燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第274話

「バンドラ、もう海軍には慣れたかい?」

 

海軍の食堂。シルヴィアと共にバンドラは食事をしにきた。席につき、一息ついていると隣の大参謀であるお鶴が話しかけてきた。バンドラはお鶴の方を見ず、カレーを一口食べる。

 

「心配ない。俺は市民を救う海兵になるだけだ。」

 

「ケッ。お鶴さんには素直になれっての。」

 

無機質な声でそう言うバンドラへシルヴィアは訝しげな目で見ていた。鶴はそうかいとシワの入った目を細めて笑っていた。

 

「ガープ達の修行は辛いだろう。あれに泣き言言わずついていけるのはお前だけだと聞いている。特にガープのは無茶苦茶だろうね。」

 

「…いきなり山に投げ捨てられた。その後熊に襲われたが、木の枝で生き残った。」

 

「……後でアイツにゃ説教だね…。」

 

淡々とそう言うバンドラへお鶴ははぁ…とため息を吐きながら、見ていた。

 

「木の枝で生き残った…って、アンタ、やっぱりバケモンだな…。」

 

「木の枝でも葉っぱでも武装色を纏わせれば鉄よりも硬くできる。それに野生生物の動きは単調だから。そのまま頸動脈を切ればそれでいい。」

 

「…飯時にする話じゃあねえな。ごっそさん。」

 

そう言ってシルヴィアは空いた食器を厨房へと持っていった。バンドラもそれについていく形で空いた食器を片付ける。

 

「こらっ。」

 

何も言わずに帰っていくバンドラへシルヴィアが拳骨を落とす。軽く…鉄じゃない方である。バンドラは頭を押さえて、シルヴィアを見る。

 

「飯を食い終わったらご馳走様。言わなきゃダメだろ?」

 

「不必要だ。」

 

「あのなぁ…。ご馳走様、ありがとう、頂きますは飯のために死んだ家畜や作ってもらった人への感謝の気持ちと礼儀だ。それを当たり前に言えねえ男はいい女捕まらねえぞ〜?」

 

「…ならば、余計に不必要だ。俺はこれからクザン中将と手合わせだから。」

 

そう言ってバンドラはテクテクと食堂の外へと歩いて行った。シルヴィアは肩を落とし…ため息を吐く。

 

「…ったく、可愛げのねえ奴。って、アイツ1人にしたらアタシがお鶴さんに叱られちまうじゃないかッ!!ち、ちょっと待てっ!!クソガキッ!!」

 

その後ろをシルヴィアも走って追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍演習場。

バンドラは黒色に輝く鉄の棒を持ってクザンと対峙していた。

 

「あらら〜。いいのかい?手加減はしねえよ。」

 

クザンは左掌を見せてバンドラを睨む。その手からは白い冷気が空に向かってゆらゆらと立ち昇っていた。

 

「必要ない。お前を超えなきゃ俺は何も救えない。」

 

「一丁前に言うねえ。保護者同伴のガキのくせに。」

 

「…保護者じゃない。」

 

クザンはふっと微笑むと肩を回してコキリと鳴らした。バンドラを追いかけてきたシルヴィアは巻き込まれないところに行くとバンドラに向かって頑張れと嬉々として応援をしていた。さながら、運動会の時の保護者のようである。

 

「すっかり板についちゃってまぁ…。あれでも、俺と同じ中将クラスの実力者だ。シルヴィアなら修行相手になるだろうに。」

 

「片腕の相手に勝利しても意味ねえだろ。」

 

「…あのなぁ…。」

 

淡々と言う幼子の言葉にクザンははぁ…とため息を吐き、頭の後ろを掻いた。次にクザンが見せたのはいつものだらけきった顔ではなく、真面目な顔だった。

 

「片腕でも強えから言ってんじゃないの。お前の母ちゃんは大将になってもおかしかねえんだよ。腕がねえかって、実力に現れなきゃなんのデメリットでもねえでしょうよ。」

 

「…そうか。悪かった。」

 

「急に素直だな。…まぁいいや。ほら、やるぞ。」

 

…バンドラはクザンに向かって、地面を蹴り、飛び込む。

 

振るった鉄棒はクザンにいとも簡単に受け止められ、代わりにバンドラの身体が宙を舞った。

 

投げられたとバンドラが感じるや否や、嫌な冷気が首元を掠る。

 

バンドラは少し草の生えた地面に手をつき、そのまま後ろに回転しながら飛ぶと先ほどまでいた地面がカチンコチンに凍っていた。

 

「受け身は取れるのか。」

 

「…ゼファー先生の拳に鍛えられてる。」

 

「あの爺さん、バケモンだからなぁ…。おっと!?」

 

ため息を吐くクザンの頬を鉄棒が裂かんと突く。

 

クザンはそれを皮一枚で回避し、バンドラの腹に蹴りを入れた。

 

「ゴフッ…。」

 

「舐めんじゃないよ。若僧が。でも、凄えな。俺が見えねえくらいの速撃…。」

 

倒れるバンドラを尻目にクザンの頬からたらりと血が流れた。クザンはそれを親指で拭いとると生まれたての子鹿のように震えながらのっそりと立ち上がるバンドラを見ていた。

 

「諦めなさいよ。鳩尾に入ったんだ。辛えだろう。それ。」

 

「くっ…俺は絶対に負けねえ…。かかって来い…!!」

 

「…これは修行。命までかけるこたぁ、ねえんじゃねえの?」

 

その時だった。

近くにあったクザンの電伝虫が鳴り響く。クザンはそれを取り、耳に近づけた。

 

「…坊主。中止だ。」

 

「逃げるのか?」

 

「違えよ。任務だ。お前はシルヴィアお姉さんと遊んでな。」

 

そう言ってクザンは何処かへと歩いて行った。バンドラは不貞腐れたように頬を膨らますと地面に腰を下ろして、座っていた。

 

「ここは託児所じゃねえんだ。ガキの相手ばっかできるかってんだ。」

 

「おばさんはどうなの。」

 

「アタシ?アタシはさ〜…ほら、お前の面倒見るのも仕事だから。」

 

そう言ってシルヴィアはバンドラの横に寝転がった。バンドラは満足そうに笑う彼女を見て、小首を傾げる。

 

「…それで飯が食えるのかよ。」

 

「食えるかどうかじゃねえ。大人ってのは子どもの成長を見て、心がいっぱいになるもんなんだよ。満腹?…ちげえなぁ。」

 

「俺はおばさんの子どもじゃねえ。」

 

そう言うバンドラをシルヴィアは微笑んで見ていた。左手でバンドラの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でる。なんだよ…とバンドラがシルヴィアを睨んだ。

 

「あぁ。アタシの子どもは死んだ。忘れられねえさ。でも、お前のことはあの子と同じくらいだと思ってる。クッソ生意気の可愛げのねえガキだがな?」

 

「…そんなに言われても俺には何もやれることはない。」

 

「見返りなんざ求めてねえさ。ただお前がご飯を食いっぱぐれないぐらい立派に育ってくれたらいい。まぁ、将来の嫁さんの顔ぐらい見てえけどよ。…あの子ができなかったことをお前がしてくれたらさらに嬉しい。」

 

そう言うシルヴィアの顔は遠く…透き通った空の遠いところを見ていた。バンドラはただそのシルヴィアを見るのみ。

 

「だから、お母さんって呼んでくれても構わねえんだぞ〜?」

 

笑顔でそう言うシルヴィアにバンドラは言いようのない苛立ちを感じた。

 

「嫌だ。」

 

「可愛げのねえやつッ!!」

 

むすっとした顔で断るバンドラへシルヴィアは歯を剥き出しにして声を出した。しかし、すぐにシルヴィアは穏やかに笑うとふうっと口から息を吐く。

 

「アタシはアンタの母親には慣れねえけどさ。んなに警戒しなくても、もっと素直になっていいと思うぜ。少なくとも…お前はガキでアタシは大人だ。お前が逃げられて弱音も吐けるような…そんな存在が必要だろ。」

 

「…。」

 

優しげに言われたその言葉にその日のバンドラは何も答えられなかった。シルヴィアはバンドラの肩を抱くとふっと微笑んでいた。…バンドラも寝転がることになったが。

 

 




シルヴィアさんはバンドラの人格形成に最も影響している人です。実は他の方々とも共通点があったりなかったり。このお話はカイドウと初めて戦う前、即ち、ワザワザの実を食べる前になります。では。
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