燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第259話

「よくもまぁ、こんなジメジメしたところに住んでるもんだ。」

 

「…慣れたらわりと悪くはない。農作物も育つし、何より静かだ。」

 

「あっそ。」

 

暗く…少し湿った空間。机の上にはミホーク秘蔵の赤ワインとペローナ特製のケーキが置かれていた。

 

「先の戦争では世話になった。」

 

そう言って頭を下ろすバンドラ。

頂上戦争では斬り合った挙句、ボロボロになったバンドラの身体を気遣ってくれたのだ。

 

「ふん。俺が優しさで言ったとでも思っているのか。」

 

「知ってるよ。どうせ、俺が居なくなれば対等な相手…ライバルが一人消えるからだろ?俺一人傷つく分にはどうでもいい。」

 

そう言いながら、ワインに口をつけるバンドラ。ミホークの鷹の目がギロリとバンドラを捕らえる。

 

「…で、お前の方の要件は。」

 

「…ん?あぁ。そこのモネ、俺の仲間だが…そいつに似合う刀を一振り譲って欲しい。エレジアは元々、音楽の島だ。そういう戦闘向きな武器は極端に少なくてな。」

 

「…そういうことなら持っていけ。まともな刀は無いだろうが、探せば使えなくはない刃物くらいならあるだろう。」

 

「助かる。」

 

そう言ってバンドラはニヤリと笑った。

 

「…しかし、ロロノアとの戦いを見ていて思ったが…お前は何故、相手を舐めてかかる。」

 

「俺が?そんなことしちゃねえよ。」

 

半笑いでそう言うバンドラ。

ミホークはなおも厳しい眼差しでバンドラを見つめた。

 

「剣術でお前に勝てる奴なんて居ねえし。あの戦争の時は武が悪かったんだよ。」

 

「…少なくとも、仲間を連れて来ず、俺に対しても能力で対応していればあの戦乱の中、無傷で帰ることだって可能だったはずだ。本質を知らぬ人間はお前のことをこう呼ぶ。…最弱の皇帝だと。」

 

そう言ってミホークは新聞をバッと前に投げた。そこには確かに偏向報道の軌跡が載っていた。

 

「お前と他の奴らの繋がりを知らん馬鹿者どもが…だ。力を誇示しないのは結構だが、その余裕が身を滅ぼすことだってある。そういう海なんだろう?」

 

「…身を滅ぼす…ねぇ。」

 

そう言ってバンドラは隣に立っていたモネへ新聞を渡した。その偏向報道を見たモネは顔を顰めるのではなく、笑みが消え、静かに睨んでいた。その表情の少なさゆえに怒っているかは普通ならわからないのだが、バンドラにはわかっていた。

 

「甘ささえ捨てれば、相手を無力化しながらお前は戦える。あの赤髪ですら手を焼くかもしれん。その力がお前にはある。」

 

「買い被りすぎだろ?流石にシャンクスに対して無傷は無理だよ。…それに今、エレジアを戦地にはしたくない。木端海賊のエゴで…ウタの、ゴードンの夢を汚されたくねえんで。」

 

「…ならば、俺がエレジアを襲撃する…としたらどうなる?」

 

…ミホークは試すかのようにニヤリと笑い、そう言った。直後、バンドラの空気が一変する。それはペローナは愚か、城の中を興味本位で見ていたヒューマンドリルを気絶させるほどの…覇気だった。

 

やってみろよ。…たとえそうなれば、お前であろうと容赦はしない。人の敷地に唾つけた代償ってのを負ってもらう。

 

いつもなら冗談だとはぐらかしたのだろう。しかし、ヤマトやエースから聞くに売名目的でエレジアを襲撃してくる海賊が増えてきたそうで。バンドラもピリピリしてるのだ。勿論、バンドラは何度も帰ることを考えはしたが、ヤマトやエースが自身の修行にもなるとバンドラに心配させまいとしており、バンドラも彼女らを信用しているため、まだウェザリアに腰を落ち着かせているところであった。

 

ともかく、バンドラは今、火のついた導火線。いつでも爆発する準備が整っている状態であった。その状態でこんなことを言えるのは流石ミホークとも言える。

 

「…冗談だ。」

 

ミホークの額からたらりと汗玉が一筋流れる。

バンドラから特有の覇気が消えた。まるで蝋燭の火をふっ…と吹き消したかのように。

 

「そろそろお暇しよう。ロロノア・ゾロには起きたらこう伝えておいてくれ。『もし、新世界で海賊稼業をするならばいずれ相対するだろう』とね。その時は本気で戦えることを心より願っている。」

 

「…ふん。俺とはやってはいかんのか。」

 

「モネもいる。俺は…傷つけたく無いから。」

 

そう言って笑うバンドラ。

すれ違いざま、ミホークは武具の部屋の場所をバンドラへと告げた。…好きなだけ持っていって良いと。

 

バンドラ達が去った後で、ふっと笑うミホーク。

 

「…アイツはまだまだ成長する。…化けるな。赤髪。」

 

そう言いながら、ワインに口をつけた。

まだ床で泡吹くペローナを他所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シッケアール城内。

バンドラはミホークに耳打ちされた場所へ歩いて行く。そこには少し埃っぽい匂いのするものの、シッケアール王国と共に命を散らしたろう数々の武器が置いてあった。

 

「剣、弓、銃…なるほど。ちゃんと人のサイズの武器ばかりだ。お言葉に甘えて、いくつか失敬しておこうか。」

 

「担保になりそうなもの、ある?」

 

バンドラは武力のことについて考えていたが、モネは別のことについて考えていた。金である。

 

最近ではエレジアの興行もそこそこ軌道に乗っており、エース、バンドラ、ヤマト、ウタの大食漢達の食費は勿論、赤髪襲来時よりも数は少なくなったものの必需品たる楽器の整備費、ルエノルーヴ号内の必需品、生活用品、バンドラ含めた全員のお小遣いetc.

 

飛んでいく量も桁が違う。昔のモネなら自ら海軍に出頭して、それで得た金で潤わせる手筈も組めただろうが、それはとっくにバンドラに制止されている。

 

「まぁ、どこかで売り捌けば、そこそこの金にはなるだろう。ただ、武器の売買だから戦争の引き金にならないようにだけ考えものだな。簡単に足がつく。」

 

「あら。農具もあるわ。」

 

「まぁ、だったら土壌がしっかりしている土地なら農具と種を格安で売ればいい。少しずつでも利益は利益だからな。それで足らなかったらリスキーだが、背に腹はかえられないから武器のバイヤー…か。ただミホーク(アイツ)が言ってたように上等な剣とかは…ないな。」

 

品定めをするバンドラとモネ。

勿論、バンドラもモネもナミほど金に煩くはなく、目利きもできない。故に鋼が上等かどうかは分からずとも、切れ味やサビ、欠け等の欠陥がないか程度を確認していた。

 

「取り敢えず、モネ。お前の刀に使え…いや、刀じゃなくてもいい。武器として使えるものを探してくれ。本当は…俺が全員、死んでも守ってやるっ!!…って言いてえが、今回みたいに俺が常時エレジアにいる可能性はほぼゼロに近い。」

 

「うん。わかってるわ。」

 

バンドラはフッと笑い返す。

モネは甘え下手であるものの、ものわかりのいい娘である。要領がよく努力家で、少し天然が混じっている。ただそれでもバンドラやヤマトのような化け物では無い。

 

表情筋が死んでいるのかのようにいつも微笑を浮かべ、冷淡に敵を捌く様はまさに雪女郎。まぁ、伝承的には死ぬのは彼女に好かれたバンドラの方だが。

 

彼女の冷笑以外の表情を知っているのはバンドラ達だけ。今もムムムっと眉間に軽く皺を寄せて悩んでいるモネをバンドラはクスリと笑いながら見ていた。

 

「…これにしようかしら。って、何で笑ってるの?」

 

自分が笑われているとはいざ知らず、小首を傾げるモネの手には白と青の持ち手の少し綺麗な刀だった。狂骨やローの鬼哭に比べる短いが、大体、ゾロの持っている刀と同程度のサイズ感といえよう。

 

「良いじゃないか。抜いてみな。」

 

「え?あ、うん。」

 

シャキンっと抜かれたその刀身はあまり錆などは目立たず、しっかり磨けば白銀と言えるレベルまで回復するだろうというものだった。反りのない刀身に直刃の波紋はモネの実直たる性格を表していた。

 

「…うん。似合ってる。」

 

「ふふ。ありがとう。」

 

「じゃあ、帰るか。」

 

そう言ってバンドラとモネはウェザリアへと帰るためにシッケアール王国の港へと歩いて行く。

 

「…ねぇ。帰る前に何処かに寄って行かない?」

 

その途中、振り返り様にそう言うモネ。普通の国ならば日が落ちてそれが揺らめく海面に映り込み、綺麗と言えるだろうが、ジメジメとしたこの国ではそんなムードはない。ただニコッと微笑むモネがよく目立っているだけだった。

 

「二人で?」

 

「…だめ?」

 

上目でそう言われてはバンドラには断る理由はない。にっこりと微笑み、勿論と返すとバンドラ達はルエノルーヴ号へと戻っていった。




次回はモネさんとデートで1話使います。どこ行こうね。では。
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