燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第12話

…そのときが刻一刻と迫る。

 

「…さっきの話、聞いた?」

 

ご飯を食べようと村まで来ていたバンドラ達。そのバンドラにウタが言った。ヤマトは目を輝かせて、魚人達を見ていた。

 

「…ナミ達のところ、行ったんじゃない?あの人たち。」

 

ウタがバンドラにそう言う。バンドラは茂みから、魚人達の様子を見て、見定める。顔を顰め、その様子を見ていた。

 

「…なぁ、あの人に20万も払えると思うか。」

 

「「無理(だと思う)」」

 

ウタとヤマトがほぼ同時に口を開けて言った。だよなぁ…とバンドラがため息をついた。…となれば、奴らは殺すだろう。見せしめがいれば集団は強化される。こうなりたくないと従順になる。

 

「…腹、空いてる?俺、ちょっと出かけるからさき食ってる?」

 

「ダメ。私らも行く。」

 

むすっとした顔でそう言うウタ。ヤマトもうんうんっと頷いた。ヤマトに関してはただ戦いたいだけだと2人はそのキラキラとした目を見ていた。

 

「…じゃあ行くか。」

 

そう言ってバンドラ達はまた来た道を引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンゾウに案内されたアーロンがベルメールの家の扉を叩く。ベルメールは何か異様な雰囲気に気がつくが、中へと促した。アーロンが扉を開けると…。

 

「…ッ!!」

 

ベルメールはアーロンを押し倒し、その口に銃を押し込んだ。

 

「残念、私は軍人でね。偉大なる航路の海賊がはるばるココヤシ村へ…なんのよう?」

 

ニヤリと笑うベルメール。しかし、アーロンはそれを嘲笑で返した。何がおかしいと激怒するベルメール。その直後…銃身はアーロンの歯によって砕け散った。

 

「ッ!?」

 

…魚人の力は人の10倍。長き海を絶えぬく筋力も持っている。この状況、彼女に勝つ術はない。アーロンはその彼女の健闘をも笑う。

 

「…お前たち人間の非力さよ。」

 

ベルメールを危惧し、足を動かす少女2人。家の近くまで行き、もう少しで家まで辿り着く2人を…ココヤシ村の医者、ドクターナコーが2人を止めた。

 

「少々残酷な話だが、よく聞け2人とも!!」

 

「う゛ぁ゛ぁ゛ッ!!」

 

ベルメールの叫び声が響き渡る。アーロンがベルメールの左腕の骨を踏み砕く。腕から血が噴き出し、灼熱感が走る。もう抵抗する力も残らないほどだった。

 

ベルメールは相手が心の底から化け物だと確信する。死を確信するベルメール。頭の中には…自分の娘2人の姿があった。

 

「バカモンッ!!ベルメールッ!!つまらん正義感で命を無駄にするなッ!!意義のない戦いもあるッ!!金で解決できる問題もあるッ!!」

 

ゲンゾウが叫ぶ。アーロンは金さえ払えば手は出さない。そう言わんばかりにベルメールの腕から足を退けた。ゲンゾウはベルメールをゆっくりと手で立てながら気づかれないように聞く。

 

…貯金を合わせてもベルメールは10万少ししか持ってない。

 

「アーロンさんっ、食事が3人分用意してあるぜッ!!3人家族のようだッ!!」

 

…命が先か、家族の縁が先か。

ゲンゾウには酷な判断ではあったが、今は考える必要はなかった。

 

「さぁ、大人一人分払ってしまいなさい。今日は夕食に招待されているんだったな。せっかくの料理が冷めてしまう…。」

 

…そう、ノジコとナミはベルメールの家族という記述はない。

 

ある日、嵐の夜、ココヤシ村に帰ってきたベルメール。戦禍の中、自身も死ぬかと考えていたが、そのベルメールの前にやってきたのがナミを抱いたノジコだった。死ぬ気も失せたベルメールは彼女らを連れて、助けて欲しいと懇願したという。

 

「わかるな?ナミ…ノジコ…!!お前たちはベルメールと親子であるという証拠がない。お前たちの存在が気付かれないうちに、あの人たちに乗せてもらってこの村を…いや、島を出るんじゃッ!!」

 

…他に3人が無事助かる道はなかった。

しかし、幼きナミにはそれがわからなかった。もっとベルメールと一緒にいたい。もっとこの村に居たい。

 

「よォし、確かに10万ベリー、確かに受け取った。」

 

アーロンは金を受け取り、帰路に着く。

その様子を見ていたノジコがベルメールが助かるならと、ナコーの提案をのんだ。行かなければベルメールが死んでしまう。離れたくないと駄々をこねるナミを連れて行こうとする。…しかし。

 

「…子ども2人で10万ベリー。それは娘たちの分。私の分は足りないわ。」

 

その一つの言葉で魚人たちの動きが止まった。

ゲンゾウは叫ぶ。しかし、ベルメールに迷いはなかった。

 

「ゲンさん…ごめんなさい…。私、家族が居ないなんて言えないや。例え、命を落としても…口先だけでも親になりたい…!!だってアイツら…私の子でしょ?」

 

(ベルメール)は泣く。タバコを蒸して、泣く。

何もしてやれなかった。お金が足りなかったから。母親らしいことは何も…出来なかったと(ベルメール)は泣く。

 

その瞬間、逃げようとしていたナミとノジコがベルメールの元へと走る。走ってきた娘たちをベルメールは両手でしっかりと抱きしめる。軋む左手もお構いなし。…走ってきた娘たちを死ぬ前にギュッと抱きしめた。

 

「もっと色々!!本でも…!!洋服でも…!!いっぱい買ってあげたかった…!!ごめんね…!!私…母親らしいこと…何も出来なかったね…!!」

 

「そんなことないッ!!何も要らないから死なないでッ!!あたしたちとずっと一緒にいて…ッ!!」

 

子どもたちは泣く。…しかし、アーロンにはそんなことなど関係ない。

 

「コイツらはテメェの娘だな。」

 

「ええ…そうよ!!…この娘たちには手を出さないわよね…!!」

 

「勿論だ。テメェが大人しく死ねばな。」

 

ニィッと笑うアーロン。ベルメールは覚悟する。子どもたちは助かる。だから自分は…。

 

「誰か助けてッ!!」

 

ナミが叫ぶ。それと同時に、ゲンゾウが銃を乱射するが、魚人の皮膚には通らない。逆に、魚人…クロオビに切られてしまった。

 

「…ッ!?」

 

言葉が出ない。目の前で大事なものが…どんどんと消えてしまう。村中がベルメールを助けるために立ち上がる。武器を持って、殺されるかもしれない魚人へ。アーロンは殺さない程度に痛めつけるよう指示をして、ベルメールへ銃を突きつけた。

 

「お前が最初の見せしめだ。くだらねぇ愛に死ねッ!!」

 

「ノジコ、ナミッ!!…大好き♡」

 

刻一刻とその時間が迫っている。アーロンの指が引き金にかかり…そして…。

 

「『天雷祭(サンダー・フェス)』ッ!!」

 

雷が…アーロンを貫いた。

 

「…え?」

 

「ぐっ!?」

 

その場にいた、全員が突然のことに動けなくなっている。

 

「『聖女の旋律(サンツ・メロディーア)』ッ!!」

 

何処からともなく虹色の楽譜が、村人たちを守るように走る。魚人達は剣や銃弾を打とうとするも、まるで鋼鉄のような五線譜の壁になす術はなかった。

 

「ぐっ…誰だッ!!」

 

「さっすが、魚人はタフだなぁ。」

 

その声の方へアーロンは銃弾を打ち込む。しかし、それは真っ二つに裂かれ、その声の人物…バンドラはベルメールとアーロンの間に立った。

 

「ぐっ!?」

 

「あ、アンタッ!!」

 

「『天風乱波』ッ!!」

 

風を纏った拳をアーロンの腹に入れる。拳の一撃はほぼ効いていないが、台風のような風撃をモロに喰らい、後ろへと吹き飛んだ。

 

「アーロンさんッ!!うにゅーッ!!」

 

後ろから迫ってくるタコの魚人、ハチは後ろからバンドラを切ろうと刀を向ける。しかし…。

 

「『雷鳴八卦』ッ!!」

 

「うにゅ〜ッ!!」

 

横から来た金棒によって、弾かれてしまった。横へと飛ばされるハチ。

 

「ナイス。」

 

ニヤッと笑うバンドラ。そのバンドラの横にむすっとしてご立腹のウタとふっと微笑むヤマトが居た。

 

「く、くそ…なんなんだよッ!!テメェらはッ!!」

 

アーロンが吠える。3人はベルメールとナミ、ノジコを守るように取り囲んだ。

 

「アンタ達、許さないんだからっ!!私達の船を沈めてッ!!」

 

「ウタちゃんは船より服の恨みの方が凄そうだよね…。」

 

顔を真っ赤にして怒るウタと悟ったような目でそれを見るヤマト。バンドラはベルメール達を見て笑った。

 

「すまねえな。腕、間に合わなくて…。」

 

「…良い、命を拾ったんだ…。」

 

「おじちゃん。助けて…!!」

 

ナミとノジコが泣く。バンドラは2人の声を聞き、自分のタバコに火をつけ、蒸した。

 

「テメェら、誰だって聞いてんだッ!!」

 

アーロンが再び吠える。バンドラは抜いた狂骨をアーロンに向けて、睨んだ。

 

「…テメェらも海賊だ。これを横暴とは言わねえし、テメェらの過去も知ってらぁ…でもなぁ…。目の前でガキやら女やら泣かされるのは…許せねえんだよ…ッ!!此処で俺らに会ったのが運の尽きだッ!!テメェら全員、灰も残さねえッ!!」

 

「上等だッ!!下等種族どもッ!!テメェら3人ともぶち殺してやるッ!!やれぇッ!!」

 

迫り来る魚人達。

バンドラは閃光の如き速さで全員を薙ぎ払った。

 


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