【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona)   作:河畑濤士

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秋川やよい理事長は樫本理子の過去をかなり確信をもって語っていたことも鑑みて成人済みの設定をとらせていただきます。
ご了承ください。





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■6.「待ってたよ、お姉ちゃん♪」

「マスター。インシデント“朝日杯FS・祝勝会”の実施、ありがとうございます」

 

 あなたは礼を言うミホノブルボンにうなずくと、トレーナー室の狭いキッチンで調理した料理を、彼女の目の前に並べた。ニンジンハンバーグとその付け合わせ、山菜のサラダ、鶏の卵入りスープ、ライス、ブドウのフルーツサラダ――。

 

「以前から差し入れをいただいて気づいてはいたつもりですが、マスターは料理が得意なのですね」

 

 ミホノブルボンは無表情のまま、そう口にした。

 目は口ほどに物を言う、とはよく言ったもので彼女の青い瞳は“意外だ”と言っている。

 対するあなたはにやりと笑った。

 料理が得意な冒険者は少なくないし、あなたも料理スキルを相当鍛えている。

 それに留まらず、あなたはミホノブルボンの担当になってから、ウマ娘が好むものについて勉強もしていた。

 食べられる料理ならそれはもう一流、おいしい料理は超一流、楽しめる料理が究極、というのが料理スキルを極めたあなたの持論であり、周辺で入手できる水や油の質や、調味料、野菜の味、日本人が好む味つけも分析済みであった。

 彼女はナイフとフォークを手に取ると、まるで伝統工芸品でも扱うかの手つきでハンバーグを切り分け、肉汁あふれるそれを口に運んだ。

 

「……っ!」

 

 味はどう、と聞いたあなたに、目を白黒させているブルボンは感想を述べた。

 

「レポートを出力します。ハンバーグの味が口の中に広がり、おいしいです。ステータス『幸福』。それに伴い、パラメータ『語彙力』の急激な低下を確認」

 

 語彙力が失われるほどの美味、とは料理スキルを有する冒険者にとっては最大の賛辞であろう。

 あなたは珍しく気をよくして、必要なら昼食の弁当も作ろうか、とブルボンに提案した。

 

「是非。……いえ、しかしそれはマスターにご迷惑をかけると判断します」

 

 気にするな、とあなたは首を振り――忘れないうちに、と先に話しておかなければいけないことを口にした。

 次走について、である。

 あなたはブルボンの次走を1800m戦、GⅡスプリングステークスに定めている。1600m以遠の距離で勝負できるかの試金石としては勿論だが、3着以内であればGⅠ皐月賞への優先出走権が与えられることも大きい。戦績でいえば確実にGⅠ皐月賞には出走できるだろうが、過去には日本ダービー等に重賞ウイナーにもかかわらず登録ウマ娘の都合で出走できなかったケースもあることをあなたは知っていた。

 

「目標の更新。GⅡスプリングステークスの勝利」

 

 ブルボンは強くうなずいた。

 GⅡスプリングステークスは皐月賞の前哨戦としてよく知られており、クラシック三冠を目指す彼女の希望に沿うものであったからだ。

 その後、あなたとブルボンは淡々と食事をしながら、ひとつ、ふたつと会話を交わした。

 ブルボンは父の話を、あなたは自身の冒険話を。

 それから先日、とあるウマ娘――後に知ったが生徒会長のシンボリルドルフというらしい――に「男装をしていることにしろ」と言われたことを話した。

 

「マスターは私の夢を応援してくださるその言動のみならず、生物学的にも私の父に似ています。よってカバーストーリー“男装・真の姿はウマ娘”は無理があります」

 

 ブルボンの言葉に、あなたはうなずいた。

 が、うなずきながら、あなたはそういえばインコグニート――つまり変装の魔法があったな、と思い当たった。普段あまり使わないのですっかり忘れていた。詠唱可能回数を確認すると、かなり余裕があった。

 

◇◆◇

 

「なんだ君は――転入生、かな?」

 

 翌朝、生徒会室の前に佇んでいるウマ娘に、シンボリルドルフは声をかけた。

 鮮やかな緑髪のツインテールとネコに似た耳――右耳には黄色い飾りがついている。

 纏う制服はトレセン学園のそれだが、シンボリルドルフは小首をかしげた。見覚えがないのである。彼女は一度見た顔は絶対に忘れないという特技を有している。故に、見覚えがない、というのが不思議で仕方がなかったのだ。

 すると、緑髪の少女は薄い笑いを浮かべて、

 

「あっ♪ 待ってたよ、お姉ちゃーん♪」

 

 と声を上げた。

 

「……迷子かな?」

「えーっ♪ お姉ちゃん、忘れちゃったの♪ なんで?」

 

 次の瞬間、緑髪の少女は笑顔を顔面いっぱいに張りつけて、

 

「ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?ナンデ?」

 

 と、詰め寄ってきた。

 

「ッ!」

 

 シンボリルドルフは自身が気押されていることに気づいたが、さりとて彼女は無敗三冠の皇帝。

 一歩も後ずさりすることなく、むしろ一歩踏み出して緑髪の少女との距離を詰めると「私と君は初対面のはずだ」ときっぱりと言い放った。

 すると緑髪の少女は、えへへ、と舌を出す。

 

「あっ♪ やっぱりばれちゃった♪ どう、このウマ娘の姿は♪」

「……もしかして」

 

 シンボリルドルフは驚きとともに納得した。

 成程、ウマ娘を容易に下す人間ならば、この程度のこと造作もないのかもしれない。

 

「ミホノブルボンのトレーナーか」

「うん♪ でもいまはみんなの妹だよっ♪ 名前はねー、うん、かなり妹、カナリイモウトだよっ♪」

「身長も縮んでいるようにみえるし、声色まで変えるとは驚きだな。心臓に――いや、ハートに悪いよ、はぁーっと思うほどだ」

「でしょ? でしょーっ♪」

 

 こほん、とシンボリルドルフは咳払いをした。

 

「先日はミホノブルボンの朝日杯FS、優勝おめでとう」

 

「まーね♪ ブルボンお姉ちゃんのことがわかってないお兄ちゃんのクソムシどもがまだいろいろと言ってたみたいだけど、次のスプリングステークス、皐月賞と勝ち上がればそんなお兄ちゃんたちも黙るかなーって♪ まあ本当はいまから乗り込んでいってお兄ちゃんのクソムシ全員を皆殺しにしてやってもいいんだけどね♪」

 

「なに……」

 

「ブルボンお姉ちゃんとわたしの夢を否定する奴はユルサナイよっ♪ でも殺しすぎると“ブルボンお姉ちゃんに否定的な人間が全員不審死していく”みたいな感じになっちゃうからねえー♪ お兄ちゃんのクソムシを一匹二匹潰すくらいにしておこっかな♪」

 

 無邪気に笑う“妹”を見て、シンボリルドルフはぞっとした。

 

「……それが本当の君か?」

「まさかーっ♪ いまは思考を妹に寄せてるだけだよっ♪ 変装は外見も思考も寄せないとバレちゃうんだよーっ♪」

「そこまで“妹”という存在に成り切るとは、それはもう……いのうと言えるかもしれないな(※“妹”と“異能と”をかけている)」

「……」

「……」

「……自然にダジャレを織り交ぜてくるのも立派な異能だよ♪」

 

 こほん、とシンボリルドルフは咳払いをした。

 それを見た“妹”はごめんね、とけらけら笑った。

 

「でもよかったーっ♪ お姉ちゃんからみて完璧な変装ってことは、他の人間やウマ娘からみても、赤の他人にしか見えないってことだからねっ♪ ねえ、この国のガードってどれくらい優秀なのかなーっ♪ 試してみたいなーっ♪」

 

 さて。

 

「ブルボンお姉ちゃん、その調子っ♪ だよっ♪」

「はい、マスター」

 

 “妹”の格好をしたあなたは、そのままミホノブルボンのトレーニングに合流した。

 あなたの説明をブルボンは疑うことなく“妹”の格好をしたあなたを相手に格闘を開始した。

 それがまずかった。

 傍目からみれば、ブルボンが小柄なウマ娘であるあなたを殴打しているようにしか見えなかったろう。

 

「あわわわわわわ! ぼっ、暴力はんたーいっ!」

 

 突然、ひとりのウマ娘が走りこんできた。

 よりにもよって、あなたを庇うように、ブルボンとあなたの合間に立ち塞がる。

 ブルボンが右拳を引き、腰を使い、全力の突きを繰り出そうとした瞬間に、である。

 あなたはブルボンが放った鉄拳がウマ娘の胸部に突き刺さり、肋骨を粉砕し、内臓を破壊する未来を幻視し、速やかに動いた。

 その瞬間、インコグニートの魔法が解ける。

 男性の姿に戻ったあなたは彼女を抱きしめてくるりと回転――背中をブルボンに向ける。

 

 *どすっ*

 

 とブルボンのパンチがあなたの背中に突き刺さったが、当然のごとくあなたは無傷。

 そしてあなたが抱いたウマ娘も、当然のごとく無傷である。

 

「えっ、えーっ!?」

 

 あなたのことをブルボンのパンチから守ろうとしたウマ娘――マチカネタンホイザはなぜか自分が守られていることに気づいて、驚きの声を上げた。

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