『マンママンマっ!!言ったよな?お茶会に誘ったら出席するって。』
電伝虫を通じて女王は言う。寝ぼけ眼のバンドラはシャカシャカと歯磨きをしながら、めんどくさそうに聞いていた。
「ぺっ!!…んぁあ。それは嘘じゃねえよ。」
『あぁ。だから、開催することにしたよ。お茶会。』
…そう言って電話越しにビッグマムは笑った。
万国にとってビッグマムの一言は絶対である。つまり、お茶会をすると決めれば確実にそれは行われるわけだ。
「はぁ…。」
海賊に言うのも筋違いだが、その自己中心的な発想にバンドラは深くため息をついた。ヤマトとウタが扉の外から心配そうに見ていた。
「とはいえ、俺一人で行くわけじゃないからな。その点どうなってるんだ?」
『マンママンマっ!!心配ないさ。何人来ても心配ない。だから今度こそ必ず来なッ。』
「…はぁ…。嫌だ。嫌だが…言っちまった手前、行くしかないな。」
そう言うとビッグマムは通話を終えた。
バンドラは嫌そうな顔をしながら、部屋から出た。
「…おや。聞いてたのか。」
後ろを向くとまるで姉妹のように一心同体になり、ぴょこっと出ている二人にまるで肩の荷が降りたかのようにふっと微笑むバンドラ。
「ねえ、次はどこ行くの?」
「ん?」
首を傾げるウタ。バンドラは鏡台の前にウタを座らせて、髪を結っていく。ウタとしても初めての場所だろう。バンドラは赤と白の髪をゆっくりととかしながら、言う。
「前々から言ってたお菓子の国だよ。ホールケーキアイランドに野暮用で行く。茶会の誘いだ。…絶対に断れないな。」
「嫌そうじゃん。」
「あぁ。嫌だ。…だが、まぁ、これを機にもう一回行っとくべきだろうな。」
「あー、幼馴染?さんがいるんだっけ?」
…幼馴染と聞いてウタが思い出すのは、長閑なフーシャ村であった少し子どもっぽい男の子の姿だった。バンドラはそれを聞いて、少し悪戯っぽく微笑んだ。
「んだぁ?坊主に会いてえのか?」
バンドラが笑いながら言うとウタは少し頬を赤らめながら、鏡越しにバンドラを睨んだ。普段なら髪がピョンっと立っていただろう。後ろでベッドに座るヤマトも微笑んでいた。
「べ、別にそんなんじゃないし。あんな子どもっぽいの、私、別に好きじゃ…。」
「好きなんて言ってないけどなぁ?…痛ッ!!」
ニヤリと笑うバンドラ。
気に障ったのだろう、ウタはむすっとした顔で横にきたバンドラの足を蹴った。
「…私が好きなのはシャンクスだから。ルフィなんて…。」
「じゃあ、ウタちゃんのタイプってなんなの?」
後ろのヤマトが聞く。
朝の件もあり、幼いウタは少し気まずくも思っていた。だが、いつもと変わらない二人。それを見て、少しホッとはしつつもまだ疑念は残っていた。
「…子どもっぽくて、でも決めるところはしっかりと決めるかっこいい人。」
「なんだそれ、シャンクスじゃねえかっ!!」
大口を上げて笑うバンドラ。
そんなバンドラの脚をもう一度、ウタは蹴り上げた。
「…次言ったら引っ叩くよ?」
「す…すみませんでした…。」
部屋の床で脚を押さえながら、倒れるバンドラ。椅子の上で立ちながら、手を握り、怒るウタにヤマトは苦笑いしていた。
「あ、不味い。このままの進路だとホールケーキアイランドに着かないな…。ちょっと風操ってくるから、ヤマト、交代してくれ。」
「え?ぼ、ボクっ!?ちょっと!?」
呼び止めようとするヤマト。だが、バンドラは一足飛びと言わんばかりに速く室内から出た。
…ウタはヤマトをジトーと睨む。
というのも、ヤマトはこの3人のうち、一番と言って良いほど手先が不器用である。つまり、ウタは出来るの…と少し不安に思っているのだ。
「えっ…えーと…や、やろうか。ウタちゃん。」
ゆっくりと近づくヤマト。
整えられたキラキラと輝く紅白のストレートをまるで今まで触ったこともないようなもののように、恐る恐る手を近づける。
「良いわ。私が自分でやる。」
「うぇっ!?で、出来るの!?」
ウタはコックリと頷いた。
鏡台に置かれたブラシを取りながら、手慣れた手つきで髪を梳かしていく。
「バンドラにやってもらった方が自分じゃ見づらいから楽なの。でも、ヤマトがやると多分、大変なことになりそうだから。」
「うぅ〜…。ご、ごめんね?」
両方の指を突っつかせながら、もじもじと動くヤマト。ウタはゆっくりとため息を吐くと、自分の髪を手慣れた手つきで結っていった。
「ヤマトさ。朝、バンドラのこと抱きしめてたよね?」
「うぇ…えぇぇぇっ!?ななな、なんでそれ…!?」
顔を真っ赤にして驚くヤマト。
その顔はまるで茹蛸のように真っ赤だった。ウタはそんなことお構い無しと言わんばかりに、聞いていく。
「…別に。見てたから。」
「……ッ…。」
「んー?どうした?ヤマト。」
風を変え終わったのだろう。バンドラが船内へと入ってくる。
「う、ウタちゃんっ!!…その、君はまだ知らなくてもいいから…ね?」
「私ももう大人だもんっ!!」
「…なんだこれ。」
バンドラの目から見れば、汗を流しながら焦っているヤマトをウタが追い詰めているという図が船内に広がっていた。自身が元凶であるとはツユ知らず。ウタはぷくーっと頬を膨らませて、怒っていた。
「まぁいい、そろそろ着くぞ。ホールケーキアイランド。」
「えっ!?ほんとっ!?」
先程のことは嘘のように、ウタは目をキラキラと輝かせながらバンドラを見た。バンドラはあぁと目を細め、歯を見せて笑った。
…船はゆっくりと海を進む。
すると目に見えて海域が変わってきた。青い海が徐々に赤やオレンジ、緑など色彩豊かに色づいてきたのである。
「水飴の海だ。万国はホールケーキアイランドを中心に、ほぼ全てのものがお菓子で出来ている。」
バンドラがそう言うと、甘いものが好きなウタは目をキラキラと輝かせながら周りを見渡していた。
「…おや、これは珍しい客だ。」
万国の海域を進み、中央区、ホールケーキアイランドの港に船をつける。すると、そこには赤髪の男が立っていた。口元をマフラーで巻く男はバンドラ達を恐ろしい目つきで睨みつけていた。
「客はそっちだろう。バンドラ。それと、百獣のカイドウの娘だな。」
「なんだ?道案内してくれるのか?カタクリ。」
三叉槍の土竜を携えて、ビッグマム海賊団のNo.2と世間からも身内からも呼ばれる男…シャーロット・カタクリ。その目線はとても冷たく、ウタはバンドラのズボンをギュッと握っていた。
「…ママからの指令だ。仕方ないだろう。だがッ!!」
その直後、バンドラの頬を土竜が掠めた。
バンドラはわかっていたが、敢えて避けなかった。ウタは目をパチクリと動かし、起こったことを理解していた。カタクリはキッと更に強い目つきで睨みつける。
「…妹に手を出そうとする輩は俺が許さない。」
「相変わらずだねぇ。流石は何事にも完璧なカタクリお兄ちゃんだ。」
「…今日こそ決着をつける。ママやスムージーと話が終わったら、俺のところへ来い。」
そう言ってカタクリは歩いて行った。その後ろをバンドラ達はついて行きながら歩いていく。街並みは、まるで絵本の国のよう。壁や屋根や煙突など、クッキーで出来た家が何軒も立っていた。
「うわぁぁぁっ…!!」
「あはは。ウタちゃん、周りの家見ながら良い笑顔してるっ!!」
「食べるなよ〜?捕まっちまうからな。」
バンドラは微笑んでそう言った。その言葉にウタの髪が下へとしなだれる。
「安心しろ。そこにいる男は既に一度捕まっている。」
「ええっ!?」
「…ここでもお腹空いてたんだ…。」
カタクリが後ろをチラリと見て低い声で言う。ウタはぴこんっと髪が上に上がるくらい驚き、ヤマトはバンドラをジトーと見ていた。
…数年前、ここに無理やり連れてこられたバンドラはお菓子の甘い匂いに耐えきれず、民家の壁を少しだけ食べたことがあった。その時、チェス兵に捕まり、会ったのがここの女王、ビッグマムであったのだ。
「まぁ、経験者は語るってやつだ。」
「…お前達はお茶会の客だ。要らんと言っても、お菓子は出る。」
その言葉にいち早く動いたのはウタの髪の毛であった。
…喋りながら進んでいくと、やがて天高く聳り立つ大きなケーキの城、ホールケーキ
城内はビッグマムの能力で生み出された生命体、ホーミーズがたくさん跋扈していた。ウタやヤマトはそれに対して、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のような反応するも、カタクリは構わず進んでいく。…やがて、一際大きな部屋へバンドラ達は入って行った。
「…太陽?」
「ママ。連れてきたぞ。」
カタクリがそう言うと何度か聞いたことのある、笑い声が部屋中に響き渡る。天井近くには雲と太陽のホーミーズが浮いたり沈んだりしていた。
「やっと来てくれたね、バンドラ。」
…大きな女王がバンドラ達を笑顔で見る。しかし、笑顔であるにも関わらず、何処とない威圧感を漂わせていた。
やっぱり皆んなルウタが見たいんだね。俺も見たいけどどう絡ませるか…。ホールケーキアイランド編はまぁまぁ色々あると思います。多分ですが、終わったらそろそろ原作時空へ飛ぶか、海軍あたりの話をしようかなと。では。