【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona)   作:河畑濤士

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次回更新は12月4日(日)あるいは12月5日(月)を予定しております。





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■27.「サポカ編成は9枚でいい(謙虚)」

 夜闇を斬り裂くライトが照らすターフに立つあなたの前を、ひとりのウマ娘が駆け抜けていった。ミホノブルボン。痛む心肺と、悲鳴を上げるトモを無視し、タイムに追われるように疾走を続け、彼女は1800メートル地点を望む位置にまで達した。

 そこに立っているのはクラシック級最強スプリンターとの呼び声名高い、サクラバクシンオーである。

 

(この状態からバクシンオーさんに勝つ――!)

 

 ブルボンは動揺する視界の中で、その瞬間(とき)を待つバクシンオーの背中を睨んだ。

 そして数秒後、ミホノブルボンとサクラバクシンオーは揃って走り始める。この時点では両者ともに経済速度――そして残り500メートルで両者は“真のスタート”を切った。

 瞬発力勝負。

 サクラバクシンオーは凄まじい加速力で先頭に立つ。

 対するミホノブルボンもまた、巡航速度からスプリンターとしての瞬発力でトップスピードに至ろうとする。が、すでに彼女は2500メートルを走っており、スタミナは底を尽き始めている。それでも、食らいつく。消耗を抑えてコースを回り、最終直線での瞬発力勝負に賭ける。

 

(バクシンオーさんに勝てれば、菊花賞にも勝てる)

 

 しかしながら、差はみるみると開いていった。

 

「3、4バ身差、ってところか。まあ最初にしては上々じゃないか」

 

 あなたの横に立っている大田勝は、そう評した。

 彼があなたに提案したトレーニングは、GⅠ菊花賞を想定したサクラバクシンオーとの併走トレーニングであった。ただし、サクラバクシンオーは残り1200メートル付近から併走を開始する。そして最後の500メートルで両者ともにスパートをかける――という寸法だ。要は終盤までロスなく走る練習をさせ、消耗した状態での瞬発力を鍛えようというのである。

 

「それにもしも本当に“スキル”ってのがあるなら、サクラバクシンオーから盗めるものもあるだろう」

 

 あなたは無言のうちに肯定した。菊花賞を1000m×3と考え、最後の1000mからが真のスタートと捉えるならば、すなわち菊花賞は短距離レース。サクラバクシンオーとの併走は、ベストではないが悪い選択肢ではない。

 

「ま、この併走、ウチのバクちゃんにはあまりメリットがないかもしれんけど、アースオーがいろいろと世話になったみたいだし、その恩返しってことで」

 

 あなたの横で大田勝は無意識のうちに胸ポケットからセッターを取り出し、火を点けようとする――が、ライターを持った右手は虚空で動かなくなった。

 

「学内禁煙ですよ、大田トレーナー」

 

 彼の右手首を掴んでいるのは、いつの間にか背後に立っていた駿川たづなであった。笑顔の下には、明確な苛立ちがある。大田勝は黙ったまま、左指に挟んだセッターを再び胸ポケットにしまった。

 

「いいんですか、謹慎中のあなたがここにいて」

 

「あそこのオヤジは甘いからな。“お願いしますッ! 友人の手助けをしたいんですッ! それからトレーナーさんをッ!”とバクシンオーに言わせれば一発よ」

 

「もう……そうやって物事を軽んじていると、いつか痛い目に遭いますよ」

 

 お互いに知己らしい駿川たづなと大田勝の会話がやんだところで、あなたは特に考えることもなく、彼女にミホノブルボンのGⅠ菊花賞挑戦に対するアドバイスを求めた。彼女もまたウマ娘ならば、なにがしか有用な話が出てくるかもしれない、とあなたは思ったからである。

 

 途端、大田勝が「あー」と気まずそうに声を上げた。

 が、対照的に駿川たづなは微笑みながらはっきりと言った。

 

「私は日本ダービーまでで、菊花賞に挑戦したことがありませんので。だからこそミホノブルボンさんやライスシャワーさん、菊花賞に出走されるウマ娘の皆さんのことを応援したいですね。あとミホノブルボンさんのトレーナーさん、こちら……夏季合宿の申込用紙をお渡ししておきます」

 

 ……。

 その夜、あなたはトレーナー室で理事長がくれた資料映像を視聴していた。記録が残っているすべての年度の皐月賞・日本ダービー・菊花賞を見て、何か掴めることがあればと考えたのである。1レースあたり数分で済むが、気になるところがあれば繰り返し視聴するため、徹夜となった。が、ノースティリスの冒険者は、数日ならば寝ずとも問題がない。

 

「日本ダービー最後の直線、ミスパーフェクトがトップであります!」

「内のミスパーフェクトに、猛然と外からイッキカセイが襲いかかります!」

「後続が追いこんでまいりました! が、先頭はミスパーフェクトであります! ミスパーフェクト先頭! ミスパーフェクト、先頭のままゴールインッ!」

「場内大歓声、パーフェクトコールが巻き起っ……なんということでしょう! ターフに、ウィナーズサークルに、ファンが雪崩れこんで参りました!」

 

 教訓を得るために視聴をしていたはずなのに、昼間のこともあってか、強く印象に残ったレースは駿川たづなが出走していた日本ダービー戦となってしまった。

 ウマ娘としての名前は、“ミスパーフェクト”。

 戦績は10戦10勝。日本ダービーで勝利を収めて無敗二冠の栄誉を勝ち獲るも、故障のために即日引退。

 

 あなたは窓の外の朝日を眺めながら、やはりウマ娘の故障は多いと実感した。ミスパーフェクトのように脚部不安を抱えたまま出走して身体的に大きなダメ―ジを受ける場合もあれば、ノルトパフォーマーのように精神面が保たない場合もある。

 あなたは外の空気を吸うために、ふらりと外に出た。

 トレーナー棟の周囲を歩き、校舎裏を回って、校門の近くまでやってくる。

 

「あ」

 

 そこであなたは、キャリーケースとともに校門から出て行こうとする葦毛のウマ娘とばったり出くわした。

 アタゴペトリウス、とあなたが声をかけると、向こうは憮然とした表情で目線を逸らした。

 

「ちっ、ミホのんのトレーナーか」

 

 あなたはアタゴペトリウスが曳くキャリーケースの大きさと、彼女が制服ではなく“摩耶山”と大書されているシャツを着ていることから、大方の事情を察した。夏、中央トレセン学園を去るウマ娘は、少なくない。

 もの言いたげなあなたの視線に気づいたのか、アタゴペトリウスは溜息をついてから再び口を開いた。

 

「なんかつまんないんだよね。レースも、トレーニングも……」

 

「わかっちゃうっていうか。たぶんこのあと私、勝てない。ミホのんにも、おコメちゃんにも。あー、たぶん、マッチにも」

 

「勝てなかったら、トレーナーさんとか、周りの人も見てくれないし。トレーニングする意味ないしね。ちゃんと勉強して、まあ、経験を活かしてトレーナーでも目指してみようかなって」

 

 最後の一言を、あなたは聞き逃さなかった。

 故にあなたは即座に切り出した。

 

――だったら、ブルボンのトレーニングを手助けしてくれ。

 

「え、もう転入手続き――」

 

 と、アタゴペトリウスは言いかけて、無言のまま横にずれた。

 同時にあなたもまた、横にずれる。

 

「ちょいちょい、ちょいちょいちょーい!」

 

 その1秒後、アタゴペトリウスと、あなたの合間に白い影が滑りこんできた。

 

「物事にはよぉ……順番ってもんがあるだろうが! まずこのゴールドシップ様に声をかけろっての! なんだなんだお前らぁ、もしかして唐揚げを揚げてから、レモンを苗から育てるタイプかぁ~!?」

 

「……」

 

 事務関係は理事長に捻じこんでなんとかする、とあなたはアタゴペトリウスに答えた。

 交渉のスキルを有しているあなたは、そこから一気にトークを畳みかける。

 結局のところ制度やルールがあってもそれを運用しているのは人間だ。将来、トレーナーをやりたいなら、いまから普通科高校に転入するよりも、トレセン学園に残ってサポーターとしてアピールの材料を作りつつ、人脈を強化した方がいい。そうあなたは説いた。

 

「それとも魚を焼いてから醤油を作るタイプか~!? いまから野田に行くかオラァん!?」

 

「人脈、かぁ~」

 

「ホラホラホラホラこっち見ろよ! こうみえても銚子や焼津じゃ、かなり顔が知れてるんだぜ!」

 

――同世代最速の上りタイムを誇る君が、私とブルボンには必要だ。

 

「よっしゃあああああああ! それじゃ早速、囲碁サッカーで“友情トレーニング”といくかぁあああああああああああ!」

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