【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona)   作:河畑濤士

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次回更新は1週間以内を予定しております。
次話の作中時間はもう9月あるいは10月となるかもしれません。



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■29.「毎日にんじんを焼くのはいいが、きゃろうっとか(過労とか)には気をつけた方がいい。キャロットだけに」

――ブルボン、無敗三冠へ!「菊花賞も逃げ」

 

 旭日帝都スポーツの一面記事に、あなたは満足げに頷いた。

 日本ダービーの決勝線に飛びこんだ瞬間のミホノブルボンの写真をバックに、“逃げ”の大活字が躍っている。内容はあなたの期待どおり、菊花賞もまたミホノブルボンは逃げる、というものだった。記事を執筆したのは笛木衛だが、末尾の署名は旭日帝都スポーツ編集部となっている。これでいい。

 11月8日の菊花賞当日、ブルボンが死力を尽くせば勝てると思うほど、あなたは楽天家ではない。

 故の、盤外戦術である。

 あなたはブルボンに先団・中団から最先頭を差し切らせるという戦術は、最後まで秘匿しておきたかった。奇襲効果を最大限に活かし、ライスシャワーを出し抜くため、である。

 故に基礎的なトレーニングは中央トレセン学園内で、“ミホノブルボン陣営”に属するウマ娘との併走トレーニングは、外部施設で行う。日本国内は公道にウマ娘専用レーンが設けられ、ウマ娘税を導入しているウマ娘先進国であり、探せばいくらでもターフがある。こうした施設を借りるための軍資金は、ブルボンに支払われる商品・広告使用料だ。もちろん、本人と彼女の両親から許可を得た上で使っている。

 

「マスター、フィードバックをお願いいたします」

「スピードが不足しているみたいですね。スピードを重点的に鍛えましょう」

 

 芝を彷彿とさせる緑地に、漆黒の三本線が奔る勝負服を着た駿川たづなの姿でブルボンの朝練習に付き合い、午前の授業に向かう彼女を見送った後、あなたは“次の仕事”に取り掛かりはじめた。

 向かうのは秋川やよいのコネクションでURAから借り受けたキッチンカーだ。

 あなたはこの2週間、連日で“ミホノブルボン陣営”とともにCyraces製にんじんBBQセットでバーベキューを行ってきたが、陣営ウマ娘たちもさすがに飽きてきたらしい。その代わりに葦毛の大食ウマ娘を筆頭に、他のウマ娘たちがバーベキューに参加するようになり、シンボリルドルフからは「どうやら君は焼きにんじん屋と勘違いされているみたいだ。先程、通りがかったウマ娘たちが、“きょうも焼きにんじん屋に寄ってきゃえろっと!”とはしゃいでいたよ(“帰ろっと”と“キャロット”をかけた超絶激ウマギャグ)」と言われる始末。

 だが逆にいえば、これは新たなウマ娘と出会い、交流を深めるチャンスでもある。

 故にあなたは開き直って焼きにんじん屋に転身したのだった。

 

 そしてきょう、あなたは新メニューを出すつもりであった。

 あなたが用意してきたのは黄色いのぼり。端っこにはファンシーなみつばちがプリントされている。大概のウマ娘が甘いものとにんじんが好きなことはリサーチ済み。故にあなたが繰り出したのは、

 

――焼  き  は  ち  み  ー  である。

 

 といってもあなたが使用している高級蜂蜜はほんの少量であり、大部分は砂糖――つまりべっこうあめであった。

 

「えええええええ!? 焼きはちみーっ!?」

 

 あなたの狙いどおり昼休みになるとともに、焼きにんじん屋は繁盛した。ありがたいことに最初に通りがかったウマ娘が、大声を張り上げて驚いてくれたので注目が集まったのである。

 

「わーい、ありがとー! でもはちみーソムリエのワガハイを満足させることはできるかなー!?」

 

 白い流星とポニーテールが印象的なそのウマ娘は、セグウェイに乗っていた。クラシック戦線のレースをすべて見たあなたは、右耳につけた飾りと、髪を結ぶピンクのリボンをよく覚えていた。

 

「?」

 

 だからあなたは御礼と激励をかねて、焼きはちみーを受け渡す際に癒しの手を詠唱した。

 

 その午後、あなたに来客があった。

 

「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

 

 あなたのトレーナー室を訪ねてきたのは月刊トゥインクルの記者、乙名史悦子である。

 1週間前に中央トレセン学園を通して取材の依頼があったのだ。情報戦でライバルを出し抜こうと考えているあなたにとっては渡りに船、といったところであり、即座に快諾したのであった。

 

「菊花賞に向けての意気込みをお願いします!」

 

「素晴らしいです! ミホノブルボンさんのトレーナーとしてではなく、ブルボンさんの人生を支えるパートナーとしての覚悟が伝わってきました!」

 

「では続いての質問になりますが、菊花賞もハナを奪っていくおつもりでしょうか!?」

 

「やはりですか! 戦術についてはブルボンさんにすべてを委ねると! もはやおふたりには言葉は要らない――これはもう信頼関係というレベルを超越して以心伝心、比翼連理といったところでしょうか!」

 

「菊花賞に向け、現時点で気になっているライバルをずばり! お願いします!」

 

 そこであなたは舌も筆も乗りに乗っている乙名史悦子を前に一瞬考えてから、再び口を開いた。

 あなたは正直に、最大の強敵となるのはライスシャワーでしょう、と告白した。

 続いて口に出したのはマチカネタンホイザである。巷ではブルボンとマチカネタンホイザの格づけは済んだことになっているが、実際のところはわからない。なにせ菊花賞3000mという距離は、同世代のクラシック級ウマ娘の誰もが走ったことがない未知の舞台。彼女の頑健さと根性は、あなたも認めるところである。

 そして最後に口にしたのは、キョウソウガンナーの名であった。

 

「キョウソウガンナーさん、ですか」

 

 乙名史悦子は少し意外そうな表情をしたが、あなたは迷いなくうなずいた。

 

 エンターオキナワから聞いた菊花賞を目指しているキョウソウガンナーというウマ娘を、あなたはちゃんとマークしていた。

 群青の四本線が入った桃色のドレスという派手な勝負服に、黄色い耳カバー。鹿毛のロングヘアを後ろで束ねて走る。得意とするのは早々にハナを奪っての逃げ、あるいは2番手の最先団でのレース運びだ。6戦4勝2敗、その2敗を喫したレースの位置取りはいずれも中団であった。

 つまり菊花賞に出てくればブルボンとかち合うことになる――少なくとも周囲はそう考えるはずであった。

 そして実力も着実につけてきている。エンターオキナワから聞いたときはPre-OPを3勝しただけのウマ娘だったが、数日前にGⅢファルコンステークス(1800m)を優勝し、重賞ウイナーとなっていた。

 これで菊花賞の前哨戦となるGⅡ級のレースで好走するようであれば、ライスシャワー、マチカネタンホイザに続く第3の強敵となろう。

 しかも急速に台頭してきたウマ娘であるため、収集しているデータが少ないことが気がかりであった。

 

 あとはカワサンキセキやニジノドラゴンオーがどれくらいこの夏で力を伸ばしてくるかが気になるところだ、とあなたは言った。

 

「す、す、すごいです!」と盛り上がる乙名史悦子は何やら興奮した調子で何やらまくしたてていたが、あなたは無表情を貫いた。内心では、うまくいったと思っている。逃げウマ娘であるキョウソウガンナーを警戒しているそぶりを見せることで、周囲に「やはりブルボンは逃げる」と強く印象づけることができるだろう。

 

「では最後に、生涯をともにするパートナーであるミホノブルボンさんにメッセージをお願いします!」

 

「な、な、なんと!? トレーナーさんとブルボンさんが共に夢を追うことは、ブルボンさんのご両親もご公認だったんですね!? そして無敗三冠を獲った暁には――!」

 

 驚愕する乙名史悦子に対して、あなたは小首をかしげた。

 あなたは単に、子どもの頃からの夢を一緒にかなえよう、そして絶対に菊花賞を獲ってご両親に報告に行こう、という旨を言っただけである。

 

「今度の菊花賞は、誰が勝っても荒れる! ブルボンさんが勝ったら――あぁウイニングライブがウエディングライブにっ!?」

 

「こうしてはいられませんっ、すぐに記事にしなければ! それでは失礼いたします! ありがとうございましたっ!」

 

 あなたが取りつく島もなく、彼女はバタバタとトレーナー室を出て行ってしまった。

 まあいいか、とあなたは思った。相手はプロであるし、最終的に編集部がチェックするのだから、奇妙な内容にはならないはずだ。キョウソウガンナーを利用した情報戦はうまくいくだろう。

 

 故に、次号の月刊トゥインクルが発売されるとともに、あなたは愕然とした。

 

「菊花賞のトロフィーを、婚約届にします!」

 

 見開きぶち抜きの大活字。

 肝心かなめのキョウソウガンナーの話は、ページの端に数行書いてあるだけで、スペースの過半は話した覚えのない惚気話となっていた。これでは逃げウマ娘・キョウソウガンナーを意識しているという他陣営・読者に与える印象は、大幅に漸減されてしまうではないか。

 あなたが乙名史悦子に憤慨していると、あなたのスマートフォンが連続して鳴り出した。

 着信履歴はミホノブルボンの父であったり、秋川やよいであったりした。

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