【完結】あなたはノースティリスの冒険者ではない。(ウマ娘×Elona)   作:河畑濤士

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以下は拙作における目覚まし時計の設定です。

① ゴール後・確定ランプの点灯から、記念撮影が始まるまでの時間において使用可能。レース開始前に時間が巻き戻る(※レース当日の朝ではない)。イメージとしてはウマ娘がパドックに登場する前、戦法の変更を指示する余裕があるくらいの時間に巻き戻る。しかし、原作同様に新しいスキルを覚える時間はない。

② 使用者は使用前の記憶を引き継いでいるため、レース展開を念頭においた戦法の変更や指示をウマ娘に出すことができる。一方でウマ娘は使用前の記憶を引き継いではおらず、レースによる疲労の蓄積や精神的疲弊、身体能力の向上、コンディションの向上もない。他のトレーナー、ウマ娘、観客も同様に記憶を引き継がない。仮に2名以上のトレーナーが目覚まし時計を所持していた場合は、先に使ったトレーナーだけが記憶を引き継げる。

③ 使用回数制限はない。レース場に持ち込んだ目覚まし時計の数だけ時間の巻き戻しが行える。使用した目覚まし時計は、時間を巻き戻した瞬間に消滅する。

④ 冒険者はテレポートやアイテムエンチャントの時止めなどを経験している影響で、他者が目覚まし時計を使用した場合でも記憶を引き継ぎ、時間の巻き戻りを経験する。

⑤ レース場外で使用しても効果はない。

⑥ 目覚まし時計の力に気づいているのは、信野トレーナーと引退済トレーナーの2名のみである。

原作とは相違点が多いのですが、作劇の都合です。ご了承ください。





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■7.「それは“願い”の魔法か?」

「すみません……うちのマチカネタンホイザがご迷惑をおかけしまして」

 

 ターフの片隅で、あなたに対して平謝りしているのは、マチカネタンホイザのトレーナーであった。線が細い若い男性で、名前を信野英一郎というらしい。同じくタンホイザも「世紀の勘違いでしたっ!」と頭を下げている。

 あなたは、鷹揚にうなずいた。誰も怪我をしていないのだから、問題はない。

 

「おマチも注意しような」

「……は、反省です」

 

 橙の瞳をもつウマ娘は涙目で「ずびばぜん゛でじだぁ~」と重ねて謝るものだから、あなたも手で制しつつ、次はレースで会おう、と告げた。

 信野トレーナーは、そこでハッと何かに気づいた表情をした。

 

「先日の朝日杯FSは優勝おめでとうございました」

 

 あなたはうなずいた。朝日杯FSにはマチカネタンホイザも出走していたのをあなたは覚えている。

 “1回目”は4着だったが“2回目”は3着だったはずだ。

 彼女もクラシック戦線に乗りこんでくるのであれば、侮れない敵になるだろう。

 

 この際だ、とあなたは彼に問うた。

 やはりマチカネタンホイザもクラシック競走に出走するのか、と。

 

「もちのぉおおお……ろんですっ!」

 

 信野トレーナーが口を開く前に、マチカネタンホイザが右拳を突き上げながら勢いよく答えた。

 

「三冠ウマ娘って、すっごいキラキラしてますもんっ!」

「そ、そうだな……。と、マチカネタンホイザも皐月賞、日本ダービー、菊花賞への出走を目標にしています」

 

 成程、とあなたは頷いた。

 そうなればレース前に時間を巻き戻すあの魔法(?)には、注意が必要になるだろう。

 

 あなたは時間が巻き戻る直前に、目覚まし時計のようなベルが若い男性――つまり信野トレーナーのカバンから鳴っていたことを覚えていた。

 あなたが知っている限りでは時間を巻き戻す魔法やスキル、技能に心当たりはない。

 しかしながら推論はできる。

 アイテムのエンチャントには時を止めるものがある以上、同様に時を巻き戻すエンチャントが存在してもおかしくない。あるいは魔法だ。可能性があるとすれば、願いの魔法だ。あなたは時間の巻き戻しを願ったことがないためわからないが、願いの女神なら案外叶えてしまうかもしれない。

 

 久しぶりの“未知”との遭遇に、あなたは少しわくわくしていた。

 故にあなたは信野トレーナーに重ねて質問した。

 

 あの時間の巻き戻しは、どうやったのか。

 魔法ならマチカネタンホイザがやったのか、それとも君がやったのか、と。

 

 え、と呆けるマチカネタンホイザ。

 一方の信野トレーナーはぎょっとした表情をしてから、慌てたように

 

「な、なんのことでしょう」

 

 と言ってから、このあとミーティングをしますので、とマチカネタンホイザを引っ張っていった。

 その背中に、あなたは冷たい視線を送った。

 やはり切り札、容易には教えてくれないか――と落胆する前に、あなたは決意した。

 

 不法侵入である。

 

 あなたは怪しまれないようにブルボンとのトレーニングを再開し、それを早めに切り上げると、即座にトレーナー棟へ向かった。部屋割を確認して信野に宛がわれたトレーナー室の位置を頭に叩きこむと、あなたは人気がない廊下で再びインコグニートの魔法を唱えた。今度はノースティリスの一般市民のような姿に化ける。これなら万が一目撃されたとしても、外国人にしか見えないであろう。

 そしてあなたは早足で信野のトレーナー室に向かった。

 

 あなたに一切迷いはない。

 ここからは時間との戦いだ。

 ドアの向こう側に人の気配がないことを確かめると、ロックピックで施錠を一瞬で解く。新しく扉を生成してもよかったが、後処理が面倒臭かった。

 中に入ったあなたはドアの鍵をかけ直すことなく、周囲を見回した。

 

 あなたは舌打ちをする。

 信野のものと思われるデスクの上には、何も出ていない。

 ファイルやバインダー、書籍といったものはすべて棚にある。

 整理整頓されている――下手に動かすと事が露見しそうだ、とあなたは思った。

 

 壁には「がんばれマチタン!三冠だ!」と大書してある横断幕がかけられ、ホワイトボードには様々な作戦が書いてあったが、あなたはそれに興味を示さなかった。棚を一瞥して溜息をつく。棚からは魔法書が発する雰囲気というか、魔力の残滓のようなものを、あなたは感じなかった。

 

 次にデスクの引き出しをひとつひとつ改めたが、こちらも空振り。

 しかしながらあなたはすぐにデスクの下――信野が座れば、足下になるであろう空間にダンボールが置かれていることに気がついた。

 その中には、複数個の目覚まし時計が入っている。

 これか、とあなたはひとりごちた。そのうちのひとつを取り上げてみると、確かに魔力というか、妙な雰囲気を感じた。おそらくこれが望んだものだ。

 あなたはそれを懐にしまった。

 

 その次の瞬間、金属音が響いた。

 鍵がこすれる音、そして鍵が閉まった音、である。

 

「あれ? おかしいな……ん、閉まった? 鍵、開けっぱなしにしてた?」

 

 あなたは慌てることなく窓から人影のない裏庭へ飛び出し、静かに窓を閉めた。

 

 その5秒後、鍵が開いて信野トレーナーが部屋に入ってきたが、彼は異変に気づかなかった。目覚まし時計もダンボールに入っているもの以外にも床下の収納スペースにも隠されており、本人も実は正確な数を把握しているわけではないので、1個減っていても気づかない。

 

 インコグニートの効果が切れるのを待ち、正面玄関からトレーナー棟に入り直したあなたは自身のトレーナー室で目覚まし時計をためつすがめつしたが、一見すると何の変哲もない目覚まし時計にしか見えなかった。あなたの鑑定眼を以てしても、である。

 そのためあなたは、この世界で最も頼りがいのあるペット――ではなく、知人を頼ろうと思い立った。

 

「祝賀ッ! 朝日杯FS優勝、おめでとうッ!」

 

 その夜、あなたは秋川やよいと寿司屋にいた。

 どうやらここは著名人が密談、密会の類で使うお店であるらしく、本当はあなたのような無名かつ一見の人間が入れるような場所ではないらしいが、秋川やよいの連れ、ということであればなんら問題はないようだった。

 

「乾杯ッ!」

 

 掘りごたつ式の個室。

 あなたの目の前で秋川やよい(成人)は、食前酒として運ばれてきた日本酒に口をつけた。

 あなたもそれに合わせて、御猪口を口元へ運ぶ。しかし、舐める程度だ。あなたは酔いが回りやすい性質――というよりもイルヴァの民はアルコールに弱い傾向がある。

 いや、酔っぱらってもいいのだが、本題を切り出すまではダメだとあなたは考えた。

 

「さあっ! いつものように飲むがいいッ!」

 

 あなたは首を振った。

 隠し立てするつもりもない、とあなたは思い、

 

――大切な話を、きょうはしたい。

 

 と切り出した。

 

「驚愕ッ――!」

 

 何を勘違いしているのか、目を白黒させている彼女。

 あなたは無言のまま、懐から目覚まし時計を出した。

 そして包み隠さず――あなたが信野トレーナーから目覚まし時計を窃盗したことを除いて――すべてを話した。

 すると秋川やよいは、困惑顔をした。

 

「疑問ッ! それはトレセン学園の購買で過去に売られていたウマ娘用の目覚まし時計だッ!」

 

 あなたこそ小首をかしげた。

 時間を巻き戻すほどのアイテムが、平然と購買部で売られていたというのか。

 そんなあなたの疑問を感じ取ってか、秋川やよいは慌てて言葉を続けた。

 

「それは本当にただの目覚まし時計であって、時間を巻き戻すことなど不可能ッ! 私はメーカーも知っているが、ごく普通の一企業にすぎないッ!」

 

 あなたは彼女の澄んだ空色の瞳を見つめた。

 彼女が嘘をついている様子はない。

 いわくウマ娘用二つ折り携帯長電話やスマートフォンが普及したことで、アラーム機能を目覚ましに使うウマ娘が多くなり、目覚まし時計の売れ行きは悪くなり、いまでは生産が打ち切られた商品だとか。

 ちなみに目覚まし時計を製造していたメーカーは倒産したわけではなく、いまではトレーナー用のメガホンやアンクルウェイト、三色ペンライトといった商品を開発・製造しているらしい。

 つまり彼女からすれば、目覚まし時計はウマ娘たちが自室で使うための何の変哲もない日用品にすぎない、というわけだ。

 

 最後に秋川やよいは、いや、と言い淀んだ。

 

「君を信じていないわけではないが……その……もし……本当にレースの結果が出たあとに、本当に時間が巻き戻るのだとしても、使用したトレーナーと君だけがそれを知ることができるのだとしたら、第三者が科学的に検証することは難しいッ!」

 

 成程、とあなたはひとりごちる。

 

 ノースティリスでエンチャントの時止めなどを経験したことで、時間の操作に対し、ある種の耐性めいたものを有しているかもしれないあなたが“イレギュラー”だったとする。

 そうなれば“イレギュラー”のあなた以外に時間の巻き戻りを知覚できるのは、目覚まし時計を使ったトレーナーのみ、なのだろう。

 そうでなければ、いまごろ大騒ぎになっているはずだ。

 一方で彼の担当ウマ娘であるマチカネタンホイザは、時間が巻き戻ったことに、まったく気づいている様子がなかった(彼女は嘘を突き通したり、感情を隠し通したりできるタイプではない、とあなたはみている)。

 つまり時間が巻き戻ったという事実を、あなたを除いた第三者が確認することは困難である、ということだ。

 

「一応、それとなくメーカーには探りを入れてみるが……」

 

 と、秋川やよいは言ってくれたが、あなたはURAに対策を求めているわけではない。

 ただ単なる好奇心から目覚まし時計の秘密を暴きたかっただけなのだ。

 極端な話、謎なら謎でも一向に構わないのである。

 

「美味ッ!」

 

 そのあとはあなたは運ばれてきた寿司を口にした。秋川やよいと雑談をしたり、アルコールが回ってきた彼女の仕事の愚痴を聞いたりしているうちに、夜も更けていく。

 その後、食事も終わり、話がひと段落。

 これで解散、という空気になったとき彼女は「驚愕ッ!」とわざとらしく叫んだ。

 そして、

 

「もうこんな時間だとはッ!」

 

「きょうはもう遅いッ! トレーナー室に戻るのも大変だろうッ!」

 

「私の部屋に泊まるといいッ!」

 

 と畳みかけるように提案してきたので、あなたはこくりと頷いた。

 あなたもきょうはトレーナー室の寝袋ではなく、久しぶりに秋川やよいのふかふかベッドで寝たいと思っていたところだったから、渡りに船であった。

 しかし彼女はだいぶ酔ったらしい。

 

「愉快ッ! トレセン学園理事長である私と、にんじん栽培マスターにしてスターウマ娘を育ててくれるであろう君が合わさり最強にみえるッ!」

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