【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona)   作:河畑濤士

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社畜の連勤術師です。

次回更新は11月30日(水)を予定しております。





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■26.「バクシン模範アンサー!」

 ミホノブルボンは、夢をみていた。

 ここではないどこか。

 そして、ずっと、昔――。

 

 鬱蒼と茂った森の中を、鳶色の外套を被った男が走っている。息は荒い。泥を跳ね上げ、木の根に足をとられながら、懸命に道なき道を突き進む。腰の剣は、抜かれてすらいない。背嚢には折れた剣や、クズ石、割れたつぼといったガラクタが詰まっている。

 その背中を追うのは、赤い瞳をぎらつかせた灰色の怪物。血を吸って変色した棍棒片手に、男の体臭を嗅ぎわけて追跡していく。

 一定の距離を保った追いかけっこ。僅かに男の方が速い。

 

 が、男は急に右方向へ横跳びして、方向転換して木々の合間を駆け始める。

 その2、3秒後、男がいた空間に頭ほどの大きさのある石が飛来する。

 男は足が鈍ることを覚悟の上で、草木が密集する場所へ飛びこんだ。そこへ再びの投石。彼の脇に立っていた木の幹が、抉れて木っ端を撒き散らす。

 舌打ちさえ惜しい。

 石を放ってくるのは、狂気に囚われた大道芸人。

 距離を詰めて殺すことは可能だが、大道芸人とコボルトに挟撃されれば勝ち目はない。

 男はいま、逃げ切りを図るほかなかった。

 

 なんとか生きながらえて王都パルミアに戻り、運よくガラクタを求める依頼を達成した男は、謝礼として数日分の食費となる現金と神々しく光る白銀のコインを得た。

 ……弱小冒険者の奮闘の対価は、これほどにまで安い。

 男は八つ当たり気味に街路樹を蹴り、落ちてきたリンゴを口にした。

 その数分後、胃の中身が逆流し、王都の石畳に胃液とともにぶちまけられる。

 

 懇意にしているパン屋が試食用として出しているスティックパンで飢えをしのいだ男は翌日、森の中に彷徨うモンスターを駆除する依頼の只中にいた。

 ベテラン冒険者からすれば、野良道で叩き合っている喧嘩のようなものだろうが、彼らは必死である。

 男は巨大な殻をかぶったやどかりに蹴りを入れて転がし、一方的に剣を叩きつける。

 そこに頭巾を被った小人が駆けてくる。ナイフを腰だめに構え、体当たりの要領で突っこんでくるゴブリン――その刃先を男は紙一重で躱しながら足を引っかけて彼を転倒させ、その背中に剣の切っ先を突き立てた。

 返り血を浴びながら、息を吐く。

 その隙を衝いて、藪から突き出される槍の穂先。今度は躱せない。イークが繰り出した錆びた槍の一撃は、男の腰を確かに捉えた。が、整備の行き届いていない槍は、彼の粗末な腰当さえ突き通すことができず、長棒の先端から穂先が抜けてしまう。

 男は怒りの声とともに、剣を突き出してイークの首を刎ね飛ばした。

 続けてやどかりに致命傷を与えた男は、再び大道芸人の狂った笑い声を耳にした。

 

 返り血とともに帰還した男に対する報酬は、パン数個が買えるかどうかという現金と、役に立たない鈍器、そして神々しく光るプラチナコインであった。

 男は懇意にしているパン屋でいちばん安いパンを買い求めて腹を満たすと、プラチナコインを収めた小袋を大事そうに抱えて、王都のトレイナーを訪ねた。

 幾度も死線をくぐり、貯めたプラチナコイン15枚を渡すことで、彼はようやくトレイナーから詠唱のスキルを学べたのである。

 

「……!」

 

 そこでミホノブルボンは覚醒し、小首をかしげた。

 夢の中に出てきた“冒険者”は、どこか“マスター”に似ていた。

 

(……より強さを求めるのであれば、他者から学ぶことが必要、でしょうか)

 

◇◆◇

 

――ひとりで強くなったわけではない。

 

 あなたは先日のUma Elonaの一件で、駆け出し冒険者だった頃のことを思い出した。詠唱も、読書も、暗記も――いまあなたが熟達しているスキルの多くは、トレイナーから学んだものだ。そしてそこに至るまでに無数の悪意と出逢ったが、無論、他者に助けられることもなくはなかった。

 ライスシャワーからの感謝の言葉と、地団駄を踏む葦毛のウマ娘を背に、トレーナー室に戻ったあなたは新たな方針を立てた。最強のステイヤー、その片鱗を見せるライスシャワーに対して、才で劣るミホノブルボンが菊花賞で勝利を収めるには、その差を他者から学んだスキルで埋めるほかない。

 しかしウマ娘の“スキル”について、あなたは何も知らない。

 というよりも“スキル”というものがこの世界に存在しているのかどうかさえ、あなたは――というよりこの世界の誰もが知らなかった。

 

「そこで全生徒の模範となる学級委員長であるこの私に声がかかった、というわけですねッ!」

 

 夕刻、トレーニングを早めに切り上げるウマ娘の中で、ブルボンを伴ってあなたが声をかけたのはサクラバクシンオーであった。

 理由は単純で、引き揚げてくるウマ娘の中で、あなたとブルボン共通の知己が彼女しかいなかったためだ。よくよく考えればサクラバクシンオーは、1400m以下の短距離戦でしか勝利経験がない典型的なスプリンターであり、今回の話には不向きかもしれない。が、あなたは謙虚でもあった。あなたよりもウマ娘の方がレースに対する理解は深いであろうし、サクラバクシンオーは名門の出身だ。個人でもっている知識も、人脈も、自身よりも広いであろうと思い直した。

 

「なるほどなるほどッ――」

 

 あなたは正直に現状を打ち明けると、臙脂のジャージ姿で彼女は一回転してポーズを決めた。

 

「バクシン模範アンサー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ぎょっとする周囲をあなたは無視し、同時にサクラバクシンオーもまた周囲を無視したまま高笑いをしてからアドバイスを口にした。

 

「心配することはありませんよ! 菊花賞3000mとはイコールッ! 1000m×3ッ!」

 

「つまり3回連続の短距離レースッ! 1000m戦ならスプリンターであるミホノブルボンさんが負けることは絶対ありませんッ!」

 

「ありがとうございます、バクシンオーさん。菊花賞とはつまり、1000m×3の短距離レース。情報を内部ストレージに保存しました」

 

 ……。

 その夜、あなたは笛木衛に相談を持ちかけた。

 さすがに1000m×3のアドバイスを本気で参考にはできない。どちらかといえば、サクラバクシンオーのバクシン模範アンサーは、あなたとブルボンが置かれている現状・課題を端的に表現していた。

 

「確かに、ミホノブルボンさんの交友関係を洗ってみると、長距離レースに向けた併走トレーニングは難しい印象を受けますね」

 

 居酒屋の個室に詰めるのは、あなたと笛木衛、そして笛木衛から紹介された、驀進王・世界王のトレーナーの大田勝(謹慎中)である。

 

「同室は桜花賞のニシノフラワーさん、友人はサクラバクシンオーさん。マチカネタンホイザさんや中距離レースで好走しているカワサンキセキさんに協力をお願いするのは難しいでしょう」

「確かに最初の一冠を狙える中・長距離ウマ娘は渋るだろ……。シニア級のウマ娘と交流がないのが痛い」

 

 笛木衛と大田勝の言葉に、あなたは素直にうなずいた。

 あなたもブルボンも交友関係は狭い。ウマ娘の友人はほとんどがクラシック級のウマ娘だ。しかも親友といえるのは、スプリンター・マイラーのウマ娘。そしてクラシック戦線に名乗りを上げている、同世代の中距離ウマ娘に協力を乞うことは難しかろう。

 そう考えると先輩の胸を借りるしかないが、キャリア3年目以上(いわゆるシニア級)のウマ娘の知己といえばシンボリルドルフくらいしかいない。彼女も生徒会長であり、多忙の身であるから、甘えきるわけにもいかないだろう。

 

 しばしの沈黙。

 

 それを断ち切ったのは、大田勝であった。

 

「いや、バクシンオーの言葉ももっぱら間違いではないかもしれない」

「ええ……子煩悩ならぬ担当ウマ娘煩悩ですか」

「違う違う」

 

 笛木衛のツッコミに大田勝は大袈裟に手を振った。

 

「ウマ娘のレースはスタートがふたつある、としたら?」

「“回ってきてよーいドン”、ですか」

 

 “回ってきてよーいドン”、とはウマ娘のレースを少々揶揄したような言葉である。

 レーススタートは形式にすぎない。中盤までは有利・不利を決める位置どり争いに過ぎず、コース終盤からが真のスタート。結局のところ一斉にスパートをかける最終直線の前後こそが、レースの本質である、という考え方だ。

 

「ステイヤーのペースに張り合うんじゃなくて、自分の身体能力と折り合いをつけてレースを進めるんだ。そして最後の“短距離”で決着をつける。スタミナ勝負ではなくて、瞬発力勝負にする」

 

――ミホノブルボンに合った経済速度でコースを回ってきて、終盤でスタートダッシュ・ラストスパートをかける。

 

 大田勝の見出した勝ち目は、あなたにとっては大博打のように聞こえた。なにせそれは、状況によってはミホノブルボンが得意としてきた逃げ戦法を棄て、先行あるいは差し切り態勢で勝負することになるからだ。

 そんなあなたの不安をよそに、大田勝は自信満々に言った。

 

「このやり方を鍛える時間はある。それにこの戦術を採用するなら、ウチのバクシンオーも協力できる」

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