偉大なる航路後半、新世界。
雪が降る街に必然か、運命か。バンドラの乗る船はついた。当のバンドラは…。
「うぅ…寒っ!!」
凍えていた。
バンドラはその性格故か、外の出来事を全く持って知らない。この時代はとある魚人によってマリージョアが襲撃された事件で持ちきりであった。
揺蕩いながら、何処吹く風の如く。
腕組み足組み、そして寝る。本人曰く、この漂流と言って良い状況が死ぬほど楽しいのだとか。変わり者である。
その時だった。
「誰かッ!!助けてくださいッ!!」
「あん?…ガキの声。」
漂流にも近いその状態。見渡す限り島といった島はない。近くにあるのは人が住めやしない海ばかり。雪の街はとうに抜けた。寒すぎたからだ。つまりは…子ども…。特に、女子の救難信号は…。
「不味いな。仕方ねえ。」
そう言ってバンドラは海に右手を入れる。
…能力者故、力が入らなくなるが、緊急時故仕方ない。
「…『
木の小船はまるでエンジンでも得たかのように前へと進む。
悲鳴のした場所へと一直線に進んでいく。
「大丈夫かッ!?…ッ!?」
…海上で倒壊した船。
甲板のかけらに乗る少女とそれよりも幼い女児が一人。女児はわんわん泣き、少女は女児を守るように手をバッと横に広げ盾になっている。
その少女の周りには数十人の海賊。
人相の悪い海賊が取り囲んでいた。
「へっへっへっ…。良い女だぜ…。」
「来ないでッ!!それ以上来たら…!!」
「来たら?なんだってんだ?」
少女の方も負けじと歯を食いしばるとベルトに挟んでいた小型のナイフで海賊の親分らしき、人間にむけていた。…しかし、相手も新世界を生きる1海賊の親分。そのナイフに笑いで返していた。
「へっへっへっ…。大丈夫だ。姉妹一緒に船で仲良く養ってやるからよぉ…。」
「…誰か…。」
消え入りそうな声で幼き少女は言った。
…その瞬間、突如として突風がそこにいる全員を襲った。
「な、なんだぁ…!?」
「船長、俺たちの船がッ!?」
その突風は大きな船が一隻。真っ二つに切り裂かれた時に生じた風が突風として全員が感じたのだ。
「…すまねぇなぁ。邪魔だったもんで、切り伏せた。」
そこには右手に刀を持った、黒髪の男、バンドラが笑っていた。
「はぁ!?」
「だから、女見るのに邪魔だから切ったつってんだよ。よっと。」
木片まで小舟を寄せると、そこに脚を乗せて、上がってくるバンドラ。バンドラは右手に刀『狂骨』を右手に持ち、少女の元へ行った。
「こ、来ないでッ!!」
「威勢の良い別嬪さんだねぇ。…その危ねえもん、こっち貸しな。アンタが持つにゃ、危なすぎる。」
そう言って、バンドラは優しく手を開ける。少女はギュッとナイフを握りしめる。そのナイフの刃を…バンドラはギュッと握った。
「あっ…。」
バンドラの掌は少し切れ、掌から赤い鮮血がポタポタと流れる。それでも、バンドラは笑顔で表情を変えない。少女は悲壮な顔になるも、バンドラを信じたのか、手をナイフから離し、前へと倒れた。
「おっと。」
刀を離し、少女を血のついていない腕で抱きしめた。
バンドラは怯える幼き少女に先程までナイフを構えていた少女を託した。
「お姉ちゃん…っ!!お姉ちゃんっ!!」
「よほど、気を張りつめていたんだな。…暫く待ってろ。そろそろ、奴らも我慢の限界だ。」
そう言うとバンドラはゆっくり立ち上がる。
すると、そのこめかみにカチャリと硬く冷たい感触を覚えた。
「お互い海賊なら、これを卑怯とは言うまいな?…俺たちがその女を遊覧旅行に招待していたんだよ。それを隣から掻っ攫うとは、少し野暮じゃねえか?」
「野暮ねえ。見た限り、フラれてたみたいだが?」
バンドラとて、修羅場をくぐり抜けてきた男。
銃如きでは臆さない。笑顔でそう答えると、海賊の親分は少しムッとした顔で、指に力を入れた。
「…てめぇ、状況わかって言ってんのか?」
「あぁ。残念だが、俺は良い女を見つけたら死ねないことになってんだ。それを抜くなら覚悟しろ?」
そう言って、海賊の方をさっと向く。
びっくりした海賊が引き金を引くも、バンドラは黒色化した手を目の前でクロス。弾丸は火花を散らせ、何処かへ飛んでいった。
海賊は少し狼狽えたところに、バンドラは狂骨を取り、後ろから向かってくる海賊へ、横一閃に切った。
「ちぃっ!!もう良いッ!!やっちまえッ!!」
その号令で海賊たちが銃を構える。
しかし、もうその場にはバンドラはいない。
「なっ!?…消えっ…!?」
「…見聞色ってさ、鍛えれば少し先の未来が見えんのよ。だからさ、丸見えってわけ。」
そう言って、まるで舞でも踊るかのように、海賊を背後から切り裂いていくバンドラ。
「チッ!?テメェら何してやがるッ!!」
そう言って、海賊の親分がナイフを振るうもバンドラは易々とそれを避けていく。
「くっ!?」
「邪魔だ、退け。」
そう言ってバンドラは相手の懐へ入ると、海賊の親分へ刃で斜めがけに切り裂く。
「『雷鳴』ッ!!」
その速度は落雷の如く。
親分のナイフと服だけを切り裂き、背後へ移動した。
「命までは奪らねえ。邪魔だ。さっさと帰れ。」
「…甘えな。テメェ、足元掬われるぜ…。」
「泣いてる子どもの前だ…薄汚え海賊の死に様を見るのは、海賊だけで良いんだよ…失せろ。」
後ろを向いて、全員を睨みつけるバンドラ。
一般海賊はたじろぎ、親分以外は海へと飛び込み、もう一隻の船へと逃げる始末。
「…早く行け。汚ねえもん、いつまでも彼女らの前で晒すな。」
「クソォッ!!覚えてろぉぉッ!!」
海賊の親分も荒れる海へ飛び込んだ。
バンドラはそれを見送ると、二人の少女の元へと行く。
「嬢ちゃんら、名前は?」
「…シュガー。お姉ちゃんは…モネ…。」
消え入りそうな声でそう言う青髪の少女、シュガー。
バンドラはそんな少女の頭を優しく撫でた。シュガーは痒いように目を細めた。
「そうかそうか。…よし。近くの町まで送ってってやる。乗れ。」
「…うん。」
3人は小舟に乗り、海中で風の波を発生させ、進む。
「おじさんは、なんで助けてくれたの?」
「おじ…ッ。まぁいいか。…嬢ちゃんの声が聞こえたからな。俺は、子どもの声は聞き逃さない主義だ。」
「そっか。」
シュガーは眠る緑髪の少女、モネの手を握り、微笑む。バンドラはその様子を見ながら、ゆっくりと進めていた。
「ん…んんっ…。」
「お姉ちゃんっ!!」
モネの瞼が上がり、シュガーはモネへ抱きつく。
モネはゆっくりと微笑み、妹の頭を優しく優しく撫でた。
ふと、顔を上げるとそこは見慣れないところだった。先程何が起こったのだろう。…朧げに霞む頭で何が起こったか探る。
「…目が覚めたか。」
ふっと笑う男の顔。低い声。
「あっ。…あの、あり…がとう。」
モネは申し訳なさそうにそう言う。
バンドラは微笑みながら「あぁ」と答える。ふと、モネは思い出した。そう言えば、この人の左手は自分が…。
「あのっ!!左手…大丈夫ですか?」
「ん?あぁ。荒療治だが、ほら。」
バンドラの左手は血に汚れた古布で巻かれていた。
「ちゃんと消毒はしている。一人で航海するということはそういうことだ。」
そう言って笑うバンドラ。
しかし、少女の顔は心配で曇っていた。バンドラは傷ついた方の左手で彼女の手を撫でた。シュガーとは違い、撫でられていないのだろう。ビクッと肩を震わせて、目を閉じた。
「…俺は船乗りだ。女好きの船乗りだが、海賊じゃない。気ままに流れるだけさ。それが、お前たち二人を助けた理由。」
「わかんない。」
キョトンとした顔でそう言うシュガー。
優しく笑うバンドラに、モネは…涙した。
頬を伝い、流れる涙。恵まれない環境で生まれた二人にとって、救世主と言って良い存在だったからだ。
「…本当に…ありがとう…っ…。」
「…あぁ。」
そう言って、震えるモネを黙って抱きしめるバンドラ。シュガーもそれに担って、後ろから抱きしめた。
「それじゃあ、俺は行くからな。」
「…ありがとう。本当に。」
「あぁ。…お前、俺と一緒に来る気ねえか?」
「ふふ。…もっとシュガーが大きくなったら一緒に行ってあげても良いわよ?」
そう言って笑うモネの顔には陰りなく、笑顔で小さく手を振るモネ。シュガーは子どもらしく大きく手を振る。それを背にバンドラは航路を進んだ。
風を穿ち、進む小船。
次に目指すは…新世界、ワノ国。
「一周でもしたら…ウタに土産話をたくさん聞かせよう。…しかしまぁ、良い女だったなぁ。モネか。」
ふっと微笑むバンドラ。
酒を一升瓶に持参して、ワノ国の滝を目指す。
「待ってろよ。カイドウ。」
…そう言うバンドラの顔は清々しいまでに晴れやかだった。
元々の正史を変えると結構無理矢理になるよねぇ…。
皆さん、結構第1話の時点で反響があったんで、書いてみましたけどね。女好きのところを掘り下げています。因みにバンドラはシャンクスより4歳若いです。はい。モネ好きです、はい。
ベルメールさんとかどうしようかな…。