燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第14話

宴は夜中じゅう続いた。

寝ていた為か、眠たくなくなった歌姫によるコンサートも。喉を痛めない程度で止めにしたが、本人はやり切ったと満足げな様子であった。

 

バンドラは宴の途中、その場から少し抜け出し、診療所へ歩いていった。そこにはナミとノジコの眠る姿。宴中、ずっと看病していたのだろう。お腹が空いても目覚めるのを。その2人を優しげに見つめる女性の姿があった。

 

「…貴方…。」

 

「やれやれ。こんなところで寝てちゃ、風邪ひくな。」

 

隣のベッドにはゲンゾウが寝ている為、その隣のベッドから毛布を失敬し、2人へとかける。というのも、2人はベルメールのベッドから離れまいとガシッと布団を掴んでいたからだ。

 

「…腕、残念だったな。」

 

ベルメールの左腕は肩から下が切り落とされていた。骨は粉々で、使えてたこと自体が不思議らしい。腐ってもおかしくない為、切断という決断をしたとか。

 

「命があるからいいのよ。片腕でもこの子たちを抱きしめることは出来るから。」

 

笑顔で返すベルメールだが、その顔には真新しい涙の跡があった。母は強しというが、左腕が使えないという事実は相当堪えただろう。バンドラはそう思うと居た堪れない気持ちになった。

 

「そんな顔しないでよ。貴方のおかげで私もこの村も助かった。」

 

「…そうか。」

 

晴れやかな笑顔でそう言うベルメールにもう何も言うことはなかった。

 

「…貴方さ。元『海軍』でしょ。」

 

「すぅ〜…。なんのことでしょうかねぇ〜…?」

 

目線を逸らして、誤魔化すバンドラ。ベルメールは笑いながら、見たことがあるからと付け足した。

 

「それなのに、今は海賊やってるんだ。」

 

「…まぁ、立場があるからできることも立場があるから出来ねえこともあるからさ。海軍なんてすぐ辞めたよ。息苦しい。」

 

煙草を蒸し、窓際に移動するバンドラ。月明かりに照らされて、青い瞳が光り輝いた。

 

「俺ァ、自由に生きたい。そう思っただけさ。」

 

「自分勝手な人ね。」

 

「当たり前だ。」

 

煙草の煙が空へ舞う。バンドラは眠る少女2人を穏やかに見つめた。

 

「ありがとう。改めてお礼を言うわ。ナミとノジコとこうしてまた…一緒に居れる。」

 

「…礼を言われる筋合いはない。ただ、俺は女、子どもの泣く姿を死んでも見たくねえだけさ。親失って、涙枯れるなんざそんな胸糞悪い話あるかよ。」

 

ニヤッと笑うバンドラ。ベルメールはふっと微笑んだ。キラキラと輝く星々が夜空を着飾る。ベルメールが眠ったところを見届けると、バンドラは診療所から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

アーロン一味に船を沈められ、バンドラたちは滞在をすることとなった。ナミはあの地図帳を持って、バンドラたちのいる食事処に走ってきた。

 

「おっ。また来たのか。ナミ。」

 

「うんっ!!おじちゃん、また冒険の話、教えてっ!!」

 

ウタとヤマトと共に食事を摂っていたバンドラの横に座った。

 

「また来たの?ナミ。」

 

「うんっ。ウタももっと歌、聴かせて。」

 

子猫のようにそう言うナミにウタは顔を赤らめながら、照れていた。

 

「おじちゃんじゃあねえ、お兄ちゃんな。」

 

フォークを持ちながら、そう言うバンドラ。「おじちゃんで良いわよ」とウタが苦言を呈す。バンドラはこてっとこけるような仕草を示した。

 

「ヤマト…なんとか言ってくれよ。」

 

「んくっ…。そりゃ、ウタちゃんやナミちゃんから見たらバンドラはおじさんでしょ?いくつだっけ?」

 

「まだ25ですぅ〜!!」

 

「「おじちゃんじゃん。」」

 

およよと泣き真似をするバンドラ。というか、地味に泣けてきている。前のヤマトが笑顔で慰めるようにバンドラの頭を撫でた。

 

「おじちゃんっ。ほらほら、早く早くっ。」

 

「…もう良いや…。で、なんだっけ。冒険の話?」

 

元気よく頷くナミの頭を優しく撫でるバンドラ。そうだなぁ…と思案を曇らせる。

 

「…そうだなぁ。」

 

バンドラは沢山の話をした。

雷の止まない島、巨人たちの住まう島、空にあると言われる海や島の話。特に空島の話は周り全員、嘘だと言った。

 

「嘘じゃねえよ。海賊王の一団は行ったんだぜ。空島へ。」

 

「うん…確かにおでんの日誌には書いてあったけど…。」

 

そんなヤマトの頭にもハテナマークが浮かんでいた。

 

「…特に俺が行った中だと、お菓子の国だな。」

 

「「お菓子の国ぃ?」」

 

ヤマトはあぁ、あそこかと納得の言った表情。ウタとナミは目をキラキラさせながら、聞いた。バンドラは言うも嫌そうな顔をしながら、仕方なく話した。

 

「そこにはな。女王が住んでいるんだよ。こわーい女王様さ。見ただけで魂を奪われちまう。」

 

「こらこら、怖がらせちゃダメだよ。」

 

先程の仕返しか、わざと怖がらせるように言うバンドラ。ウタとナミは怖くないと笑顔で返す。

 

「…そうかい。お菓子に釣られてか、いろんな人たちがあそこに住んでるんだ。女王の家族が守っている国さ。女王は色んな男性から求婚され、色んな家族を作った。今も、継続中だろう。大所帯だよ。全く。」

 

「ヤマトお姉ちゃんは会ったことあるの?」

 

「んー、まぁ…父とその女王様は腐れ縁みたいなものだからね…。」

 

冷や汗をかきながら、困ったように笑うヤマト。

 

「家族になりゃ、その女王の傘下に入っちまう。そこら辺は末恐ろしい。あそこには俺の友達(ダチ)がいる。」

 

「へぇ〜。どんなひと?」

 

ウタがそう聞く。ヤマトとナミも少し興味を持ったようにバンドラを見た。バンドラは首を傾げて、考える。

 

「…どんな人って…。俺と同い年の足の長え女。」

 

「お、女…?」

 

「あぁ。スムージーっていうんだがな。俺がウタより歳上ぐらいの時か。一度お菓子の国で拾われてな。数ヶ月しか居なかったが、仲良くなったんだよ。」

 

「へ、へぇ〜…。」

 

ナミはキョトンとしていた。

バンドラは懐かしそうに笑う。バンドラとスムージーの感じはルフィとウタにすごく似ていた。当時、海軍からまだ抜け出したばかりのバンドラは行く宛も無く、ワノ国のカイドウと毎日喧嘩をし、飯を食い寝るという生活をしていた。

 

そんな最中、カイドウはバンドラを何故か、知り合いの国へ流した。カイドウ曰く、約束しちまったから…とのこと。その時に出会ったのが、まだ幼いスムージーだったのだ。

 

「会いたいの?」

 

ヤマトが聞く。

バンドラは嫌そうな顔をして言った。

 

「やだよ。あそこ行くと、結婚迫られて雁字搦めにさせられるんだから。俺は自由が良い。」

 

「ええー。ベルメールさんと結婚しないの!?」

 

「しません。…それに今は。」

 

そう言ってバンドラはウタとヤマトを見た。ウタとヤマトは同じ向きに首を傾げた。

 

「…コイツらとの約束もある。まだ、結婚云々は決められねえな。置き去りにしちまうから。」

 

目を細め、歯を見せて笑うバンドラ。ウタとヤマトもそれに応えるように笑った。

 

「ねぇねぇ。…バンドラはいつまでこの村に居るの?」

 

「ん?船が見つかったら出る。…いつまでも厄介するわけにはいかない。」

 

遠いところをバンドラは見つめる。

船が沈められて数日。アーロンたちはすぐに海軍によって拿捕された。船は村人たちが用意してくれている。バンドラは確認済みだ。

 

「それに、どっかの我儘歌姫の服も探さねえとな。」

 

「誰が我儘歌姫よッ!!変態親父ッ!!」

 

「誰が親父じゃッ!!」

 

「変態は認めるんだね…。」

 

きっと睨むウタと言い合いをするバンドラ。その様子を見て、ヤマトは諦観の笑みを浮かべた。ふとバンドラが横を見ると…ナミが少し落ち込んでいるように見えた。

 

「…ナミ。約束しよう。」

 

「…なんの?」

 

「いつかお前は旅に出て、自分の世界地図を作るんだったな。…それを俺に見せてくれ。約束だ。」

 

そう言って、バンドラは歯を見せて笑いながら、小指を出した。ナミはうんっと笑顔で頷き、小さな指をそれに絡めた。

 

その後、ナミを迎えにノジコがやってきた。ノジコとナミは一緒にベルメール宅へと帰っていく。バンドラは食事代を置くと、煙草を蒸しながら、微笑んだ。




箸休め的な?感じです。
ウタちゃんとバンドラは完全に兄妹的なアレですね…。相棒的なあれかな…?でも、バンドラはウタちゃんにとって救ってくれた張本人ってわけで…。後は未来の僕に任せよう…。

では次回。ココヤシ村編、最終回です。

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