燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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フィルムレッドを見て感化され、書き始めました。
ウタちゃんを救うんや…。あ、ネタバレありますので、ご了承ください。


第1話

東の海、近海。

世間では最弱と呼ばれし海であるが、かの海軍の英雄や海賊王を生み出した海でもある。その海を一艘の小舟が揺蕩っていた。

 

「…なんども能力使うもんじゃねえな。此処どこだぁ?」

 

そこに居たのは、黒い髪に黒い髭を携えた中肉中背の男だった。目には稲妻のような傷があり、目は真っ青だった。

 

男の名はバンドラ。ただの船乗りである。

 

「つっても、考えすぎも頭にゃ悪いしな。どうしたもんかねぇ…。」

 

バンドラはあたりを見渡す。

…すると、天使のような歌声が沿海を漂ってきた。耳は良い方…というよりか、バンドラも元は新世界の住まい。覇気は覇王色以外は持っていた。

 

「おーっ!!バンドラじゃねえかっ!!」

 

見知ったその声にバンドラは船の方を向く。そこには赤髪の男を筆頭に、黒髪の男や緑の服を着た太った男などのむさ苦しい男集団と共に此方を向く赤と白の髪の少女が居た。

 

「シャンクス。それに、ベックさんとルゥも。ちょうど良かった。」

 

そう言い、バンドラはピョンっと跳び、シャンクスの船へと乗った。船は大きく揺れるが、関係無し。ニッと笑うバンドラの胸ぐらを赤髪の男…シャンクスが掴みかかる。

 

「乗れとも言ってないのに、乗るやつがあるかッ!?危ねえだろうがッ!!!」

 

「ヒヤハハハッ!!良いじゃねえかぁ!!水臭え。俺とお前の仲だろう?」

 

「…言っても聞きやしねえよ。お頭。その男はそういう男だ。」

 

低い声が鳴る。

その声に促されるが如く、シャンクスは手を引いた。バンドラはニヤリと笑いながら、声の主に礼を言った。

 

「…しかしよぅ。バンドラ。子どももいるんだ。もっと慎重に頼むぜ?」

 

「わぁったよ。ベックさん。…で?その子どもは何方さんの?」

 

…バンドラはシャンクスの後ろに隠れる少女に指を指した。少女は怯えているようにシャンクスを盾にしてバンドラをチラリチラリと見ていたのだ。

 

「あまり、ウチの歌姫を怖がらせないでくれるか?俺の娘のウタだ。」

 

「…は?」

 

優しい笑みを浮かべて、シャンクスは少女…ウタの頭を少し荒っぽく撫でた。…バンドラとシャンクスは小さい頃からお互いを知っていたが、どうにもシャンクスが子育てできるとは到底思えず、所謂、目が点になっていた。空いた方が塞がらないとはこのことである。

 

「…何方さんとの?」

 

「女遊びして作ったわけじゃあねえ。お前と一緒にするな。節操無し。」

 

「ダァルェが節操無しじゃコラァッ!!…しっかし、そうなると…保護してる感じか。…まぁ、嬢ちゃんが良いならそれ以上は何も言わねえさ。」

 

そう言い、バンドラは煙草を咥えて、マッチを擦りその先端に付けた。

 

「お前は何してるんだ。何故、東の海へ?」

 

「んぁ?…まぁ、ぶらぶらと。俺はONE PIECEにゃ、興味ねえからよ。海賊王になるのは…この世で一番自由を愛した男だ。俺にゃ荷が重すぎる。」

 

風と共に、タバコの煙が船の帆へとあたる。

シャンクスはその横で、右側にウタを寄せて、立つ。

 

「嬢ちゃん。」

 

タバコの火を消し、シャンクスに隠れるウタへ、目線を合わせて腰を低くして話しかける。ウタは、警戒しながらもバンドラの方を向く。

 

「おい、タバコ臭いぞ。そんなんでウタに近づくな。」

 

「野暮なこと言うんじゃねえよ、シャンクス。なぁ、嬢ちゃん。…父ちゃんのこと、好きか?」

 

笑顔で優しく低い声でそう言うバンドラに対して、ウタは満面の笑みで頷き返した。

 

「おおっ!!そうか、そうかっ!!」

 

「お頭泣いてるッ!!」

 

「泣いてねえ…よぉっ!!」

 

ウタの言ったことがよほど嬉しかったのか、半泣きのシャンクス。それを赤髪海賊団の料理人、ラッキー・ルゥが指を指して指摘する。

 

ドッと沸き立つ船内。

世界で一番、愉快な船は順調に進み、東の海フーシャ村へとたどり着いた。

 

「…長閑だねぇ。」

 

「ねぇねぇ、バンドラっ!!」

 

すっかり打ち解けたウタは、バンドラの肩に飛び乗り、笑顔で呼ぶ。

 

「また、歌聞いてよっ!!」

 

「そんなに歌って喉は大丈夫かい?」

 

「大丈夫よっ。だって、一番、バンドラがリアクション良いだもん。この前なんか、ボロ泣きだったもんね。」

 

歯を見せてにししと笑うウタ。

バンドラはニィッと笑いながら、ウタをおぶり、立ち上がった。

 

「きゃあっ!!…っもう!!」

 

「歌姫なら、高いステージに立つこともあるだろう。ほら、このフーシャ村こそが、歌姫の最初のステージだ。」

 

そう言って、フーシャ村の見えるところへ移動するバンドラ。フーシャ村は安心そのもの。穏やかな風と青々とした緑の匂い、そして、少ないながらも笑う人々の笑い声が聞こえていた。

 

その船へ荒々しく何者かが駆けてくるのが見えた。バンドラとウタ、そして、背後から見守るシャンクスの3人がそこを見ていた。

 

「お前ら、海賊だなッ!!」

 

そこへ黒髪の村少年が現れた。

歳はウタより幼いだろう。バンドラの背のウタが悪戯っ子のような笑みで話しかける。

 

「だったら何?」

 

「この村から出て行けッ!!」

 

「ほう。この村には勇敢な門番がいるんだな。」

 

シャンクスは二人の横から入ってきて、そう言った。その勇敢な門番の村少年をシャンクスが説き伏せ、村にある酒場の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ!!船に乗せてくれよっ!!シャンクスっ!!」

 

停船中。その自由を愛す村少年は、海賊に興味を持った。海賊に憧れ、少年は今日もシャンクスへ船に乗せろとせがむ。しかし…。

 

「だめだ。」

 

優しいシャンクスと言えど、一船の船長。幼く、しかも、カナヅチの少年を船に乗せるわけにはいかない。

 

「坊主。じゃあ、俺の船に乗るか?」

 

「おい、バンドラ。相手はまだ子どもだぞ…。」

 

「ええー。バンドラの船、なんかカッコよくないからやだッ!!」

 

舌を出してそう言う村少年にバンドラはじとっとした目で睨みつけた。

 

「ウタ。ルフィの相手してやってくれ。」

 

「ええー。なんで、私がこんな子供の…。」

 

歳が近いから、お互いまだ歳行かない子どもだからと言うのもあるだろう。シャンクスは村少年…ルフィの相手を自身の娘、ウタに頼むも、ウタは乗り気じゃない。ルフィを指差し、嫌な顔をする。

 

当のルフィも子供扱いされたことが癇に障ったのか、顔を真っ赤にして怒っていた。いつもの風景。朝から酒を煽りながら、それを見る赤髪海賊団の面々とバンドラ。そうして、結局、シャンクスに迷惑はかけたくないとウタはルフィと共に行くのだ。

 

「…行ったか。よほど、父ちゃんのことが好きと見える。」

 

「…あの子は天才だ。いずれ、離れることもあるだろう……ここにいる馬鹿どもは大泣きするだろうがな。バンドラ、次の航海はどこへ行く?」

 

「…少し遠くへ。名のある海賊のところを旅してみようと思う。」

 

酒を煽るバンドラ。

そうかとニヤッと笑うシャンクス。

 

「「シャンクス〜っ!!バンドラ〜っ!!」」

 

バタンッと酒場の扉が開く。

ウタとルフィが少し傷ついた様子で入ってきた。それだけで、酒場内は騒然である。

 

「おおいッ!!どうしたんだッ!!ウタッ!!ルフィッ!!」

 

シャンクスもわかりやすく取り乱した様で、愛娘の元へと駆け寄る。バンドラはその様子に頭を抱えて微笑みながら、3人に駆け寄った。

 

「ウタのやつ、無理して山賊につっかかったんだよッ!!」

 

「ルフィが山賊に襲われたのよッ!!弱いのがいけないんだわッ!!」

 

「んだとォッ!!弱くねえしッ!!」

 

要約するに、二人でいるところを山賊に襲われた。それを二人で暴れて、なんとか逃げたらしい。

 

「コラッ。ルフィ。男なんだから、ウタを守らなきゃダメだろう。」

 

「私、こんなのに守られるほど弱くないもんっ!!」

 

「こんなのってなんだッ!?」

 

「ルフィ、動かないで。」

 

酒場の女主人、マキノがルフィとウタの治療をしていく。幸い、擦り傷や汚れ程度で大した怪我はない。

 

しかし、ウタの髪は砂汚れでぐちゃぐちゃになってしまった。当の本人はそれで機嫌が悪い。というのも、ウタはとてもオシャレ好き。シャンクスは結うことが出来ないため、ベックマンが手早く髪を整え結っていく。

 

ベックマン曰く、「乱れた女の髪ぐらいすぐに治さなきゃ男が廃る」だとか。バンドラも共感するように全くだと返した。

 

「おお、ご機嫌だな。ウタ。」

 

シャンクスとバンドラの間で、鼻歌を歌うウタ。誰が見てもご機嫌だった。

 

「ほんっと。ルフィは馬鹿だよ。あんなのと居たら、赤髪海賊団が馬鹿になるっ。」

 

「そう言うな。男は馬鹿なくらいがちょうど良いんだよ。…さて。」

 

バンドラは席を降り立つと酒場の扉へ手をかける。

ウタはキョトンとしたようにバンドラの元へ走っていく。

 

「もう行くのか。」

 

シャンクスがそう聞くと、バンドラはああと答えた。ウタはよほど、バンドラに懐いていたのだろう。それを聞くと少し寂しそうな顔になり、バンドラの足にガシッと抱きついた。

 

バンドラは少し口を開けて驚くも、すぐにふっと微笑み、ウタの頭にポンっと優しく手を置く。

 

「…もしも、赤髪海賊団が嫌になったら、俺の名前を呼べ。そうすれば、いつどこに居てもお前を迎えにいってやる。」

 

「…ほんと?」

 

「あぁ。俺は嘘はつかねえ男だ。」

 

子どものようにクシャッと笑うバンドラ。

「俺の娘を口説くなよ。」とシャンクスがムッとした顔で言う。バンドラは清々しいまでの顔で口説いてないと笑った。歌姫の顔に笑顔が戻る。

 

「それじゃ。」

 

そう言い、バンドラは酒場を後にした。

 

「なぁ、シャンクス。バンドラって一体なんなんだ?」

 

その背を見て、ルフィが聞く。シャンクスはふっと笑う。

 

「あいつはな。世界一自分勝手な男さ。」

 

そう言って、どこか遠くを見て笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行きますかっ。」

 

男、バンドラは小船に乗り、海を進む。その速度たるや、とてつもなく恐ろしい。ただの小船は風を切り、波を作る。

 

男は海軍からこう言われた。

 

『背に龍を持つ男 バンドラ』

『懸賞金 5億ベリー』


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