燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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やりすぎた感もありますが、一応、船の日常ってことで。
少年誌じゃ載せられねえな。これってやつでございます。


第19話

…チュンチュンと鳥の囀りが目覚ましがわりに聞こえる。爽やかな青空が外に広がり、程よい風が船を押す。バンドラの横で眠っているヤマトはその日、一番最初に起きた。

 

「…ん…ぁ…あ?」

 

ばっと横を見るとまだ眠っているウタとバンドラ。小さく収まる少女と彼女の枕として左腕を頭の後ろに回す彼。まだ寝ぼけ眼のヤマトだが、彼女の食べたイヌイヌの実の本能なのか、自然と甘えたくなる。

 

…ヤマトとバンドラが初めて会ったのは自分にとってのトラウマである岩屋であった。小さな身体でやせ細った彼。そこにいた某たちもそれを見て、驚愕しただろう。

 

『…お前、なにもんだ?』

 

それが彼との初めての会話だった。

血だらけの顔で目つきの悪いその目は父を彷彿とさせ、少し怖かった。

 

『…ボクは…ヤマト。カイドウの息子。』

 

『息子?女じゃねえか。なんだ、アイツは…自分の子どもをこんなとこに閉じ込めてるのか。』

 

目つきとは違い、声は柔らかだった。

…この人は何をそこまで怒っているのだろう。それがヤマトが当時、思っていたことだった。

 

その日からヤマトとバンドラはいろんな話をした。特に外の話を弾ませて、バンドラという人をヤマトが知れば知るほど、陽気で子どもっぽく無邪気な人だと思うようになった。

 

いつしか、空いていた腹も膨れ、心も満たされるようになり、ヤマトも笑顔を取り戻すようになった。

 

…そんな毎日は続かなかった。

 

ある日、某と共にバンドラは岩屋を出ていこうとした。

 

『何処へ行くの?』

 

『…あのおっさんを倒しに行く。』

 

決意に満ちた瞳ではあったが、ヤマトは不可能としか考えていなかった。また、憧れの光月おでんのように人が死ぬ。特にヤマトにとって初めてと言えるほどの友達。…自然とヤマトの手はバンドラの手を掴んだ。

 

『ダメだよ。誰もお父さんには勝てない。…死んじゃうよ…?』

 

『何もできずに死ぬくらいなら、何かできてから死んだ方がいいだろう。それに…。』

 

ヤマトの頬へバンドラの右手が伸びる。

頬へと伝わる硬い…だが、温かい感触。そして、自分の目から頬を伝う涙にそのとき気がついた。バンドラは晴れやかな笑みを返す。

 

『…俺はお前を絶対、ここから出してやる。その為に戦うんだ。』

 

そう言って、バンドラは出て行ってしまった。

 

…その夜は凄かった。

上からはバリバリと轟音が鳴り響き、地面は揺れる。三日三晩、それが止むことはなかった。父がしているのかとも思ったが、違った。

 

『…出ろ。』

 

戦いが終わったのだろう。父、カイドウが岩屋から自分を出した。ボロボロな父をヤマトは見たことがなかったが、そんなことはどうでもよかった。ヤマトは無我夢中で走り、決戦場となっていたであろう鬼ヶ島の最上階へ、足をすすめた。

 

…そこはまさに地獄だった。

侍たちの冷たくなった身体と血の海。その死屍累々をヤマトは避けて進む。綺麗に片付けられている真ん中に彼は…倒れていた。全身のあらゆる箇所から血を流しているそれは知識の少ないヤマトが見ても重症だった。

 

8歳のヤマトよりも身体の大きな青年をヤマトは担ぎ上げ、走る。まだ間に合うかも知れないと。その一心で。ヤマトの目からは大粒の涙が流れていた。…光月おでん以来、死んでほしくないと思った人間。

 

…無我夢中で走っている間に何かにぶつかった。

それは巨大な体躯の人間…。他でもない自分の父であった。

 

『…ヤマト。そいつをどうするつもりだ?』

 

『…助けて…!!この人を…助けてよ…!!』

 

ボコボコにされて、恐怖の対象となっている父。それに縋るほど、ヤマトはバンドラを助けたいと思っていた。カイドウはバンドラの身体を掴み上げると、鬼ヶ島の中へと消えて行った。

 

ヤマトは膝から崩れ落ちる。

…父を、カイドウを信じてよかったのだろうか。あの人を行かせてよかったのだろうか。

 

『ぁ…あぁ…ぁあああぁっ…!!』

 

目から流れる涙が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…懐かしいね。」

 

ふっと微笑むヤマト。そう言えば、あの時もつきっきりだったっけと思い出す。正直、なんで自分がそこにいたいかはわからなかった。ただ、彼が目覚めないのが嫌だったから。だから、お腹が空いても寒くても暑くても、ベッドから離れなかった。

 

横で眠っているバンドラの頬を指でツンツンと突っつく。この前はウタちゃんが面白がってやってたっけと思い出す。あの日以来、バンドラという男の印象は変わっていない。子どもっぽくて、無邪気で…それでいて、頼れる。

 

あの日、目覚めた彼を見たとき、胸が締め付けから解放される感覚だった。8歳の割にあったからサラシを巻いていただとか、そういうものではない。ただ、ヤマトは楽になったのだ。それと一緒にバンドラの胸の中で泣いた。怖かったのだ。兎に角、怖かったのだ。

 

目覚めたバンドラはただ、優しく頭を撫でてくれていた。

 

その日からヤマトとバンドラ…そして、父、カイドウとの間に確かな信頼や絆と呼ばれるものが紡がれていた。幼い頃は父の喧嘩仲間として、そして、少し歳の離れたお兄ちゃんとして。

 

次第に光月おでんとしての男の自分と、ヤマトとしての女の自分が入り混じるようになった。父には相談できない。ヤマトはそう思い、自分の知り合いの女である『ブラックマリア』に相談した。

 

ブラックマリア曰く、『成長している証』だとか『それを人は恋という』だとか。ヤマトは全くピンとこなかった。

 

「…恋ってなんだろう。」

 

ヤマトは眠るバンドラに聞こえないようにそう言う。

 

ぽっかりと心の奥に真っ黒な穴が空いたような奇妙な感覚。でも、ヤマトにとって、バンドラは確実に自分の中の何かを変えた。好意はあれど、それは子どもの好意なのか、それともブラックマリアの言う『恋』なのか。まだ未熟なヤマトには答えを出すことは出来なかった。

 

「…んぁ?…ヤマト?」

 

細い自分の指で凹むバンドラの頬を見て、くすりと笑うヤマト。バンドラはくあぁ…と大きな口を開けて、欠伸をした。

 

「…ウタは…まだ寝てんのか。」

 

後ろを向いて、ヤマトに背を向けるバンドラ。ヤマトはいつも通り、そのバンドラへ抱きついた。豊かに実る双丘が硬い背中に潰される。

 

「んあっ?どうした。ヤマト。怖え夢でも見たか?」

 

「んー?んーん。別に?」

 

いつものように明るく笑うヤマト。見せた歯がキラキラと輝いていた。バンドラは手を離すように言い、後ろへ振り向く。

 

「おいおい。髪、乱れてんじゃねえか。」

 

「だって、まだ起きたばっかだもん。そりゃ、まだ整えてないよ。」

 

「…はぁ。んじゃ、いつも通り整えてやっから、離れなさいな。」

 

厳密に言えば、ヤマトは飼い主に愛犬がするようにギュッとバンドラを抱きしめて、その胸にすりすりと頭を擦り付けていた。ツノが突き刺さらない程度にである。

 

「ちっちゃい時によくしてたのは良いから。ほら、離れて。」

 

「…ん。」

 

そう言ってヤマトは少し不貞腐れてそうな感じで頬っぺたを膨らませる。しかし、その手はぎゅっとバンドラを掴んでいた。寝ぼけたウタが甘えることはあるとはして、ヤマトがここまで甘えるとはとバンドラはため息を吐く。

 

「ヤマトさん?…離してください。朝飯作りますから。」

 

朝飯の単語でようやく離すヤマト。

バンドラはヤマトの頭をぽんぽんと軽く叩き、その場を後にした。

 

「…ふわぁぁ。ボクも起きよっと。」

 

ヤマトは一人、そう言って室外へ飛び出していった。

 

「…え?なにあれ。」

 

すでに目覚めていたウタは一人、何が起こっているか、わかっていなかった。




次はホールケーキアイランドか、ロビン絡み?かな。
では次回。

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