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バンドラの過去編突入です。
…人工空島ウェザリア。
バンドラは急いで一足飛びで戻る。ルエノルーヴ号にあった薬の瓶を手に持てるだけ持ち、レベッカ、ビビ、モネの共同ハウスへと入る。
「ビビッ!!大丈夫かっ!?」
バタリと扉を開けるバンドラ。誰が見ても彼は焦っていた。そこにいたのはベッドに眠るビビとそれを心配そうに見るナミ達。バンドラは机に薬を置くとすぐにビビへと駆け寄る。
「…ハァ…ハァ…ばん…どら…さんっ…。」
「辛いなら喋らなくていい…!!…親元を離れていた疲労が祟ったか。」
ゴツゴツとしたバンドラの硬い手がビビのおでこに触れる。汗で湿り、乱れた前髪を掻き分けて、おでこにあたった手に僅かな熱が伝わる。バンドラには焼けるほどには感じていないが、顔が紅潮し、ハァ…ハァ…と吐息を出しているビビにとっては相当な苦痛である。
「アラバスタのことが気がかりなのかしら…!!」
「まぁ、当たり前っちゃ当たり前だ。ナミの家のように親を助けてくれる家族がいるわけじゃない。ビビは一人娘だし、コブラ王は高齢だ。そして、あの王国をコイツは1人で守るために技術を磨いている。」
バンドラは割と冷静に水の入ったコップと解熱剤の錠剤をひとつ手に取り、ビビの体を起き上がらせる。
「…薬だ。飲めるか?」
「…うん…。」
ビビの口に錠剤を入れ、水を飲ませるバンドラ。ビビは安心したように微笑むとそのままベッドにもう一度寝転がり、目を閉じた。
「レベッカ、モネ。…ビビは休憩をどのぐらいとっていた?」
バンドラはレベッカとモネの方を見てそう言った。安心するのだろう、ビビは眠りながら、バンドラの手をギュッと握っていた。
「休憩?」
モネが小首を傾げてそう言った。
普通ならここは『睡眠』と聞くべきだろう。しかし、バンドラはあぁと頷いた。
「ビビが寝る間も惜しんで木刀を振っているのは知っている。だが、流石にこの家の中のことまでは視野に入れてない。俺はナミと一緒に居たからな。プライベートはちゃんとするべきだろ?…だが、流石に夜まで外で動いてたら、わかる。…少しビビの手の皮が剥けてるしな。全く…綺麗な手なのに難儀なもんだぜ。」
「…確かに。ビビさんは師匠との手合わせでも全然休憩を取りません。」
レベッカが思い出したかのようにそう言った。バンドラは神妙な面持ちで眠るビビを見る。
「…心的疲労と身体的疲労。…無茶ばかりしやがる。」
「…取り敢えず、バンドラさんはビビの近くにいてあげて。…私はお粥でも作ってくるから。」
そう言って微笑むナミ。
バンドラはふっと笑い、あぁと頷いた。
…スゥスゥと眠るビビを見て、バンドラは口元を引き締めていた。笑いではなく、真顔にも近い。
「…コイツを思えば、親元に戻し、アラバスタに居させるのが吉…なんだろうが。」
「ビビは頷かないでしょうね。」
「…だろうなぁ。」
静かに2人を見るモネのその言葉にバンドラは困ったように笑った。
無論、理由はバンドラに懐いているからではない。それが理由ならばバンドラは大事を取らせ、帰らせるはずである。しかし、ネフェルタリ・ビビという女性は勇敢にして頑固。…如何に危ないとされたバロックワークスの潜入もやってのけた女。しかも、
「どうかしましたか?…師匠。」
「…今のコイツの必死さが凄えって思うんだ。…16、17のまだ毛が生えた程度の少女。自分の命を差し出して、国を守るなんて…俺には無理だ。だからこそ、俺はコイツの…国を守りてえって意志に惚れた。…夢は叶えてやりてえんだよ。」
そう言ってバンドラはビビの頭を優しく撫でた。
「…そういえば、貴方がどんな少年時代を過ごしてたか、知らないわ?…ヤマトとかにはどうせ教えてるんでしょ?」
ビビが寝て暇になったのだろう、薄い部屋着を着たモネが思い出したかのようにそう言った。最近、構ってもらえないからか少しツンケンしているようにバンドラには見えた。…バンドラはふっと笑う。
「少年?…海軍の頃の話か?何にも面白くねえぞ?」
「どうせ、女の子でも取っ替え引っ替えしてたんでしょ?」
「……いや。」
バンドラのその言葉にモネもレベッカも嘘でしょ?というふうな目で見ていた。バンドラはビビの手を優しく握り直すと、少し懐かしそうにふっと笑っていた。
「自分で言うのもなんだが、俺は海軍に居た頃は天才だなんて言われて妬まれてた。そりゃあそうだ。若え頃から中将なんてとこに居たら、出世コースから外れた奴らからしたら、憎いわな。…それに加えて俺は男にはもちろん、女子どもにも愛想が悪かった。」
「…女好きじゃないの?」
「好きだよ?…今は…ね。だけど、若い頃はそうでもなかった。」
ハハハ…と渇いた笑みでそう言うバンドラ。その部屋へとナミが興味津々で入ってくる。その手には少し煮えているお粥の入った椀。
「あら?ビビ、寝てるじゃない。」
「…少し休ませてやってくれ。そのうち起きるだろう。その時に食べさせればいい。」
「はーい。で、なんの話?」
ナミは近くの机の上にお粥を置くと椅子を持ってきて興味津々に耳を傾けた。バンドラの話を聞くと訝しげな顔で嘘だ〜と言うナミ。
「嘘じゃねえよ。女の体なんて興味も無かったし、抱こうとも思わなかった。」
「…ナミとはしてるものね。」
ジトーと睨むモネの顔を見て、ナミとバンドラは困ったように笑う。レベッカは何が何やらと3人をキョロキョロと見比べていた。こほんっと咳払いをするバンドラ。
「…興味がなかったんだ。ただ、興味がなかった。…俺はただの戦闘マシーンだったのかもしれない。それを危惧したのは『海軍の英雄』モンキー・D・ガープ、のちの元帥である知将『仏』のセンゴク、そして、『黒腕』のゼファーと『大参謀』お鶴だった。…心のなかった俺にとある人をつけたんだ。」
懐かしく笑うバンドラに小首を傾げる3人。
「…う…うぅ…。バンドラさん?」
「…おっと。ビビ。起きたか。…お粥、食べるか?」
「え、えぇ…頂くけれど…バンドラさん、続きは…?」
「…なんだ。聞いてたのか。」
寝ぼけ眼でそう言うビビへ、バンドラは困ったように笑っていた。ビビはゆっくりと起き上がるものの、バンドラに伝わる熱はまだあり、無理をしない方がいいというバンドラの言葉を首を横に振って笑った。
「子守唄程度に、話してくれない?…お粥も冷めないうちに食べたいわ。」
「…矛盾してねえか?…まぁ、仕方ねえ。」
クスクスと笑うビビを見て、バンドラははぁ…とため息を吐く。
「…俺が白ひげ海賊団の船に忍び込み、親父に見つかった後。親父は俺に海賊稼業は見せねえと俺を近くの島に停泊していた海軍船に放り込んだ。数ヶ月間だったが、親父達の生活も楽しかった。…その船に乗っていたのは銀髪の女海兵だった。」
「…女海兵…?」
ナミと一緒だった。
バンドラを育て上げたのは1人の女海兵だった。腕力をガープに、武術をゼファーに、知識をセンゴクに…そして、慈愛の心を鶴とその海兵に育て上げられたのである。
「…その人は俺にとって唯一無二の母親と言っていい存在だった。長い銀髪を後ろで束ね、左腕一本でライフルを撃つ様は強い女だったよ。まぁ、アイツは能力者だったから、それで保管してたんだけどな。…確か、テツテツの実だったか。」
「その海兵さんの名前は?」
モネがそう聞くとバンドラはふっと微笑む。
「“シルヴィア”…男勝りのいけすかねぇおばさんだったが、俺にとっては恩人だ。」
バンドラは歯を見せて笑っていた。
「その海兵さん…今は…?」
おそるおそる聞くナミにバンドラは寂しげな笑みを浮かべた。
「…死んだよ。同僚の海軍によってな。」
…時は25年前、バンドラの歳は8歳ほど。
『おい、ボウズ。お前…女は好きか?』
木のボートの上でバンドラと一緒に乗る銀髪の女性がそう言った。銀色の右腕が特徴的で怪しげに光る金色の瞳に幼いバンドラが映る。
「…必要ない。女なんて弱いだけだ。」
バンドラは自身を守るように渡された短剣を整備しながら興味なさそうに言った。女…シルヴィアは訝しげな顔を向ける。
「お前、ほんっと可愛くねえなァッ!!男に生まれたんだから女の1人ぐらい抱きてえって思うだろ?…それとも、アタシがアンタの初めてになってやろうか?ん?」
「…キモい。」
バンドラは横にいるシルヴィアを睨む。
シルヴィアははぁ…とため息を吐くと自身も愛銃を整備し始めた。
「…こっちはお前のことを気にしてやってんのに…。全く。可愛げねぇなぁ。ボウズ。お鶴さんもなんでこんなやつをアタシに…。」
「…おい、そろそろ戻るぞ。マリンフォードへ。…修行の時間だ。」
そう言うバンドラへシルヴィアははぁ…とため息を吐き、微笑んだ。
シルヴィア
歳は32歳。夫と息子を殺した海賊への強い執念から、海兵へとなる。自身の右腕は戦地に行った際に無くした。銀髪の長髪が特徴的でロビンやハンコックにも負けず劣らずの肉体美を持つ。テツテツの実の能力者で、その銃弾は百発百中。バンドラの恩人。大参謀お鶴の直属の部下だった。
テツテツの実:体内の鉄分や体外の砂鉄などの体積や状態を変化させる。失った腕の代わりに鉄の腕を作り出している。自身の腕のように扱うことができる。超人系。