【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona) 作:河畑濤士
◇◆◇
ミホノブルボンは、夢をみていた。
ここではないどこか。
そして、ずっと、昔――。
「バカな選択をしたね」
冒険者は、おそらく金で雇われたのであろう盗賊団の用心棒からかけられた言葉に返事をせず、頭上にアイスボールを完成させた。
自身を取り囲んで勝利を確信していた愚かな盗賊団どもを一瞬で氷の彫像に変えると、殺し屋が放つ拳銃弾を無視してひたすらに駆ける。
その行く手に立ち塞がるのは、有象無象の雑魚ども――その向こうに見える王都パルミアの城壁は、未だ遠い。
囲みを破った冒険者を前に呆然としているエレアの魔術師を破壊し、その悲鳴さえ置き去りにして走る彼の前に現れたのは、大上段に長剣を構えた銀髪の斬殺者であった。
「ついてこれるか?」
冒険者は舌打ちをした。
いまの自分と銀髪の斬殺者――実力は拮抗している。気を抜けば殺されるだろう。
斬りかからんとする銀髪の斬殺者の一挙手一投足を、冒険者は注視した。
大上段から放たれる彼女の必殺の一撃を受け止めることはできない。
十分に練られた気迫とともに放たれた斬撃を、冒険者は半身になって躱す――躱しながら下段から斬り上げて彼女を殺そうと試みた。
が、その前に銀髪の斬殺者は振り下ろした剣先を翻して、冒険者の剣戟を防いでみせた。
「オマエの負けだ」
「……」
「ノエルの依頼をなぜ請けなかった?」
冒険者は再び舌打ちをした。
――あたしね、たくさんの人が苦しむ姿を想像するととても興奮するの。
――パルミアの宿屋のぬいぐるみが置かれている部屋に、爆弾をしかけなさい。
――ねえ、核爆弾買う? 金貨12000枚よ。
パルミアの都を核攻撃する――あのテロリストの誘いを断った時点で、こうなることは予見できたはずだった。なぜ考えなかったのか。自分が依頼を請けなければ、他の者が依頼を請け、核爆弾を王都パルミアに仕掛けるだろう、と。
冒険者は後ろに跳び退りながらライトニングボルトを銀髪の斬殺者に浴びせ、麻痺の隙を衝いて状況を打開しようとした。
次の瞬間、遠目に破滅の光が一閃した。
「……」
火球、放射線、爆風が、王宮を瓦礫に、街路樹を灰燼に、人々を骸に変えた。
人々の営みが、塵となって消えていく。むしろ苦痛もなく死ねた者は幸いであっただろう。通りという通りには、全身に火傷を負った市民や貴族たちがのたうち回っている。あるいは虫の息で、転がっている。
上昇気流が都民の墓標を作り出した。死都と化したパルミアを、黒々とした雲柱が俯瞰して嘲笑った。
「……」
冒険者はライトニングボルトを連射して銀髪の斬殺者を感電死させると、無感情に立ち尽くした。
王都パルミアは復興するだろう。
どうせ多くの人々も這い上がる。
だが中には“這い上がれない”者もいる。
――おれもいつかぼーけんしゃになって、世界をみてまわる!
そう宣言してはしゃいでいた城下街の子どもは、たぶん復興する新しい王都パルミアには存在しないだろう。
「……!」
そこでミホノブルボンは覚醒し、小首をかしげた。
夢の中に出てきた“冒険者”は、どこか“マスター”に似ていた。
「ステータス……『怒り』……?」
そして“冒険者”は、怒っていた。
王都を守れなかった、自分のエゴを突き通せなかった、自分自身の弱さに、である。
◇◆◇
あなたは朝練から引き揚げていくウマ娘を横目に、日課となった畑の手入れをしていた。
あなたは日々トレーニングに励むトレセン学園のウマ娘たちを、好ましく思っている。
口でどうと言っていても、彼女たちは自身の弱さを自覚し、課題を克服するためにひたむきに努力する姿は尊いと感じる。
かつてのあなたにも同じように、一心不乱に強さを追い求める時期があった。
残念ながら、その理由は忘れてしまったが――。
「君」
あなたはハーブの種を埋めていると、声をかけられた。
あなたが顔を上げると、そこにはトレセン学園の制服に身を包んだひとりのウマ娘が立っている。白い“流星”と右耳の水晶めいたアクセサリーが印象的な彼女に、あなたはどこかでお会いしましたか、と聞き返した。いきなりウマ娘に“君”と呼びかけられたので、以前も話をしたことがあったか、と思ったのである。あなたは彼女に見覚えがなかった。
「君が私を知らなくとも、私は君を知っている――困っていてね」
あなたは小首をかしげた。
対する彼女は薄い笑みを浮かべた。
「ひとりのウマ娘が先日、人間相手の模擬レースに負けたらしい。そしていま彼女は、まさに狂瀾怒濤――というべきかな、荒れ狂っている。常識から逸脱した量のトレーニングに臨んでいる。最悪の場合、怪我をするかもしれない。君は、どう思う?」
あなたは再び小首をかしげた。
どう思う、とはどういうことだろう。
そのウマ娘に対してどうするか、ということだろうか?
あなたはよくわからないまま、どうも思わない、どうもしない、と口にした。
「どうも思わない、どうもしない、とは、ウマ娘を教え導く立場であるトレーナーとして、いささか無責任なように聞こえるが、どうだろう」
あなたは、紫水晶の瞳を睨んだ。
ウマ娘のレースは優勝劣敗。敗北して気落ちしているならともかく、次なる勝利のために足掻くウマ娘の何が悪かろう。
私は這い上がる努力をしている者を、止めることはできない。
私は這い上がろうとするウマ娘を応援するだろう。
惜しむらくは、私はミホノブルボンのトレーナーだから、他のウマ娘には助力できないが。
「……成程」
目の前のウマ娘は予想しない回答が返ってきたのか、少し難しい顔をしてから、ふっと表情を緩めた。
「君がミホノブルボンのトレーナーなら、君は敵に塩を送ったことになるかもしれないな。いやさしずめ、塩を投げつけた、といったところか」
あなたは会話が噛みあっていない、と思った。
清掃人でもあるまいし、あなたにはかたつむりに塩を投げつける趣味はない。
一応、塩は持っているが……。
「いや“塩”は比喩だよ。真剣に受け取らないでほしい。そんなにエンエンと考えられると、こちらが困ってしまう」
あなたが“塩”と“エン”をかけた激ウマギャグを理解できないまま沈黙していると、ウマ娘はこほんと咳払いをした。
「人間に負けたウマ娘は、狂乱の中で間違いなく力をつけている。ミホノブルボン相手に勝ち負けする域にまで達しようとしていると、私はみている」
あなたはうなずいた。
マイル戦線にしてもクラシック戦線にしても、来年の重賞・GⅠにコマを進めるであろうウマ娘が集まる前哨戦に強者が現れることは、歓迎こそすれ困ることはない。
「さて。そろそろ授業が始まるから、最後にしたいが――同じ“頂点”を目指す者として、君に頼みがある。できればあまりその力を振りかざさないようにしてもらいたい。本校には君を見て、奮起するウマ娘もいれば、委縮するウマ娘もいる」
あなたは曖昧にうなずいた。
あなたは憎しみに支配されているため、いかなる状況でも約束を守れるとは限らない。
ただでさえ喧嘩を売られれば、高く買うのが王族から一冒険者に至るまでの“道徳”だ。
だがそういう声があるのならば、己を律するのも必要か。
少なくとも自分から吹っかけるのは避けるべきだろう。
「話が早くて助かるよ」
……あなたのそのあたりの感情の機微を、目の前のウマ娘は理解したらしい。
「それよりも君の“男装”は完璧だな。君の趣味はなんだ?」
趣味はないがハーモニカやピアノ演奏が得意だ、と答えようとしたあなたを、ウマ娘は手で制した。
「ダンス? そう(無関心)」
“男装”と“ダンス、そう”をかけた激ウマギャグに気づかないあなたは、私は男装をしていないし、ダンスも趣味ではない、と抗議した。
「すまない。まだ私も修練不足、といったところか。だが君も徐々に表舞台に出ることもあるだろう、君は高度な男装が趣味のウマ娘、ということで通したほうがいいときもある。よく覚えておいてほしいものだ」
成程、とあなたは理解した。
あなたも朧気ながら、この世界では人間がウマ娘にレースで勝つことはあまり一般的ではない事象だということを分かり始めていたからだ。
「よろしい。ところで、男装の趣味は、週ぅー3日、というのはどうだろう」
“趣味”と“しゅーみ”っかをかけた高度な激ウマギャグに、あなたは気づかず小首をかしげた。
目の前のウマ娘は愕然とした様子で、がっくりと肩を落とした。
◇◆◇
このシンボリルドルフの冗談のレベルはこれ以上の……
進歩要る?どう?……うふっ(一人笑い)w
うん……「シンボリルドルフ」と「進歩要る?どう?うふっw」
ふふっ会心の出来だ。
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