万国の朝は騒がしい。
まるで毎日パレードかのようなラッパの音が島中に響き渡る。
「「〜ッ!?」」
朝はゆっくりとしたい派のバンドラとウタはその音に飛び起きた。特に耳の良いウタは耳を両手で押さえ込んで涙を流している。朝一番、いきなりの轟音が室内に響き渡った。
「バンドラ〜っ!!いるか〜っ?」
その状況を知らない能天気なヤマトが室内へと入ってくる。目をキラキラと輝かせ、バンドラの部屋からその状況を見ていた。
「…お前、何してやがる…。」
ガンガンと痛む頭を押さえながら立ち上がるバンドラ。ハッ!?と此方を見るヤマトからはまるで肉食動物が目の前に餌をぶら下げられたような目を感じるバンドラ。そして…。
「バンドラ〜っ!!」
「ぐぉぉッ…!!」
ぴょんっとバンドラの腹へ跳んでくるヤマト。そのまま後ろのベッドへ二人とも倒れ込んだ。ヤマトは恍惚そうにバンドラの胸板へ頭をすりすりと擦り寄せていた。
「や…ヤマト?なにしてんの…?」
隣にいたウタはその様子に少し戸惑いながら見ていた。半ば引いているウタにヤマトは満面の笑みで答えた。
「ボク、昨日、一人で寝たんだ。暗闇の中で。だから、ずっと朝からバンドラを探してた。だから、会えて嬉しいんだっ!!バンドラにっ!!」
「ええ…それって…。」
「イテテ…。コルァッ!!加減をしなさい。加減をッ!!」
バンドラは跳んできたヤマトの頭にコツンと拳骨を落とした。ヤマトは頭を押さえて、涙ぐむ目でバンドラを見る。流石に今回ばかりは…とウタも思っていた。
「…はぁ。お前があの岩屋にいたことで暗闇があんまり得意じゃないことは知ってる。だが、もう少しズレてたらお前のツノが俺の腹を突き刺してたぞ。」
「そーだぞー。」
「うう〜…。ごめんなさい…。」
バンドラとウタはジトーとヤマトを睨む。
ヤマトは頭を押さえながら、二人に謝った。
「ん?あれ?…なんか二人、仲良くなった?」
「元々よ?ねぇ?」
ウタが横のバンドラにそう聞く。バンドラは笑顔であぁと頷いた。バンドラとウタが仲良くしているのが嬉しくなったヤマトは次はウタも入れて、抱きしめた。
「マンママンマっ!!」
ビッグマムを中心にバンドラ一向とシャーロット家の兄妹たちが座る。その中にカタクリとスムージーの姿もあった。
「昨日はすまなかったねぇ。バンドラ。」
謝っているが、その顔は悪気がなかった。
バンドラはテーブルに乗っているパスタを絡めて食べる。流石、一流の料理人が集まっている万国だ。ヤマトもウタもほっぺが落ちそうになっている。
「マンママンマッ。やっぱりお前の力が俺は欲しくなったよ。」
「…何か食わねえと暴走する女王様のところなんて俺はいたくないね。」
パスタをかっ喰らいながら、ビッグマムを睨むバンドラ。ビッグマムはなおも、笑っていた。しかし、食卓はスムージー以外のシャーロット家の人間はそのバンドラを睨んでいた。
当たり前だ。シャーロット家の人間からしたら、自身の船長を愚弄されているのだ。そりゃ、厳しい目つきにもなる。
「ところで、またカタクリと戦ったんだったねぇ?どうだったんだい?」
「テメェのせいで決着つかずだよ。」
「マンママンマッ!!そりゃ良いね。お前がうちに来たら、カタクリと同じくらいの戦力になるってわけだっ!!」
「行かねえつってんだろうがッ!!」
笑うビッグマムに歯を剥き出しにして怒るバンドラ。それに対して、ビッグマムは余裕綽々の笑みで返した。
「…ママ。こんなやつ、要らねえだろ?生意気すぎるぜ、ペロリん。」
長男、シャーロット・ペロスペローが声を荒げる。しかし、それはビッグマムの睨みで言葉を失った。
ビッグマムとしてはバンドラ一人手に入れるだけで、一騎当千の戦士を手に入れることになる。その機会を失いたくないのだ。
「よーく言った!!ペロリんッ!!」
「だぁれがペロリんだッ!!」
バンドラは満面の笑みでペロスペローに言った。スムージーはどれだけ来たくないのだと少しジトーとした目で見ていた。
「…此処にいたら胃に穴が空きそうだぜ…。」
食べ終わった面々がそのまま席を立つ。ヤマトとウタは先に部屋に帰り、シャーロット家勢も自分の島へと戻り、見回りを開始した。今、室内にいるのはスムージーとバンドラだけであった。
「…おい。」
「んあ?おっ!!」
スムージーはバンドラの目の前に得意料理であるスムージーを出した。バンドラはそれを歯を見せて笑い、手に取る。スムージーは少しふっと微笑みつつも、頬杖をついてその姿を見ていた。
「好きだったろ。私のスムージー。」
「あぁ。好物だ。」
「初めて披露したときには、腹にたまらないと怒っていたがな。」
にっと笑うスムージー。バンドラは少し顔を赤らめてむすっとしながら、スムージーのストローを掴んで、少しずつ飲んでいく。キウイベースのグリーンスムージーが喉を潤していく。
「…美味い。」
「ふふ。当たり前だ。」
褒められて嬉しいのだろう。スムージーが優しげな笑みを浮かべた。
「しかしまぁ、ママにあれほど楯突いて生き残っているとはな。なんだ、そんなに自由が良いのか。」
「…約束してんだよ。アイツらと。俺はそれを果たすために自由じゃなきゃいけねえんだ。」
ストローから口を外し、バンドラは歯を見せて笑った。スムージーも…そうかと優しげに微笑む。おっ…と口を開けるとスムージーはバンドラの口元のスムージーの泡をスムージーは指で拭い、ぺろりと舐めた。
「…なにすんだよ。」
「いや、なに…。変わらぬのだなと思っただけのことだ。」
そう言ってくすくすと笑うスムージー。
バンドラはむすっとして、またスムージーを飲み出した。
「…お前とはそういうんじゃねえ。」
「だろうな。」
「もっとちゃんとしたいんだよ。」
「あぁ。嬉しいぞ?」
むすっとした顔で少し苛立ちながら言うバンドラにスムージーは余裕のある笑みを浮かべて、躱していく。スムージーとは会った時からこういう関係だった。同い年ということもあり、仲良くなるのも早かったが、子どもっぽい性格のバンドラに比べ、スムージーは自分をお姉さんだと思っている節がある。一人っ子と長女ではないが姉の器量の差というべきか。
「おや、無くなったのか?」
「ん?まぁ…。」
「飲むか?私。」
「…は?」
スムージーはシボシボの実の能力者。
自分の足の下にグラスを置くと、自分の太ももを搾っていく。グラスの中には淡いピンク色の液体が溜まっていった。
「んっ…。ほら、飲め。」
「重いわ。…要らん。」
「勿体無いぞ。折角、お前のために搾ってやったのに。昔は美味いと言い、飲んでいたじゃないか。」
その昔。よくゲームをして遊んでいた二人。スムージーには三つ子の姉妹も見るが、バンドラといる時だけは姉のシャーロット・スムージーではなく、ただのシャーロット・スムージーでいられた。その罰ゲームとして、相手の搾ったスムージーを飲むという今見れば、奇行としか言えないことをしていたのだ。
「要らないか?私。」
「お前なぁ…。」
「ふふ。冗談だ。」
そう言って、グラスの中の液体を飲み干すスムージー。ぺろりと唇を舐めると美味しいと言って笑った。
「甘めのピーチだ。私ってこんなだったか?」
「ピーチ?昔はイチゴじゃなかったか?」
「ほぉ?覚えておるのだな。変態め。」
しまった…と口を押さえるバンドラ。それを見てスムージーはくすくすと笑っていた。
「はぁ。久しぶりに笑った。お前といるとつまらなくて良いな。」
「お前、俺を揶揄ってるだけだろ。」
「ふふっ。当たりだ。」
目を細めて笑うスムージー。
悔しいが、バンドラには何も言えない。スムージーの顔が良すぎるのだ。スムージーは気が済んだのか、椅子から立つ。
「もう昔のようには遊べぬな。二人とも立場がある。」
「バーカ。お前がやりたいなら、俺はいつでも付き合うよ。」
狂骨を担ぎ、ニヤッと笑うバンドラ。スムージーはそうかと安心したように微笑んだ。
「ふん。小僧が生意気を言うな。」
「同い年ですけどッ!?」
スムージーとバンドラは並んで外へと出ていった。
好きなもの:スムージー→あ、察し。の人〜っ!!
近からず遠からずだよぉぉ〜っ!!
スムージー姉さんが自分を搾って飲ませようとするってのは書いてみたかったです。変態ではないです。
あ、あと、パンドラではなく、バンドラ。濁点なのでよろしくお願いします。