桜花を纏ってあなたを見つめる   作:イスカリオテのバカ

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 こんなクソ小説よりもスレのほうが面白いよ

 あと桜の年齢が合わないって言う人は『登場人物は全て18歳以上です』という言葉を思い出してください


#000|[冬の桜]

 桜の季節がやってきた。

 

 けれど、共に見たいと願った彼女は居ない。

 

 もう二度と隣を歩くことはできない。

 

 

 ___たとえ、聖杯の力を借りたとしても。

 

 

**********************

 

 

 ふと、目が覚めた。

 立て付けが悪い扉が開く音が部屋に響く。

 カーテンで遮られていた光が開かれた扉から漏れ、部屋中を照らす。

 

「___っ」

 

 光に慣れていない目が無意識に細められる。

 

「サクラ、おはようございます」

 

 かけられた声に応えるように、ようやく意識も覚醒する。

 

「……おはよう、ライダー」

 

「よく眠れましたか?」

 

「うん……よく寢れた…と思う」

 

 その長身に似合ったカジュアルな服装に身を包み、柔らかな瞳をメガネ越しに映す女性の問いに答える。

 頭をもたげると、視界の端に紫色の髪がチラついた。

 決して染料を使って染め上げた訳ではなく、望まぬ形で変色していった髪はいつまで経っても慣れることはなかった。

 

「私は先に今に行きます。支度が済み次第サクラも来てください」

 

「わかった。ありがとう、ライダー」

 

 ライダーと呼ばれた女性は何も言わずに部屋を後にした。

 ……改めて、眠気を飛ばすためにカーテンと窓を開けて冬の寒気を迎え入れる。

 びゅうびゅうと吹く北風が肌を突き刺すように刺激する。

 完全に目を覚ましたところで、しっかりと髪の手入れや着替えを済ませてからライダーの待つ居間へと足を運ぶ。

 

「ごめんねライダー。すぐにご飯用意するから」

 

「気にしないで下さい。それより、たまには私が作ります」

 

 エプロンを着けたライダーが手で制す。

 珍しい事だった。普段から台所に立つなんてことのなかった彼女が、自分を差し置いて料理をすると申し出た。

 

「そう? なら、今日はライダーに任せようかな」

 

「はい。サクラは座っていてください」

 

 お言葉に甘えてソファへと体を預ける。

 すでにライダーは料理に着手するために居間を後にしている。

 寝起きで気怠い体には、高級感溢れる間桐家のソファはベッドと遜色ない心地よさを兼ね備えていた。

 ライダーの料理が終わるまで、この心地よい惰性に身を委ねていたい。

 

「ああ、()()()___」

 

 無意識のうちに抱いた、自分らしからぬ思いに嫌気がさす。

 このままではダメだと、ライダーの料理ができるまでに身なりを整えておく。

 

 洗面所で顔を洗う。

 長い髪にブラシを通して、髪を整える。

 冷たい水は、根強く残っていた僅かな眠気さえも洗い流していった。

 

「リボン……あった」

 

 視線の先にあったリボンを手に取り、整えた髪を結う。

 これだけは無くせない。無くすことを考えたくもないほどに大切な宝物。

 間桐桜という人間にとって数少ない幸せな思い出の手がかり。

 それを身にまとって初めて、間桐桜の一日は始まるのだ。

 

「サクラ、ここに居ましたか。朝食が出来上がりましたよ」

 

「ありがとうライダー。水を拭き取ったらすぐ行くね」

 

 ひょっこりと洗面所の扉から顔を出したライダーに返事をしながら、水回りに散った水を雑巾で拭き取る。

 古めかしい間桐の館は、外見相応に内装も荘厳な作りになっていて、汚れが残ろうものなら目立つのだ。

 念入りに拭き取り終え、使った雑巾を洗濯かごに放り込んでリビングへ向かう。

 

 

 

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

 私とライダー、二人で手を合わせて静かに食事を始める。

 本日の朝食はシンプルな鮭の照り焼き、味噌汁と大根の漬物。

 

 黙々と箸を進めながらチラリとライダーに目を向ける。

 こうやって静かに暮らせる日常より前、()()()()の頃と比べればライダーの箸の扱いは見違えるほどに上達していた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末様でした」

 

 今度は二人で食器を片付けてから、私は登校の支度をする。

 今頃暖炉の前で暖を取っているであろライダーを思いながら、部屋に吊るしてある穂群原学園の制服の袖を通す。

 白く透き通った肌、メリハリのある体型はこの一年でワイシャツを若干窮屈にさせるまでに成長していた。

 

「____」

 

 そんな自分の体に意識を向けた事に、私は言いようのない不快感に苛まれた。

 

「ッ……」

 

 逃げるように部屋を抜けて、気がつけば門の外に立っていた。

 怖気のような感覚を鎮めながら門を閉めてから登校する。

 

 間桐の家の周りには間桐の治める土地の瘴気を気味悪がってか、他の住居はない。騒音問題に発展しない利点と、近所付き合いが疎かになる弱点が両立する土地だ。

 

 ふと、ライダーに家を出ることを伝え忘れたことを思い出す。

 

「はぁ…毎回この調子じゃ困るなあ……」

 

 身に走る不快感に苛まれる度に、こうして間桐の敷地を抜け出した。

 

 冬木の街を一望できる坂を降りながら、ガードレールの向こうを見つめる。

 何時からだっただろう。この坂を上り下りする度に足にいらない力が籠もるようになったのは。激しい運動をした訳でもないのに、この時期はよく息が切れる。

 

 気がつけば、穂群原学園の正門前に着いていた。

 まばらに登校する他の生徒に倣って、三年の下駄箱を目指す。

 

 あれから数ヶ月、三年生としてそれなりに過ごしてきたけれど終ぞ馴れる何てことはなかった。

 

「あっ!おはよう間桐さん」

 

 正面玄関を通った瞬間、背後から呼びかける声が聞こえた。

 

「おはようございます。確か今朝は……」

 

「そうそう、アタシ丁度日直だったからさ。珍しく間桐さんと同じ時間だったわけ」

 

 サイドテールで纏めた淡い茶髪が特徴的なクラスメイトと並んで教室へ向かう。

 扉を開けば人がチラホラと居る教室の全貌が確認できて、また新しく一日が始まるのだなと実感できた。

 

 日誌を取りに職員室へ向かったクラスメイトと別れ、自分の席に荷物を置いてから改めて周りを見渡す。

 この数カ月で見慣れた顔ぶれは、こちらの存在に気がつくと笑顔で挨拶を交わしてきた。

 

 当たり障りないように挨拶を返してから、私は窓の外をぼーっと見つめる。

 

 曇天の隙間から覗く太陽が、なんだか酷く滑稽に見えた。

 

 本当なら日々の生活で活力を与えてくれる存在の筈なのに、灰色の雲に囲まれながら漏れ出す無色透明な光は、まるで「自分はここに居る、誰かそれに気が付いて」と訴えてるように思えた。

 

 そこで漸く、普段の自分なら考えないはずの思考に至った理由にたどり着いた。

 

 ___なんだ、私と同じなんだ。

 

 間桐桜という個人で語る事でもないが、誰もが他人に囲まれて生きている。

 それが良いか悪いかは関係ない。個人を確立するには自分とは違う誰かと比べなければならないからだ。

 

 だけれど、その事実には矛盾が生じる。

 自らを確立するには他人が必要不可欠。でも心のどこかで比べれる事に苦痛を感じている。

 

 滑稽この上ないじゃないか。自らが招いた種が育った末に、伸びた蔓で首を絞めあげるなんて。

 

 そう思うと、間桐桜という皮を被った『何者』かはあの太陽と同じだった。

 雲は太陽がなければ発生しない。間桐桜という何者かも、誰かの犠牲がなければ存在できなかった。

 

 ___いったい何方が滑稽なのだろう。

 

 思考の沼に深まっていくに連れ、内側から良くない感情が溢れていくのに気がついた。

 

「……さん、間桐さん」

 

「___え?」

 

 気がつけば、鼻が触れ合いそうな距離に顔を近づけたクラスメイトが心配そうな顔で見つめてきていた。

 

「顔色が悪そうだっから声を掛けたんだけど、保健室に行ったほうが良いんじゃないかなって思って」

 

「あっ、ごめんなさい。でも大丈夫なので」

 

「そう? まぁ何かあったら声掛けてよ。これでも一応は保健委員だからね」

 

 ひらひらと掌を翻しながらその場をあとにするクラスメイトを見つめつつ、暗い感情がどこかに吹き飛んだことを感じた。

 

 そうだ、こんな人目のつくような場所で自分の世界に入り浸ってはいけない。

 ()()()との約束もあるし、なにより自身への戒めがそれを許さない。

 

「全員席につけー。SHRはじめるぞ」

 

 担任の先生がやってきた。

 元気はつらつな訳でもなければ、気怠い雰囲気を醸し出している訳でもない。

 日常のそれを切り取ったような態度で取り仕切る先生を見て、生徒たちも習って普段通りに生活する。

 

 

 

 

 一日が経過した。

 長いとは感じなかった。むしろ代わり映えしない日常は一瞬で過ぎ去っていく。

 

 日が落ちるのを見ながら、間桐家に続く坂道を登って行く。

 冬の寒さに鳥たちも身を潜めて久しい。

 春になれば、また元気に小鳥たちは鳴いてくれるのだろうか。そんな些細な不安が胸のうちに去来する。

 

 瑣末な悲壮感に胸をやられながら、坂を登りきって間桐家を()()()()()

 そこから更に進めば見えてくる。

 間桐とは比べ様のない清廉な雰囲気の邸宅。同じ洋風の建物の筈なのに、同じ庭の植物の筈なのに、違いは一目瞭然だった。

 

 ___遠坂邸。

 

 間桐と遠坂は家族間で交流のある正に親戚のような存在だ。

 それこそ、間桐桜という個人は遠坂と間桐。その両方の架け橋……あるいは楔のような存在なのだから、両家の関係性に関しては人一倍理解している。

 

「いらっしゃい。約束の時間きっかりね。関心 関心♪」

 

 そんな遠坂邸の入り口に立つ女が一人。

 外国の血を感じさせる顔立ちと、惚れ惚れするような美しい黒髪を携えて、遠坂凛は私を迎えた。

 彼女の持つ天性の何かがそうさせたのだろう。モヤッとした気持ちも何処かへふっ飛んでいった。

 

 遠坂凛は遠坂家現当主であり、この冬木の街に住む魔術師たちを監視する管理者(セカンドオーナー)だ。

 

 ___そして、間桐桜という女の実の姉だ。

 

「何してるのよ。早く上がってちょうだい」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 フローリングの床に敷き詰められた絨毯の廊下を抜け、白い清楚感のあるリビングへ辿り着く。

 

 来ることを予想していたのだろうか。ちょこんと設置された小さなテーブルには二つの陶器と、そこから上がる湯気が見え隠れしていた。

 

「さて、こうして会うのも久しぶりね」

 

 優雅に一口、香りを楽しむのを忘れずに紅茶を口に運ぶ姿は、不格好な自分と比べものにならない美しい所作だった。

 

()()はいつ戻ってきたんだ?」

 

「わたし?昨日の深夜には着いてたわ。時差も考慮すれば『余裕をもって』家に帰れるものね」

 

 余裕をもって、の部分で苦笑いを浮かべた自分は悪くないだろう。

 それに勘付いたか、遠坂の視線が鋭さを増す。

 

「あら、何がそんなに可笑しいのかしら?」

 

「あっいや…そういうわけじゃあ……」

 

 底冷えするような薄ら寒い笑みを浮かべ、こちらを威嚇してくる遠坂をなんとか宥める。

 

 思い返せば、あの時からこんなやり取りが少なくなっていった気がする。

 いや、元々そんなに関わりがあったわけじゃないし、間桐としての付き合いも深くはなかった。

 

 それでも間桐桜個人には、この世に二人といない血の繋がった親族。これまで失ってきた親愛も、これから代わりに作っていけばいい。

 

「それじゃあ始めますか」

 

「もうやるのか?」

 

「もちろん。アンタみたいなへっぽこ魔術士は詰め込めるうちに詰め込まないと、私と並び立とうだなんて夢のまた夢よ」

 

 スパルタ気質な教育に定評がある遠坂。

 そんな彼女にウキウキで教え込むと宣言され、若干辟易としつつも、こんな自分に親身になってくれると考えればやる気が湧いてきた。

 

「それじゃあ始めるわよ。頑張ってね()()()()

 

「善処するよ」

 

 それが、間桐桜に成り代わった衛宮士郎が果たすべき義務なのだから。

 

 

 

 

 間桐桜という人間はあの大空洞で死んだ。

 

 正確には、間桐桜の『魂』が消え去った。

 

 現世の誰にも行方を知らぬ旅に出たのだ。

 

 強いて言えば、あの雪の妖精のような少女のみが知るその先にいる。

 

 故に誰にも届かないし辿り着けない。

 

 

 

 

 衛宮士郎という人間はあの大空洞で死んだ。

 

 正確には、衛宮士郎の『体』が消え去った。

 

 人としての肉体が完全に消滅してしまった。

 

 強いて言えば、その『魂』だけは雪の妖精によって現世に留まった。

 

 故に男の居場所は最早どこにも無い。




 最後の語り部は言峰イメージ
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