燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第263話

…朝帰りとなったバンドラとモネは各々の家に着くなり、糸が切れたようにベッドにつき、ナミがいるかどうかも確認せずに眠った。前日の朝が早かったのである。

 

翌日早朝。

チュンチュンという鳥の囀りと共に起床するバンドラ。…いつもはだが。

 

「…あの…。ナミさん…?」

 

「…。」

 

ベッドに押し倒され、ナミに馬乗りされるバンドラがそこには居た。ナミの冷たい視線がバンドラを突き刺している。バンドラの額からたらりと汗玉が流れる。

 

…無論、バンドラが押し退けることは赤子の手をひねるよりも容易い。しかし、ナミを傷つけてしまうかと思うと…乱暴にはできない。

 

ふんわりと香る柑橘系の香りが鼻を刺し、バンドラから胸の谷間が見える。ナミの顔を見れば、大変不機嫌そうに顔を顰めていた。その手の人にとっては逆にご褒美と言えるようなそんな顔である。

 

「昨日ね〜。目が覚めたらバンドラさん居なかったわよね?」

 

「…そうだな。」

 

「まぁ、そういう仲じゃないし?別に言わなくてもいいけども、置き手紙くらい置いておいてくれないと…心配するわよね?船もないし、モネもいない。そりゃ、ビビもいたから帰ったわけじゃないのは分かったんだけど…。それでも何も言わないで出て行かれたらね?心配するわよね?」

 

無駄口を開けば拳が飛ぶ。バンドラはそう思っていた。

 

「私ね〜?別に怒ってないのよぉ〜?…た・だっ♡何か言うことあるんじゃないの?」

 

「…す…すいませんでした。」

 

急激に表情が変わり、笑顔になったナミ。声も媚びるようになり、バンドラの胸板を指でなぞる。バンドラは冷や汗をかき、笑みを浮かべて繕った。

 

「…ん。まぁ、いいけど。あとでビビにも謝っておきなさいよ?」

 

「…ま、まぁ、わかってるよ。」

 

ナミがバンドラから降り、ベッドから起きたバンドラがくわぁっと欠伸をする。全くもって寝れちゃいなかった。

 

「あら、寝不足?」

 

「まぁね。気持ちよく寝てたら、お転婆に起こされたもので。」

 

「良いモーニングコールだったでしょ?」

 

ウィンクをするナミ。バンドラは苦笑いしていた。

 

「そうね〜。まぁ、可愛い私を放っておいて、デートするような人を起こしてあげる私はとっても良い子でしょ。」

 

「うぐっ…。」

 

「それに、今も。朝ごはんを作ってあげようとしてるし。普通ならお金とってるのよ?バンドラさんに褒めてもらう・た・め・にっ!!ベルメールさんに教えてもらって、練習もいっぱいしたのになぁ〜?」

 

…今も、バンドラの目の前には味噌汁にご飯、サラダに魚と…毎朝のように朝飯が用意されていた。ナミはそれを毎日欠かすことなく、バンドラに与えていた。給餌係になりたいわけではない。

 

ベルメールが教えたのだ。好きになって欲しくば、胃袋を握れと。

 

「…確かに。良いお手前で。」

 

「…もっとはっきり。」

 

「大変美味しゅうございます。」

 

「な〜に〜っ!!拗ねてるのっ!?」

 

プクッと頬を膨らませて怒るナミ。バンドラはなおも上の空であった。

 

…言ってはなんだが、ナミの相手をしている暇ではなかった。エレジアに海軍の戦艦が結集、バスターコール、そして、にわかに聞く七武海に変わる戦力の導入の話。…後者は完全に噂程度であるが、そうなればハンコックのことも気掛かりである。

 

「…ちょっとっ!!…むぅっ。」

 

「…もう、甘えてばかりはいられないな。」

 

「へ?」

 

バンドラは立ち上がるとナミの頭をポンっと叩く。ナミは突然のことに呆然としていた。

 

「…考えねば。周りに仲間がいても他愛無い。戦い方ってのを。」

 

ニコッと笑うバンドラ。その顔にナミは自身の船長の姿を重ねていた。子どもっぽいがいざとなればカッコよく決める。強さでは全くもって別物だろうが、それでもよく似ていた。…ナミの船長は女関係に疎く、女遊びはしなかったが。

 

「…よく似てるわね。アンタたち。」

 

「そう言うお前もよく似てるよ。その顔。」

 

バンドラはニヤリと笑う。ナミはキョトンとした顔でそのバンドラを見ていた。…ナミのまるで母親のような達観した顔はどこか、ベルメールの面影を感じさせるようだった。血は繋がっていないが、改めて家族なんだと感じさせた。

 

「あ、洗濯物、片付けなきゃ。バンドラさん、お昼何がいい?」

 

「忙しないな。どうした?」

 

急にバタバタと動き出すナミ。バンドラは再び着席し、味噌汁を飲む。

 

「洗濯物は片付けないと。ビビとレベッカとバンドラさんに汚されちゃうじゃない。」

 

「ぐっ…。」

 

ジトーとした目で洗濯物を取り入れるナミ。バンドラは青ざめた顔で苦笑いをしていた。

 

「砂埃で汚れないようにしておかないと。」

 

「…俺も手伝おうか?」

 

「え?良いの?…ちょっと大人っぽい下着とか買ってあるんだけど?」

 

ニヤリと笑ってバンドラの耳元で囁くナミ。悪戯っぽく笑うその様は異名の猫っぽさが際立っているように感じた。バンドラはくすくすと笑うナミをジトーとした目で睨む。

 

「…マセガキが。」

 

「いつ押し倒されても良いようにねっ♪女は度胸よっ!!」

 

胸を張って鼻を鳴らす自信満々なナミにバンドラはため息をついた。バンドラが手を合わせて、朝餉を終わろうとした途端、ナミが小さく…あっと呟いた。

 

「んもうっ。口に付いてるわよ。ほら。」

 

「あ?…あっ。」

 

ナミは困ったように笑い、ハンカチでバンドラの口を拭いとる。バンドラはキョトンとした顔でナミを見るが、そんなバンドラにナミがニコッと微笑みかけると、少し先程の行動が恥ずかしかったのか、バンドラは顔を少し赤らめる。

 

「あっ、照れてる〜。可愛い〜。」

 

「…五月蝿えなぁ。…この歳になるとそんなことされることなんてほぼねえんだよ。おっさんの照れ顔見て可愛いはねえだろうよ。」

 

ニヤニヤと笑うナミを見て、バンドラは少しむっとした顔で頬杖をついていた。

 

「可愛いよりかっこいいの方がいい?」

 

「…そりゃ当たり前だが…。」

 

バンドラの隣で洗濯物を畳みながら話しかけるナミ。バンドラはその様子を見ながら、隣にかけてあった狂骨をポンポンと手入れしていた。

 

「今日は何時ごろ帰ってくるの?」

 

「…まぁ、昼食ってちょっとレベッカとビビの相手してから、少し外に。ケジメをつけねえといけねえことがあってな。」

 

タバコを咥え、火をつけるバンドラ。

 

「ケジメ?」

 

「…海軍時代、助けた元奴隷の友人の恋のキューピッド。…なんて似合わねえな。」

 

そう言い笑うバンドラにナミはジトーとした目を見せた。…バンドラが言っているのはテゾーロのこと。昨夜のことだが、シャルリアからの一通の便りが届いた。とある島にて奴隷であるステラの受け渡しに応じると。

 

…前半のくだらないラブレターはバンドラは読み飛ばしていたが。

 

「たとえどんな形であれ、一度手を出しちまったもんをそのまんまにするのは気が引ける。」

 

「…でも、ベルメールさんのことはほったらかしにしてなかった?ほら、義手の…。」

 

「…それは言わない約束だなぁ。」

 

バンドラは鼻を人差し指で掻き、苦笑いをしていた。ナミは洗濯物を畳み終えるとバンドラの横の席に座る。

 

「汚れるぞ。綺麗な肺が。」

 

「…私との約束もほったらかしにしてないわよね?」

 

「ありゃまだだろ。それに…。」

 

…机の上の灰皿にタバコを擦り付け、火を消すバンドラ。その後にナミの顎に手を当て、くいっと上げる。ナミの顔がほのかに赤く色づく。

 

「…お前との約束果たすまで…俺は死ねねえんだ。責任取れよ?」

 

不敵な笑みを浮かべ、そう言うバンドラ。ぽっとナミの顔に赤が刺す。

 

「……なんか、ずるいじゃん。」

 

「ヒヤハハ。色男ってのは狡いもんだぜ?」

 

そう言ってバンドラは歯を見せてニヤリと笑っていた。




ベルメールさんを見習って、グイグイ行くけど結局してやられるのがナミさん。

ただ純粋にしてやるのがロビンちゃん。大人です。

では。
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