ネコちゃんは手先がすごく器用だ。それは多分メラルーという種族である点が関係してるんじゃないかと思う。
ドスファンゴで小金を手に入れたからちょっと休暇、というわけには行かないけどだからって不完全な武具で何回も狩りに行くのもどうかと思うからとりあえず武器完成までは休むことにした。まあ仕方ない。私が問題にしてるのは武器だけだけどネコちゃんは防具もあんまりいいとは言えない。怪我したら大変なのは獣人族も同じなのだ。
だから、私とネコちゃんは狩りに出ず、部屋で黙々と矢を作っていた。別に手伝ってくれなくても、なんてつれないことは言わないことにしている。まあ私は雇用主なわけだし、これは狩猟のための雑用で、狩猟の一環と言えなくもない。何より本人がやりたがったのだからとやかく言わなくったっていいだろう。
ドンドルマで狩ったリオレイア亜種の弓がもうじき完成するらしいから、それの規格に合わせて矢も作る。ギルド製でも使えないことはないけど、それでは弱いから。ギルド製よりも重い素材にして威力を上げる。ギルド製より太めにして強度を上げる。短めにして連射力を少し上げる。矢尻の返しは小さめにして、貫通力に特化させる。
弓使いって地味だ。矢を黙々と作っているとボウガンにすればよかったかななんて思うんだけど、ボウガン使ってるハンターだって弾の調合をしてるんだから多分似たようなものなんだと思う。でもやっぱり爆発弾とか、なんだっけ、拡散? とか私も撃ってみたいなって思う。
つがえて撃つ以外の動作のない弓は良く言えば洗練されているんだけど、地味だ。私もボウガンの弾みたいに矢を使い分けてみればいいんだろうか。でも矢の重さが変われば狙いも変わるし、そもそも使い分ける意味がない。強い矢があるなら全部それを使えばいいのだから。
「派手に狩りたいよねぇ」
そんなことをするメリットは弓使いである私にはほとんど皆無なのだ。
流石に朝から昼まで矢を作っているとそれなりの数が出来上がる。大体八百本。最初はゆっくりだったネコちゃんは慣れたらどんどん早くなって、最後の方は私よりも早く手を動かしていた。クエスト何回で使い切るかは相手によりけりだけど4、5回はもつはずだ。その4、5回で使い勝手を見て、作り直すか決めようと思う。
「というわけでお昼にするけど何食べる?」
ちなみにポッケ村にはドンドルマほど多様な美味しいものはない。肥沃だけど寒いから作物が痩せるのだろう。ゆえにレストランも多くはない。支部の酒場で食べるのが手っ取り早いし、実際昨日の夕はネコちゃんに促されたからそうしたけどふつう、パーティメンバーは食事を一緒に摂るものだろう。けどネコちゃんは支部が苦手だ。苦手だと思う。
昨日一人で酒場で食べてわかったけど、そもそもアイルー連れがほとんどいない。っていうか二人しかいなかった。そのネコ連れの二人は同じパーティらしくて、人間二人と獣人二人で4人卓を囲んでいたけど、周囲のハンターから珍しいものを見る目で見られていたと思う。なんだかなぁという感じだ。メラルーであるネコちゃんを連れて行きたくはない。
昨日からずっとそんなことを考えていたから今日のお昼は「何食べる?」とか聞いといてなんだけど既に食材を買ってあって、決定済みだ。七味ソーセージをオリーブペーストで炒めた何か。敢えて名前をつけるなら「七味ソーセージのオリーブペースト炒め」だろうか。そのままだ。
ドンドルマではポーンクラスのときから一、二ヶ月に一度は食べていた気がする。味は六味のソーセージにオリーブ風味が乗っていてけっこうおいしいのだけど、これがまあ身体に悪い。その悪さと言えば女性であればほぼ確実に心身に支障をきたすレベルで、つまるところをぶっちゃけると太る。肥える。ちなみにハンターとして日々大自然を駆け回っている私が太ることはない。では誰が太る事実を知ったかというと、私にパーティを組めとやたらせっついてきたドンドルマの上位受付嬢さんである。自炊しているという彼女が夕飯の献立を悩んでいたから教えてあげたら一週間後にすごい形相で太りましたと言われた。私も太りはしないけど食べたあと一日二日はちょっと体力落ちてるなぁという感じがするので実際健康には良くないのだと思う。
そんなわけで、太るくらい美味しい、しかも安い。それなりの頻度でクエストに行く下位ハンターが週一で食べても懐が痛くないくらいの安さ。
「はい完成」
部屋に隅にある二人用の小さなテーブルに皿を置く。ちなみに野菜はない。昼だし、適当でいいかなって。
私がご飯を作っている間も一心不乱に矢を作り続けていたネコちゃんを無理やり座らせて「食べて」と言うと頷いたと食事に向かって手を合わせて祈り出した。獣人族が呪術とか信仰とかに厚いのは知ってるから多分それだろうか。
私も倣って手を合わせてから食べてみた。当然なんらかのエネルギーを感じることはない。おいしいだけだった。
午後はニトロダケを瓶詰め……はそんなに時間のかかる作業ではない。そもそも必要な分だけ作るから。つまり正直いって、やることがない。
「出かけよっかな」
まだ村をぜんぜん見てないし、ネコちゃんだって一日中私と顔を合わせるのは嫌だろう。農場の洞窟に大きな剣があるらしいし、折角だから見に行ってみようと思った。私に深々と頭を下げてまた矢を作ろうとするネコちゃんに「そんなたくさん要らないからね」とだけ言って家を出る。
狩猟に行かなかったことをちょっと後悔するくらいの晴天。雲がない分気温は低いんだろうけど、雪が降るよりずっといい。
雪かきされた道を農場の方に歩く。
村の入り口、そのすぐ横に農場があって、今日はネコバァはいなかった。農場は出入り自由らしい。村長が特命狩人に貸し与えた当時は荒れていたらしいが特命狩人が投資を続けた結果希少な素材も稀に取れることがある中々に珍しい農場になったらしい。
ユクモの方でも同じようなエピソードがあるし、ドンドルマの英雄は開拓村に投資を続けてやはり発展に貢献したらしいから、モンスターハンターになるためには農場などの何かしらに投資しなければならないのかもしれないとも思ったことがある。残念ながらアクラ地方南部にあった私の村は開拓して大きくなる前にモンスターによって大破してしまったしそもそも私の村に荒れた農場なんかなかったわけだけど。
農場には見張り役らしきアイルーが沢山いた。洞窟に前に案内人みたいに立ってるアイルーも居て、大きな剣を見たいというと案内してくれた。
「でっか」
大剣くらいかなと思ってたら大長老が使うんじゃないかってくらい大きい。大長老を見たことはないけど噂とこの剣を見てみれば大長老が使えば太刀くらいにはなるのかもしれない。
アイルーに礼を言って帰るついでに一つ聞いてみることにした。
「最近ネコちゃんに働いてもらってるんだけど、お給料ってどれくらいあげればいいのかな」
案内役アイルーは少し考えてから答えた。
「ボクなら一ヶ月に七千zくらいにゃ」
概ね予想通り、ハンターならはした金とは言わないけど労なく払える金額だ。
このアイルーは多分農場の見張りと案内だけが役割で、基本的に誰も来ないからたぶんお給金として彼らの勤務態度を見ればわかるがおそらくは満足していることだろう。私だって同じように仕事をして七千zもらえるなら文句は言わない。もちろん少なすぎるとは思うけど。二倍は欲しいなと思うけど、彼らの立場なら文句は言わないと思う。
もしネコちゃんに定額給を上げるなら、少なくとも三倍か四倍ははあげたいなと思う。しかしそれでも私が一月に稼ぐ金額の二割に満たない。かけた命に対して値段が安すぎる。
「お金ってめんどくさいな」
とりあえず報酬金山分けでいいということにした。
農場を出て、村の雑貨屋を覗くとギルドストアに並んでるようなものは大体売っている。目についたのはホットドリンク。
……私は昨日の狩りで、場所によってホットドリンクの味が違うことを初めて知った。ポッケ支部製ホットドリンクは涙が出るほど辛くて、しかし私以外にも支部所属らしきハンターが買っていたから多分好きな人は好きなんだと思う。私はもちろん無理だ。あれを毎回飲んで狩りに行くのはちょっと身体がもたない。なお、ネコちゃんはホットドリンクが要らないらしい。獣人族ゆえの環境適応能力がまさか耐暑耐寒に通じるとは思わなかった。
雑貨屋の店員にホットドリンクの味を訊くと、支部製のものと同じらしい。それで売れるのかという感じだけど、支部の酒場はハンター以外滅多に入れないからここはいわば一般用なのだろう。まろやかで飲みやすいホットドリンクは自作するしかない。
ドンドルマのホットドリンクは甘味プラスで飲み易く。ポッケ村では辛味を引き出すためにトウガラシにが虫に加えてアオキノコとかニトロダケとかぶち込んでそうだなぁという妄想。
ちなみにロックラックのホットドリンクはしょうゆ味らしいです。