【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona)   作:河畑濤士

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次回の■19.「失敗すれば、お前を殺す(仮題)」は1週間以内に投稿する予定です。

また一部キャラクターの独自設定があります。

ご了承ください。





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■18.「インターネットが、壊れました」

「ちゅ、中止ッ! 待て、心の準備が必要だッ!」

 

 何をいまさら、とあなたはつぶやいた。

 が、無理強いするつもりはない。

 ソファの上。あなたの膝に座った秋川やよいは自身の足先に視線を注いでいる。むむむむ、と数秒間うなると「よしッ」と決心の言葉を口にした。秋川やよいが膝を抱え直すとともに、あなたは背後から手を伸ばし、彼女の素足を左手で掴む。そして右手の爪切りを彼女の指先へ――。

 

「中断ッ!」

 

 はあ、とあなたは溜息をついた。

 秋川やよいの足の爪を切る。

 これ自体はいい。あなたはノースティリスにおける馬に、ウマ娘がよく似ていることに気づいている。そして飼育下にある馬の蹄は、もっぱら人間によって整えられる。当然ながら自分で蹄を削ることはできない。

 つまり、だ。自身の爪を自分で切ったり、整えたりすることが苦手なウマ娘がいても、決して不自然ではない。

 ところが秋川やよいに「依頼ッ! 爪を切ってほしいッ!」と言われてから、もうだいぶ経っている。彼女の部屋の壁にかけられた時計は、すでに22時を回っていた。

 

「時にッ、最近の彼女の調子はどうだ?」

 

 あなたはまた世間話かと思いながらも、ブルボンは好調だ、と返した。

 

「それは重畳ッ!」

 

 秋川やよいは背中を伸ばしたかと思うと、あなたに背を預けた。

 

「彼女には無事クラシック戦線を戦い抜いてもらわなくてはなッ!」

 

 それから彼女は遠慮がちに「できれば、今年度のジャパンカップにも出走してもらいたいものだ」とも言った。

 らしくない声のトーンに、あなたは小首をかしげた。

 国際招待競走・GⅠジャパンカップ――今年からは単なる招待競走ではなく“国際GⅠ”に指定されたレースである。

 あなたは数秒考えて、ああ、と思った。

 

――日本側の陣容を整えたい、ということか。

 

「然りッ!」

 

 国際招待競走として設けられたGⅠジャパンカップは、昨年度で第11回、今年度は第12回目の開催となるらしい。日本のウマ娘と海外のウマ娘が激突する一大決戦――といえば聞こえはいいが、現状では海外ウマ娘の草刈り場になっていた。

 

 現在、11戦2勝。

 

 第1回・第2回は米国出身ウマ娘が、第3回は愛国ウマ娘が勝利。

 3回とも掲示板の過半数を海外ウマ娘に占領されるという屈辱を日本側は味わった。

 海外ウマ娘に一蹴される日本ウマ娘――面子を潰された日本政府の檄もあり、URAは次こそは、と各陣営を回って“総力戦体制”の構築に臨んだ。

 

 三冠ウマ娘のミスターシービー。

 8戦8勝の無敗三冠ウマ娘シンボリルドルフ。

 桜花賞優勝・オークス2着・エリザベス女王杯3着という実績を、“天才”の下で残していたダイナミクスソロ――。

 

 そして第4回ジャパンカップは、10番人気に甘んじながらミスターシービーもシンボリルドルフも海外ウマ娘も引き離した日本ウマ娘・カツラキエイシスが優勝。

 第5回は第4回において3着となっていたシンボリルドルフが雪辱を遂げることに成功し、日本ウマ娘2連覇を果たした。

 

 だがその後、日本側は連敗を喫している。タマモクロス、オグリキャップ、スーパークリーク、ヤエノムテキ、メジロマックイーンを以てしても勝てず、今日に至る。

 あなたはナショナリズムからはかけ離れた思考の持ち主であり、勝ちウマ娘の国籍にさほど興味はない。

 が、ウマ娘に狂奔するこの日本国において、政府高官たちはそれほど優しくはない。「経済的・文化的・人的リソースを注ぎこまれるウマ娘の強さは、国力のバロメーターだ。国家の威信はウマ娘にかかっている」と豪語する国会議員までいるほどだ。

 

「胃が……」

 

 あなたの前で秋川やよいは弱音を吐いた。

 日本国内におけるウマ娘育成機関のトップ、中央トレセン学園の責任者をやるということは、海外ウマ娘に対する日本ウマ娘の優劣についても責任を問われる、ということであった。

 ウマ娘の幸福を第一に考える秋川やよいは、第二にいかにウマ娘たちを強くするかを考えている。未勝利のまま学園を去る弱いウマ娘を引き留めることはしないし、現行のシステムを改めるつもりもない。多少怪しいトレーニング方法やトレーニング器具であっても、効果が上がるのならば採り入れる。その典型例が“あなた”であり、Uma Elonaであった。

 

「あー肩揉んでくれ……」

 

 管理職の中年男性がごとき哀愁を漂わせはじめた彼女の肩を、あなたは揉みはじめた。

 それに気をよくしたのか、彼女はひとつふたつと愚痴を口にし始める。GⅠジャパンカップの面子を強制的に集められる権限をもっているわけではないのに、なぜ私が政治家連中に詰められなければならないのかだの、最近、学園内に不審者が出入りしているだの――。

 結局、爪はたっぷり1時間かけて切り終えた。

 

「うむッ、すっきりしたッ!」

 

 晴れやかな表情の彼女に、あなたは無表情でうなずく。

 そして次の瞬間、あなたは新しい仕事を与えられた。

 

「依頼ッ! 身体を洗ってほしいッ!」

 

 はあ、とあなたは溜息をついた。

 秋川やよいの身体を洗う。

 これ自体はいい。あなたはノースティリスにおける馬に、ウマ娘がよく似ていることに気づいている。そして飼育下にある馬の身体は、もっぱら人間によって洗われる。当然ながら自分で洗うことはできない。つまり、だ。身体を洗うことが苦手なウマ娘がいても、決して不自然ではないというわけだ。

 

 だがこのウマ娘は本当に自分で自分の身体を洗えないのだろうか。

 

◇◆◇

 

「はい。以前、スマートフォンでインターネットにアクセスしたところ、インターネットが壊れました」

 

「ああ。インターネットが壊れるのはよくあることだな。私もノートパソコンを借りたのだが、動かなくなってしまったことがある」

 

「はい。私も何もしていないのにもかかわらずインターネットが壊れた際は、どうやら世界中の情報通信システムが動かなくなったようです」

 

「それはすごいな」

 

 翌日、並び立つミホノブルボンと葦毛のウマ娘の傍らに立っていた。

 ウマむすパンの恩を返す――そう言って現れた黄色い髪飾りとトリコロールカラーの勝負服、そして氷原を映したような瞳のウマ娘と、ミホノブルボンの併走トレーニング。単なる併走だというのに、ターフの片隅には旭日帝都スポーツ記者・笛木衛を筆頭に、数十人規模のギャラリーができていた。

 

 日本中を夢中にさせたアイドルウマ娘の実力は、恐るべきものであった。理想のスタートダッシュを決めたミホノブルボン、その背中に彼女はピタリとつけた。トゥインクル・シリーズからドリームトロフィーリーグに活躍の場を移し、全盛期はとっくに終わった、と評されているのが嘘のようである。

 目下のライバル、マチカネタンホイザが再びマーク戦法に打って出る可能性は十分ある。そこであなたはウマ娘とのつながり――人によってはこれを友情と称する――を活かし、ミホノブルボンに自分の走りに徹するトレーニングを積ませるつもりであった。

 

 併走トレーニングが終わり、日が落ちかけているターフ。ミホノブルボンはクールダウンをしている。あなたは葦毛のウマ娘に礼を言った。すると彼女はふるふる、と首を横に振った。

 

「いや。さっきも言ったとおりだ。これはウマむすパンの恩だ。それからウマむすパンのことで困っていたらまた呼んでほしい。私は食べる量には自信がある」

 

 ああ、頼むとあなたはうなずいた。

 ウマむすパンだけではない。まだまだウマ娘チップスやウマ娘トゥインクルクラシックグミなど、彼女の力が必要になってくるだろう。

 その旨を伝えると、彼女は「ああ、任せてくれ」と力強くうなずいてくれた。

 

 さて。

 

「マスター、少しよろしいでしょうか」

 

 日が沈み、引き上げる道すがら。

 あなたの横を歩くミホノブルボンが切り出した。

 

「日本ダービーは運のあるウマ娘が勝つといわれているレースです」

 

 あなたはそうらしいな、と相槌を打った。

 横目でブルボンを一瞥すると、目が合った。

 そのブルボンの向こう側では、オウカアースオーが走りこみをしているのが見えた。

 

「よってお守りの入手と運勢上昇のトレーニングを希望します」

 

 どこまでも大真面目な彼女の言に、あなたはうなずいた。学園のベテラントレーナーならば一笑してそれで終わりだろうが、あなたは運勢の存在を信じている。しかし運勢だけは、なかなか狙って鍛えられるものでもない。

 そこであなたはブルボンに左手を出すように言った。

 

「……」

 

 あなたは右手の小指につけていた指輪を抜き取った。あなたはこの指輪をつけてネフィアの迷宮・レシマスに臨み、そのあとの冒険もまた、あなたはこれとともにあった。そしてあなたは無表情のまま待つ彼女の左手をとると、使う機会が最も少ないであろう彼女の薬指にそれをつけた。

 

――★《パルミア・プライド》。

 

 パルミア王家に伝わる貴重な品だ。このミスリル製の指輪は、混沌や地獄、暗黒への耐性をもたらすだけではなく、言い伝えでは運勢を上昇させるという。真偽はともかく、パルミアを襲った核攻撃でも無事であったのだから、ゲン担ぎにはいいだろう。

 

「マスター……」

 

 ミホノブルボンは数秒、押し黙った。

 それから壊れたように、高速で言葉を吐きはじめた。

 

「ステータス『驚き』、続けて『喜び』。内部ストレージが限界値に達しています。パラメータ『語彙力』の急激な低下を確認。本機(わたし)は壊れました」

 

 壊れてもらっては困る、とあなたは言った。

 

――ミホノブルボン、勝利を約束してほしい。

 

 あなたの言葉に、彼女はうなずいた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 ミホノブルボンが襲撃を受けたのは、その夜のことであった。

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