燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第275話

…海軍食堂。

バンドラとシルヴィアは本日も昼飯をとりにきていた。それを見る2人の視線。無論、海兵である。

 

「…あのガキ、今日もガープ中将といい勝負したってさ。」

 

「ガープ中将も手ェ抜いてんだろ?…ほら、あのくらいのお孫さんがいてもおかしくねえじゃん。」

 

その目は確実に妬み嫉みだった。

バンドラの耳にはもちろん、聞こえるように言っている為、入っている。しかし、日常茶飯事だからかバンドラはなにも考えていなかった。

 

「…アンタも大人になったねえ?」

 

「…誰かさんが4年も育ててくれたからな。」

 

「ハッハッハッ。12か。悪ガキも。」

 

そう言ってカレーをかっ喰らうシルヴィア。彼女の白い肌には前にも増して、古傷が目立つようになっていた。特に鼻の中盤を横一文字に切る切り傷は目立ちに目立っていた。顔が綺麗な分、幾分か目立ちすぎるくらいであろう。

 

バンドラは12歳。…しかし、表情は凍りついたように変わらない。相変わらず、他人に興味を見出さず…しかし、天賦の才故か、戦闘能力は海軍でも頭ひとつ抜けているのだった。

 

「シルヴィア中将もなんであんな奴に構うんだろうな。」

 

「亡くなった息子に似てんじゃねえの?アイツは人の弱みに漬け込んで…中将たちに媚び売って、中将になったんだろ?ほら、クザン中将とも仲がいいみたいだしな。」

 

「ハッハッハッ。言えてる。…もしかして、シルヴィア中将と寝てる?…意外と好きものだな。あの人も…。」

 

男たちの大声の笑い声が聞こえる。

バンドラはただ淡々と目の前のカレーを食らうのみ。シルヴィアも気にしないようにバンドラを見ていた。

 

「…アンタも言われてる。」

 

「んだよ。…アタシは良い女だから、良い男しか抱かねえっての。…ってどうした?」

 

バンドラがゆっくりと立ち上がる。シルヴィアは虚を突かれたように目を点にしていた。カレーはまだ半分近く残っているため、ごちそうさまではないだろう。バンドラの手には鉄の棒が握られていた。

 

バンドラはさっきまでバンドラとシルヴィアのことを話の種に談笑していた男2人の後ろへと立つ。

 

「…おい。」

 

「「あ?」」

 

直後、1人の男の顔がひしゃげた。

鼻から口から血が垂れ出ている。バンドラにぶん殴られたのである。そして、一瞬にして怯んだ男の体を蹴り上げる。男の身体が一瞬宙に浮く。

 

「…グハッ!?」

 

バンドラはその男の腹を蹴り、壁へと飛ばした。男の身体は壁にぶつかり、気絶する。

 

「…テメェッ!?」

 

その男と談笑していた男が怒髪天を突かん勢いで拳を振り上げる。しかし、その鉄槌がバンドラを攻撃することはなかった。…男の首からたらりと血が流れる。

 

「ボウズ。それ以上はやめときな。」

 

バンドラの目は先ほどまで自身がいたところで飯を食べるシルヴィアを捕らえていた。シルヴィアは何も見ず、左腕に握った愛用のライフルで男を狙っていた。肩に担がれ、自身の背後を狙う銃口。男の顔が一気に青ざめる。

 

「安心しろ。ゴム弾だし、わざと外した。…だが…。」

 

その時だった。首を捻り、後ろを見るシルヴィア。金色の目が怪しげに光る。その顔からは殺気が溢れ出ていた。

 

次生意気言ったらゴム弾でも殺すぞ?ガキが。

 

「…ひっ…!?」

 

男は完全に萎縮してしまった。

シルヴィアはバンドラのところへと行くと、ヒョイっとその身体を抱き上げる。そのまま食堂を後にした。なお、バンドラたちの食器はすでに片付けてあった。

 

「…ありがとな。ボウズ。…アタシのためにキレてくれたんだろ?」

 

「…離せ、馬鹿。子供扱いすんな。」

 

そう言ってバンドラはシルヴィアの腕からひょいっと抜ける。シルヴィアは一般的に見れば、人間にしては200以上の身長の巨女の部類ではある。バンドラは大体140前後。筋肉質な女性ならばそのままあげることだって可能である。

 

…それはともかく、バンドラはギロリとシルヴィアを睨み、見上げる。シルヴィアは歯を見せてにやりと笑っていた。

 

「子ども扱いしてねえよ。…嬉しかったんだよ。アンタ、アタシが尻軽女って言われて怒ってくれたんだろ?」

 

目線を合わせるように足を曲げ、屈むシルヴィア。バンドラはぷいっと横を向いていた。穏やかな笑顔で優しげな声をかけるシルヴィア。

 

「べ、別に…俺が悪く言われてたからムカついただけだし。」

 

「嘘つくなよ。…お前は自分が気にしない。アタシがお前を何年見てきたと思ってんだ?えぇ?」

 

満面の笑みのシルヴィアに対して、バンドラは少し顔を赤らめて少し怒気の孕んだ目線を向ける。

 

「…うぜぇ。」

 

「口の悪さは一丁前だな…っと。…まじか。」

 

その瞬間、シルヴィアの顔から笑みが消える。鳴り響くサイレンのような警笛と海兵たちの足音にシルヴィアもバンドラも何が起こったか察したようだった。

 

…紛れもなく、それは…バスターコールの合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てッ!!」

 

突如として海原へと響く砲弾の射出音。上がる白煙と共に飛んでいく弾丸は島へと着弾し、爆炎を上げる。軍艦内はまるで騒ぎだった。

 

「しゃらくせえんだよッ!!海軍ッ!!」

 

爆炎が上がると共に、軍艦が一隻大きく揺れた。そこに居たのはかつてロジャー海賊団に在籍していた男…ダグラス・バレットだった。

 

「ウォォォォッ!!」

 

雄叫びと共に海兵たちを薙ぎ倒していくバレット。

覇王色と武装色でほぼ真っ青に染まった拳は次々と海兵の腹部へ炸裂していく。無論、銃口を向け、海兵たちは銃を放っているが…齢22にして洗練された覇気の前に一般兵卒の銃弾は無力。まるで鋼鉄にでも放っているかのようにバレットはピンピンしていた。

 

「テメェら如きに…ロジャーが負けるわけがねえだろうがァァッ!!」

 

慟哭にも近いその雄叫びにバリバリと軍艦の周りに黒い電撃が走る。直後、無情にも軍艦に向かって砲弾が打たれた。悲鳴と共に爆炎が上がり、軍艦が沈む。

 

「…なんで…!?」

 

砲弾を打ったのはバンドラの居た軍艦だった。指揮していたのはシルヴィアではなく、また違う中将。バンドラが文句の一つでも言ってやろうと後ろを振り向けば、その中将の胸ぐらを掴むシルヴィアが居た。

 

「テメェッ!!まだ仲間がいると言うのに…ッ!!」

 

「…何を憤っている。我々は仲良しごっこをしているわけではない。正義の前には犠牲も必要なのである。」

 

「ッ!?クソ野郎がッ!!」

 

額に青筋を立てて、シルヴィアは冷徹に言い放つ中将を左の拳で殴ろうとする。…直後だった。シルヴィアたちの軍艦が大きく揺れたのである。

 

「…バケモノめ。あの爆炎の中から生還したか。」

 

「…ッ!?」

 

そこに居たのは先程沈んだと思われたバレットだった。しかし、シルヴィアが目を見開いて言葉を失ったのは彼がここにやってきたからではない。…その目の前に鉄棒を持つバンドラが居たからだ。

 

「…ガキ。お前は俺には勝てねえよ。」

 

「やってみなくちゃわからねえだろ…ッ!!」

 

…口ではそう言うバンドラだったが、バレットの覇気の前に完全に気圧されていた。体はブルブルと震え、顔は少し青ざめていたかと思われる。…弱いものには興味がないとバレットは右の拳をギュッと握りしめる。

 

シルヴィアはそれを見るや否や、中将の胸ぐらから手を離すと共に、右腕の銀色に光り輝く拳を硬くギュッと握った。

 

「ウォォォォッ!!その子に手を出すんじゃねェッ!!」

 

直後、バレットの拳と割って入ったシルヴィアの拳がかち合った。お互い、バリバリと電撃が走る。バンドラは目を疑った。今まで誰かに守ってもらったことなど無かったからである。

 

バレットの口がニヤリと歪む。

 

「面白いッ!!」

 

「ぐっ!?バケモンがァ…ッ!!」

 

同格かとも思われた拳同士の押し合いは徐々にシルヴィアの身体が後ろへと動くことによってシルヴィアの劣勢へと形勢が傾いていた。シルヴィアの顔には余裕などない。

 

「おばさんッ!!」

 

その声にシルヴィアは横に目を向けた。そこにはシルヴィアの愛銃を持つバンドラの姿があったのである。シルヴィアはにっと笑うとそのまま横に転がる。

 

バレットの拳から出た攻撃の余波がバレットから見て真っ直ぐの海と空に亀裂を作っていた。それは途方もなく遠くまで。

 

「銃弾なんぞが俺に効くわけねえだろうッ!!」

 

バレットはたかを括り、前へと甲板を蹴り、突き進んだ。その台詞通り、今の今まで海兵が銃弾をバレットへと打ち込んでいたが、歯牙にも掛けず、シルヴィアへと向かって行っていた。

 

シルヴィアは銃口をバレットに向ける。

 

「バカヤローッ!!そこらの豆鉄砲と一緒にするんじゃねえッ!!」

 

シルヴィアは笑っていた。歯を見せ、目を開き、狂気的に。

 

シルヴィアのライフルの銃口が火を吹く。

 

バレットは弾丸を受け止めようとした。しかし…。

 

「ぐっ!?」

 

こともあろうか、バレットの右腕を銃弾が薄く切ったのである。それにより、鮮血が宙へと舞う。バレットはそれに顔を顰めるが、そのまま前進をやめない。拳を硬く握り、シルヴィアへと放つ。

 

「『鉄の刃(ブレード・アーム)』ッ!!」

 

直前、シルヴィアの右腕の金属が生きているかのように変形。出刃包丁のような大きなブレードを形作り、武装色を纏うとその拳を受け止めた。

 

「ぐっ!?」

 

「年季が違えんだよッ!!」

 

バレットの拳が横一閃に…薄くであるが、切れていた。普通ならば、軍艦をすっぱりと切り裂くほど鋭利な刃なのだが…とシルヴィアは顔を顰める。

 

バレットは一度、距離を取るとその切れ目の入った拳を見てニヤリと笑った。

 

「…まだこんなに強え海兵がいるなんてな。ガープやセンゴク…ゼファーみてえな老兵ばかりだと思ったが。」

 

そう言って目を見開くバレット。

周囲に立ち込める闘気は異様。覇王色の覇気がバリバリと周囲に電撃を放つ。バンドラは気を失いそうになるものの、なんとか堪えた。

 

「…あの野郎…アタシにも手加減してやがった…。流石だな。アタシも本気で行く…!!」

 

そう言って笑うシルヴィアの顔にはたらりと汗玉が流れていた。…と、その時だった。勝負に夢中のバレットたちを…砲弾の雨が襲ったのは。

 

「何故だッ!!何故打ったッ!!」

 

指揮をしているセンゴクにもわからなかった。そのセンゴクのいる船へバンドラを抱えたシルヴィアが跳んできた。センゴクの目は…砲弾の飛んできた方向、当時は中将だったサカズキの居る船をとらえていた。

 

「今じゃ。ダグラス・バレットを拿捕せよ。仲間じゃろうが、正義の前には犠牲はつきもの。徹底的に追い詰めろ。」

 

何発も何発も…すでに炎上する軍艦へと打たれていた。…飲まず食わずで暴れていたバレットは遂にはその木片の上にうつ伏せで倒れてしまった。海兵たちが拿捕にかかる。バンドラにとっての恐怖は後にも先にもこれを超えるものはないだろう。

 

「…ハァ…ハァ…ぐっ…。」

 

バンドラの目がゆっくりと自身の横にいるシルヴィアへと移った。センゴクもシルヴィアへと駆け寄る。

 

「大丈夫かッ!!シルヴィア中将。」

 

「…ハァ…ハハっ…アタシは…大丈夫さ…。それより…このボウズを…くっ…!!」

 

左肩を押さえ、苦痛に顔を歪めるシルヴィア。砲弾をまともではないものの、食らっており、数箇所の骨折と額からの垂れる血、そしていくつかの爆傷、火傷を負っていた。

 

「嘘つくなよ…!!お前…死ぬぞ…!!」

 

バンドラが初めて泣きそうな顔になる。シルヴィアは開ききっていない右目と普通に開いている左目でバンドラをとらえ、その頭を優しく撫でる。

 

「アタシゃ…死なねぇ…さ。良い女は…死ねねえことに…なってんだよ…。ただァ…ちと…眠いな…。ハァ…。寝不足…かな?…へへっ。」

 

「急ぎ、マリンフォードへ帰還するッ!!重症者は船内にッ!!ダグラス・バレットは直ぐにインペルダウンへ連行せよッ!!」

 

センゴクの言葉に海兵たちが動き出す。眠るように目を閉じたシルヴィアの身体を1人の海兵が中へと連れていく。バンドラには…彼女の力のない笑みが脳裏にこびりついていた。

 

「…バレットは五体満足ではなかった。五体満足であればいくらシルヴィア中将でもあそこまで優位に運べなかったはず。」

 

「…。」

 

「…他人の為に泣けるようになったか。バンドラ。一つ成長だな。」

 

「…センゴクさん。」

 

遠いところを見るセンゴクに対し、バンドラは絞り出すような声でそう言った。無表情に戻ったその顔は無表情ながらもギロリと鋭い目を空へと向けていた。

 

「…仲間を犠牲にしなきゃならない正義って…なんですか。」

 

「…そうだな。」

 

その疑問を置き去りにバンドラを乗せた軍艦はゆっくりと夕闇の映える海を進み、消えていった。




シルヴィアさんは覇王色持ってます。が、ガープはもちろん、2年後ルフィよりも弱めなはず。バレットが弱まっていたからで、2年後はもっと強いです。バレット。ただこの時間軸的にややこしいのですが、23年前になります。ワノ国編から23年前と考えて頂けるとわかりやすいかな?でもスタンピードのときって…。

では。
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