燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第266話

バンドラの目前には先ほどよりも多い軍艦…約三十隻。それだけでも脅威であるが、バンドラの目は数多くの海兵と共に10人以上の中将を捉えていた。

 

「…次から次へと湧きやがる。」

 

バンドラは決めていた。

たとえ相手が古巣で知っている顔があろうとも、ここに来るのであれば完全に瓦解するのみであると。

 

その意思に応えるかのように狂骨に冷気がまとわりつく。

 

「天帝バンドラを確認。バスターコールを開始する。」

 

誰かのその言葉と共にバンドラの存在ごと消し去るが如く、大砲の球がいくつもバンドラへと飛んできた。

 

「…今更、そんなもの何の意味もねえ。」

 

カッとバンドラが目を見開くと、砲弾は全て静止。着弾も爆発もせず、空中に突如として現れた氷塊に飲み込まれた。

 

しかし、相手も待ってはくれない。第二波の砲弾がバンドラに向かって休むことなく飛んでくる。それを更に高い高度で凍らせる。…空中でだ。

 

砲弾を凍らせ、また砲弾が迫り来る。そんなことを続けているうちにバンドラの目の前には島を完全に覆うような氷山が出来上がった。その向こうで軍艦は刻一刻と迫っている。

 

「中将以下は軍艦内で待機。」

 

まだ立て直していない海軍本部のため、中将以下を残し、埒が開かないと中将のみの上陸を海軍側は勧告。その中には白猟のスモーカーや黒檻のヒナなど…やはり、バンドラが知る顔ばかり並んでいた。

 

「…テメェみてえな男がなんで。」

 

やはり同じ穴の狢か。スモーカーは少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。…直後、スモーカーは命令を聞かずにそのまま足を煙にして飛んで突っ込んでくる。

 

カキンッと十手と狂骨のぶつかる軽い金属音が響いた。

 

「スモーカーよぉ…。さっきの惨劇見てなかったのか?」

 

「あれは、海軍の総意じゃねえッ!!」

 

「たとえッ!!…たとえ、それが総意じゃ無かろうと犠牲が出ているのは確かだ。」

 

鍔迫り合いの最中、バンドラとスモーカーが睨み合う。そんなバンドラに向かって、ドーベルマンとモモンガが刀を振りかぶって迫ってきた。

 

スモーカーは後ろへと退く。

 

バンドラは二人の斬撃を狂骨を横にして、受け止めた。

 

「やはり海賊は悪かッ!!貴様はこの島を占領しに来たんのだろうッ!!」

 

「…五月蝿えんだよッ!!」

 

モモンガとドーベルマンの額に汗が流れる。バンドラの右腕は血管と筋肉が隆起していた。バンドラは二人の刀をその右腕で一本で支えた狂骨で薙ぎ払う。

 

「「ッ!?」」

 

「『砂蛇顎(サーペント)』ッ!!」

 

バンドラの周りを覆い尽くすかのように地面から砂の大蛇が現れた。その大きさは龍状態のカイドウより少し小さい程度。

 

「チッ!!こんなもの、まさに災害じゃないかッ!!」

 

…前のバンドラならば、顕現すること、形作ることは出来ようともこれよりも小規模だっただろう。単純に規模が広がり、操れるものが大きくなっただけならまだ対処は容易い。

 

「ウォォォォッ!!」

 

両手を武装硬化し、クロスするドーベルマン。スモーカーとモモンガはその場から跳んで離れる。直後、砂の大蛇は口をガバリと開け、支えを失ったかのように上から落ちてきた。

 

ドーベルマン以外は避けていたものの、モロに喰らったドーベルマンは巨大流砂に巻き込まれ、地面へと埋まってしまった。

 

「チッ!!」

 

「…占領?…勝手に決めんじゃねえよ。何があろうとテメェらは…ガキの未来を無くした。平和だったこの街に…戦火を持ってきたのは…お前達だろう、世界政府ッ!!」

 

「黙れッ!!海賊風情が…!!テメェのガキならまだしも、見ず知らずの子どもじゃないかッ!!」

 

そう言って次に向かってきたのはオニグモを筆頭にストロベリーとヤマカジであった。

 

しかし、ギロリと睨んだバンドラの覇王色の覇気によって呆気なく三人は倒れてしまった。そのバンドラを押さえにかかるのは再びスモーカーだった。

 

スモーカーが十手の先で突こうとする。

 

バンドラはそれを下から狂骨の峰で拾い上げ、スモーカーの腹に武装色を纏った蹴りを捩じ込んだ。

 

「ゴフッ…!!」

 

「…足を失って、母さん失って、住む場所も失ってッ!!そんな年端もいかねえ餓鬼に俺はこんなことしかしてやれねえッ!!何が“テメェのガキじゃねえ”だッ!!何が悪だッ、ふざけんなッ!!…この世で一番醜いのは、正義ヅラした悪人だッ!!」

 

「『ホワイトブロー』ッ!!」

 

…スモーカーの腕が白煙と共に飛んでいく。

 

バンドラはそれを涼しげな顔で避けるとスモーカーの胸に向かって下から上へと刀を振るった。

 

「ぐっ…!?」

 

スモーカーの胸から鮮血が上へと舞う。直後、スモーカーの腹にまた蹴りが捩じ込まれ、スモーカーは後ろへと吹き飛ばされた。

 

「…俺は、たった一人のガキも救えねえ正義なんざ認めねえ…!!正義のための犠牲なんざ、クソ喰らえだッ!!なんで何も悪いことしてねえ奴が、真面目に生きてるだけのやつが損をするッ!!本当に正義を語るなら…海賊よりも先に天竜人を殺しちまえよ…!!」

 

「撃て。全弾。」

 

その言葉を聞いてか聞かずか、氷塊へと降り注ぐ砲弾の雨。氷塊に元々あった弾丸と共に波打ち際を巨大な爆炎と爆風が覆い尽くし、破壊していく。

 

「クソッタレがッ!!…絶対街にはいかせねえよ…!!『白嵐滝風(ホワイトフォール)』ッ!!」

 

爆炎と黒煙はバンドラの左右、上空から降り注ぐ白い滝のような猛風に流され、街にたどり着くことはなかった。

 

…それどころか、風によって波が発生。海が荒れ、所狭しと止まっていた軍艦が干渉し合う。

 

「…チッ!!」

 

モモンガ含め、残った中将達が顔を顰める。

 

立ち向かえば圧倒的な戦闘力。海に逃げ、軍艦を使おうとしても軍艦の方を攻撃される。船が落とされれば、後は死を待つだけだ。

 

…そもそも、頂上戦争によって旧マリンフォードを落とされた海軍にとっては立て直しが優先だった。バンドラが粛々と戦力を拡大していくことを危惧した世界政府が急ぎ、その結果、元帥赤犬がバスターコールを決定してしまったのである。

 

「…撤退だ。元帥の決定だが、これ以上海軍の戦力を無くすわけにはいかない。」

 

モモンガの決定に皆が首を縦に振った。

バンドラは去る軍艦を追いかけようとはしなかった。潰すよりも先に…やることがあったからだ。

 

荒地となった街へと帰る。

するとそこには…人々に囲まれるナミ達が居た。

 

「お前らが…お前らが来なければッ!!こんなことには…!!」

 

「帰れッ!!海賊ッ!!」

 

「そんな…ッ!!私たちが帰ったら、この子は死んじゃうッ!!」

 

…そう、砲弾により足を失った子どもは余談を許さなかった。しかし、村人の怒りは頂点に達していた。何があろうと、どんな理由があろうと…バンドラ達がこの場所を会合場所に選んだから、海軍の攻撃に巻き込まれた…と。

 

ナミ含め、カリーナもテゾーロ達も子どもを守っていた。残念なことに先の攻撃でシャルリアはSPとサイファーポールによって逃がされてしまっていた為、人々の怒りを止める人間はいなかった。

 

「…来やがったぞ。天帝だ。」

 

…戦いを終わらせたバンドラは人混みの中へと入る。人々の罵詈雑言の中、ゆっくりと歩き、ナミの元へと寄った。ナミは肩を出した服装をしていたが、その肩がすれ、たらりと血が流れていた。それはおでこからも。綺麗な少し伸びたオレンジの髪は砂埃に汚れていた。

 

「帰れッ!!海賊野郎がッ!!」

 

…その理由は単純だ…と言わんばかりに瓦礫が飛んできた。バンドラはそれを手で受け止め、地面に落とす。

 

「…大丈夫か。ナミ。」

 

ナミはギュッと子どもを抱き、コックリと頷いた。バンドラはそれを見て優しげな笑みを浮かべる。

 

「…テゾーロ、ここは帰れ。お前らまで罪を被る必要はない。」

 

「ですが…バンドラさん!!」

 

「…船があるだろう?…これほどの人数だ。ルエノルーヴでも護送はできるが、ナミ(コイツ)のケアもしてやらなくちゃ…な。」

 

そう言ってバンドラは人混みの方へと目を向ける。ざわざわとしていた人々だったが、その顔を見て緊張感が走ったのか言葉を失っていた。

 

バンドラは狂骨を握り…地面へと置く。

 

腰を地面へと下ろし、膝を合わせ、正座すると額を地面へとつけた。…それは土下座だった。

 

「…海軍の攻撃だったとはいえ、俺たちに不足が無かったとは言いません。皆さんの怒りも尤もです。住む場所を壊され、家族を殺された…その怒りは計り知れないでしょう。」

 

「…。」

 

「しかし、どうか…此処は収めていただけないでしょうか。この強行に出た海軍は俺が追い払いました。大将黄猿は当分動けないでしょう。勿論、だからと言って許せというわけではありません。…住む場所はこちらが提供致します。慣れ親しんだこの島にずっといらっしゃるのであれば、我々も協力し、住めるぐらいに回復するよう尽力致します。…どうか、この子を治療する時間をくれないでしょうか。顔を見たくないというのならば、勿論、すぐに出て行きます。…どうか、この若い命だけは守りたいのです。」

 

…その様子は必死そのもの。老若男女問わず、バンドラの言葉を聞いていた。額はつけすぎて、少し赤く腫れていた。

 

「…わかりました。」

 

そう言ったのは町長らしき高齢の男。白髪混じりの髪にメガネをつけた男だった。

 

「貴方がたが悪くないのは確かに事実。…しかし、我々も街を失い…家族を失った者もいた。若者と子どもは貴方の元へお送りしましょう。貴方の誠意と…その先ほど会ったばかりの子どもの為に、剣を振るい頭を下げるその誠心に命じて。」

 

「…ありがとうございます。」

 

「…我々、老い先短い老人はこの慣れ親しんだ地でひっそりと生きますよ。…どんなに変わっても此処が好きなのでね。」

 

そう言った男はシワだらけの目を細くし、微笑んだ。

 

バンドラは子どもの治療をし、若者と女子供をテゾーロに預けた。エレジアへと送ってくれると約束してくれたからだ。バンドラはそれを見届けるとカタパル島に金の入ったアタッシュケースを置き、ルエノルーヴ号へと戻っていった。

 

ルエノルーヴ号へと戻ったバンドラの胸にナミが飛び込んでくる。

 

「…よく頑張ったな。」

 

静かにそう言い、微笑むバンドラ。その大きな手でナミの頭を優しく撫でる。例え罵倒されても、この子は見ず知らずの子どもの為に命を張ったのだ…と。ナミはただバンドラを抱きしめ、声を押し殺し…安心感からか泣いていた。

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