【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona)   作:河畑濤士

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今回は政治要素があります。ご注意ください。

また皐月賞出走組を対象とした商品がナチュラルに登場します。

次回更新は、1週間以内を予定しております。






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■13.「オペレーション“ウマノ見クス”(見学)の実施を意見具申いたします」

 あなたの朝は早い。

 あなたはメーカーから試供品として送られてきた『くらしっくうまむすめ こどもはみがき(Ver.みほのぶるぼん・いちごあじ)』で歯を磨き、トレーナー室に設けられたテレビでニュースをチェックする。

 

――“レースは距離で決まる”

 

 そう発言して首相と論争を引き起こした石芝農林水産大臣が更迭されたとのこと。

 あなたはどこかで石芝の顔を見たような覚えがあったが、思い出せなかった。

 また国会では野党側がサクラバクシンオーのファンである古川誠恵内閣総理大臣を徹底追及。いわく、公人はすべてのウマ娘に対して平等であるべきで、首相がひとりのウマ娘を推してはいけないのではないか、ということらしい。

 あなたからすれば、至極どうでもよかった。

 

「つまりですね、国民は古川総理の言葉を求めているわけですッ! お答えください!」

 

「そうだ! 古川はウマ娘グミ食べてジューシーって言え!」

「URA私物化反対! ウマノミクス反対!」

「長距離芝番組の充実こそ急務!」

「ウマ娘専用レーン拡充を!」

「トランポリン大統領日本ダービー観戦反対!」

「パフェ食べてジューシーって言え!」

「古川はテイオー選手の握手券爆買いをやめろ!」

 

「内閣総理大臣、古川誠恵くん」

 

「あのですね。先程から鳳蓮子さんは、えー、私がですね、バクちゃん、いや、えー、サクラバクシンオーさんを応援するために中山レース場まで足を運んだことを問題視されておりますが、私もですね、私もですよ、森羅万象を担当し、ウマ娘をふくめた全国民の幸福のために驀進していく内閣総理大臣である前に、人権をもった一国民であると、えー、そう主張したいわけであります。つまり私がですね、サクラバクシンオーさんを応援してですね、まあ何が悪いのかと。そういいたいわけであります。日本国憲法第14条にはですね、えー、すべて国民は、法の下に平等であって、えー、人種、信条、性別、社会的身分または門地、そしてウマ娘の応援ですね、ウマ娘の応援や勝ちウマ娘投票券の購入によって差別されないとそうあるわけで、国会議員である鳳蓮子さんがですね、私がサクラバクシンオーさんを応援することで、私を非難する。これはあってはならないことですよ!」

 

「そうだ! ウマノミクス賛成! ウマ娘税10%賛成!」

「No Race! No Japan!」

「お前らこそウマむすパン買い占めてただろうが!」

「総理はクリスタルカップも見に行け!」

「バクシンオーが勝つ!」

「いや、タイトゥルスフルが勝つ!」

「ムービーアクションが勝つ!」

 

「静粛に――」

 

 あなたはデスクの上に放置された作りかけの『1/10スケール・ウマ娘“ミホノブルボン(GⅠ朝日杯FS仕様)”』を無視しながら、これまたメーカーから大量に送られてきた『ウマむすパン(ウマキャラシールつき)』や『ウマ娘トゥインクルクラシックグミ(メタリックシールつき)』で手早く朝食を摂ってしまう。

 

 あなたはこの国のウマ娘にかける情熱に、若干辟易としていた。

 

 あなたはおまけのメタリックシール“ニシノフラワー(GⅠ阪神JF戦Ver.)”をしげしげと見つめてから、冷蔵庫に貼り、弁当づくりにとりかかりはじめた。

 

 皐月賞まであとわずか――あなたは熱狂の中心にいる、といってよかった。

 

 あなたは坂路トレーニングを継続しつつも、サクラバクシンオーとハナを奪り合うスタートの練習や、皐月賞に出走予定のない有力クラシック級ウマ娘――カワサンキセキやワープゲート、ゴールドケラウノス、タイフウ、ヒシノマサト、ラブリーコウシンといったウマ娘たちと実戦形式の併走トレーニングを組み、ミホノブルボンを鍛えていった。

 この併走トレーニングを行うべく、ベテラン・中堅・新人、幅広い層のトレーナーに顔をつなぎ、調整を行ったのはすべて自称“エージェント”の旭日帝都スポーツ記者・笛木衛である。

 もちろん報酬など一銭も出ないが、笛木衛によると「皐月賞勝利がいちばんの報酬」とのことだった。

 

 そして瞬く間に、時は過ぎていく。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「1番人気はこの娘っ――!」

 

 皐月賞前日の土曜日。

 あなたとミホノブルボンは中山レース場の観客席――その片隅にいた。

 

「サクラバクシンオーッ!」

 

 ゲート入りの直前、威風堂々一番人気の少女が声援に応えて拳を振り上げた。

 とともに、中山レース場が湧き、王者たる彼女を中心として旋風が巻き起こる。

 瞬間、曇天の空が割れ、5月の陽射しが落ちた。

 

 はっはっはっはっ、と高笑いしながらゲートインする驀進王。

 晴れを待つのが人ならば、晴れを掴みとるのが王か。人気も、実力も、圧倒的。走らずとも周囲を圧す彼女だが――その両脇ですでに体勢を整えている5番人気・コウシンショウロウ、9番人気マインティーガーはまったく動じることがなかった。

 戦う前から敗北を知るようなウマ娘が、この重賞レースの場に立っているわけもない。

 

(私だって1200mを“逃げ”で2連勝――!)

 

 耳に被せた深紅のカバーが印象的な6番人気・ミヨコノエガオは、深呼吸して覚悟を新たにした。

 

(まあダートですけど。でも7戦もしてきたメッゾフラッシュさんを倒してここにきた。バクシンオーさんだって無敵じゃない、ブルボンさん同じくハナを獲って主導権を握れれば――ここも“逃げ”で3連勝!)

 

 橙に赤い雷をあしらった勝負服の彼女はサクラバクシンオーを制しての3連勝を考えていたし、人気上位のタイトゥルスフルやムービーアクションらも、道中は先行策を採り、最後の直線でサクラバクシンオーを斃す絵を描いていた。

 

「バクシンオーさん……!」

 

 スタートの瞬間まで、あとわずか。

 あなたはブルボンの横顔に、僅かに緊張がにじむのを見た。

 いまあなたとブルボンがここにいる理由だが、半分はコースやバ場状態の確認、もう半分は友人であるサクラバクシンオーが出走する1200m・GⅢクリスタルカップの観戦であった。

 前者はあなたの提案であったが、後者はブルボンの願いだった。

 それに対してあなたは反対しなかった。

 前日は現地入りに費やすと決めて動いていたので、特に問題はない。

 

「ゲートイン完了――」

 

 出走ウマ娘全員がゲート入りし、沈黙の時間が数秒訪れた。

 速度と勝利に飢えたスプリンターどもの主戦場、1200mではスタートが極めて重要になる。

 極度の集中状態に没する11の餓狼。

 

「GⅢクリスタルカップ、スタートしましたっ!」

 

 ゲートが開くとともに、天下無敵の花言葉を宿した瞳が先陣を切った。

 0.1秒と遅れずにミヨコノエガオが芝を蹴った。

 深紅の雷は、サクラバクシンオーの後ろ髪を追い――そのまま彼女に並ばんと、急加速に打って出た。

 

(芝のコースは不慣れ。駆け引きだってわからない、バ場のどこが伸びるかもっ! それは私がいちばんわかってるっ! だからっ!)

 

 絶対にハナを獲る。

 芝でのコーナリングも、バ群の割り方も未熟。

 ならばこそバ群から突出するハナでなければ勝てない!

 

「トグロマーガリートは出遅れたか!? サクラバクシンオーが先頭っ! 1バ身ほどのリードをつけた!」

 

 が、ダート3戦2勝のミヨコノエガオの決死の加速は、歯牙にもかけられなかった。

 

 サクラバクシンオーは悠々と彼女に差をつけて逃げはじめ、ミヨコノエガオの脇には2番人気・タイトゥルスフルの紅蓮に白袖の勝負服があった。彼女もまた重賞初出走のウマ娘。しかしながら前述のとおり、彼女には彼女なりの勝算があり、能力もあった。その証明として彼女は楽々と、ミヨコノエガオに追従している。

 

 さらにミヨコノエガオの“外”をムービーアクションや、OPフローラSの勝利ウマ娘であるスズコが往く。

 

 しかしミヨコノエガオは彼女らを気にせず、ただサクラバクシンオーの背を追いかける。

 

 スタートからゴールまで1200m、わずか約1分10秒の攻防戦。

 第4コーナーに達するところまでミヨコノエガオは、番手の位置を守っていた。

 死守していたといってもいい。

 

(くっ……そ……)

 

――バ群に沈めば、そのまま上がってこれなくなる。

 

 靄がかかる意識の中、ミヨコノエガオはただひたすらにそう念じ続け、執念でサクラバクシンオーを追い続ける。

 故に、無慈悲にも、脚はもう残っていない。

 ただ回ってくるだけに全力を費やした彼女を、タイトゥルスフルが躱す。

 

(あとは任せて。私があいつを斃すッ――!)

 

 紅蓮に白袖のタイトゥルスフルは、4バ身先を往くサクラバクシンオーに堂々、直線勝負を挑んだ。

 彼女もまたダート未勝利戦1勝、Pre-OP芝1200mさわらび賞2着、つまりダート戦上がりのウマ娘。

 トップスピードではサクラバクシンオーには勝てないと、彼女は本能的に知っている。

 

(だがパワーなら、加速力なら負けないはずッ!)

 

 タイトゥルスフルが賭けるのは、トップスピードに至るまでの加速力。

 中山の空気を吸いこんで、ラストスパートに推移する――が、彼我の距離は容易に埋まらない。

 理由は明白だ。

 サクラバクシンオーの加速力は、タイトゥルスフルにまったくもって劣らなかった。

 つまり最高速度でも、加速力でも、勝ち目がない。

 

(これが、私と“天才”の差――!?)

 

 次の瞬間、彼女の鳶色の瞳はサクラバクシンオーの背を見ていなかった。

 

 彼女の瞳は、葦毛のウマ娘を映していた。2戦2勝で引退を余儀なくされた“天才”葦毛のウマ娘にして同門のタイドリームの背を、である。

 

 メイクデビュー、6バ身で自身に勝利したタイドリーム。

 2戦目では名門シンボリのウマ娘を容易く置き去りにして勝ったタイドリーム。

 “葦毛の天才”などと囁かれ始めていたタイドリーム。

「私の分まで頑張って」と目を腫らしながら言ってトレセン学園を去っていったタイドリーム。

 彼女が万難排して無事であったなら――いまここにいるのはこのタイトゥルスフルではない。

 

 本当だったらここにいるはずだった彼女の代わりに、私が走っている――。

 私が容易く負ければ、タイトゥルスフルの名も、タイドリームの名も残らない――。

 私が勝てば、重賞ウマ娘をかつて下したウマ娘として、タイドリームの名は残る――!

 

(……ッ!)

 

 彼女の心情など、外野にはわからない。

 ただ途端、タイトゥルスフルに速度が乗った。

 踏み出した彼女の足が、芝を、土を跳ね上げ、一文字に加速する。

 真実、この瞬間だけ、彼女は王の背を撃つ中山の疾風(ハヤテ)と化した。

 誰が言ったか、奇しくもタイドリームや歴代の強者たちが得意とする疾り(はしり)――ハヤテ一文字がここに完成する。

 

「逃げるサクラバクシンオー! タイトゥルスフルが上がってきた!」

 

 絶望的に思えた距離が、縮まっていく。

 

(勝つ!)

 

 吸いこんだ中山の空気を燃焼させて3バ身差。

 

(ドリームさんのために!)

 

 タイトゥルスフルの魂を燃やした末脚で2バ身差。

 

(――この重賞を、ふたりで!)

 

 タイドリームの願いを乗せた疾風(ハヤテ)が如き走りで1バ身差!

 

(ブルボンさんッ――!)

 

 が、サクラバクシンオーは迫る“ふたり”を、一瞥さえしなかった。

 傲慢たる王は、自身の勝利しか見ていない。

 そして未だに最高速度まで加速しきってもいなかった。

 

「サクラバクシンオーが、再び突き放す!」

 

 実況の言葉が、すべてだった。

 タイトゥルスフルの身体は、限界を迎えていた。

 にもかかわらずサクラバクシンオーは、その限界の先にあるスピードに悠々と到達し、一時は1/2バ身差にまで肉薄するタイトゥルスフルを引き剥がした。

 1バ身差を2バ身差に、2バ身差を3バ身差に。

 

「まだだ――」

 

 タイトゥルスフルはそれでも諦めない。

 が、彼女が諦めるよりも早く、決着の瞬間が訪れた。

 GⅢクリスタルカップの戦場は、あまりにも短かった。

 

「ごめん……ッ!」

 

 中山レース場に詰めかけたファンたちの多くが想像したとおり、驀進王が決勝線を最速で通過した。

 

「サクラバクシンオー、いまゴールっ! 1着サクラバクシンオー! 2着、タイトゥルスフルに3バ身以上の差をつけてゴールしましたっ!」

 

 敗者を顧みることすらせず、右拳を突き上げてウイニングランに移行するサクラバクシンオー。

 そしてあなたの隣で1分弱の攻防を見つめていたブルボンの蒼穹の瞳と、桃色の瞳が合った。

 その途端、サクラバクシンオーは立ち止まり、思い切り空気を吸いこんだ。

 

「ミホノブルボンさんッ!」

「……!」

 

 驀進王の大音声(だいおんじょう)が中山レース場を圧し、雑音や歓声や拍手のすべてを一瞬にして黙らせた。

 

「スプリングSでわかりましたッ! いまの未熟な私では、クラシック路線は無理そうですッ!」

 

「と、いうわけで! 私は短距離路線をバクシンしますッ!」

 

「なのでブルボンさんはッ――先に三冠、獲っちゃってくださいッ!」

 

「私は来年、秋シニア三冠を狙いたいと思いますッ!」

 

「では、また同じターフで相まみえる時まで、お互い別のターフでバクシンしましょうッ!」

 

 ああ、とあなたは思った。

 これもひとつの別れの形――。

 これもひとつの“想い”の継承の形か―、と。

 スプリングSはミホノブルボンにとって皐月賞出走を決める岐路だった。

 スプリングSは同様にサクラバクシンオーにとっても岐路だったということだ。

 

「わかりました、バクシンオーさん」

 

 ミホノブルボンの声は、なぜか中山レース場によく通った。

 

「私たちの共同ミッション“三冠ウマ娘”を必ずや達成いたします」

 

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