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「…そうか。」
諸々の話はバンドラへと電伝虫で伝えられた。シキの強襲、エースが死に物狂いでエレジアを守ってくれたこと…その全て。バンドラが知ったのはことが全て終わってからだった。
「…悪いな。大事な時にいられなくて。」
『う、ううん!!大丈夫。ヤマトもエースも無事…じゃないけど大事には至らなかったし。』
ウタのその声にバンドラは静かに口元を綻ばす。
…バンドラが今いるのはウェザリアではない。そこはかつて…知恵の樹が立っていた場所。ロビンの故郷、オハラ跡地だった。
『バンドラはどこにいるの?ナミ達と一緒?』
「ん?…いや、ちょっと野暮用。…すまねえ。切るな。久しぶりに声が聞けて…良かった。」
『え?あ、うんっ。元気で。』
バンドラはそう言うとガチャリと電伝虫を切った。その後にバンドラはオハラ跡地に降り立つ。
「…どういう了見だ。お前達がこんな場所に俺を呼ぶとは。」
バンドラの顔から笑みが消える。目の前にいるのは仮面をつけた白い服の集団。サイファーポールのエージェント達だった。
「まさか…本当に来るとは。どこまでもお人よしなのだな。貴様は。」
「…知ったような口を聞くな。俺だってテメェらに文句の一つでもあるさ。」
嘲り笑い、飄々とするその態度にサイファーポールのエージェントは噂通りだと軽口を叩いた。コキリとバンドラは首を鳴らし、伸びをして、欠伸をする。
「ふわぁぁ…で?…サイファーポールイージスゼロがこんなに集まって…殆どいるだろ。これ。要件は何だ。」
「…ふふ。せっかちだな。少しは世間話でもしていったらどうだ。」
「俺は良い女としか話はしねえよ。…それに俺を狙ってる奴と話なんかするか。馬鹿野郎。」
静かに睨まれるサイファーポールのエージェント達。細く…鋭利になった目には青い光が灯っていた。
「…素晴らしい覇気だ。」
リーダーらしき男がそう口から漏らした。
「…単刀直入に行こう。天竜人に仇なす貴様を…処罰しにきたと言ったらどうする?」
「はっ。…その冗談、笑えるね。」
…口ではそういうものの、バンドラの顔は笑っていなかった。それどころか、達人級の強さを持つサイファーポールイージスゼロのエージェント達ですら冷や汗をかくほどの殺気を周囲に放ちながら、睨んでくるではないか。
「言っとくが、俺の周囲には何もない。背後にも、横にも前にも…ない。今の俺が一番強えんだが…試してみるかい?」
「我々とて大義名分はある。世界政府は貴様を手に負えないと判断した。よって…。」
その直後だった。パチンと鳴らされた指の音が合図と言わんばかりにバンドラの周りを取り巻く無数の銃口が怪しく光る。周りの木々にサイファーポールの他のエージェント達が隠れていたのである。
しかし、バンドラは眉ひとつ動かさない。どころか、ふっと口元を緩ませ、微笑んだ。
「最近、よくこういう目に遭うなぁ。テメェら世界政府は…おんなじことしかできねえの?…面白くねえよ?」
「…やれ。」
直後、無数の銃口が無差別に火を吹く。弾丸がバンドラに向かって飛んでいくが、無論、バンドラには着弾しない。バンドラの周りで壁に阻まれたかのように静止しているのだ。
それを気づいていない他のサイファーポールのエージェント達は兎に角、打ちまくる。弾丸で覆われる視界にバンドラは後頭部を掻き…はぁ…とため息をついた。
「…ここまで舐められちゃ、流石の俺も困っちまうなぁ。鉛玉如きで死にやしねえ。だが…。」
バンドラはそう言うと銃弾の一つを指で弾いた。
直後、サイファーポールのエージェントの一人の眉間が血飛沫を上げる。と同時に倒れた。バンドラが一つ弾くごとに一人、また一人と倒れていく。
「…時間をかけて一人ずつ殺して行こうかとも思ったけど…つまんねえや。」
そう言ってバンドラはパチンと指を鳴らす。
するとバンドラの周りを覆い、空中で静止していた弾丸が何かから解放されたかのように下へと落ちていった。
次の刹那、バンドラの目が怪しく光る。
「…じゃあね。」
そう言ってバンドラは覇王色の覇気を放った。…イージスゼロ以外のエージェント達が軒並み倒れ出す。イージスゼロの面々ですら、膝を地面に付くほどの威圧。リーダーの一人の表情が驚愕の色に染まった。
「…資料では天帝は極力殺しはやらない。どんな外道でも敗走したら追わない甘い男だと書いてあったが…。」
ロズワード聖殺しが世に出ていない為、バンドラが人を殺したとする旨は外へは一切で出ていない。それどころか、海軍や他の海賊に対しても敗走を促してしまう為、皇帝史上最も優しい男だと言われていた。
バンドラはその言葉に冷たく…侮蔑の視線で見下す。
「…その資料、ちゃんと添削してもらってる?俺だって元は海軍だ。無力化して悪人を反省させる正義のヒーローへの憧れは淡いながらも持ってる。だが…「やれ。」
直後、バンドラの後ろから二人の仮面のエージェントが襲いかかった。
「「『指が…ッ…」」
が、これもまた一瞬。瞬きの間に下へと二人の仮面のエージェントの身体は落ちた。茶色に染まる地面が赤黒く染まり、鉄臭さが鼻を刺す。
予め言っておくが、サイファーポールイージスゼロが弱いわけではない。サイファーポールイージスゼロとて、天竜人の護衛任務を任されている以上、生半可の強さでは役に立たない。
リーダーらしき男の体も仲間の血飛沫で汚れる。
「俺はさ。」
動けずにいるサイファーポールを他所にバンドラが静かに話し出した。狂骨を刀身がリーダーらしき男の首を狙う。薄皮一枚、裂けるかどうかのところで止めて、バンドラは言葉を続ける。
「世界政府だとか海賊王だとか…どうでもいいのよ。王なんてなれるわけがねえし、ここまで来たのも仕方なくだ。なし崩しって奴。…でもさ、一つだけ…どうしても我慢できないことがあるんだよねェ…。」
「……っ!!」
「…テメェら、この次はどうせ…カリファやロビンやらウタを盾に俺を脅す気だろ。」
低く静かに放たれたその一言にリーダーの背筋が凍った。先ほどからバンドラの顔はピクリとも動いていない。無表情、口調はなぜか優しく、それが仮面の男達ににほぼ初めてと言わんばかりの…恐怖を与えた。
目が離させず、唾一つ飲めないほどの恐怖。バンドラは狂骨をリーダーから外す。と、同時に動けないながらもバンドラへと銃口を向ける仮面の男の腕を切り落とした。
「ぐ、グギャァァァッ!!」
男は失った腕の断面を押さえ、地面に転がり、悶え苦しんだ。直後、男の胸を狂骨が突き刺し、その命火を絶やす。
「ケッ…五月蝿えよ。」
そうバンドラが言い放つとバンドラに向かって更に3人の男が飛びかかってくる。
「『
一人の男がバンドラに向かって指銃を打つが、バンドラは眉一つ動かさずにそれを…狂骨を持っていない左手の中指と人差し指の間で挟んで止めた。
その直後、少し遅れて3人のうち2人が今のバンドラの背後へと剃で移動し、指銃の構えをして、バンドラに向かってくる。
バンドラはため息をつくと、大の男の人差し指だけを持ち、そのまま後ろのサイファーポールにぶん投げた。
「「「ぐおっ!?」」」
「…俺はな。怒ってんだよ。勝てねえからって人質をとるテメェらのやり方に…。」
次の瞬間、バンドラが先ほどの3人に向かって地面を蹴って前へと出る。
狂骨を逆手に持ち、横一閃に振るう。
「『鉄か…ギャアァァッ!?」
3人のうち、1人が前へと出て、自身の体を鉄のように固める奥義『鉄塊』を繰り出すが、豆腐のように容易く切られてしまった。
サイファーポールに仲間の絆などないのだろう。
次の瞬間に、2人同時に横からバンドラへと迫ってくる。
1人は顎を狙う上段蹴り、もう1人は指銃の構えをしていた。
しかし…。
「ガッ!?」
「ゴフッ!?」
…顎を狙う上段蹴りが捕らえたのは仮面をつけた男で…蹴りを放った男の胸には…指がしっかりと突き刺さっていた。
次の瞬間、2人の腹に焼け付くような痛みが走る。下を見れば…狂骨によって2人の体は串刺しになっていた。刃を抜かれた瞬間に力無く項垂れる身体。
「…古巣も何もねえお前らに俺が手加減するわけねえだろ。」
「あ…あぁ…。」
…そこに会ったのはほんの数秒前まで生きていた同僚達の死屍累々。その蛮行は時間にして10分もかかっていないだろう。…いや、殺し自体は秒である。殆どがバンドラの1人語りであった。
バンドラは再びリーダーの首筋に狂骨を突きつける。
「…こ、これが…天竜人の恐る…災い…。」
「…俺は俺の仲間を傷つける奴をもう容赦しない。これは…見せしめだ。」
そう言ってバンドラはリーダーの身体を袈裟に切り裂いた。
「…ふぅ。」
バンドラは死屍累々を束ね、指先の火を…それにつける。と同時に死体は瞬く間に燃え、消滅していった。バンドラはそのまま口元のタバコに火をつけて、ふうっ…と煙を吐く。
「…ったく。ステューシーのやつ。嘘つきやがったな。…だから来たのに。」
そう淋しげに呟くとバンドラはルエノルーヴ号へと帰っていった。