燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第129話

「…俺の目が可笑しいのか…。国王軍を説得しにきたはずが…その国王が国の英雄に殺されかけてる…!!信じ難い光景だ…!!」

 

コーザは目を疑った。

そこに到着したビビも同意である。そこに居たのは…血だらけのチャカと縛られ、血を流すアラバスタ国王…ネフェルタリ・コブラ。

 

そして、真ん中で嘲笑する男…サー・クロコダイル。

 

「クハハハッ!!面白えことになってきやがったッ!!反乱の途中に両軍の統率者(リーダー)が顔を合わせやがったッ!!」

 

「…。」

 

「困惑してるみたいね。貴方のイメージできる最悪のシナリオを思い浮かべれば良いわ。」

 

その横で控えるミス・オールサンデーが不敵に笑う。…コーザの頭に残る疑問は一つ。

 

「コーザ、あのね…!!」

 

「…なぁ、ビビ…。この国の雨を奪ったのは…誰なんだッ!!

 

「…何もかも…!!」

 

「俺さッ!!…コーザ。お前達が国王の仕業だと思っていたこと全て…我が社の仕掛けた罠だ!!お前達はこの2年間…面白いように踊ってくれた…!!王族や国王軍が必死に俺たちの影を探し回ってたのになぁ…ッ!!」

 

コーザは目を見開き、驚いた。

…自分のしでかした事に息が漏れる。方や、クロコダイルはその様子を嘲り、笑った。

 

「…聞くな…ッ!!コーザッ!!」

 

「ッ!?」

 

…国王が叫んだ。

額から血が流れ、息も絶え絶え。だが、その姿は大きかった。

 

「…お前には今…やれることがある…!!一人でも多くの国民を救えッ!!」

 

国王の叫びにコーザはハッとする。

 

「あと…半刻もせずに…宮前広場が…吹き飛ばされる筈だ…ッ!!ゴフッ…!!」

 

背を向け、倒れるチャカが震える声でそう言った。流れる血の量からチャカが限界であったのは誰もがわかっていた。ビビもコーザも目を見開く。だって、そこには…一体何人の国民がいるのか。

 

「…急げッ!!」

 

その声にコーザが走り出す。

…しかし、クロコダイルがそれを許すわけがない。動き出そうとした瞬間、コーザを止めるのは…ビビだった。

 

「おいッ!!どけッ!!ビビッ!!」

 

コーザの顔がより険しくなる。

…少しでも遅れたら国民が全員、消し炭となる。その現実がコーザを急がしている。しかし、ビビは悲痛な表情を浮かべ、地面に押さえつけていたのだ。

 

「下はもうすぐ戦場になるッ!!爆破されたら…「戦場にはさせないッ!!」…ッ!?」

 

「貴方は気が動転してるのよッ!!広場が爆発されることを今国王軍が知ったら…ッ!!確実にパニックになるッ!!そうすれば戦争はもう止まらないッ!!」

 

「…ご立派な判断だ。」

 

…確かに、爆発のことを知らせれば何人かは救えるだろう。しかし、全員を救うにはそもそも戦いを終わらせるしかない。クロコダイルによって、仕組まれた戦いを…。

 

ビビの声にコーザはハッとした。

…今この戦いを止められるのは自分達だけなのだと。

 

その時だった。王宮に一つの足音が聞こえたのは。

 

クロコダイルはその音にニヤリと笑う。

 

「…おい。王女ビビの誘惑を頼んだ筈だが?」

 

そこに居たのは鬼の面の男。

ロビンが影からその男を凝視する。男はロビンがいると知りながらも、その仮面を外した。

 

「もうちょっとだったんだがなぁ。まあ良いさ。社長の命令には従うぜ?…あー、あと。もう反乱軍は此処には現れねえ。

 

ニヤリと笑う男…バンドラにその場にいた全員が驚愕の表情を浮かべる。あのクロコダイルですら、額に汗をつーっと垂れていた。

 

「…て、テメェ…なにしやがった…?」

 

「ちょっと間、眠ってもらっている。聞こえてこねえか?…天使の歌が。」

 

「…な、なんだ…。この歌は…!!」

 

アルバーナ中に歌姫(プリンセス)ウタの声が響き渡る。クロコダイルはその歌を聴き、青筋を立てていた。…ウタウタの実の能力でこの歌を聞いた反乱軍、国王軍両名を眠らせていたのだ。

 

「で、でも…どうやって…。」

 

ビビがコーザの肩から手を離し、立ち上がった。

 

「…簡単だ。例え、反乱とはいえ…砂の山がいきなり現れたりしたら止まるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…バンドラが王宮に到着する数刻前…アルバーナ付近。

 

「うわぁァァッ!?」

 

反乱軍の一部が止まる。それに応じて、反乱軍の全体が動きを停止した。

 

「ど、どうしたんだッ!?」

 

「…め、目の前に…砂の…手がッ!?」

 

急に目の前に現れた砂の剛腕。

その手の上に一人の少女が立っていた。

 

「みんな〜ッ!!ウタだよっ!!」

 

目の前にいるのはただの少女。

反乱軍はそんなことはどうでも良いと馬を走らせようとするが…馬が石化して動かない。

 

「な、何が起こってる。」

 

「当たり前じゃ。馬だろうが人だろうが、妾の美しさに勝てるわけがない。妾を見るその邪な心が其方の身体を固くするのじゃ。」

 

ヤマトの上でドヤ顔をするハンコック。メロメロの実の能力で馬を石化させたのだ。

 

「其方も良い働きをした。」

 

「ふへへ。バンドラの頼みだもんっ。ちゃんとやらなきゃね。」

 

ハンコックに頭を撫でられご満悦のヤマト。獣型となったヤマトが砂漠の上へと立つ。ハンコックは優しげな笑みを浮かべていた。

 

「さぁ、歌姫よッ!!其方の歌で全てを魅了せよッ!!」

 

「うるさい。ハンコック。」

 

「なっ!?」

 

ジト目でそう言うウタにハンコックの空いた口が塞がらなかった。ウタはふっと笑うと耳元に手を当てて…歌い始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…貴様ァァァッ!!俺の邪魔しやがって…!!」

 

青筋を立てて、怒声を上げるクロコダイル。バンドラはビビの元へと静かに向かった。

 

「お前の命令はこうだった。…なんとしてでも王女ビビを誘惑し、俺の言うことを聞くように躾けろと。」

 

「…ッ!?」

 

バンドラはビビを守るようにその前へと出た。

狂骨をゆっくりと引き抜く。

 

「…何にも間違ったことはしちゃいねえ。反乱軍を止めるなとも、戦争を止めるなとも命令されちゃあいない。俺は本当にアンタの社員じゃねえんだからよ。」

 

その優しげな笑みに…ビビはまた涙を浮かべた。

一人も死人を出さない。そのビビの悲願が達成された瞬間であったのだ。

 

「喜ぶのはまだ早え。」

 

その声にビビがバンドラの顔を見る。バンドラは顔を暗くしていた。…この作戦は一見、成功に見えた。だが、『ウタが寝る前に決着をつけねばならない』という答えが一瞬、バンドラの顔を曇らせた。それを見逃すクロコダイルではない。

 

「…なるほどな。時間の勝負ってわけか。だが、忘れるな?お前の人質はうちにある。」

 

「…仲間を信用しねえお前らしい判断だ。だが、いいか?俺が目を光らせてるうちは()()()()()()()は誰一人殺させねえ。」

 

睨むバンドラに嘲笑するクロコダイル。

…砂風が逆巻く。そのとき、コーザとチャカが動き出した。刀を抜き、そのままクロコダイルへと切り掛かる二人。

 

しかし、クロコダイルにそれは効かない。

 

風に流され、ビビの背後へと回る。

 

「ッ!?」

 

「いいか、バンドラッ!!テメェが動けば、すぐさまこのアルバーナを爆発させるッ!!国王軍はまだ居るんだッ!!」

 

「チッ…!!」

 

バンドラが斬りかかるよりも早く…ビビの頬をクロコダイルの鉤爪が切り裂いた。たらりと血が垂れる。

 

「クハハハッ!!この鉤爪は毒針さ。ちと触れただけで人を死に至らしめる程度簡単な毒が王女様の身体には回るッ!!あとちょっとだったな…バンドラッ!!最初からこうして始末していれば良かったぜ。」

 

「ッ…!!」

 

ビビが膝から崩れ去る。

口からは息も絶え絶え、切れた頬から首までにかけて紫の字が広がっていた。

 

「ビビ…ッ!!」

 

「ビビ様っ…ぐはっ…!!」

 

コブラとチャカが目を見開き、そう言った。

コーザは叫びながら、クロコダイルに刀を振るう。

 

「おっと。」

 

「チッ…!!」

 

クロコダイルはそれを自身を砂にして避けると再び先ほどの場所へと戻る。

 

「ハァ…ハァ…。」

 

バンドラの腕の上に倒れるビビ。

バンドラにもう選択の余地はない。

 

「…許してくれ。ビビ。コブラ王。」

 

バンドラはその頬に口づけをすると…そこから毒をぷっと吸い出した。

 

「チッ…ダメか。」

 

「はぁ…ダメよ…バンドラ…さん…。バンドラさんが…死んでしまうわ…。」

 

「馬鹿野郎。俺には効かねえんだよッ!!」

 

ビビの身体をギュッと抱きしめるバンドラ。

ビビはそんなバンドラの頬を指でなぞる。そんなバンドラの足元に…コロコロと…小瓶が転がってきた。何処からか転がってきた小瓶。しかし、バンドラはそれの意味とくれた者の正体がわかっていた。

 

「…チッ。…まぁいい。生きようが死のうが関係ない。コーザ。お前がその刀でビビ王女を傷つけた。そのことを知ったチャカがお前を倒そうとし、相討ちになった。それだけで国王軍と反乱軍が戦う理由にはなる。何度でもやり直せるさ。」

 

ニヤリと笑うクロコダイル。

バンドラは小瓶を開けて、ビビの口に解毒剤を飲ませた。バンドラは眠るビビの身体をお姫様抱っこして、抱き上げる。

 

「…バンドラくん。」

 

「…そろそろですよ。コブラ王。この国を救う男が来る。」

 

「うぉぉぉぉッ!!クロコダイルゥゥゥゥゥッ!!」

 

…その言葉に応えるかの如く、隼に乗った麦わら帽子の男がクロコダイルの前に現れる。クロコダイルはすぐさま、フックで薙ごうとするもルフィの拳がクロコダイルの顔をひしゃげた。

 

「…あの時浴びたユバの水が教えてくれたんだ…。これでお前をぶっ飛ばせるッ!!此処からが喧嘩だぞッ!!」

 

その言葉にクロコダイルは青筋を立てた。




毒針はね、考えてたわ…。
こっからはちゃんと進めていきます。今までハンコックとのアラバスタツアーだったしね。背中の人が海賊女帝からビビ様に変わっただけです。あ、あの3人ももちろん出ます。では。

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