【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona) 作:河畑濤士
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「正体現したね。」とお思いになられるかもしれませんが……
ご笑覧いただければ幸いです。
次回は1週間以内の更新を予定しております。
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ウ マ 娘 税 である。
あなたは憤慨した。
ノースティリスの冒険者であるあなたからすると、この国の税制は異常に思えてならない。あらゆる場面で税が取り立てられる。所得税、住民税にはじまり、自動車にはウマ娘専用レーン整備税が、酒にはウイニングライブ応援税、たばこには全国ウマ娘レース場整備税がかかり――あなたが特に納得できなかったのは、物を購入する度に支払わなければならないウマ娘税であった。
あなたはウマキャラシールを収集するため、10万円分のウマむすパンを購入したつもりが、このウマ娘税のためになぜか1万円も余計に払うことになっていた。
あなたの金銭感覚は、日本人のそれとは大いに異なっている。手元に金があり、目の前に欲しいものがあれば迷わずに買う(手元に金がなければ窃盗する)。故にあなたからすればウマ娘税は目の上のたんこぶであった。
……さて。
いまあなたの目の前には、10万円分のウマむすパンがある。
「で、トレーナー君はなぜここで昼食を」
呆れ顔のシンボリルドルフ。
それに対してあなたは平然と、余ったら生徒会への差し入れにしようと思ったからね、と返事をした。
生徒会室の長机にできたウマむすパンの山――その一角からあなたは袋を早速ひとつ取った。袋には『スーパークリークのバターロールパン』という文字とともに、青い勝負服を着た少女が描かれている。入っているロールパンは5個、シールは2枚。パンを食べたあと、あなたはおまけのウマキャラシールを確認した。
――“ゴールドシチー(さつきしょうのすがた)”
――“ミスターシービー(てんのうしょうあきのすがた)”
あなたはこの2枚をファイルにしまうと、次のバターロールパンの袋を取った。
「しかし意外だ」
そのさまを自身のデスクからまじまじと見つめていたシンボリルドルフは、くすりと笑った。
「君にそのような趣味があるとはね」
あなたはシンボリルドルフを無視した。収集癖があるのは否定しない。ノースティリスではモンスターカードや剥製をよく集めていた。
――“サクラホシノオー(きっかしょうのすがた)”
――“シロノストーン(せんとらいときねんのすがた)”
……。
どうあがいても食べきれないと悟ったあなたは、数日前に知り合った大食いで知られる葦毛のウマ娘を呼び寄せ、昼休みいっぱいを使ってパンを開封し続けた。
しかしなかなか目当ての1枚が出ない。
むう、とあなたはうなった。
「ふむ、ところで君は何のシールが欲しいのかな」
シンボリルドルフは紫水晶の瞳をあなたに向けて言った。
あなたは特に隠し立てする必要もあるまい、と言って立ち上がるとシンボリルドルフのデスクの前までつかつかと歩み寄り、1冊のファイルを広げてみせた。
彼女は無言のまま、そのファイルに目を落とす。
“シンボリルドルフ(さつきしょうのすがた)”
“シンボリルドルフ(だーびーのすがた)”
“シンボリルドルフ(きっかしょうのすがた)”
“シンボリルドルフ(てんのうしょうはるのすがた)”
“シンボリルドルフ(じゃぱんかっぷのすがた)”
“シンボリルドルフ(ありまきねんのすがた)”
「なに……」
――欲しいのは、君だ!(魅力1919)
とあなたは言った。
途端、室内に居合わせた書記や会計の数名のウマ娘が、なぜか好奇が入り混じった悲鳴を上げた。
あと1枚が、そろわないのである。
七冠を獲ったシンボリルドルフのシールが7種類あることを、あなたはリサーチ済みであった。そして首尾よく6種類を集めたのだが、最後の1種類がどうしても出てこないのである。この最後の1枚というのがなかなかの曲者であり、あなたは揃えられないと気がすまないというか、なんだか気持ち悪くて仕方がなかった。
「……」
頬を赤くさせたシンボリルドルフは「安分守己……引き際をわきまえることだな」とだけ言って目を逸らした。
あなたは彼女の背後にある時計を見やり、むう、と再びうなった。
時間がない。もう昼休みは終わるではないか。
「なあ――この残っているパン、ぜんぶ食べていいか」
あなたの背後で葦毛のウマ娘は、まだ十数個残っている未開封のウマむすパンをちらちらと見ていた。
◇◆◇
この時期のトレセン学園の空気は、張り詰めている。
未勝利戦をなかなか勝ち上がれずにいるウマ娘たちはいよいよ“時間切れ”――夏・秋にはデビュー2年目のウマ娘の未勝利戦が打ち切られ、代わりに1年目・ジュニア級ウマ娘たちのメイクデビュー戦と未勝利戦が始まるのだ――を前にして焦り始め、Pre-OP戦を勝ち上がったウマ娘は重賞レースへの出走権を巡って一世一代の大勝負に臨む。そしてこれまでクラシック路線を戦ってきたウマ娘たちは、いよいよ日本ダービーやオークスを迎えようとしている。
――時間がない。
日本ダービー出走の決意を固めたライスシャワーもまた、焦っていた。自身のトレーナーにトレーニング量を増やしてもらったものの、これではミホノブルボンとの差は埋まらない。せいぜい現状維持であろう。
日本ダービーまであと1か月と少し。
距離が2000メートルから2400メートルに延長されるということで、「ミホノブルボンに挑戦するウマ娘たちにも分がある」というのがコメンテーターたちの異口同音に語るところであったが、ライスシャワーはそうは思っていない。
時間がないこと、そしてライスシャワーの心持ちが変わったことについては、ライスシャワーのトレーナーもまた感じていたようであり、「うむ、まかせるがよい」と尊大に言ったそのトレーナーはいろいろと奔走したらしい。
そして皐月賞の1週間後、ライスシャワーのトレーナーは不敵な笑みとともに中央トレセン学園で開発が完了していた新設備の前に彼女を導いた。
「残り1か月という客観的時間は変えようがない」
「……」
「しかし、だ。お前の主観的な時間ならばいくらでも引き延ばせる」
「何を――」
ライスシャワーの前にあるのは鋼鉄製の“棺”が3基。
そう。かの有名な、
ウ マ ネ ス ト である。
否、ウマネストではない。
これはVR機器を使うことで仮想空間にレース場を再現、そこで行ったトレーニングを現実の身体にフィードバックすることを可能とするウマレーター、そしてその一機能にすぎないウマネスト――その前身。レース場のみならず、その周辺にトレーニングに役立つ異世界を再現。しかも体験者の主観的時間を遅らせることで、より短時間で効率的なトレーニングを行うことを可能としている。
その名を、我々は知っている。
ウ マ エ ロ ナ である。
得体の知れない巨大なコンピュータに接続された鋼鉄の箱を前に、ライスシャワーはひるむ。この中に入って意識を預け、仮想空間でトレーニングをする――恐怖が先立つのは、当たり前だ。
その様子をみていたライスシャワーのトレーナーは、つまらなさそうに言った。
「案ずるな。勿論、理事長からの許可は得ている。だが、このウマエロナが課すトレーニングは、あまりにも過酷だ。お前にその覚悟はあるか」
「……」
「私が思うに、いまからダービーでミホノブルボンに対抗できるまでに鍛えるには、これしかない。ライスシャワー。お前に足りないのは闘志と根性、頭脳、レース勘だ。ダービーと菊花賞においては、身体能力は――あまり褒められた話ではないが、身体能力の差は“距離”で埋められる」
「……」
「どうする」
ライスシャワーは、思う。
次のダービーでは、勝ちたい。
――「やっぱり僕は――ライスシャワー選手ですね!」
――「半年ぶりのライスちゃんのセンター待ってるよ!」
――「ライスのねばり勝ちすごかったー」
勝てなくとも、ファンのみんなに恥じぬレースがしたい。
そのために、躊躇っている暇なんか、ない。
「ライスはやるよ――Uma Elona」
ライスシャワーの瞳が、炎を宿す。
闇を思わせる黒炎。相手を打ち倒すという覚悟滲む黒炎。
それが変容していく。黒炎が紫紺の炎となり、紫紺の炎が濃紺の炎となり――最後には
「ライスは、勝ちたいから!」
勝ち負けにあらず。
彼女が大歓声の中で戦う。
ヒールではなく、ヒーローとしてミホノブルボンと戦う。
これが世界の選択である。