ジュニアS)
リインガロウ(OPクロッカスS)
エルカノン(Pre-OP水仙賞)
ギャラテクカホクト(Pre-OP結氷賞)
シュッドゥオー(Pre-OP光冠賞)
ゼンシンアチャラ(Pre-OPプラタナス賞)
マイバマイフォース(Pre-OP霧雨賞)
マイバマイウイン(Pre-OP黒竹賞)
クトリゥクライ(Pre-OP山桜賞)
ウィルショウブ(Pre-OP海陸賞)
ルサルカナイフ(12月ジュニア未勝利戦)