「あぁ…。疲れたぁ…。」
ホールケーキ城内、男子室。
ビッグマムの食いわずらいにより、身体中が硬くなっているのを感じるバンドラ。外は闇。渡航には心配ないが、ビッグマムの…いや、ほぼスムージーとカタクリの裁量により、バンドラ達の一泊が決まった。
バンドラ達に拒否する理由はない。
夜間でも渡航は可能だが急ぐ理由もなく、そして、ウタがこの国を気に入ったこともあり、一日ぐらいは良いだろうという判断のもと、甘えさせてもらうことになった。
『災難だったな。バンドラ。』
「えぇ。センゴクさん。お久しぶりで。」
バンドラは室内のベッドに寝っ転がり、部屋の机に電伝虫を置く。電話の主は海軍の元帥であるセンゴクだった。
『しかし、良いのか。四皇の領地で海軍と話するなど。』
「ええ。…ワザワザにはね、電波障害を起こす力もあるんですよ。盗聴は不可能だと思いますよ。」
『海軍から盗みよって。』
そう怒るセンゴクにバンドラは苦笑で返した。
「…なぁ、センゴクさん。死んだんだろ?アイツは。」
『…あぁ。死んだ。私は彼を…止められなかった…!!』
電伝虫越しの声が軽く震える。泣いているのだろう。それ以上、バンドラはセンゴクのことが責められなかった。
…センゴクが泣き終わるまでバンドラは無言で待つ。
『…バンドラ。お前、帰ってこないか。…海軍に。』
センゴクは息を吸うとそう言った。
今回のこの会話、かけて来たのはセンゴクの方だった。つまり、これが本題なのだ。バンドラはふっと笑った。口は笑っていたが、目は笑っていなかった。
「嫌ですね…。例え、貴方やガープさんからの頼みだとしても、俺には約束があるんで。親友や腐れ縁、女達や船員…それと親父との。」
『…そうか。お前が海軍に戻れば、安泰なんだがな。』
「…貴方には酷でしょうが、友人のいない海軍には何の魅力もございません。肩書きだけじゃァ…何も出来んでしょ?」
声がより低くなり、完全に笑みが消える。
センゴクは眉間を押さえると…そうかと一言だけ答えた。それから、電伝虫は切れてしまった。
「…ふぅ。」
窓際まで出て、煙草を吸うバンドラ。
白煙が夜闇に吸われているようにも見えた。
…すると、コンコンっとノックの音がした。
「…どうぞ。」
バンドラは、窓ガラス越しにその人物を見た。そこにはピンクの可愛らしいパジャマを着たウタが立っていたのだ。
「どうした?…って、そうか。」
バンドラは思い出したように髪を掻き上げた。
ウタはそうだと言わんばかりにこくりと頷いた。原因はヤマトだった。ヤマトは非常に寝相が悪く、横に寝ると蹴りやら拳やらが飛んでくるというほぼ地獄のようなものだ。バンドラが横にいる時だけ、落ち着くのか暴れないが、ウタは辛いらしい。
「…いいぞ?ベッドで寝てて。」
「んー。いや、まだ良い。」
そう言ってテクテクとバンドラの横へ歩いてきた。いつもとは違い、風呂に入った為、長い髪の毛が全部下ろされた状態だった。
「くくっときなさいよ。邪魔だろ?」
半ば強引にウタをベッドに座らせると、バンドラは懐から出したゴムでウタの髪を括っていった。所謂、ポニーテールの状態である。
「まぁ、もう寝るし。いつもの髪じゃないけど許せ。」
「うん。ありがとっ。」
にっと笑うバンドラに対して、ウタもホッとしたかのように笑った。
「…ねぇ、バンドラはなんでそんな手慣れてるの?」
ふと気になったのか、ウタはバンドラの方を向き、そう聞く。バンドラは目を点にして驚いていたが、直ぐにふっと笑い、タバコの火を消した。
「ほぼ、ヤマトのせいだなぁ。アイツ、髪ボサボサでもそこら辺走ってるからなぁ…。」
バンドラは苦笑いをしながら、淹れてもらった珈琲を飲んでいた。
「…そっか。」
ウタは楽しそうに笑うバンドラに少し顔を曇らせた。ウタとしてはバンドラはウタを救ってくれた人でもある。遠いエレジアまで来て、自分の為に数日間いて、それで自分の願いをこれから叶えようと奔走してくれている人だ。本来ならば、足を向けて寝れないほどの恩人。
…それがなんでヤマトとハグしてるだけで……。
ウタの中にはよくわからない感情がぐしゃぐしゃになってきた。
「…成長したな。ウタ。」
「…?」
急にバンドラがウタの顔を見ながら微笑んで言った。ウタには意味がわからなかった。何故…今…と。
「シャンクスのとこにいた時はもっと小さかった。」
「当たり前でしょっ。何言ってんの。」
「ハハハッ。いや。シャンクスのやつ、娘のこんな姿、見たかっただろうなぁ…ってな。」
歯を見せてにっと笑うバンドラ。その姿はフーシャ村でウタを待っているであろう幼馴染のような少し子ども臭い表情に見えた。
「背も高くなって、生意気な口を聞くようになってそれで………美人になった。」
「……ッ…。」
バンドラが遠くを見てそう言う。悪気はないのだろう。だが、そんなことを言われるのは初めてなので、ウタの顔は淡く赤く染まっていた。
「ハハッ。…ルフィのやつも良いなぁ。お前がいて。」
「バンドラだって、ヤマトとかスムージーとかいるじゃん。」
「…まぁ、そうだけどよ。俺がアイツらに会った時は幾分か成長した頃だぜ?幼馴染同士で、結婚しようね!なんて…ピュアなことしたことねえよ。」
ベッドの上に腕を組んで枕にして寝転がるバンドラ。ウタはその様子を無表情で見ていた。
「じゃ、じゃあヤマトはどうなるのよ。昨日、船で抱き合ってたの見てたんだからね!?」
「…見てたのか。まぁ、別に何ら特別なことじゃねえよ。昔っからああいう奴だ。」
バンドラが天井を見てそう言った。
…特別なことじゃない。そういえばとウタは思い出す。シャンクスやベックマンはよくウタのことを抱きしめてくれた。だけど、ヤマトとバンドラのそれは…自分の知るそれとはまた別物な感じがしてならないのだ。
難しいことはまだよくわからない。
「ビンクスの酒を 届けに行くよ♪海風 気まかせ 波まかせ♪」
「えっ?ど、どうしたの?」
少し高い声で笑いながら歌うバンドラ。
急なそれにウタは内心びっくりしていた。シャンクス達よりも随分と上手い歌。バンドラはウタに向かってニヤリと笑う。
「美人になったつったのに暗い顔してたら、台無しだぜ?歌姫はもっと明るくならなくちゃ。」
悪戯にニヤリと笑うバンドラ。
ウタは誰のせいだ…と思わんばかりにバンドラを睨むが、考えているのも馬鹿らしくなり、ため息をついた。
「下手くそすぎ。もっとちゃんと歌って。」
「えぇー?そんな殺生なぁ…。」
肩を落としてガッカリするバンドラ。
ウタはそれを見ながら、くすくすとわらった。まるでその様子が
「ビンクスの酒を 届けに行くよ♪海風 気まかせ 波まかせ♪」
ウタの澄んだ声が室内に反響する。
エレジアの王 ゴードンが絶賛した歌声。それはやはり、天使と言っても良かった。いつもよりちゃんと聞いているからか、バンドラの目から涙がポロリと涙が滴れる。
「ふふっ。何泣いてんのよ〜。」
「は、は…はっ?泣いてねえし?こんな小娘の歌一節で大人の俺が泣くわけないだろっ!?」
「うっそだー。泣いてたもんっ。もしかして、負け惜しみ?」
そう言ってウタはにっと笑って手を軽く開閉するような仕草を見せた。バンドラはむすっとした顔で泣いてないと豪語する。どっちが子どもか、わからなくなったようなそんな感じがした。
「ねぇ、バンドラ。…今日も一緒に寝て良い?」
「あ?女部屋で違うとこで寝た方が…。」
「やーだ。バンドラの横がいい。」
悪戯に笑いながらそう言うウタ。バンドラは後頭部を掻きながら、半ば折れるように笑った。
「…わかった。いいよ。」
それだけ言うとウタは笑ってコックリと頷いた。
プロフィール
バンドラ(パンドラではないので注意)
性別:男
種族:人間
歳:現在は25歳
身長:200cm(シャンクスより1センチ高い)
性格:子どもっぽく負けず嫌いで無邪気。ただ、約束は守る主義で自分の大切なものを傷つけられたときは許さない。
覇気:見聞色、武装色
悪魔の実:『ワザワザの実』の『災害人間』
好きな食べ物:キムチチャーハン、スムージー、サーモン
嫌いな食べ物:無し
好きなこと:音楽を聴く、戦う、自由に航海する。
嫌いなこと:縛られること。
好きなもの:女、子ども、タバコ
嫌いなもの:徹底した正義
武器:『狂骨』 位列無し
金の汚れた鍔に乳白色の刀身をしている。鞘は焦赤茶色。
見た目:黒い少しパーマがかった黒髪。肩より上。背中には金の雲と黒い龍の刺青があり(カイドウによりワノ国の彫り師に掘られた)黒がメインの赤い帯の着流しの着物を着ている。胸元からはよく唐草模様の巾着袋を出す。中は飴や金。目は青い。カイドウによってつけられた傷…もはや、字が右目を覆い、稲妻上に形作っている。靴はゲタのようなもの。右脇腹に大きな傷跡がある。