「ですから、パーティを組んで下さい。アーチャーが一人でクエストに行くなんてあり得ません」
ハンターランクがたった今5になった私は受付嬢になじられるようなパワハラを受けていた。恐らくこれはギルドの圧力というやつだと思う。ドンドルマギルドの闇を垣間見てしまったらしい。
「パワハラじゃありません正当な主張です」
自由にパーティも組めないなんて実に不自由なギルドだ。ドンドルマは自由の街だというのに。
「チームを作れといっているわけではないんです。コネクトに参加する必要もありません。ただ、クエストに行くなら二人以上で向かって下さい」
そもそも何故いまさらパーティを組めなどと言われなければならないのだろう。こう言ってはなんだけど、私はこれまで十分一人でやってきた。苦節五年、ハンターランクはそれなりに上がっているし、そりゃ同ランクのハンターに比べたらずっと弱いけど、身の程をわきまえた結果一応の依頼達成率は今のところ90%を超えてる。上位になってからは一度も失敗してない。
「心底不思議そうにしていますがあなたが先の狩猟で自分の武器を壊したことはどうお考えですか?」
「やっぱり新人の頃に予備の武器について教えてくれたあの片手剣使いさんはいい人だったなぁって」
受付嬢は私の背負う弓をジロジロと見ている。
「ポッケ支部からハンターの移籍要請が来ています」
「ごめん今なんの話してるんだっけ」
「パーティを組めと言う話ですが」
「そうだったね」
この受付嬢はかなり頭が良くていい子だけどちょっと唐突すぎるきらいがある。いやいい子っていうか、どうなんだろう、結構しっかりしてるし、童顔だけど実は私より年上かもしれない。
「ポッケ村にはアイルーの職業斡旋をしている老婆がいるそうです」
「それで?」
「アイルーとパーティを組んでください」
なるほど納得だ。しかもけっこう筋が通っている。私はそもそも報酬金の独り占めのためにパーティを組んでいないわけだから、いやそれだけじゃなくて他にも私では同ランクのハンターとパーティを組んでも足手まといになってしまうという割と切実な理由があるわけだけど。あと観光気分でフィールドに行くから無駄に時間をかけるというのもある。
その点アイルーは問題が起きない。まず観光気分で、繁殖期の密林ほんときれーだなーとか言って十数分景色を眺めたって多分文句は言われないし、報酬金だってアイルーは定額サービスだから懐に優しい。そして何よりかわいいのだ。
「移籍します。是非ともポッケ支部に行かせてください」
懇願の結果受付嬢は快く手続きしてくれた。それでわかったのは、ドンドルマギルドの本部であるこの街で私が若干ながら目の上のたんこぶだったこと。意外と優しかった受付嬢は私が一人でクエストを受けることに対して生存率うんぬんな話をしていたらしいが他のハンターからの苦情はそうではない。チームに入らずコネクトにも入らず、野良かとおもいきやそうでもなく、みたいなスタンス(要するにソロ)でやっていたはずだが知らないうちに問題が起きてしまったらしい。ドンドルマには仕事が溢れていると思うのだが、何故私だけがそんな風に言われなければならないのかは、浅慮な私にはとんとわからない話だった。
ポッケ村を紹介するにあたってこんな言葉がある。
”ポッケ村には季節が二つしかない。寒い寒冷期か、クソ寒い寒冷期かだ“
王立書士隊初代隊長が残した言葉だとか、ポッケ村の特命狩人の師匠が残した言葉だとか、はたまたさるところの大商人が残した言葉だとか色々言われてるけどまさに言葉通り、納得の寒さである。
ドンドルマではセクメーア砂漠が立ち入り禁止になるほどの暑さだから油断していた。常雪の村の異名は伊達ではなく、竜車がポッケに進むにつれてどんどん下がっていく気温に荷物から毛布を取り出して羽織るも既に冷え切った体にさしたる効果はなく。私は御者のアイルーに頼んで竜車を止めてもらうことにした。
「ポッケまであとどんくらいかな」
「夕暮れまでには着くってとこにゃ」
空を見る。今正午くらいだろうか。時間的にも天気的にももう少しあったかくなりそうだけどここからまだ上にいくことを考えれば体感気温は下がると見て間違いないだろう。つまり防寒しなければ死にはせずとも風邪を引く可能性が高い。
「ちょっと着込むから後ろ向いてて貰えると嬉しいかな」
御者さんアイルーにそう言って私の装備が積んである車からハイメタを取り出す。ハンターの防具はくつろぐには全く向かないけれどやはり温暖期用の薄着よりはよほど暖かい。これでホットドリンクが飲めれば最高だったけど無い物ねだりはしてもしょうがないというもの。キンキンに冷えた鎧の表面さえ触らなければちょっと物足りない程度の防寒具として機能するからそれでいいのだ。
「お待たせー」
御者さんアイルーは竜車に乗って空を見ながら赤い草を噛んでいた。何それ、と思ったら同じものを手渡される。
「トウガラシにゃ」
なる程。にが虫と、トウガラシ。にが虫が増強作用である点を考えればトウガラシを食べるだけでもある程度の体温上昇が見込めるはずだ。
「ありがとー」
私がトウガラシを口に咥えている間に竜車は動き出し、今度は止まる前よりもずっと速いスピードになった。
道すがら、噛めば噛むほどトウガラシは辛く、ホットドリンクにおけるにが虫の役割は単なる増強作用だけではないことがわかった。多分何かまろやかになる成分みたいのが入ってるんだと思う。それともギルドストアで売られているホットドリンクはハチミツなんかを入れてまろやかにしているのかもしれない。
なんにせよ、私は自作のホットドリンクを飲んだことがないからわからなかった。まあ寒冷地なんてそんなしょっちゅう行かなかったし、ドンドルマにそういうハンターは珍しくもなんともないと思う。森と丘専門とかも居たし。いやまあそいつはミナガルデ行けよって思ってたけど。
「ありがとう」
トウガラシでヒリヒリする舌を誤魔化しながら御者さんアイルーに多めのお金を渡す。寒さを感じることなくしかも日暮れよりもずっと早い時間に到着できたのは御者さんアイルーのおかげである。
御者さんと別れる。彼は私の部屋になる場所に荷物を届けてくれるらしい。私はその間にそれほど広くない村でギルドハウスを探す。といっても大きな建物だから見たらわかるんだけど。
「どーも。ドンドルマから来ました新入りです」
そういって受付嬢にギルドカードを渡すとギルドマネージャーを紹介された。いやまあ、明らか偉そうな竜人が立ってたら誰でもわかるしそっちに先話しかければよかった。偉い人に直接話しかけるのは怖いからそうしなかったのだ。
「あら〜あなたが中央のハンターさんね〜」
「はい、中央から移籍してきました。それでその、猫ちゃんを紹介してくれる人が居るって聞いたんですけど……ここじゃないですかね」
「手続きは済んでるから、今日からでもクエストに行って構わないのよ〜?」
「そうなんですか?」
「そうよ〜」
そうらしい。支部、出張所といっても所詮同じドンドルマギルドだから大した手間にはならないそうだ。フィールドもそう変わらないが、ドンドルマよりもフラヒヤ山脈に近いからかそちらのクエストが多いのと、一部ミナガルデやメゼポルタの管轄区域の依頼も来るらしい。初耳である。
「あなたが言ってるのはネコバァさんのことね〜。農場の近くにいるから声をかけてみるといいわ〜」
「あんたがハンターさんかぇ」
「あはい、そうです」
「きいとるきいとる。一緒にクエスト行ける子ぉ連れてきたからけぇ、ええ子連れて帰りぃ」
びっくりするぐらい大きいカゴを、いやこれカゴか? まあとにかく、アイルーが木組らしい背負うタイプの箱の中に外にしがみつくくらい居て、なんかもう驚きだ。どうしておばあさんがこんな下手したら大剣よりもずっと重そうなものを持てるんだと思ったらネコバァさんは獣人さんだった。力が強いのは知ってたけどおばあさんがこんなに力持ちだとちょっとどころじゃない違和感がある。
ネコバァさんがリストを渡してくれて、それを眺めながら見比べるが、正直こんなにたくさんいると思っていなかったからとてもじゃないが選べない。考えてみればここはドンドルマじゃないから私は別に猫ちゃんとわざわざクエストに行かなくても怒られないはずだし、やっぱりやめとこうか、そう思ったときにある一人が目に入った。
色んな毛並みのアイルーがいる中で一人だけ真っ黒な子。つまり、メラルーだ。
「この子にします」
反射的に言ったつもりはない。極めて理性的に、期待と、少しの興味と、あと元気がなさそうだったから。
「そのこかい、ええねぇ」
リストに書かれた金額は7500z。他の子は安くとも三万より高いが、この子だけ七千と五百。どれくらいの値段かというと、素材持ち込みでさらに値切ればパワーハンターボウが作れるくらいの値段だ。つまりすごく安い。
お金を取り出そうとする間にネコバァさんがメラルーに何か話していた。がんばりぃ、と励ます声だけ聞こえた。お金を払ってスタンプを貰って、それで終わり。
ハンターは信用の職業だから、こういうとき楽だなぁと思う。まあ下位ではこうはいかないけど、上位にもなれば社会的信用はすっごく高い。ギルドカード見せれば分割払い以外は大体なんとかなる。分割払いは逆にハンターだとまずできない。まあ怪我したり死んだら支払い能力がなくなるわけだから当然といえば当然だ。
「じゃあいこう」
メラルーにそう声をかけるとトコトコと歩いてついてきた。歩きながらさらに声をかける。
「多分部屋に荷物届いてるから、引越しの片付け手伝ってくれる?」
私の腰くらいの位置にある顔を見ると、小さく頷いた。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
何か喋るかなと思ったが何も話さなかった。話さないまま私の部屋に着いた。
部屋の中には私の荷物がたくさんとはいえない程度の量だけあって、メラルーが無言で片付け始めるから私もそれにつられるように片付ける。箱に武具を入れて、筒に矢を入れて、箪笥を部屋の隅に置いて。
全部終わったら部屋らしくなっていた。ハンターの部屋らしく、殺風景で物騒で少し知的な混沌とした部屋になっていた。
「ねえ名前は?」
メラルーに尋ねた。メラルーは種族の名前であって人の名前ではない。猫の名前でもない。しかしメラルーは首を横に振った。
「ないの?」
メラルーは首を横に振った。
「じゃあ、言える?」
メラルーは首を横に振った。
「もしかして、喋れない?」
メラルーはビクッとしてゆっくりと首を縦に振った。辛そうな顔で。
話せないらしい。一言の発していないところをみれば言語能力の問題じゃないことはわかる。だから安かったのか。それともメラルーだからなのか。
正直他の子だって十分安かったと思う。だってハンターの補佐をするとはいえ、お金を払えば払った人のものになっちゃうのだから。だからって給金を払わない人も、酷いことをする人もいないと思うけど、けどやっぱり人間はこんな雇われ方はしないし。
「名前書ける?」
首を横に振った。文字も書けない。もしかしたらメラルーの言語でなら書けるのかもしれないけど、それは私が読めない。いや、ネコバァに聞けばいいのかな。
「メラルーの言葉でなら書けたりしない?」
首を横に振った。
「うーん、じゃあ最後にいっこだけ。ネコバァさんは名前知ってる?」
首を横に振った。お手上げだ。
「ネコちゃんって呼ぶけどいい?」
ネコちゃんはコクンと頷いた。
獣人(主にメラルー)差別と弓についての妄想を書き殴るものです。